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karte.6-2「『救えざるもの』ーー『チート』なんだよ」

【ハルト】……ベルアーデ帝国騎士団第七隊所属、双剣銃を手にイエへ寄り添う青年騎士。18歳。

【イエ】……極東ニフ国の乙女で、大体いつもレベル1なのにチートのような守護精霊の力を使える白魔法師。16歳。

【マリー】……ドワーフのミニマムレディ、妖精機シュネーヴィを操る魔導技師にして第七隊のメイドさん。19歳。

【シェリス】……第七隊隊長、魔法剣ならぬ魔法シャベルを振り回す残念系王女。20歳。

【アリステラ】……イエを守護する自称『闇の精霊』にして、自称『勇者』。自称17歳。


 △


 ニテ牢城は、かつてソルトエーデル地域を治めていた貴族が刑場として用いていた場所だ。

 干からびかけた崖ばかりが目立つ荒地のそのまた辺境にて、ベルアーデの建国と同時期に放棄されてからずっと取り壊されることもなく風化していた。

 かつては帝国の実力主義に追われた没落貴族たちの巣窟となり、今や流れ者たちの坩堝となっている。

 そして今も昔も、無法者どもを一網打尽にするネズミ捕りとして活用されているのだ。

 孤独は無知を誘い、愚かにもここに流れ着く者は後を断たない。

「うーっすおまえたち。おいおい、騎士と盗賊が仲良く雨宿りたぁなぁ」

「あ、あ……あ……」「ぐぐ……イテェ、ッ、ぐ、ぅぅ……」

 半開きの裏門の前でシェリスが見つけたのは、打ち傷だらけで倒れている第一隊騎士と盗賊だった。

 城郭内から逃げ出してきた様子で、その数は十人以上。

「ま、後はこのシェリスさんにまかせやがれぃ。……()()は中にいるのだわ?」

 いちばん近くに倒れていた騎士が、ハッと身を震わせた。

 それはシェリスの言葉を聞いてというよりも……、

 裏門の向こうから漏れ出てきた、重々しい剣戟音の連続に反応したのかもしれない。

「ヒッ……くそ、くそぉぉ……! あんな、バケ、モノ……()()()のくせにッッ……アイツ、アイツ……ヒィィィィィッ、ッビャッッ」

「あいよーご苦労さん。とりあえず寝れぃ」

 得物の金剛円匙シャーフェス・エス・エスツェット……ダイヤ色のシャベルで後頭部を殴ってやると、くの字に泡を吹いていた騎士は気絶した。

「……ほはははは」

 笑みは不敵にふてぶてしく。足早に、シェリスは裏門の向こうへ踏み込んだ……。


 ○ 


「な、ッ……?」

「これは……」

 《ファストトラベル》の書で近隣の街道に降り立ち、歩いてくること数十分。ハルトとイエはニテ牢城の壊れた正門前で立ち尽くしてしまった。

 牢城はあまり大きなものではない。中央に吹き抜けの広場があり、そこから見渡せるようにーーそして逆に刑場広場が見えるようにーー監房が並んでいる。簡易的なパノプティコン(一望監視施設)の様相だ。

