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Karte.8-1「我らがドワーヴン&エルブンズ商会」

【ハルト】……ベルアーデ帝国騎士団第七隊所属、双剣銃を手にイエへ寄り添う青年騎士。18歳。

【イエ】……極東ニフ国の乙女で、大体いつもレベル1なのにチートのような守護精霊の力を使える白魔法師。16歳。

【マリー】……ドワーフのミニマムレディ、妖精機シュネーヴィを操る魔導技師にして第七隊のメイドさん。19歳。

【シェリス】……第七隊隊長、魔法剣ならぬ魔法シャベルを振り回すハーフエルフの残念系王女。20歳。

【アリステラ】……イエを守護する自称『闇の精霊』にして、自称『勇者』。自称17歳。


 暗闇の中。

 スクロールシープの皮を鞣したスクリーンへ、輝きが映し込まれる。

 『フェアリクター』という魔導の箱に搭乗した角付き擬似精霊……ハイグレードフェアリーが、魔石のレンズ越しに活動写幻を映写しはじめたのだ。

 箱の両側面に生えたラッパ型のホーンから、トンカチとハープの交響が奏でられて……。

 最初に映し出されたものは、ロゴマークだった。

 翼の生えた宝石に『D&E』と刻まれた、ある商会の旗印である。

「ーー我らがドワーヴン&エルブンズ商会は、全世界のフェアリーのシェア93%を占めておる。もっとも残りの7%は聖女教会非認可の盗賊や変態どもによるものであり、統計上の綾じゃがな」

 嗄れた男声とともに、そのプロモーションビジョンは始まった。

「さて。妖精こと擬似精霊フェアリーの召喚は、聖霊大陸の世壊樹バーンドラシルより『オムニメント』をサルベージすることから始まる」

 世界地図がズームされる。

 ベルアーデ帝国も在る南エウル大陸よりさらに南方。長靴の形をした国を橋渡しに、四大陸のうち第2位の面積をほこる地が南北に伸びている。

 その最奥で。天へと吼えるがごとく焼け爛れた、逆さまの大樹があった。

 比喩ではなく実際に空へ届くまでに根を張り。樹皮や地表に纏わりついた掘削都市が白蟻以下のちっぽけなものに見えてしまうほど、その漆黒の()()()は大きすぎた。

「神学的には『精霊の残り香』と云うこの素材は、一見すると何も存在しておらんように見える」

 瓶詰めが並んだ写幻。

 魔方陣が描かれたコルク栓で封印されているにもかかわらず、中には何も入っていないように見えた。

「だが、これは高次元の要素『ゼノ』の塊じゃ。破損した残滓であるとはいえ、魔法使いが詠唱に用いるエクス言語の複製元……原初の形により近いエーテルといえるな」

 写幻にフィルターが掛けられる……、と、

 瓶の中には、名状しがたい『文字』や『記号』が立ち込めていた。

 便宜的に名と形を与えられたそれらは、しかし、人間には真の意味で認識できない()()()()()()()だ。

「オムニメントは商会の錬金術師のもとへ送られ、彼らが造った受肉体へ魂として込められるのじゃ。人造生命ホムンクルスの応用とでもいえばよいか」

 町の魔術工房アトリエにて、フラスコまみれの調合台へ向き合うエルフの錬金術師……夫婦だろうか。

 オムニメント入りの瓶を手に、画面へ向かってガッツポーズしてみせる。……余計なことをするなとでも撮影者に言われたか、ヘコヘコと謝りながら職務へ向き直った。

「最初は芋虫のような姿である。しかしエーテルを与え続ければやがて蛹となり、ついにはフェアリーの姿で羽化する」

 フラスコの中で成長していく、マーブルな幼生たち。

 やがて封切られた蛹の中から、裸のフェアリーが起き上がった。

「もっとも、羽化とはいってもこの時点では羽無しであり……」

「お爺ちゃんお爺ちゃん。あがーでもこまい子も見るんじゃけん、エッチぃんはいけんて。あと話が長いんじゃあ」

 ……暗闇と話の腰を折る、呑気な茶々。

「……。……話が長いとおまえが言うから、退屈しないようにとこうして活動写幻まで作ったのじゃろう」

「それはそれとしても話が長いんじゃあ。早送りで要点だけかいつまんでつかあさい?」

「……まあ、できなくはないが」

「ほらっ。せーじゃけぇ、そんだけ無駄があるっちゅうことじゃい。論破論破」

「口の減らん跳ねっ返りめ……」 

 それは少なくとも、聴衆の一人である青年騎士には有難い茶々だった。

(……助かった。こう薄暗いところで長話を聞かされると、どうもすぐ眠くなって……)

