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karte.7-3「後ろが見えなくなっていけないいけない」

【ハルト】……ベルアーデ帝国騎士団第七隊所属、双剣銃を手にイエへ寄り添う青年騎士。18歳。

【イエ】……極東ニフ国の乙女で、大体いつもレベル1なのにチートのような守護精霊の力を使える白魔法師。16歳。

【マリー】……ドワーフのミニマムレディ、妖精機シュネーヴィを操る魔導技師にして第七隊のメイドさん。19歳。

【シェリス】……第七隊隊長、魔法剣ならぬ魔法シャベルを振り回すハーフエルフの残念系王女。20歳。

【アリステラ】……イエを守護する自称『闇の精霊』にして、自称『勇者』。自称17歳。



 ○


「ハルトさんハルトさん。どうして西方の人たちはいろんな場所にダンジョン(地下牢)を作るのですか?」

「……そうきたか」

「私、白魔法師見習いの時にいくつかダンジョンにアタックしましたけど、まだ一度も囚人さんを見たことが無いのです」

「あのな、山の中でも雲の上でもダンジョンはダンジョンなんだよ。マナエーテルが濃くなりすぎた危険地帯を迷宮に見立てて冒険者はそう呼ぶんだ」

 魔鉱山1F。

 鉱内には統一感の無い開拓の歴史が広がっていた。

 自然の洞を拓いた小部屋や広場を一単位として……、

 木組み、

 石組み、

 鉄組み、

 魔方陣、

 などなど、様式の異なる通路たちが混沌と接続されていた。

 特にエーテルを含んだ鍾乳石やキノコが光源として栽培されていた跡があり、それらは高低差に満ちたこの迷宮の標だった。

「理解しました、東方で言うところの『魔境』なのですね。魔を見たら突き殺せ、ホトケを見たらホトケを殺せといわれるあの」

「その物騒な標語は知らないがそうだよ……。濃すぎるエーテルのせいで《リターン》はともかくショートカット系の魔法が使えないし、フェアリーも酔う。一度足を踏み入れるからには覚悟と準備が必要だ」

 ーー 注意 ダンジョン内 念話・Fメール等一部機能制限中 ……きゅう ーー

 ホルスターの中でハルトのフェアリーが大人しくなっていた。深部になるほどエーテルの閾値が不安定になるため、山頂まで飛行系魔法や妖精機でひとっ飛びというのも極めて難しい。

「なによりダンジョンといえば、エーテルに惹かれた魔物たちがわんさか巣食ってるってことだよな。そのぶんレアアイテムなんかも生まれやすい場所だから、デッドオアアライブ(生きるか死ぬか)な魔の境っていえば確かにその通り……なんだ……が……」

「はい……」

 と。早足ながらも二人して話し込めるほどに……、

 ハルトとイエは、台風の目の中のような穏やかさの中にいた。

 すなわち、血風はすぐ目前にこそ吹き荒れていた。

「おぅぅぅぅっらあ!」

 ーーフォヴァブッッ!?

 スツルクが看板をぶん回し、魔物の群れが薙ぎ飛ばされていった。

 ノンストップで進撃し続ける帝王を先頭に、パーティは魔鉱山内部を正面突破し続けていた。

 ーー ベールウルフ レベルEX(特殊) ーー

 ーー 《ドゥームシュタイン》 ーー

 ーー レベル58 ハックスラッシャー スツルク・アハトズィーベン・ベルアーデ ーー

 古看板は武器に非ず。しかし彼が魔力を込めれば、それは一時ながらも『致命なる武器ドゥームシュタイン』として強化されていた。

「あれじゃただのハックアンドスラッシュ(切った張った)だよな……」

「はい……」

「説明しよう、なのだわ!」

「うぉっ」「あぅっ」

 ーーフォギャッ

 起き上がろうとしていた人型のキノコ……というか光る菌糸が人型に絡まった魔物、ヒカリマタンゴの頭へ金剛シャベルの打ち下ろし。追撃手として父の周りで暴れていたシェリスである。

「イエ子ははじめて見るよなぃ。ありゃ親父が編み出しやがったユニークスキルなのだわ。体内魔力を体力強化に全ブッパして、同じ要領でそこらのもんを武器に仕立て上げるんでぃ」

