karte.5-3「第七隊の栄光のためにっっ」
【ハルト】……ベルアーデ帝国騎士団第七隊所属、双剣銃を手にイエへ寄り添う青年騎士。18歳。
【イエ】……極東ニフ国の乙女で、大体いつもレベル1なのにチートのような守護精霊の力を使える白魔法師。16歳。
【マリー】……ドワーフのミニマムレディ、妖精機シュネーヴィを操る魔導技師にして第七隊のメイドさん。19歳。
【シェリス】……第七隊隊長、魔法剣ならぬ魔法シャベルを振り回す残念系王女。20歳。
【アリステラ】……イエを守護する自称『闇の精霊』にして、自称『勇者』。自称17歳。
「琵琶の魔物、ですか?」
「厳密にはリュート(洋琵琶)じゃね。繁殖期に集まったオスたちが演奏会でメスを招待するの。それが成功すると、彼らはたった一体だけの歌姫をコアにした群体生命体になるわ」
ーーラ~リラリリャ~
ーーリリラル!
ーールルルンッ
リュートの音色に混じり、それぞれの群体の中には女声があった。とはいえ木の洞に風が鳴るようにくぐもった歌声だったが。
「ほら、あの歌声。見た感じ……もとい聞いた感じ、どの柱ももうメスと一緒になってるみたいねえ。卵を産み付けえよる準備万端じゃ」
「卵……! 大変です、村が魔物の巣になってしまいます……っ」
「ううん、そりゃあらんあらん。ユスリュートは川の中にしか産卵しないし、仮にここで繁殖したとしても人間は襲わない魔物だし」
「……? そうなのですか?」
きょとんとしたイエだったが、マリーをはじめハルトもシェリスも頷いた。
「大気中のマナエーテルを食べよる子ぉらじゃけん。強いて被害を挙げれば……気づいたら頭の上にいたりしてわりとビックリすることとか」
「なァにを仰るゥウナギさんッ!」
「うにゃぎ!?」
(そんなゴムメイド服着てるとわからないでもない)
赤銅色のラバーメイドは、泉海魚呼ばわりされたのと村長の剣幕にのけ反った。
「一目瞭然でございましョ! きゃつらのあの演奏……それこそが害なのであァりますゥ!」
家々の屋根で楽しげに逆巻く柱たちが、薙がれるようにツルハシで示される。
竜巻のような群体ではあったが、真下にでもいなければかすかにしか聞こえない音量のプチ演奏会たちだ。
そう。真下に住まう住人たちが、次々とドアをぶち開けた。
「うるっせぇぇぇぇ!」「集中できないじゃないのよ!」「いまノッてたのによぅ!」「インスピレーションを返せぇい!」
絵の具でずぶ濡れの画家、脇に巨大カスタネットを挟んだ演奏家、体の左右でピエロとクラウンに分かれた大道芸人、公然に絶対出してはいけないモノを木彫りで製作途中の彫刻家。などなど。
彼らは家の脇に備えられていた一抱えの赤い筒を取ると。屋根のユスリュートたちへノズル付きのホースを向ける……、
「「「「ヒャッハァァァァ!」」」」
睡眠不足の血走った目とテンションで、その『浄化器』から火炎を放射した。
「ゥおおおおい! やめんか皆のォ衆!」
「やめられませんよ村長!」「仕事でしょ! 後片付けよろしく!」「浄化器の追加発注も!」「こぉんの騒音モンスターどもめぇぇ!」
ーービンッ
ーーボロロロ
ーーゲホッゲホッ
炎がユスリュートを舐め取り、あっという間に消し炭にしていった。
それでも全てを燃やし尽くすことはできず、散り散りになった生き残りたちはアウター川のほうへと逃げ帰っていく。
ーーラ、ア、ァ…………
ただし。演奏ではなく歌声を響かせていたメスのリュートが燃えてしまうと、その一群は糸が切れたように全て倒れていったのだった。
……そうして後には、装飾が焼け落ちた家屋ばかりが量産されていった。
「うぎゃあぁぁぁぁぬゥ! わたしの作品たちがまァァた焼けていくゥ! 修復作業も楽じゃあないんだァぞンッ!?」
「あんたがデザイナーかよ」
「つまり……魔物たちがうるさいからなんとかしてほしい、という依頼なのですか?」
「そんな目で見ないでください白魔法師殿ゥ、我々には死活問題なのでッす! 我々アーティストにはぁ集中を乱すきゃつらは怨敵に他ならないのですッ!」
「いいえ、お悩みは人それぞれですから……。それはそうとあのユスリュートたちは、繁殖活動のためでもないのにどうしてこの村にやって来るのでしょう?」
「ああそれはねえ、カーテンコールゆう習性なんよ」
「かーてんこーる?」
「うん、彼らは産卵さえ終えたら残りのエネルギーを全て演奏に費やすの。メス……いいえ歌姫さんと巡り会えた場所にのう、まるで思い出を語り合うみたいに戻ってくるんじゃわあ~」
「わあ。ろまんちっく、です」
「ね~。せ~じゃろ~」
「冗談ではありませんゾイ! 騎士団様、どゥゥかきゃつらを倒してくださァい!」
「ま、待った待った、まさかユスリュートを根絶やしにしてくれってことじゃないよな? だいたい、依頼書には不死身の魔物がどうこうって書いてなかったか」
「そんなァ無茶は言いませんッ地味騎士殿!」
「俺が地味なんじゃなくてこいつらが派手なんだっての」
「皆様に倒していただきたいのは、きゃつらでございますゥッ!」
村長は、いっそう忌々しげな眼差しをアウター川方面へ向けた。
ーーファァァァヴァァァァァァ♪
ユスリュートたちが泣きながら逃げ帰っていくのと入れ替わりに、ソレは林から飛び出してきた。
その奥深すぎる高音の歌声……すなわち理解しがたい音波に、誰もがギョッと耳を押さえた。
ーーベレレンッドゥルドゥルドゥルドゥル
成人女性の身の丈ほどもある巨大リュートを中心に据えた、黒檀色の色違いユスリュートだった。
村長の家の屋根に舞い降りると、喜怒哀楽どれとも捉えがたい演奏を続けた。
「コンパチ!? 変種のユスリュートか……っ!」
変種、あるいはコンパチブルモンスター。いわゆる突然変異によって元の生態から逸脱した魔物だ。
「むゥゥンッ、おのれヤブリュートめェェ!」
「ヤ、ヤブ?」
「あんなものはアートとはいえませんからな! ヤブ医者ならぬヤブリュートで十分でしょゥン!」
(あんたらが言うか!?)