 目が慣れてきた暗闇には、青年を含めて四つの影が椅子に座らされていた。

「話を戻すが、羽の無いフェアリーは擬似精霊としての機能は備えていない。『喋る』ことも『立つ』ことも覚えていない、生きているだけの人形といったところじゃ」

 スクリーンの脇に立つ小柄な影から、これなるフェアリー誕生講義を聞かされていたのである。

「……早送りするぞ」

 『プロジェクター』内のフェアリーが挙手で応え、映像がスピードアップ。

 ベッドのような魔法具の上に浮かされたフェアリーたちが、チェックリストに則って受肉体の状態を診察されていた。

 この時点ですでに性別や髪型といった差異が生まれているが、皆一様に空虚な面持ちをしていて。

 型番が刻まれたラバースーツを着せてもらっていって……。

「そこで、魔導技師の手による羽型魔導書『フェアリーリグ』……通称フィグの出番じゃ」

 ムッキムキの子供……いやいやドワーフの魔導技師が裸オーバーオール姿で腕組みをしている写幻、の後。

 灯りに透かしてみれば魔導書の圧縮ページであるとわかる一対の薄羽、『フェアリーリグ』が映し出された。

FIGイチジク、です? 果物の?」

「ちゃうちゃう、そこは察せよってんでぃ。世壊樹に生えてたっつう知恵の実チェルノイチジクとフェアリーの人工知能を掛けてるのだわ」

「なるほど。シャレオツです」

「……商品名の解説はよしたまえ、耳元が痒くなる。とにかく姫の言うとおり、フィグにはフェアリーが()()()ための動作アルゴリズムや魔法のスクロールが込められておる」

 それが磁力のようなエーテルを以てフェアリーの背に融合されると……。

 フェアリーたちは、十人十色に動きだしていた。

「この羽の獲得……すなわち()()()()()()()を得るに至り、フェアリーは人との契約が可能となるのだ」

 虚ろだった相貌にも、明らかに人格らしきものが現れていたのだ。 

「フィグの内蔵術式上、彼らはステータス分析や詠唱以外にはほとんど喋れん。が、言葉による対話なぞフェアリーには低次の手段である。エーテルを介すことで契約者と交信できるのだからな」

