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Karte.8-2「出てこいやがれデース!」

【ハルト】……ベルアーデ帝国騎士団第七隊所属、双剣銃を手にイエへ寄り添う青年騎士。18歳。

【イエ】……極東ニフ国の乙女で、大体いつもレベル1なのにチートのような守護精霊の力を使える白魔法師。16歳。

【マリー】……ドワーフのミニマムレディ、妖精機シュネーヴィを操る魔導技師にして第七隊のメイドさん。19歳。

【シェリス】……第七隊隊長、魔法剣ならぬ魔法シャベルを振り回すハーフエルフの残念系王女。20歳。

【アリステラ】……イエを守護する自称『闇の精霊』にして、自称『勇者』。自称17歳。


「では威勢の良いハル坊に答えてもらおう。どう思う」

「は……フェアリーに個性ができる理由? ……基礎システムのフィグにそんな術式を組み込むのは不自然だし、そもそも羽化の時点で見た目が違うわけだし……」

 ハルトのホルスターの中や、シェリスの縦ロールの内や、マキシマの顎髭の向こう。思い思いの場所に待機したフェアリーたちは、たしかに品種やグレードで決まったわけでもなく個性を有している。

「……爺さんたちが振り分けてるわけじゃないなら。こいつらが精霊だった頃の名残じゃないか?」

「いかにも。フェアリーの個性とは、我々の手の外にある奇跡じゃ」

 奇跡。神よりも人の手の力をこそ信じる技師は、たしかにそう言った。

「……ゆえにこそ厄介なのじゃ。我々はフィグという仮初めの羽を介し、定められたまやかしの自我を与えたにすぎんというに……()()()は……」

「……あ。わし、わかってもた」

 マリーは祖父の手元を見て頷いたのだ。

 彼のフェアリーがいくつかのウィンドウを宙に開いていたのだが、その内の一つは別所のフェアリーかららしい空撮ライブ映像だった。

 映っていたのは。本部の正面を少し遠くに見下ろす街道だ。

 その一点に灯っていたマーカーから……、

 すなわち第七隊の目前の地面から、

 ーーどぉぉぉぉぉんぬッ!

 地中から、巨大な影が飛び出してきた……!

「ぬあああ!?」

 ハルトはおもわず草むらから跳び退きかけたが、唖然としていたのは皆同じだった。……いや、マキシマを除いて。

 その巨影は……、

(た、大砲付きの魔導馬車……!?)

 砲塔と装甲を備えた、奇っ怪な魔導馬車だった。

 エーテルを馬型の枠組みに満たした『ブリンキー(覆われた馬車馬)』なる機構は、普通、動物式の馬車と同じように車体の前へ据えるものなのだが……、

 この馬車馬は、車体の四隅で車輪がごとく合体していたのだ。

 なので馬車そのものが一個の生き物がごとく、機動性こそ捨てていたが重厚なる走破性を獲得しているようだった。 

 魔力の硝煙をくゆらせた砲口を見るに、地中を撃ち抜きながら潜航してきたようだ……。

「ーー商会の責任者! 出てこいやがれデース!」

 そして。車体天辺にて開かれたハッチから、カタコトな啖呵が浮上した。

「……ビックリです。フェアリーさんです」

「フェアリーの解放を! フェアリーに自由を! わたちはネオスピリタスリベレンセーションアライアンスの総裁、ニズィであるなのネ!」

「なにって?」

「奇をてらった名前を考えすぎて本人も原型がわからんくなるヤツなのだわ」

 そう。搭乗していたのは……螺旋の角を額に生やした、緋色なお下げ髪のハイフェアリーだった。

 クリスタルの角はハイグレードフェアリー……略称ハイフェアリーの証。ラバースーツを装備した手乗りサイズなのは変わらないが、『INT』(啓蒙)と『RES』(人間性)値がより高いので術式の処理性能に秀でている。

 通常種フェアリーの機能が主に『念話』・『Fメール』・『《イークイップ》』・『《ステータス》』の四つのみにフィーチャーされているのに対して、ハイフェアリーは多種多様な応用術式をスマートに扱えるのだ。

「ハイフェアリーだって? でもあの振るまい方、念話で誰かが喋ってるっていうより……」

「ううん、ハイじゃなくて()()フェアリー。ホントに彼女が喋っちょるんよ……()()()()()()()でね」

「は、い?」

「ハイじゃなくてアイじゃっちゅうに。開眼したとか目覚めたとか、そういう意味」

 マリーはメイドカチューシャから顔を出したフェアリーに砲塔馬車の写幻を撮らせながら、好奇心に目を輝かせていたのだ。

「ごくごく稀にね。あがー感じで、()()()()()()()()()()()()()()んじゃ」

「こらーーっ、商会のアホーー! なんで誰も出てくるしないヨ!? 風穴ぶち開けられたいネ!?」

 ……アイフェアリー。『I(己)』を視る者。

「あんなのがいるのか……。初耳だな」

「私もです」

「ほはは、イエ子は改めて言わんでもそうだろなぃ」

「聖女教会の口出しのもと、一般には認知されんように処理しておるからの。じゃが実際、年間数百体は契約者の下から逃げ出したり返却されておる」

 マキシマもまたハイフェアリーに映像を撮らせながら、ウィンドウの数を増やしていた。

「イエ嬢、こういう時にニフではなんと言ったかのう。たしか、飛んで火に入る……」

「釣り野伏せ」

「違う。夏の虫」

「うむ。……さても、火の周りを飛ぶことしか知らん羽虫め」

 と。彼が謎のアイフェアリーを睨み上げるとともに、ウィンドウたちが連鎖的に術式を駆け巡らせた。

 すると。

 ーーグワッシィィィィン!

