Karte.8-4「エギーデ・シュピーグライン(最も美しきを返すもの)!!」
【ハルト】……ベルアーデ帝国騎士団第七隊所属、双剣銃を手にイエへ寄り添う青年騎士。18歳。
【イエ】……極東ニフ国の乙女で、大体いつもレベル1なのにチートのような守護精霊の力を使える白魔法師。16歳。
【マリー】……ドワーフのミニマムレディ、妖精機シュネーヴィを操る魔導技師にして第七隊のメイドさん。19歳。
【シェリス】……第七隊隊長、魔法剣ならぬ魔法シャベルを振り回すハーフエルフの残念系王女。20歳。
【アリステラ】……イエを守護する自称『闇の精霊』にして、自称『勇者』。自称17歳。
ーーカッッッッッッァ……!
『はゃ、が……!?』
刹那、パソコンはいなされた。
ーー パリィ レベル2(達人級) ーー
ーー アーム(武装) ザーグシルト ーー
シュネーヴィの両腕に展開された棺型のタワーシールドが……、
なによりもマリーの技量が、かの巨人の拳へ腕へ体幹へ、全ての衝撃力をぶち返したのだ。
『う、受け止める言ったじゃないのヨォォォォ!?』
「食ろうたるとは言うとらあん!」
(そういうとこだぞ……!)
先手に出しゃばるのは二流三流。後手に応じて先手に立つ。レディなメイドは鋼の分け身によって高々と投げ上げられた。
「ズィーヴェンツヴェルク(七妖精):ファーズアイン(Phase1)!」
瞬間、
シュネーヴィは、七つのパーツに分離した。
ーー ……ドック ーー
ーー グランピーッ! ーー
ーー ハッピ~ ーー
ーー スリーピー…… ーー
ーー バ、バッシュフル ーー
ーー スニージー、っ、くしゅん! ーー
ーー ドーピー? ーー
頭、胸、腹、右腕、左腕、右脚、左脚。それぞれがエーテルバーニアで飛び交い、それぞれにフェアリーたちが搭乗していた。
が、
「ファーズ……ツヴァイ(Phase2)!」
それで終わりでは、なかった。
七つに分かれた全身での分離攻撃を旨とするフェーズ1は、真には変形合体の準備フェーズだ。
「シュピーグライン(鏡よ)!」
腹、左脚、右脚。メイドメカの下半身だった3つが盾を連ねるがごとく圧縮変形し、マリーに纏われた。
『シュピーグライン(鏡)!』
頭、胸、左腕、右腕。上半身だった4つはシュネーヴィの胸像へと再集合した。
「ばあー! ドッペルゲンガー(合わせ鏡)じゃあ!」
『シュップルルーガガガゥ!』
マリーが纏ったのは、エーテルを噴かすバーニアブーツ。そして腹部パーツが変形した強化外骨格……エクソスケルトン。
背後には、林檎型小盾ビット『アプフェルビッシェン』たちにより浮遊したシュネーヴィを伴って。
「ぶち見さらし。……今んわしは決闘特化、守りより攻めの恥さらしなメイドじゃけん」
ーー ロール チェンジ! ーー
ーー ディフェンダー → アタッカー! ーー
それはさながら、自らの二重身を背負うような出で立ちだったのだ。
『ガガプッ!』
「ていやっ!」
シュネーヴィが、諸手を挙げたマリーを引っ掴み。ぶん回した。
『うぃへっ……べぶぁ!?』
パソコンの右腕が、妙な方向へ捻れた。
「お墓で暴れよる悪い手ぇはっ、こん子かあ!」
シュネーヴィの剛力と遠心力の乗ったマリーが、パソコンの肘裏へ踵落としをぶち込んだのだ。
彼女はきっと知っているのだ。人型機構へ相対するにあたって、柔軟な動きを司る間接部こそが脆いことを。
もとよりパソコンのそれらは、何にも防護されていない稚拙なものだったから。
「こっちもじゃい!」
『プッシュルルン!』
宙返りで復帰した流れのままに、バーニアブーツのストンピングでシュネーヴィを打ち出す。
『ガガシュー!』
「どりゃあー!」
ーーツ、ツーツツーロロロロ……!
