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karte.6-3「戦うってことは。怖いんだよ」

【ハルト】……ベルアーデ帝国騎士団第七隊所属、双剣銃を手にイエへ寄り添う青年騎士。18歳。

【イエ】……極東ニフ国の乙女で、大体いつもレベル1なのにチートのような守護精霊の力を使える白魔法師。16歳。

【マリー】……ドワーフのミニマムレディ、妖精機シュネーヴィを操る魔導技師にして第七隊のメイドさん。19歳。

【シェリス】……第七隊隊長、魔法剣ならぬ魔法シャベルを振り回す残念系王女。20歳。

【アリステラ】……イエを守護する自称『闇の精霊』にして、自称『勇者』。自称17歳。


 △


「ーーうーっすガキぃ」

 掘って、崩して、登って。シャベル一本あれば、城内最奥へのショートカットなんてシェリスには造作もない。

 舞い降りたそこは、看守たちの待機所だったのだろう広間だ。

「その剣、シュトレンみたいだなぃー。年末に食うとびきりデケぇやつ」

「…………」

 がらんどうなその片隅に、ボロ外套で目元まで覆った少年が座っていた。

 覇気も無く壁に背を預け、傍らには壊れかけた大剣を置いていた。

「しっかし手入れがなっちゃいねぇなぃ。ボロボロでサビサビでいつ折れてもおかしくねぇのだわ」

「……べつに、俺の剣じゃない」

 シェリスが呑気に近づいていけば、少年の手は剣の柄へと伸びた。俯いたままの呟きは黄金の姫君へ向けられたというより、ただ床に跳ね返って届いただけだった。

「こいつは、そこらの誰かから拾っただけで……」

「バーーカ。武器じゃなくててめえの手入れがなっちゃいねぃっつってんでぃ」

 ……少年が顔を上げた。

 シェリスは足を止めた。

 互いにまだ得物の届かない、微妙な距離感で以て向き合う。

「シェリスさんはベルアーデ帝国騎士団第七隊以下略なのだわ。うちに届いた通報苦情その他諸々を読み上げてやってもいいけどよ、自分でわかってんだろぃ?」

「……ああ。悪かったな、行く先々でみんなを怖がらせて」

「申し開きがありゃあ聞いてやらんでもねぇのだわ」

「無いさ。俺は見てのとおりの流れ者だからな、信用してもらえるとも思ってないし」

「ふーん。たしか最初はギルドのロビーで絡まれて1対5で大立ち回り、その次ゃ1対10、20、50、100……ほはははは、まったく悪名ってもんはぁ広がりやすいもんだわなぁ」

「……よせって、そんな同情は何度も聞かされてきたんだよ。おまえと似たような英雄だのバウンティハンターだのなんとか騎士にさ。べつにおまえだって特別でもなんでもないんだ」

 灰でも被ったように髪まで薄汚れた少年は、逆光を背負ってしまっていた。

「だからおまえにも訊いておく。あいにく首を渡すわけにはいかないんだが、すぐ出ていくからほうっておいてくれないか?」

 と言いながらも、少年の手はすでに大剣の柄を掴んだままで。

「そうはいかねぃのだわ。かかってこいこい、このお人好し軟弱勘違い野郎」

「……そこまで言われたのははじめてだ」

 片膝を起こした彼を、シャベルを構えたシェリスは不敵な笑みとともに見据えるのだ。

 静かな呼吸……高まっていく乱れを必死に潜めた、彼の息遣いを。

「っっっっ……!」

 大剣が、翻った。


 ○


「っっっっおりゃあっ!」

 ハルトは、広場へと続く扉を蹴破った。

「イエっ、こらこらこら! 腰抜かしてる場合か!」

「だだだだってハルトさん、ハルトさん……」

 階段を這って登ってきていたイエを引っ張り上げる……、と、

「ああああああ!」「っあ、あ、ぐるなあああああ!」「あががががががごごごご」

「あうううううっゾゾゾゾンゾンビビビビ」

「ゾンビじゃない! おかしくはなってるがあいつらも救ってやるんだろ!」

 半狂乱の流れ者たちが階段にひしめきあっていたものだから、気持ちはわからなくもない。ハルトは急いで扉を閉め、そばにあった椅子を噛ませた。

(いつからこんなことを続けてるんだ? あんなにおかしくなるくらい……)

 地下室はとりあえずこれで放置しておくしかない、が、問題はここからである。ハルトは広場へ向き直った。

 なにせ真白の乙女を伴った青年は、第一隊騎士たちから否応なしに目立ってしまうのだ。

「貴様! 姫様んとこの……!」「なにしに来たのよ第七隊!」「てめぇがここにいるなんてどういう冗談だ!?」

「応援に来たんだよ! 悪いか!」

「あの、っ、今は喧嘩している場合ではないと思います……! お手伝いできることはありますか……!」

「ラ、ライフポーション!」「エーテルポーションがもう無いのよ! 早く!」「あんた、帝都をぶっ飛ばしかけた最悪白魔法師って聞いたけど!?」「よせよせ! 第七隊でも白魔法師は白魔法師だ!」「お願いですから普通にお仕事してくださいませ、白魔法師様」

