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Karte.6-4「そばにいます」

【ハルト】……ベルアーデ帝国騎士団第七隊所属、双剣銃を手にイエへ寄り添う青年騎士。18歳。

【イエ】……極東ニフ国の乙女で、大体いつもレベル1なのにチートのような守護精霊の力を使える白魔法師。16歳。

【マリー】……ドワーフのミニマムレディ、妖精機シュネーヴィを操る魔導技師にして第七隊のメイドさん。19歳。

【シェリス】……第七隊隊長、魔法剣ならぬ魔法シャベルを振り回す残念系王女。20歳。

【アリステラ】……イエを守護する自称『闇の精霊』にして、自称『勇者』。自称17歳。

「っく……!!」

 杖を、フルスイング。1ミリの狂いもなく刃こぼれ大剣の芯を打ち、その共鳴振動により先端をへし折る。

 杖が崩壊した。

「……?……!」 ーー A ロルは混乱した。レベル84のスパロードが、そこらの粗製品に負けるはずがない ーー

 そう、ハルトが手に取っていたのは流れ者のものだろう普通の杖だ。けっして第一隊騎士が落としたユニーク装備の類いではなかった。

 選り好みしたわけではなく、そもそもそんな余裕は無かった。

 躓きそうになりながら。ロル……大剣騎士の手元に折れ大剣が振り上げられたの見て取り、ハルトは次の武器を拾い上げる。

 それは斧と槍が一体となった、特に癖の強い長柄武器として知られるハルバードだった。

 だが、関係無かった。

 ーー 斧槍術 レベル3(神級) ーー

「らあ、っ……!」

 なんとかいうアーツ名とともに舞い込んできた大上段斬りを、槍の穂先で受け止めてから斧で叩き返した。とうとう折れ大剣はほぼ全ての刃が砕け散った。

 斧槍が崩壊した。

「……!……?」 ーー B ロルは動揺した。自分はレベル71なのだ、10倍のレベル差があるのに負けるはずがない ーー

 そうだ、レベル差はある。だから()()()()()()()()()()()()()も、筋力や器用のステータスは圧倒的に差がつき、ハルトは競り合いの反動から膝を付いていた。

(っぁ……はぁ、ッ、ぁ……!)

 怖い。

 血潮が逆流するかのようで、鼓動が喉を絞めるかのようで。

 この無様は間違いなく『隙』である。そうわかってはいても体はなかなかついてこない。

 しかし進むのだ。

 洗練された奥義や必殺技なんて無く、一瞬の閃きに懸けて歯を食い縛っていく。武器を拾うのだ。

 それはナックルダスター。握り込むことで手の甲を保護すると同時に打撃力を上げる、武器としてはもっともシンプルすぎるものだ。

(しま、っ、よりにもよってこんなの……!)

 だが。関係無かったのだ。

「ーーそばにいます。ハルトさん……っ」

(…………っ!)