 念話や《インベントリ》の試行で、錬金術師とやり取りをするフェアリーたち。

 羽を戴く前と同じように、それはチェックリストに基づく試験だった。

「こうして機能や性能をテストしたのち、彼らは商会本部に送られてくるのじゃ」

 アトリエの判やロットナンバーで蓋をされた瓶詰めにて、馬も人も無い荷車……魔導車『トラック』に乗せられたフェアリーたちは、呑気そうに運ばれていって。

 その姿がフェードアウトされると同時、

 この見学室で暗闇を作り出していたカーテンが、自動的に引かれていったのだ。

「最終試験、そして旅立ちのためにの」

 カーテンの奥には、大きなパノラマガラスが嵌め込まれていた。

 中二階のここから……、

「次の()()()()まで、彼らは帰ってくることはないじゃろう。そう願っておる」

 果てが見えないほど壮大に広がる、吹き抜けの工廠を見学できたのだ。

 ドワーフやエルフたちを中心にフェアリーたちの最終試験を行い、途切れることなく大小の魔導トラックが行き交っていた。

「おお、すごいな……! イエ、見てみろよほら」

「はい。楽しそうですねハルトさん」

 最初に窓辺へ歩み寄ったのは、他三人と違って最後まで静かにプロモーションを拝聴していた青年騎士ハルトだった。

 ……誰よりも子供のように目を輝かせながら、相方の白魔法師乙女イエを呼んでしまったのは否めない。

「ほははは、二人揃ってガキみてぇでぃ」

「まあシェリスさんたら。発明は子供みたいな目線からこそ生まれるもんじゃけん」

「おまえが言うと説得力アリアリなのだわ」

 椅子に座ったまま二人を笑うは、金髪縦ロールな残念系王女シェリスと、なんちゃって幼女なドワーフ淑女のマリー。一応はハルトやイエの上司だ。

 四人揃って、ベルアーデ帝国騎士団第七隊。たった四人だけの『何でも屋部隊』である。

「ーーどうじゃねイエ嬢。きみはフェアリーを持っとらんとのことじゃが、これで少しは興味が持てたのではないかね」

「爺さん、こいつの素っ頓狂ぶりを甘く見ないほうがいいぞ」

 ハルトとイエは振り向いた。……此度の依頼人へ。

「えっと。はい、私ではさっぱりわからないことがわかりました。ほみゅみめんと……の辺りでお腹いっぱいです」

「ほらな」

「むう……どうしてそうなる」

 鉄製のサンダルが、ベッダンガッダンとたたらを踏んだ。

「そりゃそうじゃろてえお爺ちゃん。パンの美味しさを伝えるんに、味じゃのうて焼き方から教えるぱーぷー(アホ)はおらんっちゅうんじゃ」

「貴様も技術屋の端くれじゃろう。焼き方も知らずにパンを食らうだけの人間では、フェアリーたちとも真の意味で契れんわい」

「契約者の9割はそがー人間じゃわい!」

「ええいせせろーしい(やかましい)! メイドになぞ身を俏した貴様に説教される謂れは無いわ!」

「それは全国のメイドさんに喧嘩売る発言じゃけぇね!? ちゅうかっ、ちゃんと魔導技師としても修業しよるっちゅうんじゃい!」

 ラバーメイドな赤髪孫娘と凄みあうのは……同じくらいの目線の老人。

 残り火のようにくすみながらも、勢いは衰えていないおさげ髪と長い赤髭が揺れている。

「はいっというわけでイエちゃん、改めてこの人がわしのお爺ちゃん! D&E商会の総帥の一人、マキシマ・ベルさんです! ……つーん! じゃ!」

「え。その、あの……」

「そんなやさぐれたテンションで改まるなよ、こいつがいちばん困るだろ……」

「……リヒト……いや、今はハルトだったか。後輩ができて何よりじゃが、相変わらずうちの跳ね返りが迷惑をかけるわい」

「いや、いいよ……普段はこんなじゃないし、ほんと世話になってるし。爺さんの前だから素が出まくってるんじゃないかな、良い意味で」

 研究衣じみた革のつなぎ服を着た、髭モジャな老ドワーフだ。

「まあよいわい。今回おまえたちを呼んだのは他でもない、個人的に依頼をしたくての」

 このがらんどうな第三総帥室にて。D&E商会のマキシマ・ベル総帥は執務机に腰を下ろした。

「喜ぶがいい、貧乏愚連隊。この()()()()()の未来が懸かった大仕事じゃぞ」

 ここはベルアーデ帝国から南東に数ヵ国越え、南エウル大陸の最南端。

 かつては遺跡しかなかった旧シーラス国をD&E商会が()()()()()()()()()()()()()()、国という名の商会そのものである。

「特にシェリザベートよ。おまえの母がベルアーデに嫁入りなぞしなければ、ワシとてもう少しマシな老後を送っていたのじゃからな……せいぜい励んでもらうぞ」

「けーっ。耳タコなのだわ、せいぜい死ぬまで言ってろぃ」

 ……卓上の古いネームプレートには『D&E商会総帥 マキシマ』と刻まれていたが、その裏面にはぐちゃぐちゃに消された『ルルデリカ』の銘があるのだった。


 ○


「シェリスさんちベルアーデ王家と、ルルおば様のご実家と、わしらの一族はねえ……先祖代々のお付き合いがあるんよ。『ベル』の称号を紐解けば、その由来はとある傭兵団を中心としたクランに……」

「マリー。その話、長くなるか?」

「長くないと歴史は面白くないじゃろ?」

「またの機会によろしくお願いいたします」

「絶対よ? 約束じゃあよ?」

 商会本部は、石造りの大箱がいくつも繋がりあった様相を呈していた。

 工業製品のように画一的な風情はどこか冷たかったが、城か街かと見紛う一体感があった。

「時におまえたち。フェアリーには何故、外見や仕草の差異ができると思う?」

「おいマジかよぅジジイ……孫ともども空気読めなのだわ」

「まあ聞け、長話にするつもりはないわい。おまえたちへの依頼に関わる重要なことじゃ」

 本部の周りは岩盤が隆起した荒れ野や森ばかり。緑の自然を極力切り拓かずに岩地ばかりを鞣した街道が、四方八方彼方の工房街まで伸びていた。

 だから。景色の方々で……吹き溜まりがごとき異形へと捻れた遺跡群もまた、手付かずだった。

 錆のタワー、錆のチューブ、錆のパイル、錆のドリル、錆のドーム。人智の及ばない()()によって掃き捨てられたように、蕩けあった姿を累ねていた。

「……それならまず依頼内容を教えてくれよ。ワケもわからずこんな草むらに隠れさせる前びべぶ!?」

「蚊です。ハルトさん」

「だからってグーはやめろ! パーだろ普通!」

 マキシマ総帥を伴った第七隊は、なぜか、本部の正門近くで森に潜伏していた。

(1話につき4部分構成の短編連作です)

(毎週月曜日、18時頃に更新中です)

(1話完結の翌週……つまり5週間に1回、次話の準備期間として更新にお休みを頂きます。よろしくお願いいたします)


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