「……わかりましたっ、《インベントリ》、《ヒーリング》……!」

 投げつけられる不信の言葉たち、しかしイエはアイテムや回復魔法を投げ渡していくことで応えた。まっすぐ、それこそ愚直なほどに。

 彼女が持つ《ウィッチクラフト》の正体や彼女自身の在り方を、騎士たちは知らない。しかし彼らは、ハルトたちが中心となったこの二週間の騒乱ぶりだけは知っているのだろう。

 だからそれだけで、彼らは異端を叫べるのだ。

(……っ。……ったく、本当にロクな場所じゃない!)

「消えろおおおあああっ、ここから出してくれえええ! ぶっ、べ……!」

 ハルトは流れ者の足に『風』の魔弾を撃ち込み、膝をついたところで蹴り飛ばした。

 自他を見失っている彼らは油断さえしなければ大した敵ではなかった。

 が、殺されては幾度となく彼方で蘇り、また誰彼かまわず挑みかかってくるのだ。

 そう、彼らをいくら抑えたところで解決にはならない。

「イエ、あの王冠を探すぞ! こいつらならもう少し踏ん張ってくれる!」

「は、はい……!」

 イエのケアが騎士たちへ行き届いたのを見てとると、ハルトは彼女の肩を叩いた。城内への間口を見据える……。

 そこから、一際大柄な流れ者が吹き飛ばされた。

(な、ッ……)

 王冠を戴いていた、あの斧持ちの流れ者だ。

 しかしその頭上に王冠は無く、その手に斧も無かった。

 それどころか、腰から下も無かった。

 ーー 《断罪のクロス》 ーー

 追って城内から飛び出してきた影が、追い抜きざまに流れ者へ得物を振るった。

 切り分けられたカケラたちが、武器溜まりに散らばる先から光へほどけていった

 消失していったそれらへ見向きもせず、影は、広場の中心へ着地した。

 ……その頭上で、『98』の刻印が揺らめき。

 ()()が、鞭のように翻った。

「っっ、伏せろ……!!」

「あぅっ」

 ハルトがイエに覆い被さりながら腹這いになった、

 直後、

 ーー 《破邪のスネークアイズ》 ーー

 騎士も流れ者も、追尾するその回転斬りに両断されていった。

 悲鳴。悲鳴。悲鳴、悲鳴、悲鳴悲鳴悲鳴断末魔断末魔断末魔断末魔断末魔断末魔絶命絶命絶命絶命絶命消失消失消失消失消失消失……。

「う、っ……」

 ハルトは吐き気を感じずにはいられなかった。それはイエも同じようで、呆然とした彼女はなかなか立ち上がってくれなかった。

 広場の中心には。彼がいた。

「…………」 ーー B ロルは困った。あの白魔法師さんがどうしてここにいるのかわからなかったし、避けてほしくなかった ーー

「おまえ……! いったいどういうつもりだよ!!」

「あの剣士さん……?」

 ロワイヤル・ロルと名乗った、あの大剣騎士の少年だ。

「…………」 ーー C ロルは疲れた。このチートを処理するために仕事をしているのに、どうしてこんな最底辺騎士にも怒鳴られないといけないのだろう ーー

 彼の頭上には、あのチート王冠『ウィナー・ウィナー』があった……。

 刻印が揺らめき、『98』から『52』へとシフトされた。

「仕事だって……!? 仲間ごと斬り殺してなにがどうなるっていうんだ!」

「…………」 ーー A ロルは呆れた。みんなはすぐに復活するのだし問題無い、ひょっとしてこの王冠のルールすら分かっていないのだろうか ーー

 と、広場の端々で光が立ち上った。

 彼の言うとおり、騎士や流れ者たちが復活したのだ。

 あまりにも突然に斬り倒されたからか、少しは我に返ったらしい流れ者たちは呆けているばかりだった。

 だが、騎士たちはそうもいかない。

「ロル! 俺たちは味方だぞ!」「どうして攻撃した……!」「いくらレアスキル持ちだからって!」「新入り! 身の程を弁えなさい!」

 彼らはロルへ武器を向けた。

 ーー レベル84 飛燕大剣スパロード ーー

「…………」 ーー A ロルは落ち着いてほしかった。あと52人倒せばこの王冠は消滅するのだから、この中でいちばん強い自分に任せてほしかった ーー

 ……騎士たちの誰もが歯噛みしていた。個性豊かなユニーク装備を携える彼らだが、たしかにロルの大剣は一際の威光を放っているようだった。

 ーー 剣術 レベル2(達人級) ーー

 ーー レベル71 ロル ーー

 それにどうやら、他よりも経験値は豊富のようだ。

「…………」 ーー B ロルは提案した。そんなに腹が立つのなら、みんなの代わりにあと52回死んでくれないかと第七隊の男に伝える ーー

「なんだって……? そんなのがソイツの破壊方法だっていうのか。どうしておまえにわかるんだよ」

「…………」 ーー A ロルはわかっていた。この王冠を奪った瞬間にそのルールがわかったのだ。つまり……死なずに99人を倒せば()()()()()()()()なのだと ーー

