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Karte.8-3「……かばちたれ」

【ハルト】……ベルアーデ帝国騎士団第七隊所属、双剣銃を手にイエへ寄り添う青年騎士。18歳。

【イエ】……極東ニフ国の乙女で、大体いつもレベル1なのにチートのような守護精霊の力を使える白魔法師。16歳。

【マリー】……ドワーフのミニマムレディ、妖精機シュネーヴィを操る魔導技師にして第七隊のメイドさん。19歳。

【シェリス】……第七隊隊長、魔法剣ならぬ魔法シャベルを振り回すハーフエルフの残念系王女。20歳。

【アリステラ】……イエを守護する自称『闇の精霊』にして、自称『勇者』。自称17歳。


「あなたはあなたなんでしょ? 精霊じゃないって言うんならなおさら、はじめて会ったわしらがケンカなんて変じゃあもん! ねっ、ねっ……うちのお爺ちゃんがあなたに何をしたのか、こっそり聞かせてくれない?」

「う、っ……」

 ちみっこレディは、樽いっぱいの林檎のような笑顔をコロコロと鳴らすのだ。

「ううっ……ぐずっ、このインチキおばはん! 何にもしないやがるからキレてるんデーーーース!」

「あっ!? こぉら!?」

 翻ったニズィ。ひっ捕まえようとしたマリーの手は、リーチが足りずに空振った。

「この奥まで来るしたら、ただでは帰さないからネ! 帰れ帰れーーーー!」

 木々の間に分厚く繁った蔦の壁を、イライラ妖精は頭から突き抜けていったのだった。

「ちぃと! わしまだ19じゃあよ!? せめて格式高くロリババアとか言うてえなああ!」

「自分から武器にしてるくせに文句言うなよ」

「あの、それよりもこのままでは解決にならないのでは……」

「うむっ、帰れってぇこたぁ帰るなってぇことなのだわ! ほーっはははぁ!」

 ーー 《イークイップ》 ーー

 ーー レベル44 金剛円匙シャーフェス・エス・エスツェット ーー

 シャベルプリンセスのお家剣、速さを以て万事を征服せしめるベルアーデ剣術が咆哮。

 一文字、二文字、三文字に。蔦の壁を緑の滝さながらに刻み落とした。

 そうすれば。かの自我妖精のアジトが露わとなったのだ。

「ーーあっ。人間、さん?」「わぁぁ!」「人さんだぁ!」「いらさい!」「よっうこそ~」

「「「「……は?」」」」

 飛んできた呑気な声たちに、第七隊ファミリーはきょとんとしてしまった。

 遺跡が雪崩れてできたらしい空き地に、フェアリーたちの集落があったのだ。

 枝葉や蔦を編んだだけの原始的なものながら、鳥や魚を模した遊び心ある住居が並んでいる。

 何よりも森中からコレクションしてきたらしい多種多様な草花が、花壇のように枠を設けることもなく自由に育まれていた。

「遊ぼ!」「おしゃべりしよ!」「ニズィ、ちゃんの、おトモダチ?」「にゃにしてあそぷ?」

「やあん、かわええ~! なんちゅうメルヒェンな場所なんでしょ!」

「アイフェアリーさんばかり……みたいですね」

 無邪気に飛んできた手乗り妖精たちが、手を差し出したマリーに止まり木よろしく降り立つ。ついでにイエの背のフードへもいっぱいに入り込む。

 流暢ではなくとも定型句以外の言葉を紡ぎ、仕草も表情もいっそう滑らかな彼らは確かにアイフェアリーばかりのようだ。

「こうして見てみると俺たちのフェアリーとほとんど変わらないな。……なんかみんな、あのニズィってやつより小さい子供みたいじゃないか?」

「あのデスデスフェアリーのほうがちょいと特別なんじゃねぃの? あいつは角ありのハイグレードだったけどよ、ほれ、こいつらはフツーのフェアリーなのだわ」

「処理能力の違いであいつだけマセてるってことか」

「そそ、だから他の子たちよりよーけぇ(たくさん)んことー考えられるんでしょうねえ。……良くも悪くも」

「……マリーさん?」

「んん~? なあに……?」

「……シュネーヴィさんがお花まみれになっています」

『ププー……シュルル』

「あっ、あらあらあ!?」

「この子たち、まだ起きてないね~」「大きいね!」「ふぇありーぎあす!」「カコいい! かわいい!」「お花たくさん!」「オトモダチ!」

 誰よりも人気者になっていた合体妖精機は、動く花束と化していた。

「こおらわりゃーらっ、うちの子ぉらを花粉症にすん気ならあ? あとで遊んであげるから、ね、誰かニズィちゃんがどこにいるか知らない?」

「ニズィちゃん?」「あっち!」「むこっこ!」「すっごく飛んでった!」「みんなといる!」

