karte.7-4「ドラゴンが死んだドラゴンゾンビがさらに死んだゾンビドラゴンゾンビなのだわ」
【ハルト】……ベルアーデ帝国騎士団第七隊所属、双剣銃を手にイエへ寄り添う青年騎士。18歳。
【イエ】……極東ニフ国の乙女で、大体いつもレベル1なのにチートのような守護精霊の力を使える白魔法師。16歳。
【マリー】……ドワーフのミニマムレディ、妖精機シュネーヴィを操る魔導技師にして第七隊のメイドさん。19歳。
【シェリス】……第七隊隊長、魔法剣ならぬ魔法シャベルを振り回すハーフエルフの残念系王女。20歳。
【アリステラ】……イエを守護する自称『闇の精霊』にして、自称『勇者』。自称17歳。
「ただ、いつかシェリスと来た時にはもうヨボヨボだったからなあ。静かにいこう、ワルプルグラスだけ採って帰れるかもしれないぞおまえたち」
「ブーー、んなの張り合いがねぇってんでぃ。シェリスさんはドラゴンと戦いたいのだわ!」
「当時10歳のおまえがそう言ってスコップを投げつけたもんだから、父さん無駄な死闘を繰り広げたよ」
「もう2年早くこのエスツェットシャベルを貰ってりゃあ、もうちっとうまくやれてたんだがなぃー。《フォイヤー・ダス・クローネ》(陰らぬ火冠)」
「おまえはその頃から園芸道具を武器にしてたのな……いや待ったシェリス、ドラゴン相手に火属性はナシだろ」
「ほははは甘いぜぃ兄弟、火炎の分泌腺が通ってるところを狙やぁ下手な水属性より効くのだわ」
「へえ……。じゃあ俺も火と水にしておくか」
スツルクは直径約2メートル四方のルビーの原石を担ぎ、シェリスは魔力で編んだ冠をぶち込んでシャベルに火属性を付与し、ハルトはパラレラムの魔導機関を調整して。
「あっ」
「……こら、イエ。今の『あっ』はなんだ?」
……イエは三人に背を向けていて。
「なんでもありません。どうぞ、こちら耐火ポーションですお使いください。チリ味です」
「…………」
「おーう、ちょうど喉も渇いてたのだわ。ごくごくごく……カラウマーーーー!?」
「ははははシェリスこそ甘いなあ、これくらい辛いうちに入らないだろうグェェッヘゲホガホ!」
どうもお茶を濁された気がするが、イエの手元にはポーションボトルしかなかったのでハルトはどうにもできなかった。
そんなこんなで、とりあえずはまあ準備完了して……、
「よおし……おまえたちっ、いくぞうおぉぉぉぉ!」
「うおぉぉりゃぁぁぁぁぃ!」
「う、うおー……って静かにいくプランは!?」
「うおー……です」
一気呵成、刺すような眩さが照る階上へ飛び出した。
そこは。名残雪がちらつく、緩やかなすり鉢状の広場だった。
岩盤に含まれたエーテルが陽光に反応し、虹のリングが空のそこかしこに回っていた。
「「「「…………ん?」」」」
そして、四人はきょとんと失速してしまった。
まず……目当てのワルプルグラスはすぐに発見できた。
踊る篝火のような赤と青の花が、頂上も頂上の切っ先で群生していた。
しかし真にパーティの目を引いたのは、その手前で伏していたボスモンスターである……。
ーー……………………
「なあ。骨だけになってるぞ」
「なあー。俺も年を取るはずだなあ」
……鱗も肉も無くなったドラゴンの全身骨格が、微睡むように穏やかな姿で鎮座していたのだった。
「ドラゴンさんに黙祷、です……」
「けーっ、なんでぃつまんねぇの。せっかくならドラゴンゾンビにぐらいなってやがれってんでぃ」
合掌したイエと、面倒そうに小首を傾げながらも敬礼を投げてよこしたシェリスと。
ついでとばかりに、黄金王女は地面に突き刺さりまくっていた投げナイフ……いやいや十年越しの錆びたスコップを蹴り飛ばした。
カツンと、龍頭の鼻先へぶつかった。
ーー…………ガガララ
「「「「ん?」」」」
そして、空虚な眼窩に『光』のエーテルが灯った。
ーーガガゥァァァァラララララ……!
