karte.5-4「おまえにできるのはスキルだけじゃないってこと」
【ハルト】……ベルアーデ帝国騎士団第七隊所属、双剣銃を手にイエへ寄り添う青年騎士。18歳。
【イエ】……極東ニフ国の乙女で、大体いつもレベル1なのにチートのような守護精霊の力を使える白魔法師。16歳。
【マリー】……ドワーフのミニマムレディ、妖精機シュネーヴィを操る魔導技師にして第七隊のメイドさん。19歳。
【シェリス】……第七隊隊長、魔法剣ならぬ魔法シャベルを振り回す残念系王女。20歳。
【アリステラ】……イエを守護する自称『闇の精霊』にして、自称『勇者』。自称17歳。
「薬も過ぎれば毒となり、毒も薄めれば薬となります。両方扱えてこその白魔法師なのです……《インベントリ》、っ、『ナーバス・トキシック』……!」
次元の狭間から排出された香炉を掲げて「あぅっ」、……顔面から転びながらもヤブリュートへ投げつけた。
途端。着火されたその中から、燻煙が噴き出しはじめた。
「でゃーーーーーー!?」
「あっ」
「シェリィィィィス!?」
「シェリスさぁぁぁぁん!?」
乙女の弱々な肩では飛距離が足りず、香炉はシェリスの鼻っ柱に激突。砕けると同時、爆発じみた燻煙がヤブリュートもろとも舐め取ったのだった。
ーーヴァヴァヴァヴァヴァヴァ
「だだだだだだだだ」
ーー 状態変化 『麻痺』! ーー
ーー 状態変化 『毒』! ーー
オスのリュートたちは慌てて散っていった。が、地に落ちた巨大リュートもぶっ倒れたシェリスも、ピーーンと麻痺に張りつめたまま毒に悶えた。
「だ、大丈夫です……! この神経毒は、はじめてのピアノの発表会なのに緊張で泣き出してしまったお子さんぐらいの強さですから……!」
「ソレどれくらいの強さだよ!?」
「……殺虫剤くらい……?」
「いや虫じゃないしな!? てかあれだけモロに吸ったら人でも死ぬ死ぬ!」
「あっ」
イエが声をあげたのはハルトにツッコまれたからではたぶんなくて、
ーーファーヴァァァン♪
燻煙から逃げ、再集結したリュートたちのなかにまたも巨大リュートが復活したからだ。
そうしてイエの頭上に飛んできた。
「あ、わ、わ、わ、わ……! ででで《デトキシング》、《アキュパンクチャリング》……!」
「ふぁがっ。おいこらイエ子ォォォォッ、もっと肩鍛えやがれってんでぃ肩をぉ!」
「ごめんなさい……! 《ヒーリング》……!」
(まあ、あんだけ転げ回ってても治療はこなすあたりさすが白魔法師だよ)
ーー レベルアップ! ーー
ーー レベル2 イエ ーー
解毒魔法、鍼灸魔法、回復魔法。わちゃわちゃと踊り狂うイエの頭上でヤブリュートは煩かったが、本当にただそれだけの嫌がらせモンスターのようだ。
しっかりとオドエーテルが……経験値がイエに入ったのを見るに、幻影の類いではなく確かに倒せてはいるようなのだが……。
彼女に駆け寄りながら、ハルトはシェリスが踏み割った巨大リュートの遺骸を一瞥した。
(殺虫剤程度の毒でも倒せるなんて……。復活能力の代償ってことか? 取り巻きのオスのほうがよっぽどうまく避けてたぞ)
倒すだけならきっと簡単だ。しかし復活させないためにはどうすればいいのか。
ーー 《イークイップ》 ーー
ーー レベル6 双剣銃パラレラム ーー
「イエ、止まれ止まれ! 今度は俺が……」
「まって! 次はわしがいったるけん!」
二丁剣銃を構えたハルトだったが、二人の前にマリーが滑り込んだ。
「ハイホォォォォッッ、シュネーヴィ!」
ーー 《イークイップ》 ーー
ーー レベル26 妖精機シュネーヴィ ーー
『ガガガッ!』
全長約2.5メートル、赤銅色の鉄巨人が彼女の傍らに飛び出した。
魔導技師マリーの写し身たる鋼のメイドメカ。内部に搭乗した七体のフェアリーが駆る、妖精機シュネーヴィだ。
「不死身の仕組みは周りのオスにあるとみたわ! ぶちかましたらあ!」
『プシュルルウ!』
マリーの指差しとともにシュネーヴィが跳びかかったものだから、駆けていたハルトもイエもギョッと急停止した。
「ズィーヴェンツヴェルク(七妖精):ファーズアイン(Phase1)!」
瞬間、
シュネーヴィは、七つのパーツに分離した。
ーー ……ドック ーー
ーー グランピーッ! ーー
ーー ハッピ~ ーー
ーー スリーピー…… ーー
ーー バ、バッシュフル ーー
ーー スニージー、っ、くしゅん! ーー
ーー ドーピー? ーー
頭、胸、腹、右腕、左腕、右脚、左脚。それぞれがエーテルバーニアで飛び交い、それぞれにフェアリーたちが搭乗していた。
「おどりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃああああああ!」
ーーヴァヴッッ!?