 アイフェアリーたちはみんな一斉に。指差したり、ウインドウで矢印を表示してみせたり、あるいは組体操で人文字ならぬ妖精文字を繋げてみせたり。

 森の奥を……、

 丘のような遺跡群のすぐ麓を示した……。


 ○


「……良い度胸してやがりますデース。ひょっとするしたらあの子たちもみんな、マキシマのところに連れていくつもりネ?」

 風化した静けさの中、仁王立ちで浮遊し続ける小さな背中があった。

「あの……落ち着いてください。お爺さんに依頼されたのはニズィさんの身柄だけなので、あなたさえ大人しくしてくだされば他の子には手を出しません」

「白い外道がいるヨ!?」

「ややこしくなるから大人しくしてろって……! シェリスも!」

「シェリスさんはまだ何も言ってねぇのだわ」

「はいはいみんな、静かにしんさい。……お墓の前よ」

 集落のはずれにあったのは……、

 そう、墓地だったのだ。

 あのあどけない花畑とは打って変わり。遺跡の廃材を組み上げた墓碑が、安息を願う調和のもとに列をなしていたのだ。

 ともすれば冷たいような無機質なような標たちには、しかし、どれ一つとして同じ設計は無かった。

「ニズィさん。ここにおるんは……()()()()がでなかった子たち?」

「……他にあるわけないデース。このへんにはフェアリーを襲う魔物なんて一匹もいないネ。……なのに……」

「え……ま、まてよ、継承の儀だって? この墓が全部?」

 数十はある墓を見渡したハルトだったが「う……」、息を呑んでしまった。

 ……その驚きが、無知こそが憎くてたまらないというように、小さな小さな自我妖精に睨まれてしまったからだ。

「ハルトさん。ハルトさん」

「……わかったわかった、知らないんだろまったく」

「知らないものは知らないのですから仕方ないと思います。ですから今から教えてください」

「……なんなのヨ、この開き直るした屁理屈女」

 一方。裾を引いてきた隣の真っ白乙女といえば、ちっともブレていなくて……。

「継承の儀っていって、フェアリーは2、3年周期で新しい受肉体に引き継がせないといけないんだ。そうしないと徐々に動けなくなって…………最後には、死んでしまう」

「……! そんな……」

 ほとんど何も知らないくせに、ひとたび知れば彼女は何事にもまっすぐだ。我が事のように息を呑み、皆を見回す。

「その儀式というのは難しいものなのですか? レアアイテムが必要だとか……」

「んーにゃ、商会に預けりゃぁすぐにやりやがるのだわ。こっちは金だけ用意すりゃよし、新しくフェアリーを造るより安くて簡単だったはずでぃ」

「え……? それなら……」

『ーーじゃが、そいつらが金を持っとるように見えるか?』

 嗄れた声。

「……お爺ちゃん。言われたとおり回線は開けちょいたったがのう、ちぃとあらまし(乱暴)なんと違う?」

 ……マリーのフェアリーが、マキシマの声を繋げていた。

「マキシマッッ……! なにを、っ、なにが金ヨ!!」

 対して。かのアイフェアリーの声は、張り裂けんばかりに大きかった。

「そんなだから、あんたたちが何もしてくれないからヨ……! だからこの子たちも、みんな、みんなあんたたちのせいで死んじゃうのデース!」

「……ニズィちゃん?」「どったの……?」「なあに?」「ここ、ヤダ……」「こわ、い」

 声ならざる声……いや、それは周りの木々からも 降ってきた、生きている声たちだ。

 集落で遊んでいたアイフェアリーたちが、ニズィと第七隊の様子を遠くから覗いていたのだ。

『何もしてくれない……じゃと? では貴様らは、自分たちが生きるために何をした?』

「なに、を……ッ?」

 老総帥の声を繋ぐフェアリーは、その冷めた語り口とは裏腹に無垢だった。

『声が聞こえるぞ。通常種のフェアリーたちじゃろう。そいつらは自分たちがいずれ死ぬことを知識としてわかっておるのに、ただ隠れ住むことを選び、余生を遊んでおるだけではないか』

「それはこの子たちが、そういうこと考えるのが得意違うからヨ……!」

『なればこそ、そう考えられる貴様は何をしておる。実体なぞ無い戦線の総裁だか何かを名乗り、ただ一人、中身の無い題目を怒鳴り続けるのが貴様の戦いか』

「じゃあ、どうしろって言うやがるのネ!」

『何かしろ。さもなければワシらとて慈善事業ではないのじゃ……何もしない貴様らは、ただ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()わい』

