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Karte.7-1「せやで」

【ハルト】……ベルアーデ帝国騎士団第七隊所属、双剣銃を手にイエへ寄り添う青年騎士。18歳。

【イエ】……極東ニフ国の乙女で、大体いつもレベル1なのにチートのような守護精霊の力を使える白魔法師。16歳。

【マリー】……ドワーフのミニマムレディ、妖精機シュネーヴィを操る魔導技師にして第七隊のメイドさん。19歳。

【シェリス】……第七隊隊長、魔法剣ならぬ魔法シャベルを振り回す残念系王女。20歳。

【アリステラ】……イエを守護する自称『闇の精霊』にして、自称『勇者』。自称17歳。

 ベルアーデ帝国、帝都ベルロンド。

 グレートベルアーデ城内にて。

 玉座の間の手前には、見上げるばかりの大扉を据えた長い廊下があった。

 大扉を守る近衛兵たちの厳めしさもさることながら、ベルと盾印の国旗を掲げた鉄柱が居並ぶ様に圧倒されそうだ。

「ちょい、ちょいD72番、そこは国債関係の箱だろ。公共事業の書類はこっち」

「ディアナはこのまえ品種転生したばっかで本調子じゃないんだよ。あんま怒ってやるなよ」

「フェアリーをニックネームで呼ぶのやめろって。無駄に愛着湧くだろうが」

 ……片隅で作業台についた近衛兵たちが、フェアリー用のハッチからひっきりなしに届けられる書類等を仕分けしている風景はともかく。

 今、玉座の間へ向けてレッドカーペットを辿る四人組の姿があった。

「マル1、『話しかけられるまで口を開かない』。マル2、『挨拶は短く簡潔に』……マル3……」

「イエちゃんイエちゃん。さっきからなに読んどんならあ?」

「はい、王族の方に謁見するのははじめてなので失礼の無いようにと。礼儀作法をメモしてきたのです」

 ムンッとやる気満々になびいた真白ローブの袖。極東ニフよりの最弱白魔法師イエは、覗き込んできた幼女……もといドワーフ淑女のマリーへメモを見せた。

 ラバーメイドを着込んだマリーは、魔導技師であるがメイドでもあり侍女である。「なるほどなるほど」と紙上の礼儀作法箇条書きへ微笑んだ。

「えらいっ、花マルをあげちゃいましょう。ほんじゃがここまで畏まらんでも大丈夫じゃあよ」

「え……で、でもお相手帝王ご夫妻でマル5『お土産は故国に縁のあるものを』……私の国では無礼者に厳しくて、すっぽんぽんで野良犬と共同生活するなんて刑があったりしてマル6『いえすまじぇすてぃ、のーたっち』あばばばばば」

「イエちゃあん!? それにしたって緊張しすぎ緊張しすぎ!」

「いいえこれは武者震いではありません、吐きそうなのです」

「落ち着けってぇの!」

「あぅっ」

 ……イエの相棒というかお目付け役、青年騎士ハルトが桜髪へフードを被せてやれば。イキモノとしてはへっぽこでもさすが白魔法師か、グルグルまなこだった彼女はシャキンと背筋を伸ばした。 「……患者さんはどこですか、ハルトさん」