七つの全身で、ラッシュ、ラッシュ、ラッシュ。
パンチ、キック、頭突き、タックル。
オスもメスも別無く、捉えたさきから次々と打ち壊していったのだ。
しかもその一打ごとに、各パーツに格納されていた林檎型小盾ビット『アプフェルビッシェン』が散弾よろしくぶっ放されるものだから。制圧力は相当のものだった。
かくて、巨大リュートはバラバラどころか粉微塵。
オスのリュートたちも、五、四、三、と加速度的に数を減らしていって……。
「みんなまとめて倒しとーならぁ、復活もなにもできんけぇのっ……!」
ーーファァァァァァファファファヴァァァァァ♪
どこからともなく飛んできた原種のユスリュートたちが、生き残りたちに合流した。
その色が黒檀へと変じるやいなや、またまたエーテルの煙を巻いた。
ーーヴォォォアッアッアッァァァァ♪
「えええ!? 仲間を呼んだあ!?」
(っ? いまの……)
巨大リュート、またまた復活。
「そがーわやくちゃなあ! もっと早く倒しきらないとダメってこと!?」
ーーヴァンヴァヴァヴァンヴァンヴァヴアン♪
「ぴっ!? シュ、シュネーヴィ~~!」
『ガガンプシュン』
やはりヤブリュートの標的がマリーへ移った。シュネーヴィが再び合体してみせると、レディメイドはそのどてっ腹によじよじと飛び込んだ。
「た、助けてえ~。わし、こん子の中でジッとしちょるけんん」
『プッシュルル』
……合体完了したメイドメカは、三角座りで耳を覆っていたのだった。
「にゃろめぃっ、要は一気に倒しゃぁいいのだわ!? だいたい一人ずつ対決するってぇのが間違ってるってんでぃ!」
「そういう流れに持っていったのは姫様だと思ォうのですがァ」
「くだらねぇこと言ってねぃでおまえたちも協力するのだわ! 一斉攻撃、よーーーーーーい!」
「「「「「「おーーーーーーう!」」」」」」
シェリス王女の号令一下、村人たちは浄化器や石やはたまた己のアート作品を身構えて……。
「ま、まった! ……俺に考えがある!」
このままでは巻き添えを食らいそうだったからでもあるのだが、ハルトは両腕を振って呼び掛けた。
「考えぇ? ……おっ、そういやまだあいつがいたのだわ! おーいイエーーっ、ネエちゃんの出番だぜぃ!」
「了解です。《ウィッチク……」
「違うって! 《ウィッチクラフト》はナシ!」
ローブからタリスマンを引き出そうとしたイエを、ハルトは止めたのだ。
「……? でもハルトさん……」
「いいから。おまえにできるのはスキル(おまじない)だけじゃないってこと、教えてやるよ」
イエは、桜髪を揺らすばかりだった。
「あぁん? おぉい兄弟っ、なぁにゴチャゴチャ言ってやんのだわぁー?」
「まあ見てろって! ……俺も少しだけ、俺にできることをやってみるからさ!」
シェリスも大げさなほど首を傾げていて……、しかし、ややあってニッと笑い返してみせたのだ。
「あいよ! やってみろぃ!」
頷いたハルトは、双剣銃のうち一丁をホルスターへ収納した。
「イエ。《エコー》と《ターゲット》だっけか、あの魔法はすぐに使えるか」
「はい、問題ありません……けど、どういうことでしょう」
「ユスリュートの群体にはメスが一体だけいて、そいつだけが歌を歌う。その生態が変種でも変わらないんだとしたら、さっきマリーが攻撃した時におかしなことがあったんだ」
ヤブリュート……特に巨大リュートへ銃口を向ける。手首の下に空の左手を添え、手ブレを安定させる。
「デカブツはシュネーヴィが木っ端微塵にした。……じゃあ、復活する前に歌で仲間を呼んだのは誰なんだ?」
「……!」
さしもの天然危険物な彼女も、気づいたようだ。
「……やってみますっ。私にもできる気がします……!」
「その意気だ!」
「《エコー》……!」
イエが五指を翻せば、指先から放たれた可視の音波がヤブリュートに響いた。
巨大リュートへも、無数の取り巻きへも。全ての個体へ振りまかれた反響……その全てを彼女は読んでいた。
「……いました! 《ターゲット》……!」
そして指差せば。
オスリュートたちの中の一体に、魔力の印が灯ったのだ。
演奏していた巨大リュートではなく、
ーーヴァッ……?