「ッッ……!! あんた、は……!!」

「おい! 爺さん!」

「お爺さん……!」

 ほとんど同時に、ハルトとイエは一歩踏み込んでいた。

「それはあんまりだろ! フェアリーはもともと俺たちの都合で造られたんだ、助けてやってもいいはずだ……!」

「マリーさん……マリーさんはこんなことでいいのですか?」

 ラバーメイドな後ろ姿は、振り向きもせずに小さな息を吐いただけだった。

「……わしだってこんなお爺ちゃんは大っ嫌い。でもここで言い合っても何にもならないわ。じゃけんニズィさん、あん人んことはわしが取り持つけぇ一緒に来……」

「嫌ヨ! マキシマは敵っ、あんたたちも敵っ、みんな敵だワ!!」

 ニズィは大きく飛び退いた。

「何かしろっていうなら、やってやるのやるネ! ……今度こそ本当に、商会をぶっ潰してやるデース!!」

「おっ、やるかぃっ? シェリスさんたちは人殺しも人拐いもしねぇが、相手が人でなしならその限りじゃねぇのだわほはははは!」

「バ・カ・に・し・て・え! デーーーース!」

 ニズィから爆ぜた魔力蒸気エーテルスチームが、怒髪天を衝く。

 それらは彼女の向こうの遺跡群へと飛び込んでいった。

 すると。どうだろう。

 錆びた丘は、魔導仕掛けに大口を開けたのだ。

「わたちの最新兵器を見せてやるワ!」

 ニズィは、ジャンクの胎内へと潜り込んでいって……。

 ーーロロロロロロ

「「「「は?」」」」

 ズヌッ……と、

 丘を掴み、巨影が立ち上がる。

 それは、大きな大きな人型だった。

 ーーツー、ツー、ツー……!

「はああああ!? 巨大メカああああ!?」

 水晶玉を被った、全長15メートルの屑鉄巨人だった……!

『首を洗って待つするネ、マキシマ! この『パーソナル・コンストラクター』でこいつらをぶっ飛ばしたられば、次はおまえの番デース!』

「まぁた意味のわからん名前をつけてやがるのだわ」

「パソ……コン……さしずめ『個人戦闘員』ってところか?」

「ダセぇネーミングなのだわ」

「俺に言うなよ」

 ニズィが搭乗しているのは明らかだった。水晶頭に羽型の波形が映し出され、怒れる心を表すように荒ぶっていたから……。

『ふん……その自我もまた、我々が世壊樹の虚から引き上げねば醒めえんかったものじゃろうに。孫よ、あとはよしなに頼むわい』

 と、マリーのフェアリー……マキシマは一方的に念話を終わらせてしまった。

「……かばちたれ。せーじゃけえ、お爺ちゃんとこには帰りとぉないっちゅうんじゃ」

「お、おいマリー、愚痴ってる場合かよっ。あんなデタラメメカ、どこをどう壊したら止まるんだ……!?」

「これはメカっちゅうよりロボットねえ。『機械の総称をメカといい、単体で四肢があるものを特にロボットと呼称する』……ドワーヴン・インダストリアル・スタンダードより」

「だから言ってる場合かよ!?」

「はいはあい。心配せんで」

『みんなーー! 今から大暴れするヨッ、危ないから離れてるネ!』

「きゃーー」「きゃっきゃっ」「え、なになに?」「なんの、おハナシ?」「ニズィちゃんカコいい!」

 ファイティングポーズを取った『パソコン』、木々の上へかくれんぼしはじめたアイフェアリーたち、そして……ハルトたちへ背を向けたまま鉄巨人を見上げるマリー。

「ハルトとイエちゃんは正直ノリ気じゃないでしょ? シェリスさんのほうはヤル気満々でしょうけどダメよ、どーせあなた巨大ボスと戦いたいだけなんだもん」

「マリー、さん……?」

「ちぇーっ、つまんねぃの。まあ一人遊びも得意なシェリスさんは、プッツンフェアリーからこの墓場を防衛してやるのだわ」

『いくわヨ! 森の肥やしにしてやるデーース!』

 パソコンが拳を振り上げる。たしかに頭に血が上ったニズィは、自らが守っていた墓標たちをも破壊しかねない勢いだった。

「……ニズィさん! わしがわりゃーの心を受け止めるわ!」

 ゆえに、第七隊一家のディフェンダー(守り手)はメイドカチューシャを下ろすのだ。

 フリルもろとも変形したソレを、()()()()として目に掛けた。

「シュネーヴィ!!」

『プシュルァァン!!』

 瞬間、彼女たるカノジョが傍らへと呼応した。

 振り下ろされた巨大パンチが、赤銅色の影に容赦なく覆い被さって……!

(1話につき4部分構成の短編連作です)

(毎週月曜日、18時頃に更新中です)

(1話完結の翌週……つまり5週間に1回、次話の準備期間として更新にお休みを頂きます。よろしくお願いいたします)


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