「なあ!? ほ、骨だけなのに生きてるぞーー!?」
「なあー。ドラゴンゾンビだなあ」
繋がっているはずのない関節をエーテルで繋ぎ止め、ドラゴン……ゾンビは立ち上がったのだ。
皮膜の失った翼に虹のリングを背負ったようにも見える雄姿は、この魔鉱山そのものの似姿といえた。
「てやんでぃ親父、ドラゴンゾンビは腐肉が付いてるヤツだろぃ。こいつは骨だけだから、ドラゴンが死んだドラゴンゾンビがさらに死んだゾンビドラゴンゾンビなのだわ」
「スカルドラゴンだろうそりゃあ」
「そりゃアンデッド属じゃなくて別のドラゴンなのだわ」
「ああーーそうか」
「ややこしいわ!! てかどうでもいいだろ今は!」
「おいおいハルトくん、ドラゴンはいやになるくらい種類の多い魔物なんだからどうでもよくはないぞ。現にスカルドラゴンなら『火』は効かなくもないがゾドゾにはてんでダメだ」
「ゾドッ……もういいツッコミが追いつかない! いくぞ、イエ!」
「はいっ」
ポスッ。
ハルトが突きつけたパラレラムの脇を、へなちょこな放物線を描いて何かが飛んでいった。 「あぅっ」
……今日も今日とてすっ転んだイエの手から、袖の中から投げられたモノである。
それは、一掴みの袋だった。
真白のローブを象った、ムウ修道会のエンブレムが刻まれていて……。
ただしそれは。イエのローブに刺繍されたものとは異なり、逆さまの大樹が意匠の軸となっていて。
ーーレベル99 見疫必殺ヒールゼムオール ーー
ゾンビドラゴンゾンビの腰までも届かずに落下していった、
が、『風』と『土』色の粉末を噴射することで高々と飛び上がったのだ。
意思を持つかのように戦場全体へ散布されていった輝きは、見慣れた回復魔法の構造式だった。
ーーグャァァァァァァァァァァ……!
ゾンビドラゴンゾンビは。倒れた。
「「「…………」」」
ハルトも、それにシェリスもスツルクも。体の隅々まで自然治癒力の高まりに満たされながらも、死んだような眼差しでボスモンスターの崩壊の様を見上げていた。
「……ふむ。そういえばアンデッド属は、回復効果が逆にダメージになるんだったな」
死体は生きていない。当然だ。ゆえに死体を『生かそう』とすれば、それは自己矛盾という崩壊をこそ引き起こすのだ。
ゆえに彼女にとって、ともすればこんなものは死闘でもなんでもない。
死体は当然殺せない、ただただ元の無為自然へお戻りいただくだけなのだから。
「……ぐす。うまくいきました。はい」
「なんでベソかいてるんだよ」
「ゾンビは大っっっっ嫌いです……」
「なんで?」
「ゾンビだからです……!」
ーー イエ レベル1 ーー
いつの間にやらまたレベルダウンしていた最弱白魔法師は、ボタ雪まみれでプルプルしながらもバンザイしていたのだ。
ーー レベルアップ! ーー
ーー イエ レベル3 ーー
そしてまた、レベルアップ。
「イエ子ォ……おまえなぁぃ……」
「敵味方問わずその場の全員を治す回復パウダーよ。だから戦闘中の使用には適さないけれど、多対一のボスバトルで仕切り直しに使うこともできるわね」
「ネエちゃんん……おまえなぁい……」
闇色の仄かな輝きが残るタリスマンもまた、平常運転で。
「……? 皆さん、どうかしましたか?」
「……どうもこうも。誰も痛い目見てないしあいつも成仏できただろうし、文句のつけようがないだろ。……ないんだよ」
「それはよかったです。お役に立てて嬉しいです」
ズボッと。ハルトは雪中からイエを引っこ抜くとともに立ち上がらせてやって。