エーテルバーニアの噴射力を二重に受けたシュネーヴィが、パソコンの左肘裏へ腕全体でチョップ。そこにマリーがドロップキックを上乗せすれば、盾の手刀は腕そのものをもぎ落とした。
『ちょっっ、ちょっと待つネ!? こんなのおかしいデースッ……わたちのメカが、わたちが、こんな、なんにもできるしないまま負けるなんておかしいデース!!』
「おかしない! こんな子供のオモチャみたいなものじゃ、今のあなたじゃ、お爺ちゃんどころかわしにも絶対勝てんわ!」
『オモ、チャ、デースってぇぇぇぇ!?』
両腕を潰されたパソコンは、凄むように……パンチよりも強大な頭突きを突き下ろした。
「機械で人様を脅す悪いドタマは、こん子かあ!」
『プシュガガァ!』
『ぎゃん!?』
だが、マリーは腕組みをしたまま動くまでもなかった。凄み返せば、シュネーヴィがアッパーなパリィで叩き返した。
『な……なん、で、わたちが怒られるしてるのヨォォォォォ……!』
水晶頭はヒビ割れてしまった。
歪んでしまった波形は、もはや羽よりも泣き顔の絵文字のようだった。
「機工に、魔導に、それにフェアリー……。造られて、離れて、歪んでもうた思いを正すのはわしらの役目じゃけん」
『は、ぁ……ッ?』
妖精機フェアリーギアス……歯車、あるいは誓約と云う擬似精霊たちと繋がり合い、彼女は盾となり続ける。
「わしは魔導技師じゃけん! あなたの怒りも悲しさも……それに優しさもっ、ぜーんぶ受け止めるわ!」
盾を以て守り、また、一丁事あらば盾を以て攻めにも応じる。
後手という名の矢面に、立ち続ける。
何かを造り、その果てに何かを壊してしまった者たちは、その責任と正面から向き合わなくてはいけないから。
『ど、どうせまた跳ねっ返すなのデース!? カッコつけてんじゃないわヨ!』
「カッコつけんで新しいもんが作れますか! あなたも……みんなが生きられる新しい未来を創りたいなら、何回跳ね返されても張り通しんさい! 言葉よりも、あなたの手で、あなたが造るもので!』
『ワケわかんない綺麗事……抜かしてんじゃないネ!』
パソコンが一歩、後ろへ踏み込んだ。
それは後退のためではなく。全身で踏ん張ったのだ。
ーーロ、ロロ、ロロロ、ロロロロロォォォォ……!
どてっ腹のど真ん中、丹田が開いた。
そこから、あの砲塔馬車『キャタピラ』が生えた。
(なんだそのワケわからない機能は……!?)
あの巨大砲塔に、エーテルの輝きが集束していく……!
『必っっっっ殺!』
「……ふふ! 上等じゃあ!」
マリーは受け入れるように両腕を広げ、後方へ身を投げ出した。
バーニアブーツの出力が徐々に下げられていき、空中から地上へと下降して……、着地。
「マリーさん、っ、あの……!」
「ほははははイエっ、今良いとこなんだから邪魔すんじゃねぇのだわ!」
「あぅっ」「なんで俺までっ」
目の前に立ちはだかった小さくて大きな背中へ声を掛けるまでもなく……ハルトとイエは、シェリスに肩を抱かれて拘束されてしまった。
「シュネーヴィ!」
『ガシュゥ!』
マリーが右腕を掲げれば。シュネーヴィもまた応えた。
カノジョもまた、圧縮とともに変形していった。
盾を重ねるように……、
いや、
林檎型の巨大なラウンドシールドそのものへと。
『シュピーグライン(鏡よ)!』
シュネーヴィの内なるフェアリーたちから、マリーへ、
「シュピーグライン(鏡)!」
マリーの内なるフェアリーたちから、シュネーヴィへ、
七つのエーテルのリボンが、互いに結び付いた。
「エギーデ・シュピーグライン(最も美しきを返すもの)!!」
これなる特大盾の前に。展開されたX言語の紋様を『要』に、擬似魔方陣が表出した。
一体化したシールドビットたちからも、小さな魔方陣たちが無数に現れた。
それら全てが一繋ぎとなり、林檎の花を咲かせた。
『ブルーーーースクリィィィィィム!(青ざめた叫び)』
対して。パソコンのどてっ腹から、水属性の極大ビームがぶちまけられた。
高々と盾を構えたマリーへ、どストレートに殴りかかって……!