「デス!?」

 砲塔馬車の四方を閉ざすがごとく、鋼鉄の隔壁が()()()()()

 ーー オートバトル! オートバトル! ーー

「デーース!?」

 商会本部のそこかしこから魔力蒸気エーテルスチームとともに発進したフェアリーたちが、手に手に武器を携え砲塔馬車を襲いだしたのだ。

 飴玉ぐらいしか持てない非力を補うためにグローブとブーツ型の魔導モジュールを装着した姿は、さながら小さな兵士たちのようだった。

 テレパシーで統制されたチームワークにより、数人ずつのスクワッドでトマホークランチャーや銭投げ砲をぶっ放した。

「ちょっ! みんなっっ、目を覚ますデースッわたちはみか……たびゃぁぁぁぁーーーー!?」

 ニズィなるアイフェアリーが車内へ戻る前に、主に開けっ放しだったハッチめがけて一斉攻撃が爆ぜた。

 分裂した投げ斧、コインの散弾、自爆する戦艦型爆弾、てんで役に立たないナノさめ軍団、ゲシュタルト崩壊誘発飽和概念光線。

「わたちの『キャタピラ』がぁぁぁぁーーーー!」

 威容とは裏腹にまったく戦えなかった魔導馬車は、多種多様な残骸となって吹き飛んだのだった。

「……ふん、魔導馬4頭計16本の脚をして『芋虫(キャタピラ)』か。面白い設計思想じゃな、覚えておいてやるわい」

「あっおい爺さんっ?」

 やにわに草むらから抜け出たマキシマが、爆風で宙を舞ったニズィを見上げた。

 すると向こうも気づいたらしく、負けん気たっぷりに宙ブレーキを踏んだ。

「あーーーーっ!? 出たのネ、マキシマ! 今日こそはみんなをじぶひっ」

「言いたいことはそれだけか?」

 フェアリー隊の一つが撃った糸屑じみた風の魔弾が、ニズィに浴びせかけられた。

 するとどうだろう。その魔力は彼女へ足枷として纏わりつき、スクロールをほどいたような長ーい輝きの尾をなびかせた。

 しかしすぐに、揮発する調子で見えなくなった。

「おどれは甚だ寝ぼけておるようじゃのう、羽虫の女王よ。鉄屑の上で一人、声高にがなり立てるばかりか」

「う、っ……」

 無数の無垢なる妖精たちを背に。鉄サンダルの総帥は、何の感慨も無さそうで。

「仲間ならここにおるぞ。飛んで火に入ろうというのなら、歓迎してやろうではないか」

「ううっ……ぐずっ、このグズ! そんな子たちは仲間違うデーーーース!」

 泣いた。

「覚えてるネ! こんな商会、ぶっ壊すしてやるネーーーー!!」

 逃げた。

 森の穂先に紛れ、あっという間に飛び去っていったのだった。

 足首に纏わりついた長ーい輝きの残影を、本人だけには気づかせずに点々と残しながら……。

「では仕事じゃぞ、おまえたち……ヤツらのアジトを見つけてこい。そしてあのニズィを、ワシの下まで引っ捕らえてくるのじゃ」

「面白ぇ! 蜂の巣追跡作戦なのだわ!」

 シェリスが草むらもろとも飛び出せば、ハルトたちもようよう立ち上がるのだ。

「……あの。彼女と何があったのですか?」

「何も無いわい。あいつは自我に目覚めてどこぞの契約者から逃げたクチらしくての、あんなデカブツをこさえては商会の周りを練り歩くのじゃ。アイフェアリーを含めた全ての疑似精霊の『解放』と『自由』な命の保証を求めておる」