「ところがなぃイエ子、ゾンビドラゴンゾンビの残骸に粘菌が付くとゾンビドラゴンゾンビスライムに……」
「ひぃ……っっ!」
「やめてやれ!」
「おーいシェリス、さっきの鉢植えをおくれ。あと誰か水と、イエくん、栄養剤的なものは持ってないかい?」
「は、はい……今行きますお父さん」
頂上では、手刀を以てスツルクが地層ごとワルプルグラスをぶっこ抜いていて。
「……いやだめだ、可哀想だがやっぱ言っておこう。あのなイエ、冒険者のダンジョン攻略には様式美ってものがあって……」
「ハルトさん。私は冒険者ではなくて白魔法師なのですが」
「……。……ごもっとも」
ダンジョンクリア。戦利品整理、帰路計画、記念撮影と、無事にお家に帰られるよう準備するパーティだった。
○
「使い道? とくに無いで? 綺麗なお花やさかい育ててみたいて思っとったんやぁ」
「……。……大事にしてやってくれな」
「モチのロンやて!」
円卓に掛けたルル王妃は、鉢植えの上で咲き誇るワルプルグラスたちを前にご満悦そうだった。
グレートベルアーデ城内、玉座の間。ハルトたちはまたもお茶会の席に座っていた。
「てやんでぃ親父、土産なら指輪にでもすりゃ十分だろぃ。おいマリー、残りの原石は彫刻師ギルドにでも寄贈するのだわ」
「はあい仰せのままに。というわけでおじ様、ごめんなさいのう」
「せっかくシェリスの胸像でも彫ってやろうと思ったのになあ」
シャベルを研いでいるシェリスも、巨大原石をシュネーヴィに抱えさせたマリーも、一摘まみのルビーをディナーナイフで加工しているスツルクも。
それに……彼女も。
「使い道が無いということは無いでしょう。ワルプルグラスは龍の卵と調合すればエリキシル剤の中間材料になるわ」
「おー、さすがアーちゃん、さすが自称精霊はんや。あないな難しいもんの作り方よぉ知っとんねぇ」
「……王妃様、あだ名はべつにいいのだけれどせめてアリスかステラと…………いいえ、やっぱりいいわ。今度こそ失礼させてもらうわね」
「あっ、ちょぉ、また消えてもた!? イーちゃんイーちゃん、もっかい呼んでぇなもっかい!」
「ごめんなさい、もうレベル1なので呼べないです」
「さよかぁ……今度また会わせてな!」
「こういう使い方をするとお姉さんの機嫌が悪くなるのですが……はい、また」
もうタリスマンの中へ還ってしまったがアリステラも、ルルへ紹介することができた。
「……疲れた。平和を守ったわけでもなし、大した戦利品もなし、今日はひどい大冒険だったな」
「ハルトさん。そういう考え方は良くないと思います」
「んー……?」
そしてハルトはイエの隣で、おやつのチョコケーキを切り分けていて。
「毎日の出来事全てに、大きな意味や教訓があるはずもありません。今日は家族とお茶をしてハイキングに出かけた……と、それでいいのではないでしょうか?」
そしてイエはハルトの隣で、おかわりのカモミールティーを幸せそうに啜っていて。
「……ハイキング。なあ」
「はい。家族です」
円卓のファミリーを、青年騎士と白魔法師乙女は眺める。
(いいか。それで)
何があっても無くとも、世界は、家族は、こうして廻っている。
帝国の平和は、こんな帝王一家に担われている。
続
(1話につき4部分構成の短編連作です)
(毎週月曜日、18時頃に更新中です)
(1話完結の翌週……つまり5週間に1回、次話の準備期間として更新にお休みを頂きます。よろしくお願いいたします)