共鳴しあった、轟音。
「うぬゅっっ……!」
マリーは、一条も漏らすことなくその光線を受け止めた。
バーニアブーツの噴射力と、なによりも地にぶっ刺した踵で踏ん張った。
『なんでもやってやるするわヨ! わたちたちがっ、生きるためなら!』
パソコンが、ニズィが……一歩、前へ踏み込んだ。
そうして、マリーの背が揺れた。
「………………とった」
ビームの力の天元を、捉えた。
ゆえに、振りかぶったから揺れたのだ。
ーー アーム エギーデ・シュピーグライン ーー
ーー 魔法ダメージ カウンター 100% ーー
「おっっっっどりゃあぁぁぁぁぁぁ!」
やはり。
パリィ。
『うっっっっうそぉぉぉぉ、っ、へぐぁぁぁぁぁぁ!?』
跳ね返されたビームが、アッパーパンチにパソコンを両断したのだった。
空へ、空へ、叫びを上げた光線は。きっと森の外から見られることもなく消えていった。
それでも、
「へっぐ!」
緊急脱出したニズィは確かにそこにいて、第七隊の前に墜落したのだった。
その鼻先に、エーテルスチームを排気した特大盾が突き立った。
「ぴっっ」
「……ふう。ねぇねぇニズィさん、ちぃとはスッキリした?」
「どっっっ、どこがなにが誰がデース……!?」
(煽ってるようにしか聞こえないぞ……)
駄々に疲れてしまった子供よろしく、大の字にひっくり返った彼女。
……駄々っ子が振り回し続けたゲンコツなんて、えてして、誰も傷つけることはできずにただ疲れてしまうものなのだ。
「ダメ? ほんじゃあわしらと一緒に……商会見学の続きでもする?」
「はぁぁ?」
「は?」
「はて?」
「ほはは」
笑っていたのは。バイザーなメイドカチューシャを上げたマリーと、ロープを取り出したシェリスだけだった。
○
「働かざる者……」
「盾食うも好き好き」
「食うべからず! てか混ざってるし盾じゃなくて蓼!」
「……まあ、とにかく、そんな言葉があってじゃな」
商会本部内。大きな箱型棟たちに囲まれて、埋もれた小瓶のような別棟があった。
「…………ほ、へ…………」
「どう? ニズィさん」
ニズィは浮遊するのも忘れてしまうほど呆気に取られていた。腰にくくりつけられたロープでマリーに連行されながら。
なぜなら……、
マキシマ総帥も伴った六人の前には、見学すべき仕事場があったから。
「休憩終わり!」「ガンバルゾン!」「ジャンジャンバリバリ!」「働くぞー!」「こらー! お針でチャンバラしにゃーい!」
アイフェアリーたちがせっせと働く、羽持つ彼らのための立体的な工廠があったのだ。
オムニメントを封じる瓶のコルク栓に魔方陣を描いていたり、フェアリー用のラバースーツに型番を焼き付けていたり。
「ええじゃろー、わしのお気に入りの場所なの。いろいろあって商会に帰ってきたアイフェアリーはねえ、本人が望むなら雇わせてもらってるの」
「な、な、ななな……」
「ほはははははは。ガキん頃にゃあ、あいつらと一緒になって食堂とか金庫を襲いにいったよなぃー」
「なんですってってってデーーーース!?」
「んなマジになんなよ。腹に入れちまった食いもん以外は何にも盗っちゃいねぇのだわ」
「シェリスさん、たぶんそこではないかと……」
「わたちの家族に何させてやがってんのネーーーー!?」
「そこでした。ごめんなさい」
「ってそこだけ違うわヨ! こんな、っ、ことっ、今までひとっ言だって聞いてないわヨ!? マキシマぁ!」
「貴様が『解放』だの『自由』だのと、のべつまくなし怒鳴りっぱなしだったからじゃろうて」
ロープが続く限りビンッと飛びかかったニズィに対して、鼻先まで迫られたマキシマはやはり不動だった。
「お爺ちゃんの喋りがわやくちゃなんがいけんのじゃろがいっ!」
「へぐぁっ」「どわふっっ」
孫娘がぶん回したアイフェアリーが、祖父の横っ面にクリティカルヒット。
「げーにもう! よー喋りよるくせにしゃけらもねぇ口下手なんじゃけん! シェリスさんと違う意味でめんどっちいわい!」
