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karte.7-2「ブロウケン魔鉱山、か」

【ハルト】……ベルアーデ帝国騎士団第七隊所属、双剣銃を手にイエへ寄り添う青年騎士。18歳。

【イエ】……極東ニフ国の乙女で、大体いつもレベル1なのにチートのような守護精霊の力を使える白魔法師。16歳。

【マリー】……ドワーフのミニマムレディ、妖精機シュネーヴィを操る魔導技師にして第七隊のメイドさん。19歳。

【シェリス】……第七隊隊長、魔法剣ならぬ魔法シャベルを振り回すハーフエルフの残念系王女。20歳。

【アリステラ】……イエを守護する自称『闇の精霊』にして、自称『勇者』。自称17歳。

「ほーっはっはっは、そういや言うてなかったやんなぃ。んま、わざわざ言うことやなかったさかいしかたらへんのだわ」

「……? …………?」

「こらこら娘よ、急にエルフ弁になるからイエくんが大混乱してるだろう。むしろエルフ弁のままでもいいからもう少し威厳ある物腰を身につけてくれ」

「親父よ、隙あらば説教するんやないのだわ」

「せやでスーちゃん! 威厳あってもエルフ弁やとカッコつかへんやろ!」

「べゃっ」

 スツルクのつむじへ、ルルの鉢植えが打ち下ろされた。

「それにわしとキャラ被ってまうけん。ね」

「なんでシェリスさんがマリーとの被りを気にせなあかんねぃ。……ところでもう元のしゃべりに戻していいかぃ? 兄弟」

「なんで俺に訊くんだよ。勝手に戻せよ」

「ホントかぁ? この帝王ホームコメディにちゃんとついてこれてんのだわぁ?」

「ちゃんと生暖かい目で見守ってるよ。置いてきぼりにされてるのはこいつ」

「なるほど……だからシェリスさんはエンチャントの魔術が得意なのですね……」

 両のこめかみをグルグルと揉みながら、濃すぎる帝王一家を理解中のイエだった。

「せや、そないなイーちゃんもナントカっちゅうクラフトスキルが使えるんやろ? 自称『闇』の守護精霊はんのご加護とかで」

「あ、はい、このタリスマンの中で眠っているアリステラお姉さんの力なのです。せっかくなので一つご披露を……」

「しなくていい!」

「あぅっ」

 ローブの胸から闇色クリスタルのタリスマンを取り出そうとしたイエを、ハルトはクッキーを頬張らせて止めた。

「サク、サク、サク…………ファルホふぁん、よへほ言っけくへひぇば止はりまふ」

「よせと言ってくれれば止まりますって? よせと言った時にはもうやらかしてるのがおまえだろ……」

「ありゃあ、なんやハルちゃん雰囲気変わたねぇ。かわええ後輩……もといかわええ相方ができて、チョット男前になったんかなぁ~? ん~?」

「か、からかわないでくれって女将さん。とにかくこいつのスキルは何がどう転ぶかわからない天然危険物なんだ、紹介はまた今度ってことで」

「さよか~、この前みたいに帝都がソラ飛んでも困るもんなぁ~」

「把握しててそのノリかよ……」

「うちは帝王のお妃さんやで。あんくらいの修羅場鉄火場正念場、あんたらくらいのお年頃にはこの人と一緒になんぼでも乗り越えてきたもんや。な~スーちゃん」

