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王の友  作者: ARIKA
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第5節

「ふぅ。」

扉が閉まると同時にアーサーは深いため息をつきながら突っ伏すると、机の上にあった資料が音を立てながら地面に落ち、先ほどまで見ていた地図も所々に折り目としわができていた。

ベディヴィアはやれやれと首を左右に振るしぐさをすると、床に散らばっていた資料に手を伸ばす。

「ベディヴィア。やってもらいたいことがある。」

アーサーは突っ伏しているせいかいつもよりくぐもった様な声で、ベディヴィアを横目で見ていた。

「今すぐ男手を100ほど集めてほしい、年齢は問わないがなるべく力仕事ができそうなのを選んでくれ。」

「100名ですか。」

ベディヴィアは動かしていた手を止めると、少しの間をおいて顔を上げた。

「王よ先ほど申した通り帝国は正規兵が3万以上集まっております、世情に詳しい傭兵などは我らを見限り帝国につくとこはあってもこちらにつくことはありません。それも100程度など。」

「私は力が強い男を100人と言ったのだ。傭兵ではなくだ。」

「それこそ弓矢も打てずにカカシ同然か盾代わりにしか使えないので、当然戦力に数えることはできません。むしろ食糧を食いつぶすだけで軍を圧迫するだけです。」

「ベディヴィア。」

アーサーは言葉を遮るように彼女の名を呼ぶ。

「わかりました。今すぐ集めてまいります、遅くても明日にはそろえておきます。その代わり他の兵は頼みます。」

彼女は置物のように動かない護衛に視線を向けると、手に持った資料を脇に抱えるように持ち扉の方に歩みを進める。

木がこすり合わす音とともに扉がゆっくりと開き、彼女を部屋の外に促す。

ベディヴィアは部屋を出ると再びアーサーの方を向き、軽く会釈をし速足で廊下を歩きだす。

「悪いが兵の編成は頼めるか。」

「了解。」

護衛の彼とは短い会話しかしてはいないが、それでもお互いの意思の疎通ができており1つ2つ言葉を交わすことで十分だった。

(帝国か、この名の因縁を考えれば遅かれ早かれ相対することになっていた。想像していたよりは早かったが、将軍のおかげで勝機を見いだせた。あの人はどこまで考えていたんだろうか。)

アーサーは今は亡き将軍の顔を思い出すと、それほどの人を殺さなくてないけなかったことに胸が締め付けられるほどの痛みが走り、どこからか悲しみがこみあげてくる。

もしかしたら分かりあっていたのではないかと、同じ道を歩むことができた可能性に苦悩な表情を浮かべる。

幸か不幸か2人とも別の形で会うことができれば、お互いが掛け替えのない者になっていたのではないかと考えていた。

将軍は死にぎわに気が付き、アーサーは将軍の死後に気が付く。

アーサーにしてみればもう確認することができず、生涯そのことを口にすることはなかった。

しかし、黄金の獅子の旗のもとに集う2人の将軍と白金の騎士が、固く握手をする姿がアーサーの脳裏に浮かび静かに消えた。

儚くも消えた光景はまさしく将軍が描いた光景と一致しており、もしかしたらありえた未来だったのかもしれない。

しかし、現実は厳しく儚くも悲しいものだったが、唯一の救いはお互いが同じ未来を想像していた事を知る者がいない事だ。

アーサーは再び大きなため息をつき、椅子に座ったまま背伸びをすると肺に残っていた空気をすべて吐き出し再び部屋は静寂に包まれる。


時を同じくして帝国との国境付近

「総司令全軍いつでも出撃できます。」

全身を赤を基調にした色のフルプレートアーマーで身を隠し、鎧の色と比べると薄い印象があるが綺麗な栗色の髪を風になびかせた20半ばの兵士が跪き、その後ろに続くように赤い鎧を身にまとった兵士たちが跪く。

「そうか。」

小さく答えた男も全身を燃えるような赤い色で覆い、平均的な男性より2回りほど大きい体つきをしており、目元は刃物のような鋭さをもっていた。

その男は帝国第一軍隊を率いており、現皇帝の弟であり軍部のトップでもある。

帝国には第一から第七軍隊が存在しており、主に1~2万ほどの兵が所属しており日夜戦いを繰り広げているが、その中でも第一軍隊は兵数3万を超え他の軍隊の追随を許さない。

