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王の友  作者: ARIKA
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第5節

この戦いで帝国軍がとった作戦は5000の部隊を6つ作り、それぞれが一斉に渡河するという作戦をとった。

この方法ならそれぞれの部隊が相手の総兵力とほぼ同等のため、1つの部隊でも上陸し背後または側面から攻撃を仕掛ければ敵は容易に崩すことができる。

いくら陸上の部隊の方が有利だといっても倍以上の相手を抑えることはできない、どんな精強な兵でも2倍の相手に戦線を維持できればいいほうである。

それが同時に6か所から攻めあがっていけば、5000にも満たないアーサー達では2か所を防ぐのが関の山だ。

それを見越して王弟は今回の作戦をとることにした、一見隙のない作戦に見えるが本陣が手薄くなることと戦線が広がりすぎて命令がいきわたりにくくなる弱点もありその部分を懸念していた。

「総司令。全軍準備が整いました。」

騎乗した王弟の横に馬を近づけ、セントリッヒが攻撃の支持を仰ぐ。

「全軍進め。そして蹂躙せよ。」

決して大きい声ではないが重厚でよく澄んだ声があたりに響きわたり、それを合図に1本の狼煙があがっていき帝国軍は盾を打ち鳴らすのを止め、直径50㎝ほどの盾で顔を隠すようにして進み始める。

この時の帝国軍の装備は腰から下には防具をつけることをせずに、上半身を軽く丈夫な革で出来た鎧で通称レザーアーマーを着込み手には盾と長さ30㎝の短剣を握りしめていた。

今回は川の中を進むため、重い金属製の鎧では思うように体を動かすことができず体力ばかり消費し、渡河しても戦うのも困難な状態になるために動きやすい軽装備に統一していた。

先頭の兵士たちは足元を確認するようにゆっくりとした歩みで川の中に入っていく。

普段この川は両国の国境沿いに面しているためお互いに橋を架けることもできず、渡河する手段も歩いて渡る以外に存在していない。

そのうえ両国でこの川を渡河したことも数えるほどしかなく、兵士たちにしても川底がどのようになっているかを知る者はいなかった。

そう考えれば帝国軍兵士は慎重にならざるをえない、そうなれば必然的に川の中にいる時間が延び、相手の矢の的になる時間が増えるだけではなく必要以上に体力を消費することにつながる。

そのことに気が付いている一部の指揮官は、兵士達よりも前に出て部下たちを鼓舞しつつ素早く進軍を成功させないといけなかった。

「進め。進め。足を止めるな。」

彼は第一軍隊の中でも若い部類に入り、つい先日20歳を超えたばかりの指揮官だった。

元々は下級貴族の出身だったが、ある戦いで100名ほどの部下と一緒に敵中に切り込み満身創痍ながら敵の指揮官を打ち取り、それをきっかけに帝国に勝利をもたらしたほどの男であり。

常に兵士たちの前を走り敵に食らいつく姿から、ハウンド(猟犬)とよばれ味方からの信頼は厚く一部の兵士たちは彼の隊へ移動願を出すものさえいた。

彼もまた上半身を革の鎧で覆い、左手に持った盾を顔の前に突き出し、右手に持った剣を空高く掲げ声を荒げ続ける。

「止まれば的になるだけだ。俺に続け、見てみろ敵は我らに恐れをなし動きが鈍い。今が攻め時だ、進め。進め。我らに栄光を、奴らに敗北を。」

彼の声に触発されたのか、周りの部隊も先ほどとは違い見違えるほどの速さで川の中を進む。

その様子を本陣から眺める帝国軍の司令官は、軽い緊張感と興奮を抑えつつも自軍の優位に笑みを隠しきれない。

「我が軍の圧力に敵は浮足立っているな。」

「見ろあの無様な姿を、散発的に矢を放ってきてはいるが。あの距離だと我が軍に届くころには力がなく鎧を抜くことはできない、そんなことも知らない素人どもだったとは。何より集団として機能していない、あれでは軍隊ではなく村の自営団がいい所だ。」