「やり方はともかく熱いフェアリーじゃないか。話ぐらい聞いてやれよ」

「商会は無法者と交渉はせん。だから話をする前にまずは礼儀とケジメというものを教えてやれ。それに興味深いことには、イエ嬢は()()を宿しとると聞いたしのう……」

「あ。それについてはこちらをご覧ください」

「なんじゃい、この紙切れは」

「はい。自分の話題が出たら渡すように、と夢の中でお姉さんに頼まれたので」

 自称『精霊』にして『勇者』アリステラ。イエが持つタリスマンの中から皆を夢見ている闇色少女で。

「……『もし、今回の仕事が自我に目覚めた妖精のことなら私はノータッチ。そして精霊のこともノーコメントだから悪しからず。マキシマ老へ アリステラより』」

「あ、あらあ? わし、ここに来るまでお爺ちゃんの名前は言うとらんかったて思うんだけど……」

 ……底知れず静謐な、畏怖テラーすべき語り手(テラー)だ。

「お爺さん。こういう時、ニフでは触らぬ精霊に畳返しというのです」

「祟り無し! おまえいい加減にしろよ自分の故郷くにのことわざまで!」

「そのようじゃの。本物の精霊と交信できるとなれば得られる叡智も多いじゃろうに……まあよい、今はあのグレムリンもどきに集中するとしよう。頼んだぞマリー」

「はあい任しとき! ハイホォォォォッッ、シュネーヴィ!」

 ーー 《イークイップ》 ーー

 ーー レベル26 妖精機シュネーヴィ ーー

『ーープッシュルルルー!』

 マリーのコールとともに上空に次元の狭間が出現。全長約2.5メートル、赤銅色の鉄巨人が飛び出してきた。

 魔導技師マリーの写し身たる鋼のメイドメカ。内部に搭乗した七体のフェアリーが駆る、妖精機フェアリーギアスシュネーヴィだ。

「おまえはまだそんなこっ恥ずかしいコールサインを使っておるのか。父親が嘆くぞ」

「なんじゃいもーっ、いちぃきこまいこといらうんならあ! いきましょみんな!」

「あいよぃ! オペレーション:チェイス・ザ・クイーン・オブ・フェアリー・ハイブ・ビー・ロイヤルの開始なのだわ!」

「ツッコまないからな。……そんな目で見るな」

「いってきます。お爺さん」

『ガシューガガ! プシュールルゥ!』

 シュネーヴィに掴まり掴まれ、エーテルバーニア(魔力噴射)の熱とともに第七隊は空高く飛び立つのだった。


 ○


 商国内の全ての森は、返しのついた鉄柵に囲われていた。

 街道から見える場所に銘板が架けられ、そう昔ではない日付とともに『危険魔物討伐済 現生息魔物……パンコーギー 糞宝箱』等と記されていた。

 そんななか。魔弾の痕跡が指し示した森は、丘のような遺跡群の陰に広がっていた。

「どっこらしょと。はあいニズィさん、はじめましてじゃあね!」

「は、え、は? だ、だだだ誰ネあんたたち!?」

 森の中心部にて、シュネーヴィから真っ先に飛び降りたのはマリーだった。

「わしらはわりゃーとお話しにきた雇われパーティよ。ちなみにわしはマキシマ総帥の孫、マリーです~」

「マキシマ!? の、孫!? あによっ、やるって言うのデース!?」

「やらんやらん。あなたがちゃんとお話してくれるなら、ね?」

 ……今さらながら魔弾に気づいたらしいニズィがそれを振りほどこうと、バレリーナか犬っころのように回り続けていたのだった。

「ねえねえねえ、あなたたちってぶっちゃけ精霊さんなん? 神話の時代に人間を滅ぼしかけたとかいわれてるけど、そういう記憶にも目覚めてたりするん?」

「はああ……ッ?」

「おぉい!? 話どころか喧嘩吹っ掛けてどうするんだよ!?」

「ほはははは。いいぞもっとやるのだわ」

「マリーさんが子供みたいです」

 遅れてハルトたちが歩み寄った時には、中腰のマリーは蝶々でも眺めるように頭を揺らしていた。

「じゃあけぇ~。商会をあんなに目の敵にするなんて、やっぱりそういうことかなって。アリステラちゃんはこういうこと答えてくれないし、探求心が疼くんよねえ」

「……なに言ってるわかんない、けどネ。精霊の記憶なんて知らないデース」

 腐葉土に足を擦りまくって、ニズィは魔弾をようやく打ち消した。

「あんたたちが精霊からニズィたちを造る、したのは知ってるワ。でもこの羽に教えられたこと以上は知らないし、自分が精霊なんだって実感も無いネ。目覚めた時からわたちたちはわたちたちデース」

(『星』から賜った使命に背いて、守護するべき人間から離れた……だったか? 今のこいつらと似てるといえば似てるのかな……)

 この『星』の願いより産まれ、己の力だけでは魔法一つ紡げなかった人類へ加護を与えたという……精霊たち。

 やがて人々を見限り、母あるいは父なる『星』を守ることすら見失ったという果ての姿は、大抵の絵物語において魔物以上の脅威として描かれている。

 彼らは受肉体という形を得た高次元の概念、エーテルそのものなのだから。

「そう……ほんじゃあわしら、お友達になれるんじゃないかしら?」

「はああああああ? なんでネ? なにがヨ?」

 マリーは握手を差し出したが、ニズィは一歩飛び退いた。

(1話につき4部分構成の短編連作です)

(毎週月曜日、18時頃に更新中です)

(1話完結の翌週……つまり5週間に1回、次話の準備期間として更新にお休みを頂きます。よろしくお願いいたします)


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