帝国の広大な領地を考えると全体の兵力が少なく思えるが、軍隊とは別に治安を維持するため国防軍が存在しており、各地の治安や反乱の目をつぶして回っている。

そのため軍隊は帝国の剣であり盾にもあたる存在であり、お互いに役割を分けることでスムーズな命令系統を形成している。

開戦前王弟が要求した輸送部隊は第7軍隊に所属している、確かに彼は軍部のトップであるが皇帝の許しなく他の部隊から兵を借りることができない。

もし勝手に動かすことができれば、軍部の暴走を招く可能性があり皇帝の威厳の低下につながる。

帝国でも軍部と内政部が争っており、皇帝自身どちらかに肩入れをすることができないが、現在は皇帝の弟がいる軍部の方が発言力が強く内政部は弱い立場にいる。

これは王族がいるかいないかのせいではなく、帝国は常に領地を求め出兵を繰り返しており領土を増やすことが最も重要視されている。

そのため目に見えて結果を残している軍部の勢いが強く、内政部は併合した後にしゃしゃり出て文句をつける文官と卑下され続けていた。

どこの国でも文官と武官の対立はあるが帝国に限っては武官が圧倒的に有利である。

「セントリッヒ。」

王弟は跪いている若者を怒鳴りつけるように言い放つと、栗毛の若者は背筋をピンと伸ばし立ち上がった。

「はっ。全体進軍を開始せよ。」

跪いていた兵士たちは一斉に立ち上がり部隊ごとに陣列を組み歩き出す。

先ほどまでの静寂が嘘のように金属が擦れる音と、地面を揺らすほどの衝撃があたりを包み込む。

耳を塞ぎたくなるような騒音の中、兵士たちは顔色を全く変えずに目の前の背中を追いながら唯々進み続ける。

赤い鎧で統一されて進む姿は地面を流れる血のようで、まるで血の海を見ているかのようだ。

この時の戦力差は帝国3万6千に対し、アーサー軍は7千ほどで戦力差は5倍以上あった。

この時点で帝国の勝利は揺るがない、もしも冷静に状況を判断できるものがいたならばアーサーには降伏しか道がなく無残な玉砕を選ぶはずがないと。

それほどの圧倒的な有利をもってしても、王弟の顔には傲慢さや侮りなど一切なかった。

むしろ緊張によって強張っているかと思わせるほどの雰囲気に、兵士たちの顔つきはいつも以上に鋭くなりピリピリとした空気が漂っている。

これから対峙する相手があの伝説の英雄と同じ名を持ち、この短期間で幾度もの不利な状況を打ち破りついには王まで上り詰めたほどの相手である。

手を抜ける相手ではない、兵士達にもわかっていたのだろう、かつてないほどの強敵であると。

どのような結果になっても帝国史上最大の戦いになると王弟や兵士達もわかっていたからこそ、今までにもない程の緊張感と高揚感が心の中を満たしている。

帝国軍は大群のため行軍スピードは遅かったが、3日もしないうちに最初の目的地に着いた。

そこは陸地を隔てるように川が流れており帝国軍のいる位置からでは両端を見ることができず、その全長を知ることはできない。

「セントリッヒ。」

「はっ。」

「あれは旗か。」

セントリッヒは自分を呼ぶ声に反射的に返事をし、王弟が指をさしている方向に視線を向けると前のめりになるようにして目を凝らす。

そこには1本の白い旗を中心に複数の旗並んでおり、旗の色はバラバラでまるで統一性がなく何をしたいのか全く理解ができず。

「旗ですね。」

思ったことを呟いてしまい、慌てて掌で口元を覆い再び出そうになった言葉を飲み込む。

王弟は不思議な光景に罠の可能性を考え川沿いに視線を向ける。

「総司令。斥候隊が戻ってまいりました。」

突然の報告に王弟は一瞬眉を顰めるが、すぐにいつものような鋭い眼差しにもどり、いつの間にか下馬したセントリッヒに視線を向ける。

いつもの顔つきに戻っていたセントリッヒは王弟の無言を了承だと考え、視線を上げる。

「斥候隊によると。奴らの使者を名乗る者が我々の到着を待っていたらしく。あの白旗は戦闘の意思がないことを伝えるためであり、バラバラの旗はその。」

「急遽徴兵された寄せ集めか。」

「その通りであります。」

セントリッヒが口ごもると、それを遮るように王弟が口を開く。

「それで使者はなんと。撤兵交渉でもしに来たとは言わないだろう。」

王弟は遠回しに撤兵などありえない、そんな交渉なら追い返せと言っているようなものである。

「その。総司令に直接お会いしたいらしく。使者の名は。」

使者の名を聞いた瞬間目を見開き驚きを隠せずにいたが、急に口元が歪み笑い声が漏れだす。

「いいだろう。会おうじゃないか、ここに呼び出せ使者のケイリー殿をな。」

王弟はこれから起こることに心を震わせ、ゆがんだ笑みを浮かべながら命令を下した。


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