 轟音。

 ーー 《マグァナトロン》 ーー

 第一隊騎士の一人が熱線魔法を撃ち、ロルの頭上の王冠へぶち当てたのだ。

 元素レベルで対象を高速振動及び融解させる、光属性の上級魔法が城の内壁を穿った……。

 だが、

 ……王冠には傷一つ付いていなかったのだ。

「…………」 ーー A ロルは証明した。見てのとおり普通の方法では破壊できないのに、考え無しにただ奪い合うのは間違っている ーー

 現王者は、かく語る。

「…………」 ーー A ロルは決心していた。つまり最強の自分に委ね、みんなが我慢して殺されてくれればすぐに終わる。それが正しいクリア方法なのだ。 ーー

「……いいえ。あなたは正しくありません」

 だが。

 自称最強の者へ真っ向から向き合ったのは、最弱の彼女だった。

「そのチートがどれだけ理を歪めていても。一人の人間として『できる』ことを捨てたあなたは、なにも正しくありません。ただ()()()()()()()()()です」

「イエ……」

 イエはローブの胸元を握りながら、必死に向き合っていたのだ。

「チートの力に依りかかったあなたは。ここにいる誰よりも死人のようです」

 そして……、

「…………」 ーー C ロルはかまわなかった。それで勝てるのなら、チートを使って何が悪い ーー

 ーー 《宿木のスティングレイ》 ーー

 手と柄を魔力の蔓で繋いだ大剣が、イエへと投擲された。

(う……!!)

「ぁ、っ……」

 まったくもって無防備。目を丸くする他なかったイエよりほんの数瞬だけ先に、ハルトは反応できた。

 凍りつくかのような恐怖が、世界をスローに軋ませる。

(イエ……!)

 どうすればいい。

 どうもこうもない、助けなければ。

 それはわかっていた。

 だがハルトの頭の中には、打算めいたものが瞬いていた。

 騎士や流れ者が蘇った光景が、後ろ楯のようにチラついていた。

 だから。

 しかし。

 彼女の前に躍り出るも、ハルトに『できる』ことはこの身を以て『庇う』ことしかなくて……。

「…………」 ーー A ロルは、楽しかった ーー

 その声を聞いていなければ、きっと、ハルトは()()のままだっただろう。

「ッッ……!!」

 ーー「乾杯です。これからもよろしくお願いいたします、ハルトさん」

 彼女を見つけ、そして、彼女に見つけてもらえなければ……、

 怖くても前へと歩み出す勇気を、この心に見出だすことはできなかった。

「……《ウェポンマスタリー》!!」

 ただ負けないためではなく。勝つために。

 双剣銃を握り込んだハルトの腕に、陽光のごとき輝きが迸った。

 刹那、

 二重、十重、百重もの剣戟音。

 ハルトとイエを串刺しにしかけた大剣が、破片を散らして跳ね返った。

「…………!?」 ーー A ロルは混乱した ーー

「黙るなら黙っとけよ」

 ……双剣銃が負荷に耐えきれずバラバラになり、《イークイップ》の副効果によって次元の狭間へ回収されていった。

 ーー シークレットモード 解除 ーー

「『楽しい』だって? ふざけるな」

「ハルト……さん……?」

 ーー 双剣術 レベル3(()()) ーー

 ハルトは。イエのかたえに立ちながら、足元の武器溜まりを蹴り上げた。

「戦うってことは。怖いんだよ」

 跳ね上がった武器たちの中から、適当に掴み取る。

 それはマジックユーザー用の錫杖だった。

 だが、関係無かった。

 ーー 杖術 レベル3(神級) ーー

「イエ。今だけは、俺のそばから離れないでくれな」

 振り向くことも、答えを待つこともできなかった。

 ーー レベル006 ()()()()()()()() ハルト ーー

 ーー チートスキル 《ウェポンマスタリー》 ーー

 ーー チート! チート! チート! ーー 

 再び翔んできた刃こぼれ大剣へ、ハルトは一歩踏み出した。

(1話につき4部分構成の短編連作です)

(毎週月曜日、18時頃に更新中です)

(1話完結の翌週……つまり5週間に1回、次話の準備期間として更新にお休みを頂きます。よろしくお願いいたします)


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