 必死に寄り添ってくれたその声が、ハルトを救ってくれたから。

 たった一つの『できる』ことすらままならない青年を、癒してくれた。

 だから。

「……ああ!」

 今の自分の全てで、この戦いに勝ちにいこう。

「…………っ…………こ、の、()()()野郎!!」 ーー C ロルは……負けていなかった。

 ただの柄を突きこんできた大剣騎士へ……、

「わるい……なッッッッ!!」

 ーー 拳鍔術 レベル3(神級) ーー

 ーー キャンセル ーー

 ーー 素手 レベル0(凡人級) ーー

 ハルトは。頬をかすめた柄を超えて、少年の鼻っ柱を殴り飛ばしたのだった。

 それは破裂音のような、静寂だった。

 ……大剣だったモノを手放してしまった彼は、白目を剥いてぶっ飛んでいったのだ。

 するとどうだろう。主の再起不能を感じ取ったのだろうか、チート王冠もまた頭上からすっぽ抜けた。

 そしてソレは、『99』の刻印へリセットされるとともに……ハルトへ向かってきたのだ。

「うげ……ッ」

 ハルトは一瞬迷ったが、まだ崩壊せずにあるナックルダスターを構えた。

「ーーまかせなさい」

 だが。心配するまでもなく、その呼び声が耳元を横切ったのだ。

「あぅっ……」

 急停止できずに傍らでズッコケたイエから……胸元から、タリスマンが飛び出していた。

 ーー レベルダウン! ーー

 ーー イエ レベル1 ーー

 ーー 《クラフトウィッチ》 ーー

 そこから、『闇』が飛び出していた。

 長すぎる髪と大いなる存在感を有した、少女の形の『闇』が。

 アリステラ。自称、闇の守護精霊にして……『勇者』。

「 バ ン 」

 彼女は眼を開け、王冠へ手を伸ばした。

 ーーチッ、チッ、チッ、チッ、チッ、

 たったそれだけで……チート王冠『ウィナー・ウィナー』は霧散したのだ。

 薄く笑うように鳴り響きながら。『光』と『闇』のエーテルへと分解されていった。

 黄昏か暁のような闇色少女へ、『闇』だけが吸い込まれていった……。

 そうして彼女もまた、タリスマンへと還っていったのだった。

「……ぇぇ……」

 後に訪れたのは静謐なる……いや、ただの静寂。最後の最後で理解不能な業を畳み掛けられ、ハルトは狼狽せざるをえなかった。

 とはいえハルトだって、アリステラのことを言えた義理ではない。

 ……今や誰もが、ただの武器で神業を振るった青年を凝視していたのだから。

「……()()()……」「()()()だ……」「()()()()()()……」

 無数のようにさえ思える眼差しのほとんどは、好ましいものではなさそうだった。

 と、城内に散乱していたドロップ武器たちが次々と消えはじめた。

 牢城を改変していたチートの終焉らしかった。

 しかし。

 第一隊騎士の何人かは、ハルトへ武器を向けたのだ。

「あんた。やっぱりあの時の」「そうだったのね」「俺たちは忘れちゃいないぞ」「そうだ、王女がああ言っていても騙されない」「この……」

「…………そうかよ……」

 いちいち聞く気は無くても耳に入る。気持ち悪い鼓動が治まらない。ハルトは、彼らへ向き直った……。

 ーー レベルアップ! ーー

 ーー ハルト レベル007 ーー

「わあ。レベルアップですハルトさん、おめでとうございます」

「いや、おい、今じゃない……」

 パチパチパチ。大きな袖が視界の端ではためいて、振り向く。

 ……そうしていつものノリになって。気づいたのだ。

「……イエ……」

「……? はい」

 あんなに振り向くのが怖かったのに。いざそうしてしまえば、この最弱乙女はなんにも変わってはいなかった。

 天然に、マイペースに、真白に、ハルトの前でへたりこんでいた。

 ……ハルトはおもわず笑ってしまった。

「……擦りむいたりしてないか?」

「ちょっぴり。でも大丈夫です、《ヒーリング》ならすぐにいたいのいたいのとんでいけ……です」

「そっか。……っとと」

 手を取って立ち上がらせた……が、思っていたよりも心身から力が抜けてしまってハルトもよろめいた。

「ーーほーっはっはっはっはっはぁ!」

「ーーフィーッシュ!」

「っとぉぉ!?」「あうっ」

 そして。空高くから急降下してきた赤銅色のメイドメカに、ハルトもイエもかっさらわれたのだ。

 急速に遠ざかっていく牢城内にハルトが見たのは、騎士と流れ者たちの捕縛劇の始まり……そして、こちらへ手を振る数人の姿だった。

 だがそれも、妖精機シュネーヴィがエーテルバーニアを噴かしたことで見えなくなった。

「おい!? なんでここにいるんだよ!」

「マリーさん、シェリスさん? ……おつかれさまです?」

「はあいおつかれさまあ。遅れてもたがのうベストタイミングね!」

「よっす兄弟ぃ! フェアリーから通知が来たぜぃ見たぜぃー、イエにもやっとこ()()()()できたみてぇだなぃ!」

 鉄腕に抱かれた二人が見上げてみれば。シュネーヴィの肩には、ラバーメイドなミニマムレディ……マリーと、残念王女シェリスがいたのだった。

「自己紹介……? あの、どういうことなのでしょう」

「ああ……察した……」

 誰に訊ねるべきかとキョロキョロするばかりのイエを、いったん、ハルトは手で制した。

「おまえらの中ではぜんぶ計算ずくだったってわけか。おまえらの中では、な」

「ああん? なんでぃその気持ちわりぃ言い方」

「シェリスおまえな、第一隊が苦戦してたのがどんなチートか知ってたか?」

「あいつらが油断しやがんのはいつものこったろぃ。この前なんか壁が見えなくなるチートにハマってカカララ浴場から出れなくなってやんの」

「99人殺すまで死んでも蘇るチートだったぞ」

「なんでぃその地獄!?」

「だからそう言ってるんだよ……ッ! やっぱりよく調べもせずに放り込んだな!?」

「シェリスさあん!? ちぃと逆剥け引っ張るくらいの荒療治だって言ったじゃない!」

「ほはっ……は……は、はは…………てってれー!!」

「大成功みたいな顔すんな!」「ごまかさんの!」

「あの……あの……?」

「ああ、ほんとごめんな……今回はおまえがいちばんの被害者だよな、イエ」

 改めて。ハルトはイエと向き合うのだ。

「二人は発破かけてくれたんだよ。……おまえが来てからもう二週間なのに、俺、言えなかったことがあるんだ」

「……さっきのスキルのことですか?」

 ハルトは「ああ」、自分でも驚くほど怖々と頷いた。

 ただ。続く言葉は、自分でも驚くほど素直に見出だせたのだ。

「俺はウェポンテイカーの……ハルト。どんな武器でも扱える《ウェポンマスタリー》の()()()()()()を持ってるんだ」

 帝国騎士団第七隊のリヒャルト……こと、青年ハルトはイエへ自己紹介したのだ。

「フェピョンテッカー……フェピョンハッタリー……」

「ウェポンテイカーと《ウェポンマスタリー》っ。……って言ってもまあ、スキルレベル3の扱い方がわかるだけで俺自身はぜんぜん強くならないんだけどな。だから武器のほうがもたなくて一撃でぶっ壊れるし……」