「確かに見た感じだと我が軍に被害らしい被害はなさそうだ、ここまで作戦を練っていたのだが無駄になってしまったな。」

「すでに川の中腹に差し掛かっている、抵抗らしい抵抗がなければここまで早く進軍することができるとは。」

戦場全体を見渡せば、帝国軍の複数の上陸部隊に対応できず川岸では部隊の象徴である旗が右往左往しており、まるで精彩を欠いていた。

帝国軍にしてみれば負ける要素がまるでなく、一部の者は勝った後のことを考えているほどだったが。

その中で唯一王弟だけは眉間にしわを寄せ、渋い顔を作り戦場を眺めていた。

(何かがおかしい)そう漠然とした思いが王弟の中でくすぶり、今まで培ってきた感が危険信号を鳴らし続けている。

「セントリッヒ。作戦は順調か?」

突然話しかけられたセントリッヒは一瞬驚いた顔をしたが、頭を軽く左右に振って我を取り戻し改めて戦場を確認したと口を開く。

「もちろん順調です。渡河をしている6部隊とも川の中腹を過ぎており、このままのペースだと10分もかからず渡河に成功するでしょう。それに比べて敵軍は矢を放ってはいますが、どれもバラバラに放っておりあれでは足止めにもなりません。そして、あの狼煙を上げている櫓も我が軍の同時進行についてこれずに、関係ない所でも狼煙を上げている始末。負ける要素はないかと、しかし。」

セントリッヒは一瞬声を詰まらすと、顎に手を添えて何かを考える素振りをした。

なぜかその素振りが王弟を不安にさせた。

「何かあるのか。」

王弟の怒鳴るような声に驚きで体を震わすが、すぐに気を取り直し口を開く。

「気のせいかもしれませんが、最初に斥候を出した時は川の中腹辺りでは胸近くまで使っていたような気がします。場所によって深さは違いますし、断言はできませんが。」

その言葉を聞いた瞬間今まで噛み合っていなかった歯車が一気に噛み合って動き出す。

開戦までの時間稼ぎ、複数の櫓、散発的な攻撃、進軍速度、そして川の水位、それによって導かれる最悪な結末が。

「渡河途中の全部隊を後退させろ。武具をすべて捨てても構わない。全軍急いで川からあげさせろ。」

王弟は突然立ち上がると、周りが驚くほどの大きな声で叫んだ。

その声に周りにいる司令官たちは驚き、皆声の主を見るように固まっていた。

「何をしているすぐに撤退命令を出せ。取り返しがつかなくなる前にだ。」

部下たちの対応の遅さにいら立ちを覚えつつ叫び続けた。

「しかし、先頭集団はがすでに川の中腹を過ぎておりいま後退すれば、背後を突かれ大きな損害を被ります。ならば敵の罠が待っていたとしても渡り切った方がよいのではないでしょうか?」

「いいから後退の合図を出せ。このままだと川の中の部隊は全滅する議論している暇はない。」

王弟の鬼気迫る表情にセントリッヒは訳もわかないままも、部下たちに後退の狼煙を上げるように命令を下さすが、実際それが実行されることはなかった。

部下たちが命令を無視したわけでもなく、その決断があまりにも遅かったせいである。

王弟は必死に走り去る部下の背中を見ながらも、僅かだが地面から伝わってくる振動に気付きすべてを察し天を仰いだ。

最初は動いていればわからない程の振動であったが、次第に大きくなり振動が揺れに変わっていくのにさほど時間を要すことはなく。

セントリッヒ達にも何か異常事態が起こっていることに気付くができたが、訳も分からずお互いに不安な顔を突き合わせることしかできない。

帝国軍の中で一番最初に理由を知ることができたのは、渡河中であった最前線の兵士達だった。

兵士達は自分達の声と川の水しぶきのせいで異常事態の兆しを感知することが遅くなっていたが、仲間の上げる声に雑音のような音が混ざり水面の波が大きくなる事を疑問に感じ1人また1人と足を止め始めた。

小さな歪みだったからこそ、ゆっくりとだが確実に陣形に大きな影響を与えた。

「全軍止まるな。進め。遅れたものから敵の矢の的になる。動け。盾を構えろ。」

先頭を進んでいたこそ、彼は陣形の狂いに最初に気が付き声を上げることで陣形を整えようとしていたが彼自身すぐに足を止めることになった。

「進め。すす、め。」

確かに彼は優秀だった、ハウンドの異名を与えられるほどの勇敢さも力もあった、しかしそれは人に対してののことであって、自然の前では無力でしかなかった。

その時だけは自分たちに迫ってくる荒波に対しては呆然と立ち尽くすことしか出来ず、声を上げることすら忘れていた。

それは上流から圧倒的な勢いで流れてくる濁流だった、視界を埋め尽くすような圧倒的な水量とともに押し寄せてくる波は自分たちの高さを優に超し3メートルにも達しようとしていた。