「なるほど……」

「楽しそうだなおまえ」

「ほーっはっはっは! 親父とのダンジョン攻略はスピード感があって好きなのだわ!」

「いやあ娘が嬉しいことを言ってくれるなあ」

「親父が好きとは言ってねぇのだわ! んなことよりその看板そろそろ壊れそうだぜぃ!」

「おっと、次、次」

 耐久値がいかにも限界間近だった看板を投げ捨て、スツルクは……地面からトロッコのレールをぶっこ抜いた。

「せぃぃぃぃっらあ!」

 ーーカラカラララララ……!

 スケルトンの一個小隊が木っ端微塵に粉砕された。

 ーー ATK:A DEF:B DEX:C AGI:D INT:E RES:F ーー

「お、それとあの馬鹿力は元からな。親父は若い頃、没落貴族連中の反ベルアーデ同盟をたった一人で潰して回ったぐらいだからなぃーほはははは」

「親父さん大好きだなおまえ」

「てやんでぃべらぼうめぃ、バッカおまえ、シェリスさんはもう20歳なんだぜぃ? この歳でおまえ親父大好きとかおまえ、はぁ? はぁぁん?」

「お母さんとどちらが好きですか?」

「バーーーーッキャロィッ、どっちも自慢の親でぃ! ……好きとは言ってねぇのだわ!」

「ハッ、それよりもお父さんを回復しないと……!」

「おまえたちはもうパジャマパーティに呼んでやらんのだわ」

「拗ねるな拗ねるなめんどくさい」

 ハルトも一応は双剣銃パラレラムで魔物たちへ狙いをつけていくものの、援護射撃をするまでもなく帝王父娘は活路を切り開いていた。

「ああイエくん、俺はまだ平気だから温存してくれていてかまわないぞ。本当に危ない時は言うよ」

「え、でも傷が……」

 ーーフォッ、フォォ!

 ーーカラララ!

 ヒカリマタンゴにジャンピング頭突きされたり、スケルトンにローリングソバットされたり。ディフェンダー(守り手)のような堅牢さを見せるもののやはりアタッカー(攻め手)であるスツルクは、絶え間無い攻勢の中で少なくない相打ちを食らっていた。

 それらは小さなダメージながらも目に見える傷として蓄積されつつあった……のだが。

 ーー 非負傷 持続 オドエーテル活性 上昇 ーー

 ーー 持続治癒 開始します ーー

「よーし、きたきたきた!」

「えっ」

 しばらく負傷せずにいると。血潮のような魔力がことさら活性化し、()()()()()()()()()()()のだ。

「ふんんんんぬっ!」

 ーーホロロロローン!?

 壊れたレールを打ち捨てると、スツルクはアラアラスパイダーの口に手を突っ込んで引き裂いた。

「あいだ、っ、しまったっ……!」

 ーーアラアラマアマアッ!

 腹まで裂かれたアラアラスパイダーの中から女性型の本体が立ち上がり、燃える蜘蛛糸を吐いてスツルクの肩口を焼いた。

 ーー 負傷 オドエーテル活性 低下 ーー

 ーー 持続治癒 停止します ーー

 途端に魔力は控えめになり、傷も治らなくなっていった。

「だらしねぇぜぃ親父ぃ!」

「いやあまったくだ、なあっ!」

 ーーソプッ

 地面に叩きつけたアラアラスパイダーを踏み潰し、その流れのままに壁から鉄柱を引っぺがす。通路の一つが呆気なく崩落していった。

「……なる、ほど。体内魔力だけで自然治癒力を高めて治癒魔法リジェネリングを再現しているのですね。回復魔法体系と同じで、本人の体力次第で長時間の行使にも耐えうるはずです」