「厳密に言えば、その当時はおまえのストーキングに辟易していた頃だがなあ」

「せめて追っかけって言いぃな!」

「べゃっ」

 またも鉢植えがクリティカル。

『プッシュルー』

「うん、おおきにネヴィちゃん。注文通りのパーペキな手際やね」

 そんな時、シュネーヴィが卓上にトレイを差し出して。ティーカップたちに注がれたハーブティーを覗き、ルルは親指をグッと立てた。

「ほな、皆さんよろしゅうお上がり。うちの自慢の一杯や」

「お袋は口出ししてただけじゃねぇかぃ」

「アホ言ぃ。どんなにええお茶もお薬も、誰かて作れるようなもんやないとそんだけで片手落ちや」

「お薬……? ……いただきます」

 いつもの淡白フェイスながらどこか食い入るように、イエは、花の浮いた琥珀色の香草茶に口を付けた……。

「わふゃっ」

 変な声が出た。

 ーー レベルアップ! ーー

 ーー イエ レベル3 ーー

 未知のものを識ったことによる経験値……オドエーテルが溢れ、桜髪をフワと逆巻かせた。

「こ、これは……! ダブルローグカモミールですか……!?」

「ほふふふふ、その驚きかたからするとわかっとるみたいやね~イーちゃん~、通やね~。せやでぇ、うちが栽培したモノホンのダブルローグ種や!」

「すごいです……! ここまで苦味を抑えながらも、薬効成分はハッキリとわかるくらいに活性化されていて……」

「お、おーい。わかるように説明してくれないか?」

 林檎の蜜に近いような、ほのかな苦味のある奥深い甘味。……それくらいなら飲んでみてハルトもわかったのだが、帝王父娘にマリーも含めて疑問符を浮かべていた。

 対してイエは、わちゃわちゃと身振り手振りで水面の八重咲き花を紹介するのだ。

「薬草としてのカモミールには大きく分けて『ベルアーディ』と『ローグ』の2種があるのですが、ローグ種は高い薬効に代わってルンペンアルコールの苦味が強いのです。でもこのハーブティーはその難点をとてもマイルドに……いいえむしろほろ苦さとして引き立てることでエクステル物質のリラックス効果に相乗作用を……」

「わ、わかったわかった!」

「と宣う兄弟と同じく、シェリスさんもさっぱりわからんのだわ」

 ーー 薬術 レベル1(職人級) ーー

 なるべく簡潔に説明してくれているのだろうけども。いかんせんイエのように薬術スキル持ちではないので、とにかく『すごい』ということしかわからなかった。

「ああ、まあ。第一線こそ退いたが、ルルさんはうちの国立薬院の薬師だからな」

「おかげさまで名誉顧問やらせてもぉてます~」

 ーー レベル28 薬師 ルルデリカ・ルル・ベルアーデ ーー

 ーー 薬術 レベル2(達人級) ーー

 王妃様は娘とそっくりに、八重歯が際立つ笑みを見せるのだ。

「どや、このダブローカモ18号ちゃんは栽培の工夫だけでここまで化けたんや。品種改良でも魔術の類いでもないで。イーちゃんイーちゃん、よかたらうちが編み出した薬術マル秘テク100を教えたろか?」