「……どうして、ヒミツにしていたのですか?」

「え?」

 ハルトは目を丸くした。

 それは当然の、想定内の疑問のはずだった……のに、

「どうして、って」

「……?」

 イエもまた目を丸くしていたのだ。いつも通りに、天然に、マイペースに。

「……言っただろ、チートっていうのは突然生まれるんだ。それはチートアイテムでも、俺みたいなチートスキル持ちでも同じなんだよ」

「…………?」

 それはあたかも、どうして()()()()()をヒミツにしていたのかと不思議がるように。

「だって……こんなのズルじゃないか。インチキじゃないか。俺は努力したわけでもなんでもなくて……たまたまこういう力を持って生まれただけの、()()()()()()()()()なんだよ」

 どうして、こんなにムキになって説いているのだろう。晒け出すだけでも忌々しいことだったはずなのに。

 変種の魔物がごとく、好奇と忌避を以て見つめられてきたのに。

「おまえだって見ただろ……この力を使わなきゃ、あいつにはきっと勝てなかった。ウェポンテイカーの俺はこの力を使うことしかできないんだよ」

「違います」

 そんな言の葉の数々を。彼女はたった一振りで拭い去った。

「力を使うことしかできない、なんてことはありません。だってハルトさんは……その力を使うことで、私たちを助けてくれたではありませんか」

 真白に包まれた細指がハルトの頬に……「《ヒーリング》」、そして灯火のような慈愛が輝いた。

 そういえばあの大剣で傷ついていたのだろうか。……それとも。

「いや……俺が言ってるのはそういう言葉遊びじゃなくて……」

「いいえ。……いいえ。救いたいもののために『できる』ことをし続けたハルトさんはインチキでもズルでもありません。それはただの力ではなくて、ハルトさんの努力なのです」

 『救えざるもの』に救いを……癒しを。

「あなたはその力を使ってもいいし、使わなくてもいいのです。だってハルトさんは……人間なのですから」

 最弱白魔法師は、真白の乙女は、イエは……笑っていた。

「これからもよろしくお願いいたします、ハルトさん」

「……ああ」

 ハルトは彼女のように綺麗には笑えなかった。

「よろしくな」

 けれども。そうしようと努力することはできたのだ。

「あーっ、あがーでも(ひょっとして)ハルト泣いちゃってる? ね? ね? ねえねえねえ」

「泣くかよ! おまえらに話した時だって泣かなかっただろ!」

「ほはははは! よぉイエ子、改めて我が家にようこそなのだわ」

「はい。私、第七隊が好きです」

 《リターン》。顧問白魔法師が開いた魔法の家路へ、第七隊は飛び込んでいくのだった。

 最強スキルは、最弱白魔法師を守って正しくお使いください。


 続


 △


 ……シェリスの思い出の中で。

「くっ、そ……」

 少年は、ボコボコにされて床に突っ伏していた。

 その手に、シェリスから奪ったもののついに一太刀も振るえなかったシャベルを握りながら。

「ほら見ろぃ」

 ……対してシェリスはもっとボロボロだったが、ふてぶてしく立っていた。

 その手に、拳骨という名の素手を握りながら。

「チートだろうとスキルはスキル……それ以上でもそれ以下でもねぇってんでぃ。おまえは今まで勝ってきたんじゃなくて、ただ()()()()()()()()なのだわ」

「……同じ……こと、だろ……」

 少年は手を付くも、起き上がることすらできない。

「結果だけならそうだろよ。でもおまえ……そんな無難な生き方で心の底から笑えんのかぃ? 死にそうなくれぇ怖くっても、誰かに勝ってやりてぇって思ったことあんのかぃ?」

「いま、思ってるよ……! こんなところで捕まるんじゃなきゃ、おまえに勝つまで鍛え直したいところだっての……!」

「ほーっはっはっはっは! ほざいてろぉぃ、バーカバーカ負け犬ヘタレアンポンターン」

「う、ぐぐぐ」

 どてっ腹にローキック。少年は仰向けにひっくり返ってしまった。

「んじゃ、我が家に来るかぃ? 兄弟」

「は、あ……?」

 そうしてシェリスは。手を差し伸べるのだ。

「帝国騎士団第七隊でぃ。まぁ他の隊の連中にゃ嫌われに嫌われるだろが……おまえが望むなら、おまえの居場所だけはこのシェリスさんが絶対守ってやるのだわ。どうする?」

「……誰が、兄弟、だよ……」

「どーするー? 兄弟ぃ」

 ……いまだ、まだ、少年に()()()ことはあまりにも少ないようで。

「……リヒャルトだ。妙な呼び方しないでくれ」

「ほはは」

 ひっぱたくように掴んできた手は、きっと、誰かの手を取れるだけの熱を秘めていた。


  続

(1話につき4部分構成の短編連作です)

(毎週月曜日、18時頃に更新中です)

(1話完結の翌週……つまり5週間に1回、次話の準備期間として更新にお休みを頂きます。よろしくお願いいたします)


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