「おまえだよ」

「白魔法師のローブでふざけたらダメです。反省してください」

「おまえ……」

「まあとにかくでぃっ、イエ子はもううちの家族なんだから水くせぇこたぁ無しなのだわ!」

 と、金髪縦ロールの残念系王女、シェリザベート・ハーフェン・ベルアーデ……シェリスもいつも通りにバカ笑うのだ。

「そうそう、帝王両陛下っていうかシェリスの両親に挨拶しに来たぐらいでいいんだよ。俺も最初は緊張したけどいらない心配だった」

「そう、なのですか?」

「ああ。夫婦揃って良い人すぎるくらいだよ……な、マリー」

「そうねえ。シェリスさんもあれくらい分かりやす~いええ人じゃとええんじゃがあ」

「ほははははよせやぃ、そんな褒めんなってんでぃ」

 こんなハルトたちは、ベルアーデ帝国騎士団第七隊として今日も活動している。

 たった四人(とプラス一柱)のはみ出し隊ファミリーは、開かれた大扉の向こうへ……。

「ーーやあ。来たな」

 その玉座の間は、うんと高い天井を尖らせた広間だった。

 ……たった一人の近衛兵も置いていない、この国の中枢も中枢。

 玉座の前に執務机を据え、書類の山に囲まれた影があった。

「なんでぃ親父。仕事片付いてねぇじゃねぇかぃ」

「いやいや、これは後でやろうと思っていた分だよ。おまえたちを待っている間に少しでも減らせれば御の字だろう?」

 筋骨隆々、40代前半ほどの偉丈夫が。一塊の岩のような手にはいっそ不釣り合いなほど小さく、しかし慣れきった様子で羽ペンと印章を構えていた。

「けーっ。ワーカーホリックめぃ」

「ワーク・エンゲージメントと言ってもらいたいね」

「意味は?」

「さあ。仕事とエンゲージ(交戦)っていうぐらいだから前向きな意味じゃあないかな」

 短く刈り込んだ銀髪をポリポリと掻く。腕捲りした黒金色の軍服にベストを着込み、申し訳程度にマントを羽織った帝王様だった。

「はい。提案します。仕事とエンゲージ(婚約)……のほうが素敵だと思います」

「ええのうそれ。わしもイエちゃんの説を支持します!」

「ははは……仕事と結婚すればいいって罵られたことはあるがね。はじめまして、きみが噂のイエくんか」

「あ。失礼しました、ニフのイエと申します。白魔法師です」

「さっきまでの緊張はどこ行ったんだよ……」

「やあリヒャルト……おっと新しいあだ名があるんだったか、ハルトくんも。しばらく会わないうちに可愛い後輩ができたようだなあ」

「ああ、どうも……親父さん」

 イエの緊張が溶け消えるのも無理ないが、間違いなくここは謁見の間である。

 だがそれ以上に執務室であり、究極的には()()()()()なのだった。

「というわけでイエ、こちらが俺たちのボス……スツルク・アハトズィーベン・ベルアーデ帝王陛下だ」

「どうもどうも。見てのとおり仕事に追われていてね、今まで挨拶できなくて申し訳ない」

「いいえそんな、こちらこそ。第七隊の皆さんにはお世話になっています」

 南エウル大陸の中西部を席巻せしめる帝国の王、スツルク。イエにつられてペコペコとお辞儀合戦をしながら握手を交わすのだった。

「こちら、ニフの金平ごぼう糖です。お納めください、ゆあ・まじぇちゅちガチュッ……あうぅ……」

「ああこれはこれは、ご丁寧にどうも。……好きなふうに呼んでくれてかまわないぞ、舌噛むからじゃなくてシェリスの友達としてね」

「ありがとうございます。お父さん」

「おまえの順応性たるや……」

「なに、なに、実の娘にすら『親父』呼ばわりだからむしろ嬉しいよ。はーっはっはっはっは」

「ほーっはっはっはっは」

「おじ様、シェリスさん! まだお茶も淹れとらんにお菓子だけ食べないの!」

 スパイクメイスと見紛うばかりのゴボウ飴を噛み千切る帝王と王女は、一目でわかるほど似ていないのに一目でわかるほどソックリだった。

「ああそうだな、このまま立ち話もなんだし。よっこらせっと」

 ……と、スツルクは玉座の後ろにあった特大の円卓を持ち上げた。……片手で。

「おーいルルさん! みんなもう来てるぞ!」

 玉座の間の一角へ振り向いて……。

 そこは奥まっていながらも、天窓から日中通して陽射しが降り注ぐ温かな場所だった。