 そしてその広場にて……、

 多数の騎士と流れ者が、殺しあっていた。

「いいかげんにしてくれ!」「ま、まだ終わらないの!?」「はぁ、っ、はぁっっ」「どうなってるんだ……!」「中の状況は誰かわからないのか!」

 疲労、焦燥、混乱。マントを羽織った彼らはまさしく第一隊の騎士で。

 対して、戦っているのはクズ鉄やボロを纏った流れ者には違いなかったのだが……、

「あ……あ、ああああ………」「敵……敵、敵、もっとだ……」「90……90……」「どこだどこだどこだあいつあいつアレはアレは」「オオオオオオ!」

 自失、妄執、混乱。彼らは皆、心が擦りきれてしまったかのように虚ろだった。

「止まれぇ!」「ゥゥゥ!」

 相討ち。一人の騎士と流れ者とが、互いを撫で斬りにしあった。

「っ……! どうしてこんな……っ」

「イエっ、ちょっと待て!」

 回復魔法ヒーリングだろう。声ならざる詠唱でエーテルを手元に集めたイエを、ハルトは引き寄せて止めた。

「見てみろ、アレ……」

「っ……?」

 大扉が失われた正門には瓦礫が積まれていて、その陰から広場を詳らかに覗く。

「か、っ……」「グヘ、ヘ……」

 相討ちになった騎士と流れ者から、真っ赤な流れが飛び散った。

 だが、二人とも一切の傷は無かった。

 それはそうだ。互いに流れ出た赤色さえ、鮮血ではなくただ()()()()()()()だったのだから。

 まるで魔法仕掛けの舞台劇のようだった。

 ただし、どちらも絶命の形相とともに()()()()()()のだ。

 それぞれが持っていた武器だけがその場に落ち、鳴り響いた。

「ーーっ、は! はぁ、はぁっ……!」「ウゥゥゥァァァァ!」

 そして広場の端々で、騎士も流れ者も光とともに()()したのだ。

 五体満足で。落とした武器とまったく同じものを携えて。

 同じ光景がいたるところで起こっていた。

 だから。城郭内には、おびただしい数の武器と地獄が転がっていたのだ。

蘇生魔法リーイング……? い、いいえ、あれはいったい……」

 たとえ魔法を用いても、『蘇生』とはあくまでも『生死の境目にある命を蘇らせる』すべ。けっして『死した命を生き返らせる』ものではない。

 少なくともこんな、茶番劇のような殺し合いは有り得ない。

「いたぞ! 王冠持ちだ!」

 誰かがそう叫べば、皆の注目がこぞって一点へ集まった。

「あと76、いける、いけ、いけいけいけいけヒヒヒヒ……!」

 かつて看守たちの待機所だったのだろう奥の城内を、一際大柄な流れ者が斧を引きずっていた。

 その頭上に、ボウルのような王冠が浮いていた。

 『76』の揺らめく刻印とともに。

 ーー レベル212 ウィナー・ウィナー ーー

 ーー 警告! 警告! ーー

 ーー チートを検出! ーー

 ーー チート! チート! チート! ーー

「……っ! 間違いない、()()()()()()()だ……!」

 フェアリーが読み取ったあの異物は、文字通りの桁違いなレベルを有していた。

「……ごめんなさいハルトさん。名前だけは聞いたことあるような無いような、()()()ってなんですか?」

「は? はああ!? おまえなあ世間知らずにも程が……」

「そこ……だ、だ、が、誰だ……!」「敵、敵、敵、助け、助け……」

 しまった、瓦礫のすぐ向こうを彷徨っていた流れ者たちに気づかれた。

「ってヤバいヤバいヤバい、っ、こっちだ……!」

「あぅっ」

 またもイエの手を引き、ハルトは外壁沿いに走り出した。

 ただ。一度振り返って見ても、流れ者たちは飛び出して来てはいなかった。

「人、人、誰でも、いいぃぃ……!」「たた、助け助け助け助け、て……!」

(なん、だ……っ?)

 瓦礫の向こうに垣間見えたのは。せいぜい人の背丈ほどしかないそのバリケード越しに、ジタバタと右往左往しているだけの姿だった。

 だからそれさえも見えなくなると、ハルトは駆け足をやめた。

「……まあ、こんな仕事でもなきゃそうそう関わるものでもないか。そのほうが幸せだよな」

「……?」

「チートっていうのはな。どんな生き物やアイテムだって最高でもレベル99が限界なんだが、そのルールを超えてしまった……そう、バケモノなんだ」

 イエの手は離してやったが付いてくるように促して、砂埃にまみれた外壁を見回していく……。

「……私が《ウィッチクラフト》で作るアイテムとは違うのですか?」

「おまえのはレベル99のアイテムだろ。どんなにトンデモなモノだって、魔法でもなんでも説明がつけられる範疇だ。だけどそこから1レベルでも超えたチートは、この世の理を無視した能力を持ってるんだ」