「おいこら、ジジイと一緒にすんじゃねぇのだわ」
「シェリスさんはちぃと黙っとってつかあさい!」
「暴君なのだわ」
ぷんすかと瞬間沸騰していたマリーだったが……はと我に返ったようで「こほん」、ぐったりしてしまったニズィを手元へ引き戻した。
「……じゃけぇねニズィさん。お爺ちゃんが言ってたのは……これからも生きていくなら、人と同じようにいろんなことをして、いろんなことを考えてほしいってことなの」
「人と……同じように、ネ……?」
ーー『何かしろ。さもなければワシらとて慈善事業ではないのじゃ……何もしない貴様らは、ただ心地良い無知のままに死んでゆくしかないわい』
マリーの手の上で、ニズィは浮かぶ。
「うん。一人一人があなたらしく、あなたはあなたらしく。何も考えずにただ生きてるだけじゃダメ……でも、生きることだけ考えててもダメ。人ってきっとそうなんよ、誰だってね」
生きて、考えて、働いたり遊んだり。それは特別な誰かをいうのではなく、日常を共にする皆にいえる普遍な理だ。
「あなたたちはもう、精霊の影なんかじゃなくて一緒に生きるお友達なんだもん。だから……仲直りしてほしいんじゃ。ね?」
マリーはニズィへ首を傾げてみせて……、
そして、その爛漫な笑顔はマキシマへも向けられていて。
「……まったく。足元をグルグル回るばかりのデモなんぞより、敵の腹の底まで飛び込んでやろうという者をこそ……」
「お爺ちゃん! ええかげんにせんとぶちまわすど!?」
「むう……ジィジに向かっておまえ……」
ご老体もまた、孫と瓜二つの調子で咳払いをしてみせるのだ。
「……ニズィとやら。貴様、ワシの助手になってみんか」
「じょ。じょちゅっ?」
「あらっ。その役職は予想外じゃあ」
目を丸くしたニズィは、ついにマリーの手に着地してしまった。
「うむ……先刻の『キャタピラ』や話に聞いた『パソコン』……それ以外にも、貴様のワケのわからん発想だけには目を瞪るものがあるからのう。……じゃが、貴様からただ盗作するなぞ癪でたまらんのじゃわい」
「おいジジイ。ツンデレが気色悪いのだわ」
「やかましいわい」
ハルトとイエの二人がかりでシェリスを押し下げれば……、マキシマは、ニズィの前に立った。
「だけどけど……わたちには集落のあの子たちがいる、ヨ……」
「ならばなおのこと、ヤツらも連れてこい。働きたくないとでも抜かすのなら、貴様をヤツらの現場監督にもしてやるわい」
「っっ……」
小さな彼女は、歯噛みしながら見上げるのだ。
「……クソジジイ! そんな回りくどいことするなら、やっぱり最初から生んでほしくなかったデース!!」
泣いてなんていない。その頭の角で突き上げんばかりに、老技師を睨み上げるのだ。
「クソガキめ。子供は生まれる場所を選べんもんじゃわい……論破する気にもならんわ」
「ふふっ。お爺ちゃん、まだまだご隠居は先じゃあね」
「ろくに帰ってこん孫娘よりは張り合いがあるわい……」
「言うとき言うとき」
「こら! わたちを見下ろすしてるんじゃないネ、マキシマ! ……マリー!」
妖精の生家に……帰ってくるべき実家に、また一人、家族が加わったようだ……。
「ハルトさん。ハルトさん」
「ん……?」
そんな様を見学し終えた今日のハルトは、どこか満足げにイエから裾を引かれた。
「私、バカですからフェアリーの仕組みとかはよくわかりません。でも……彼女たちは絶対、人間の道具として造られたんじゃないと思います。きっとお友達になるために生まれてきたのです」
「……ああ。楽しそうだなイエ」
妖精……擬似精霊。『星』の願いの残り香。
かつて彼女たちの始源であった神話、その深奥までは青年も乙女もいまだ知らない。
それでも、今。目の前にいる小さな彼女たちは、人と共に在るべき友人たちだった。
続
(1話につき4部分構成の短編連作です)
(毎週月曜日、18時頃に更新中です)
(1話完結の翌週……つまり5週間に1回、次話の準備期間として更新にお休みを頂きます。よろしくお願いいたします)