オスリュートたちの中に潜んでいた、歌うリュートに。
「わかった……!」
だが、相手は竜巻の中のたった一体。
だが。ハルトにもできることはあった。
ーーキィィン……
パラレラムの魔導機関にチャージを。
ハルトの腕からパラレラムへ、輝きを。
「ごめんな!!」
ーー シークレットモード ーー
ーー レベル■■■ ■■■■■■■■ ハルト ーー
ーー ■■■スキル 《■■■■■■■■》 ーー
ーー ■■■! ■■■! ■■■! ーー
トリガー。
放たれた『水』の魔弾は、細剣がごとく鋭かった。
双剣銃パラレラムが耐えきれずに吹き飛び、装備魔法の副次効果によって次元の狭間へ回収されていって。
そして。
ーーヴァッッッッ……ァゥァァァァン!
真のメスリュートを、完全無比に狙撃したのだ。
ーーベンッッ、ボ、ロロロ……
そうして、偽のメスリュート……ただ巨大なだけのオスリュートもろとも、全て墜落したのだった。
……打って変わって、静寂。
「……ふう。あのデカブツは歌姫を守る擬態……つまりまあ、女装だったってわぶるべっ」
「バンザーーイ……あ、ごめんなさいハルトさん」
振り上げられた乙女の袖が、青年の顔面にうっちゃられるとともに。やんややんやと、歓声と拍手が鳴り上がったのだった。
○
「《ウィッチクラフト》」
ーー レベルダウン! ーー
ーー レベル1 イエ ーー
イエのローブの内でタリスマンが経験値を食み、
ポンッ、と、彼女の目の前にアイテムがクラフトされた。
「やりました。欲しいものが出せるようになってきた……かもしれないです、たぶん、ひょっとしたら、きっと」
ーー レベル99 キングスパイザー ーー
食卓に座った彼女の手に、蜘蛛型の悪趣味な容器が握られた。
……その尻からペースト状のスパイスが噴射され、食卓に盛られたユスリュートのからあげへ振り掛けられた。
「…………おまえさ。貯金できないタイプだろ」
「貯めるお金があるくらいなら、誰かのために使ったほうがいいと思います」
「エラい! そのとおりなのだわ!」
「あらあら。せっかくレベル2で帰ってきたんに、また1からねえ」
まったくだ、とハルトは椅子に背を預けた。
七番館、ロビー。ヤブリュート討伐クエストから帰還し、ゆるゆるな晩餐が催されていた。
「いや……まあ、1からってほどでもないんじゃないか。たしかにレベルは下がったが、イエも少しは自信ついたはずだし。……だろ?」
「ハッ……ごめんなさい、からあげにはレモン派の方がいらっしゃることを失念していました」
「おまえな」
「でも美味しいですよ。塩コショウ味に近いです」
「はいはい。俺はべつに何もかけなくていい派だけどな」
差し出されたからあげを、ハルトはアーンして食べさせてもらう……わけもなく、フォークごと受け取った。
「……ありがとな」
「はい。どういたしまして」
レベルが低くても、特別なスキルがあってもなくても、自分にできることをやり続ける。そんな彼女が強くなる日は近いのだか遠いのだか。
「何にでも合う万能の香辛料よ。……もっともスパイスはあくまでもスパイス、きみは使ってもいいし使わなくてもいいわ」
出る幕も無かった語り部がそうしているだろうように、ハルトは肩をすくめてみせるのだった。
続
(1話につき4部分構成の短編連作です)
(毎週月曜日、18時頃に更新中です)
(1話完結の翌週……つまり5週間に1回、次話の準備期間として更新にお休みを頂きます。よろしくお願いいたします)




