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王の友  作者: ARIKA
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第5節

アーサーが将軍を破った報せは、瞬く間に広がっていく。

そのうちの1つがある者に届いた、その者は一瞬目を細め不機嫌そうな顔を作り上げるが、すぐに表情を戻す。

この知らせが生む結果を考えると、いつまでも不機嫌な顔を作っているわけにはいかない。

悩みの種が新たに増えたことに、頭を軽く左右に振り小さいため息をつく。

「兄貴。」

少し擦れて荒れたような低い男の声と、テンポよく床に金属を叩き付けるような音が聞こえてくる。

別の悩みの種がやってきた、まるで頭痛の痛みに耐える様に眉間に皺を寄せ額に手を当てると。

突然ドアを蹴り破る様な大きな音が、空気を震わせ振動が部屋全体に広がっていった。

「お前か。愚弟。」

愚弟と呼ばれた男は、平均的な男性より2回り以上を大きく、他を圧倒するには十分な気配を放っていた。

「兄貴。愚弟はないだろう。」

「馬鹿か。公の場では陛下と呼べと言っただろう。それを守れないものには、愚弟で十分だ。」

男はわざとらしく肩をすくめると、王座に座り自分を見下す男を、品定めをするように下から上に視線を向ける。

「要件はなんだ。お前には反乱の鎮圧を任せたはずだが、もう終わったのか。」

「あの程度の反乱、首謀者を吊し上げ。戦後処理は文官に投げてきた。」

悪びれた様子もなく言い放つ弟に、戦後処理を押し付けられた者の苦労に同情した。

「それにしてもなんだ。この辛気臭い空気は、王の間というのに。」

「お前が突然来たために、皆驚いているんだ。」

確かに突然来訪に皆驚いてはいるが、一番の理由は隣国で起きた内乱が集結し、今後の事を考えようとしたときに、空気を読まずに一番厄介なものが来たせいだ。

「陛下。お願いがあります。」

改めて陛下と呼ぶ弟の姿に、長年の感から厄介なことを言うだろうとは容易に想像がつく。

「我が第一軍隊に出撃の許可をもらいたい。ついては、物資の為に1000人単位の輸送部隊と、1か月分の食料を頂戴したい考えです。」

「戦争でも仕掛けるつもりか、お前の第一軍隊は我が帝国最強であり。最大の兵力を保有している、今は3万名近く所属してなかったか。」

首だけを動かす様にして、視線を横にいる老人に向けた。

老人はわざとらしい咳払いをすると。

「第一軍隊には3万2千名の将兵が所属し、斥候隊など工作部隊を合わせれば3万5千になります。しかし、反乱を鎮圧する前の人数であるため、現状の人数はわかりかねます。」

「一兵も損失はしていない。」

大きく胸を張りながら言い放つ弟に、一瞬理解が追いつかず目を丸くした。

「一兵も失わずとは、いったいどうやって。」

「簡単だ。町を全軍で包囲して、しばらく兵糧攻めを行った後に。首謀者の家に行き、そいつの首をはねた。」

「馬鹿な。どうやって侵入したんだ、相手が招き入れたとでも言うのか。」

「一月も囲っていたら毎日上がる煙の数から、相手の食料事象は容易に想像がついた。だからこそ、尽きるのをまって。相手の思考が鈍くなったときに、講和の為に使者を送りたいと持ちかけた。」

「まさかと思うがお前。」

「使者のふりをして出向いて、その場で首をはねた。」

こいつは絶対馬鹿だ、使者として出向いたところで相手を殺すとは、遺恨が残るだけでいいことは1つもない。

陛下と名乗った男は、増えていく悩みに唖然としため息をつく。

「残された文官の苦労は計り知れないだろう。宰相、事を治められそうな文官を数人と、第二軍隊から護衛と治安維持の為にいくらか送ってやれ。」

「はっ。すぐに取り掛かりたいと思います。」

深く頭を下げる老人に、手を払うようま仕草をし行けと命令を下す。

「厄介ごとばかり作りをって、それで貴様は何所と戦争がしたいのだ。」

あきれた様子で、投げやりに言い放つ。

「あの老人と決着をつける。」

やはりかと。内心思いつつ弟の言葉に集中し耳を傾ける。

「あの老人とは長い付き合いだが、今まで一度も勝たせてくれない。だからこそ今度こそ勝って見せる。

今回はいつもと違い、やつも全軍を上げて来るだろう。さすれば数万規模の戦いだ、奴とていつものように流すことはできまい。今度こそ俺が奴を殺し、引導を渡してやる。それが俺なりの、感謝のしるしだ。」

自分の世界に入っている弟に、言いたくはないが伝えないといけないことがあった。

その言葉が、油に火を注ぐ結果になるが、いずれは知る事になるであろうことを。

「老人は死んだ。」

「え。」

さっきまで威勢よく放っていた声が嘘のように、間の抜けた声が木霊する。

「いやいや。陛下も悪い冗談を言われる。」

「冗談ではない、先ほどかの国に送っていた間者から報せが来た。老人は死に、ある者が王位に就くだろうと。」

「嘘だ。あの爺が死ぬわけない。彼奴は、彼奴は。俺が唯一認めた奴だ。俺以外に殺されるはずがない、奴が広めた噂ではないのか。」

静かに首を振る兄を見た弟は、あまりの事に獣のような咆哮を上げて天井を見上げる。

その眼には涙が浮かび、好敵手の死に悲しみがこみ上げた。

突然の大声に、警備の兵士が息を切らせながら部屋に入ってくるが。

部屋の中央で泣き崩れる、陛下の弟に困惑の表情を浮かべ、助けるような視線を王座に座る男に送る。

「よい。」

ただ一言いうと、兵士は頭を深々と下げ退出していく。

「何所のどいつだ。」

「誰がだ。」

「爺を殺した奴の名は、なんと言う。」

男は息を荒げ、獣のように今にも襲いかかろうとしているように見えた。

「アーサー。ベイドン丘で英雄と呼ばれ。我らの祖父が、もっとも憎んだ奴の再来と呼ばれている。」

「うぉぉぉぉぉ。殺してやる。殺してやる。もう止まらんぞ、すぐに全軍に出撃命令を。俺が直々に首をはねてやる、我が祖父の無念を。爺の敵を俺が討つ。兄貴。俺はこのまま第一軍隊を率いて奴らの首都まで出向く、奪い取った領地は全部くれてやる。」

「いつものように刈り取り次第でなくていいと、その様な事でいいんだな。」

確認の為に念を押す兄に対して、弟は一喝するとすでに部屋の扉を開けるところだった。

普通ならこのような態度は許されないはずだが、弟の理性が飛んでいる事と、その理由がわかるために何も言えずに弟の背中を見送る。

弟は祖父をもっとも敬愛していた、その祖父が最も恨んだ相手と同じ名を持ち、自分の超えるべき敵も奪った相手に、憎しみや憎悪以外の感情が生まれるはずもない。

王座に座った男は、今日何度目かわからない大きなため息をつく。

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