「死んだ。」

誰かがそんなことを呟いた気がしたが、そのことを考える間もなく波に飲まれ方向感覚がないまま流されていく。

ただ死ぬんだと薄れ良く意識の中でそう思っていた。

「なんてことだ。」

セントリッヒは被っていた兜を脱ぎ捨てると、地面に叩き付けると両手で顔を隠すように覆うと膝から倒れるように崩れた。

「何が順調だ。俺は。俺は。戦場を何も見ていなかった。何が第一軍隊の副指令だ、何もできなかった木偶でしかないではない。俺は。くそ。くそ。くそ。」

セントリッヒは額を地面に擦り付けながらも、爪が食い込むほど拳を握りこむと地面を何度も殴りつける。

その目には涙が浮かんでおり、怒りと悲しみの入り混じった感情を表していた。

「顔を上げろ。まだ終わっていない。」

「しかし、兵達はもう。」

「それでも顔を上げ続けろ、指揮官としての責務を果たせ。」

「総司令。」

セントリッヒは立ち上がると涙を振り払い周りを見渡しながら声を上げた。

「司令部直属部隊を前面に展開しつつ防備を固めろ、斥候隊などの予備兵力2000はライカ。お前が指揮しつつ川沿いを下りながら無事な兵を糾合しつつ撤退しろ。奴らに流された兵を殺しに行くほどの戦力はないはずだ。それに、奴が噂道理なら追ってはきまい。」

「了解。」

セントリッヒの横に立っていた兵士は勢いよく返事をするとそのまま、数人の部下をつれて走り去った。

「そして補給部隊は後退しながらそのまま本国まで撤退しろ、重い荷物などはすべて捨てていけ。早く行け我ら第一軍隊が補給部隊を囮にして退却したといわせたいのか。」

「了解。」

4~5人の兵士が顔を見合わすと、何度か王弟の顔色を窺いながらもそのまま走り去っていった。

「勝手に支持を出して申し訳ありません。」

「構わない、的確な指示だ。お前はこの後どうなると思う。」

「自分が指揮官であればこの隙を見逃すはずがありません、この水の流れも大分穏やかになってきています。最悪渡河をしてくるか、それとも。」

「それとも。どうかしたのか、構わない言え。」

「了解。自分ならこの機に乗じて船を使い一気に奇襲を仕掛け、相手を混乱に貶めてから攻勢にでます。そのために残った部隊を前面に押し出して、敵の渡河と船からの奇襲に備えさせております。」

王弟は相槌を打つように頷き、セントリッヒの冷静さに関心をした。

「確かに理にかなっていな、来る可能性が分かっているなら対応のしようもあるか。」

「はっ。その通りであります。」

「ならば命令を継続しつつ、前線の指揮官にもこの事を伝えてこ」

「伝令。伝令。」

王弟の言葉を遮るようにして、兵士が転がるように走ってきた。

「川の上流から船の様なものが下ってきており、さほど大きくはないですが船の上には多数の人影がか確認できます。」

自分の言葉を遮られ少し眉間に皺をよせるが、セントリッヒの読み通りの展開に安堵し周りの兵士達と顔を見合わせた。

「お前の読み通りだ。そのまま指示を出せ。」

「了解。」

セントリッヒは深く頭を下げると、前線に指示を出すために本陣を去っていく。

王弟は遠ざかっていく彼の後姿を眺めながらも、今後の起こりうることに思考を巡らし始める。

(このままだと全滅し兼ねない、流された部隊で生き残れるのは一割にも満たないだろう。それらなこのまま奴らの攻撃を受けながら後退して、被害を最低限に抑えつつ時間を稼ぐしかないか。本国に戻れるのはよくて5000か、この戦いが今後の帝国に与える影響を考えると頭が痛いな。それに俺自身今回の敗戦の責任を取らねばならないしな。)

彼にとっては生きて帰ることができたとしても明るい未来は何一つない、なぜかというとこの戦いの責任を取って降格もしくは軍からの追放、最悪処刑されかねない程の被害を出していたからである。

王弟が思考を邪魔するかのように、複数の風切り音が風に乗って聞こえてきた。

(やはり来たか、読み通りだな。さすがはセントリッヒか、奴こそ今後の帝国の為にも生きてもらわなければならない。)

確かに彼の読みは当たっていた、しかし来る方向が違っていたのである。

帝国軍の背後から矢は飛んできたのだ。


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