「きゃつらめ、我々が他のユスリュートを焼き払うと決まってやって来るのでェェす!」
「それもうあんたらの自業自得じゃないのかーーーー!?」
とうとう我慢できず、ハルトはツッコんだ。冒険者たちや他の騎士隊の呆れた様が目に浮かぶかのようだった。
「ほーっはっはっは! 関係ねぃのだわ!」
が、第七隊が姫騎士様は嘯くやいなや跳んだ。
民家の壁を足掛かりに、三角跳び。
村長宅の屋根の高さをも超えて。変種ユスリュートもといヤブリュートを見据えながらも、自身も竜巻がごとくぶん回った。
ーー 《イークイップ》 ーー
ーー レベル44 金剛円匙シャーフェス・エス・エスツェット ーー
縦ロールの中に潜んだフェアリーが、目を回しながらも装備魔法を代行。次元の狭間から現れたダイヤ色のシャベルが瞬時にひっ掴まれ、曇天をも裂くような輝きを閃かせた。
「第七隊の栄光のためにっっ死ねぇぇぇぇぃ!」
「シェリスさんっ、もちぃぃと繕うて!」
爆速のベルアーデ剣術が、一瞬にして三方向からの剣筋を結んだ。
ーーファッ
巨大リュートが四つに分かたれ、ボトボトと屋根に落ちては地上まで転がり出たのだった。
ーーベェェィベベボァァブルルルルルンッヴァッヴァァァァァ
……残されたリュートたちがビートを上げ、煙のようなエーテルを発しながら柱の回転数を急上昇させた。
ーーファッヴァヴァヴァヴゥゥァァァァン♪
エーテルが晴れ、巨大リュートが復活した。
「だわッッ!?」
(復活した……!?)
シェリスはもちろんのことハルトたちも、確かに地に転がっている巨大リュートの残骸を見下ろした。
ーーヴォォォォェォェォェェェェ♪
「でゃーーーーーー!? うざざざざうるっせぃのだわぁぁぁぁ!」
なんと。着地したシェリスの頭上にヤブリュートが移動した。
見るだに煩いその群れから走って逃げても、付かず離れず追従しはじめたのだ。
「シェリスさん……! ひょっとして『混乱』状態ですか、治療が必要ですか……!」
「あんなのに付きまとわれたら誰でもああなるって!」
「いかにも、きゃつらは死なないのです! 手を出すとイヤってほどォ粘着してくるのですゥゥ……!」
「もーーっ、そがーこっちゃはよ言んさいやぁ! シェリスさーーん!」
湿地帯まで出ていってしまったシェリスを追いかける。
「って、あれシェリス王女じゃね?」「あのシャベルプリンセス?」「シャベプリ?」「おお騎士団じゃん」「気づかんかった」「どやどや」「おいでませインスピ」
と、今さら騎士団の存在に気づいたらしい村人たちまでついてきて……。
「ほ、ほーっはっはっは! ここなら村のことを気にせず、っぁうるっせ、うっせぃ、気にせずに戦えるのだわ! よっシェリスさんかしこさんっ、大賢君……かーーーーッうるせーーーぃ!」
「現状、シャベル振り回してるだけの暴君だぞ」
ーーファホホホホホホホホホホホッ♪
比較的開けた湿地のド真ん中で、さすがレベル50王女のシャベル捌きは疾かった……が精細を欠いていた。一、二体のリュートを叩き落とすのみに留まっていた。
「うぅぅっしッッ! おまえたち、自信あるヤツからやってやれぃ! 不死身だかなんだか知らねぃがこういう手合いにゃ絶対に弱点があるのだわ!」
と、シャベルを足元に突き刺したシェリスは潔く仁王立ち。……失敗してもいいから頭上のコレを早くなすりつけさせてくれ、とグルグル回る目の奥で語っていた。
「はいっ。一番手、イエ、いきます」
「お、おいおいおい」
そうして白旗……ではなく大きな袖を振り上げたのは最弱白魔法師だった。
(1話につき4部分構成の短編連作です)
(毎週月曜日、18時頃に更新中です)
(1話完結の翌週……つまり5週間に1回、次話の準備期間として更新にお休みを頂きます。よろしくお願いいたします)