 そこに、ドーム型のガラス()()があったのだ。

 薬草らしい多種多様な緑が、手持ちサイズの鉢植えでほんの少しずつだけ栽培されていた。

「ーーウソやんっ?」

 と、一人の女性が温室内からひょっこり飛び出してきた。

「ぃゃぁ! ホンマやぁ!」

 黒金色のコルセットドレスにガーデニングエプロンを掛けて。豪奢すぎるフリルの袖が邪魔なのか、肘まで覆うドレスグローブで無理やりひっつめている。

「もぅ恥ずかしぃわぁ。スーちゃん堪忍堪忍」

「ははは、今日はマンドュルドゥラの悲鳴のせいにもできないな。ルルさん、この子がシェリスたちの顧問白魔法師になってくれたイエくんだぞ」

「…………?」

 スツルクの傍らまでトトトとやって来た女性を見て、イエは首を傾げていた。

「わぁ、サクラみたいな髪やねぇ。マリちゃんの赤髪もリンゴみたいでかわええけど、この子が『かわええ美人さん』タイプならあんたさんは『美人なかわええ子』タイプかなあ? ええわぁ~」

「え、え……あの……あの」

「ちぃとおば様、人を植物みたいに愛でるのはやめてくださいな。イエちゃんが混乱してますわ」

「え~。そんなん口に出さへんかったらうちの勝手やん~趣味やん~独断と偏見やん~」

「おもいっきり口に出してるじゃないか……女将さん」

 少女のように口を尖らせてみせた彼女は、実際、縦ロールなポニーテール金髪も含めて若々しい。

 ()()()()をも、イタズラっぽくピコピコと動かしてみせたのだ。

「ま、お袋がやかましいのは()()()のサガなのだわな」

「シェリちゃんには言われたないっちゅーねん。……あっ忘れとった、ほんなわけで帝王妃のルーデリカ・ルル・ベルアーデやで~。お初ですぅイーちゃん」

「イー、ちゃん……」

 エルフ弁マシマシのお妃様、ルーデリカ・ルル・ベルアーデその人だった。


 ○


 エルフ。

 魔法の扱いに長けた感応種族だ。

 その尖った耳はエーテルの機微をよくよく感じ取ることができる、いわば『触角』のような感覚器官である。

 有機物の内にて変質し続ける『オドエーテル』と大気中で移ろい続ける『マナエーテル』……エルフはそのどちらをも正確に捉え、己の魔力と感応させることができるのだ。

 たとえばオドエーテルという声を通して植物の気持ちを汲み取ったり。フォーマット化された魔法でなくとも、マナエーテルを調律することで無銘なる魔術を……すなわち『念話』や『念動』を扱うこともできる。

「マリちゃん、お茶ぁ注ぎ終わた後にこの花浮かべたって。筒状花……んー、ゆうてもわからへんか、なんしかお花の真ん中がプックリしてきたら飲み頃や」

「はあい、おば様」

 温室の中から空中浮遊してきた鉢植えが、王妃ルルの手元に到着。白い花弁と黄色のめしべな花が、丁寧に手摘みされるとマリーへ手渡された。

「……むむむ……む……むう……?」

「よぉイエ子、なぁにをムームー言ってんでぃ? 茶の支度はマリーとお袋の縄張りだからよ、気ぃ遣わず座ってりゃいいのだわ」

「あ、はい……それはわかったのです、けど……シェリスさん、一つお訊ねしてもよろしいですか?」

「なんでぃ?」

『ガガガ……プシュルー』

 円卓に着いた第七隊ファミリーと帝王夫妻。並びにマリーの謹製メイドメカ……妖精機シュネーヴィがエーテルバーニアで湯を沸かしたりティーセットを配膳しているなか、イエは思案し続けていた。

「ひょっとしたら、もしかしたら、デリケートなことなのかもしれないのですけど……」

「せやで、シェリスさんはいわゆる()()()()()()やでぃ?」

「ええええ……!?」

「今ごろ気づいたのかよ!?」

 掻き分けられた黄金のセミショートヘア。

 ……縦ロールに隠れていたシェリスの耳は、エルフの特徴である長耳だったのだ。

 のけぞるあまり椅子ごとひっくり返りかけたイエを、ハルトははっしと押し留めた。

(1話につき4部分構成の短編連作です)

(毎週月曜日、18時頃に更新中です)

(1話完結の翌週……つまり5週間に1回、次話の準備期間として更新にお休みを頂きます。よろしくお願いいたします)


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