「はいお母さん……! ぜひお願いいたします……!」

「ぃゃぁ! あんたはきっとうちの子ぉよりええお嫁さんになるわぁ~」

「おいお袋、お袋こら」

 と、すっかり意気投合してしまったらしいイエとルルは、ティーカップを持ったまま離席。温室まで歩いていってしまったのだった……。

「……親父さん。頼むから、あいつを養女にって話になっても説得してくれよな」

「ははは心配するな、その時はおまえも一緒に迎え入れるよ」

「ここのアットホームっぷりがたまに怖い」

 帝国の平和は、こんな帝王一家に担われている。


 ○


 帝王夫妻とのブランチなお茶会を終えて……。

 数時間後の、昼下がり。

「……で。なんで俺たちはこんなところにいるんだ?」

 ハルトは双剣銃パラレラムを持て余しながら、眼前の景色を見上げていた。

 そこには、六大属性色に鈍く照った山があった。

 稜線の短いコンパクトな山ではあるが、三角錐のような尖ったフォルムを高々と突き上げていた。

「ブロウケン魔鉱山、か」

 標高約1100メートル、ベルアーデ北部では最高峰。4月でもいまだ降雪が散見される苛烈な気候で知られる……その名はブロウケン魔鉱山。

「ハルトさんは忘れんぼさんですね。ルルお母さんから第七隊への依頼です。この時期だけ山頂に咲くワルプルグラスの花を取ってきてほしいとのことです」

「そんなことはわかってるんだよ……。わかってるから言いたくなったんだよ」

「ほははははっ、ブロウケンなんてガキの頃以来なのだわ。なぁ親父、あん時みてぇに魔石の一つでも掘れっかねぃ?」

「いやあ、魔鉱としては先々代の頃に閉鎖されてるからなあ。盗掘者がまだいたら絞ってみるか」

 ハルト、イエ、シェリス、そして帝王スツルク。そんな四人パーティは、大口を開けた坑道前で準備体操をしていた。

『ちょうどええわ。スーちゃんもたまには運動してきぃ』

「ああ、この歳でレベルダウンしたら巻き返すのも一苦労だしなあ」

 スツルクのマントにうずまった角付きフェアリー……ハイフェアリーが出したウィンドウに、玉座の間のルルが投影されていた。

 通常品種の念話よりもハイグレードな機能、映像念話。テレパシービジョンだ。

『こっちのシノギはうちとマリちゃんで回しとくさかい、急がんでええよ~。せやけどみんなぁ怪我には気ぃつけるんやで』

「はいお母さん、コツの76『診察は先読み、薬は後出し』ですね。頑張ります」

『ついでにおじ様ー、業務連絡業務連絡。この前仰ってたD&Eの義援金なんですけど催促のお手紙が来ちょるわあ』

「ああ、それは置いといてくれ。マリーくんが干渉するのは立場上良くないだろう」

 玉座に座り書類の山を捌いていくルルと、彼女を補佐するマリー。手を振る二人のゆるい笑顔を締めくくりに、映像念話は終了されるのだった。

「なあ親父さん……俺は政治なんてド素人だからよく知らないんだが、ああいうハンコ仕事くらいは帝王様直々にやらなくてもいいんじゃないのか?」

「ああ、大臣でも置けって? ははははははは、そんなものは絶対置かない置かない」

 さて準備体操も終えると、スツルクはおもむろに

入口脇の立て看板へ近づいた。

「宮廷物の歴史書を読んだことは? 国民を死なせるのはえてして王の野望の所為に他ならないが、国を死なせるのはえてして大臣や腹心どもの野心の所為に他ならないよ」

「う……うーん?」

「だから大臣なんて血反吐吐いても置かないな。禿げ散らかしてて、目付きが悪くて、鼻が高くて猫背で道端の軟便みたいな顔色で……」

「いやいやいやそんなわかりやすい悪徳大臣いないだろ」

「うん、この看板はずいぶん古ぼけてしまってるなあ。冒険者ギルドに報告しておかないとな」

 錆だらけの立て看板にはこう書かれていた、

『ベルアーデ帝国冒険者ギルド北支部 認定ダンジョン BRD2318 ブロウケン魔鉱山 11F階層(当ギルド比) 不思議化N/A』。

「じゃあ、これは使ってもいいだろう」

 ベゴッと。

 杭で地に刺さっていたうえに石膏で補強されていたそれを、()()()()()()

「なんの話だった? ああそうそう、やはり家族こそが一番だよ」

 ワンマン帝王はツルハシよろしく立て看板を担ぎながら、若者たちへ振り向いてみせるのだ。

 彼の体のド真ん中で、心臓を象るように黒金色のオドエーテルが弾んだ。

「よおしおまえたち。頂上まで競争だ」

 その魔力が、漲る血潮がごとく看板に纏われた……。

(1話につき4部分構成の短編連作です)

(毎週月曜日、18時頃に更新中です)

(1話完結の翌週……つまり5週間に1回、次話の準備期間として更新にお休みを頂きます。よろしくお願いいたします)


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