「ああ、見てのとおりタフな人だから心配いら……って、イエ? なんかむくれてないか?」

 ヒーリングの構えに両手を突き出したまま、イエの無表情はなんだか不服そうだった。

「……お父さんには言いづらいですけど、ヒール前提で無茶をするのは良くないと思います。痛いものは痛いと思います」

「あー……」

 いかにも。それは古来からの戦法の一つには違いなかったが、ハルトには真似できない芸当だった。……そしてきっと、命のそばに寄り添うことを望む彼女にも堪えがたい。

「大丈夫。それならもう俺が言ったことある」

「どうなりましたか?」

「へい親父ぃ、お袋からの伝言でぃっ!」

「べゃっ」

 いささか先行しすぎていたスツルクの後頭部に、シェリスから鉢植えが叩きつけられた。

「ああ……ありがとう。こういう時はルルさんに殴ってもらわないとな、後ろが見えなくなっていけないいけない」

「うむ! わかりゃあいいのだわほはははは!」

「イエくん、回復頼む!」

「あ……はい、っ、《ヒーリング》」

 放たれた輝き。自然治癒が追いつかないほどゴリ押していたスツルクの生傷が治されていった。

「よおし心身ともにリフレッシュ完了! ハルトくん援護が薄いぞ、ははははは」

「う、うーっす……」

 厳密には心的リフレッシュ効果は無いのだろうけども、跳び退いたスツルクはパーティの先駆けとして仕切り直すのだった。

「……な? だから今までやってこれたんだってさ」

「なるほどです」

 後詰めの魔物がいないか周囲を警戒しながら、ハルトは、どこか満足げなイエへ肩をすくめてみせるのだった。

「ハルトさんもあんまり前に出すぎないでくださいね」

「おまえが前に出すぎたらそうするしかないだろ」

 先人の背中を追って、前へ、前へ……。


 ○


 あっという間に、10F。

 魔鉱山最深部たる11F山頂へと続く階段の手前。

「ーーというわけで、この子の守護精霊アリステラよ。不肖の妹分だけどこれからもお世話になるわ、帝王様」

「ああ……こ、これはどうも、こちらこそ娘が世話になってます」

 イエの第二トンデモスキル《クラフトウィッチ》。長すぎる髪と大いなる存在感を有した闇色少女の影が、イエの胸のタリスマンから現れていた。

「ついでに、一応解説しておくわ。そこに転がっているアイテムたちはダンジョン攻略にはまず役立たないわよ」

「んだろうなぃー」

「……4回も使ったのにあんまりです」

 ーー イエ レベル2 ーー

 しょんぼりしたイエの周りには、第一トンデモスキル《ウィッチクラフト》で乱造したレベル99アイテムたちが転がっていた。

 ーー レベル99 無限再利用割り箸 ーー

 ーー レベル99 完全消臭剤スメラナイ ーー

 ーー レベル99 秘本『コバエ必殺拳』 ーー

 ーー レベル99 久遠増髪グロウィッグ ーー

「だ……大丈夫ですお姉さん。あと1回は使えるので……」

「そうね。ヤケになってお父さんへの紹介の為だけに私を起こさなければもう1回は使えたわね」

「…………」

「これに懲りずにまた頑張りなさい。ハルト、後はよろしく」

「ちょっと目を離したらこれだもんな……」

 そうしてアリステラはタリスマンへ還っていった。パラレラムの最終点検をしていたハルトは、5レベルも無駄遣いしたド天然乙女へ横目を向ける他なかった。

「……良かれと思って。やりました」

「そんなことはわかってるんだよ。わかったからちょっと大人しくしててくれ、な?」

「しゅん……」

「……で、どこまで話してたっけ親父さん」

「えー、あー、そう、この先の山頂にはドラゴンがいるはずなんだよ。スモウをとったりとか機械と合体とかもしない、炎を吐くだけの普通のドラゴンな」

「はい、私知っています。はい。ボスモンスターですね、ボスモンスター」

「十秒も経たないうちから大人しくしてないじゃないか……」

「イエ子のそういうグイグイくるとこ、シェリスさん嫌いじゃないのだわ」

 ダンジョン攻略の要点の一つ。迷宮の最深部には必ずといっていいほど君臨しているヌシ、いわゆるボスモンスターへの戦闘準備中の四人だった。

(1話につき4部分構成の短編連作です)

(毎週月曜日、18時頃に更新中です)

(1話完結の翌週……つまり5週間に1回、次話の準備期間として更新にお休みを頂きます。よろしくお願いいたします)


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