 たとえば。あの騎士と流れ者たちが絶命と復活を繰り返していたように。

「……どんな魔法を使っても、あんなふうに人が蘇ることはありえません」

「ああ、あのドンブリみたいな王冠の能力だろうな。城内一帯が影響下にあるんだと思う」

「でも、どうしてそんなものがここに」

「そこがいちばん厄介なんだよ。……チートっていうのは突然出てくるんだ」

「突然……? それでは説明がつきません」

「だから言っただろ、そういうものなんだ。アイテムでも魔物でも人間でも、気づいたらもうそのチカラを持ってて、何もかもねじ曲げる。存在からして『救えざるもの』ーー『チート』なんだよ」

 ハルトは振り向いた。

「説明がつけられるヤツがいるとしたら。創造神か創世の聖女ぐらいだろうさ」

 ……そして、ハッとしてしまった。

「……ハルトさん?」

 イエが、息詰まった様子で見つめてきていたからだ。

 黒曜の深い瞳に映った青年騎士は、睨むような面持ちを浮かべてしまっていた。

 ハルトはすぐに、まっすぐすぎる眼差しから顔を背けた。

「い、いや……とにかく、チートアイテムの場合は破壊すれば解決する。イエ、中に入ったら俺たちも汚染を受けるはずだがそれでも来るか?」

「はい。怖いですけど、あの人たちをほうっておけませんから。ここここ怖いですけど」

「……だろうな。立てるか?」

 膝が笑いすぎて正座してしまった彼女を立たせた。

「ったくシェリスのやつ、弱音吐くわけじゃないがこういう時こそ参加しろよ……」

 クエスト内容をよく聞かずに安請け合い、かつ二人へ丸投げしたのだろうか。帝王直筆の依頼だというのに……。

「大丈夫ですハルトさん、少なくとも私はそばにいます。……あ、それとお姉さんも」

「夢見る守護精霊もチートが相手じゃどうだかな」

 ーー 《イークイップ》 ーー

 ーー レベル6 双剣銃パラレラム ーー

 胸元から闇色タリスマンをチラ見せしてみせたイエだったが。ハルトは次元の狭間から一対の得物を掴み取ると、外壁の一ヶ所を改めていた。

 間近の崖から落石があったらしく、地面と外壁の境目が穿たれていた。

 ……石材を除けると、地下へと繋がる穴を見出だした。

 二人はその暗がりへと滑り降りた……、

 と、

(うぐ、鉄臭いな……)

 そこは、正体を想像したくもない錆に満ちた地下室だった。等間隔に並んだ支柱が墓標を連想させる。

 そして物陰から、いくつかの影が立ち上がった。

「ひぃ、ひっ」「…………」「あああ……」「もうやめ、やめてくれ……」

 きっとここに逃げ込んできたか、あるいは閉じ込められたか。……広場にいた者よりいっそう亡者じみた流れ者たちが、ハルトとイエへ武器を構えた。

「って……やっぱ一時撤退……!」

「賛成します……!」

 二人は穴への瓦礫を登る……、

「「…………?」」

 ……つもりだった、が。

 その坂の前でただ立ち尽くしてしまった。

「……ハルトさん。おかしなことを言ってしまうのですが、()()()()()()()()()()()()()()

「だろうな。俺もなんだ」

 それが障害物だと認識してしまった途端、()()()()()()()としか体が応えなかったのだ。

 ーーチ、チ、チ、チ、チ

(うっ……)

 からかうような耳鳴りに、二人とも顔をしかめる。

 と同時に、一つのイメージがハルトの意識によぎった。

 それは極光の中の笑み……、

 日食のように薄く笑う口元。

「ああくそ! これもチートのうちかよ!」

 その正体は誰も知らずとも、これが()()()()()()()()()()()であることは誰もが知っていた。

「イエ! 防御重視でバフ頼む!」

「わかりましたっ、《ディフェ・ブースト》……!」

「いくぞ! 強行突破だ!」

 ーー 支援魔法 レベル1(職人級) ーー

 ーー ステータスアップ! ーー

 ーー ハルト DEF:C- → DEF:B- ーー

 ーー 効果時間 残り:20秒 ーー

 いつからここに閉じ込められているのかもわからない亡者たちへ、刃と銃口を突きつけた……。

(1話につき4部分構成の短編連作です)

(毎週月曜日、18時頃に更新中です)

(1話完結の翌週……つまり5週間に1回、次話の準備期間として更新にお休みを頂きます。よろしくお願いいたします)


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