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王の友  作者: ARIKA
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第4節

「全軍に伝えろ。戦いは終わったと。セント。」

白銀の兵士は、将軍から渡された槍を、杖代わりにして立ち上がると。右手を水平に払うようにして、激を飛ばす。

「はっ。」

いつのまにか足元に跪いていたセントは、声を絞り出す様に返事をする。その声からは、疲労感がひしひしと伝わってくる。

「すぐに各地で戦っている者に伝えろ。戦いは終わったと。すぐに戦闘を止めて、戦力の再統合を急げ。すぐに、今の状況をできるだけ正確に報告させろ。そして、絶対に。敵として戦った者を傷つけてはならない。処罰はしない。戦時中をいい事に、略奪等一線を越えた者は、捕縛したうえで首都へ遅れと。そして。民間人等に暴行などを行った者がいたら、即刻処断しろ。この命令は徹底させろ。」

「了解。」

セントは勢いよく立ち上がろうとするが、疲れのせいか足を縺れさせて扱けそうになる。

しかし、その姿を笑う者は1人もいない、なぜならこの場で、すんなり立ち上がれるものは1人もいない。

「将軍。」

先ほど将軍の命で、後方に伝令として走っていった兵士が。将軍の亡骸を前に、膝を折り地に額をこすり付ける様にして、座り込んでいる。

あの清々しく、耳触りの良い声は、涙にかすれ。嗚咽を出す様な声を漏らしている。

戦場に響く数多の泣き声に、一人また一人とこらえることが出来ずに、伝染するように泣き出す。

その声は天を悲しみに包み込む。

一筋の水滴が、白銀の兵士のフルフェイスの隙間から流れ落ちる様に、地面を濡らす。

一度流れ出した水滴は、溢れだす様に地面に黒い点を作り続ける。

しかし、その点は白銀の兵士の所だけではなく、至る所に作り続け、地面を黒く染め上げる。

先ほどまでの晴天が嘘のように、静かに雨が降り出していた。

まるで、空も将軍の死を悼み悲しんでいるかのように。

遠く馬上の上にいたアーサーも、突然の雨に両手を広げる様にして空を仰いだ。

確か、あの口髭の将軍が処刑された日も、朝は晴天だったが。処刑が実行された時、急に雨が降り出した。

人々が口々に、空が泣いていると、言っていたことを思い出していた。

そういえば、誰かが素晴らしい人が亡くなるときは、必ず神様も涙を流し、雨を降らすと。そんな言い伝えがあると、聞いたことがあったきがした。

いったい、誰に聞いたかは覚えていないが、そんな事を言っていた。

アーサーは一瞬、白銀の兵士の顔が頭の中をよぎり、胸が押しつぶされるような苦しみに。

胸を抑え込むようにして、軽く体を折り曲げた。

お前は死んでくれるなよ。お前にもしものことがあれば、私はあの方にどうやって詫びればいいか、その方法がわからない。

アーサーの胸の痛みが次第に和らぎ、顔を上げた。

雨は止むこともなく勢いをまし、戦いで熱くなった体を冷ます。

雨に打たれていた兵士は、体温を雨に奪われ、寒さに体を震わせながら1人、また1人とゆっくりと立ち上がる。

これで戦いが終わった。兵士達の胸に空いた穴を誤魔化す様に、戦いの終わりを喜び。

先ほどまで殺しあっていた相手に、ゆっくりと手をさし延ばす。

その手を躊躇なく握り返す。精いっぱいの力で、何度も握り返す。

もう2度とこのような事は起きてほしくない、皆の想いは初めて1つになった。

それが戦いを通してというのは、とても皮肉な話だったが。

そのあと、アーサー達の時間はあっという間に過ぎていった。

アーサーは、人目に付かない岩陰に隠れると、白銀の兵士と鎧を交換し。

100名ほどの騎馬兵を、護衛に付けると。そのまま、王都に向かって走り出した。

少数の兵士と、騎馬のみの編成のおかげで日が昇るころには、王都にたどり着くことが来た。

王都では、民衆が総出でアーサーを向かいれた。

一面を覆い尽くす群衆、皆アーサーに手を振り勝利を喜び、力いっぱいに叫ぶ。

「アーサー王万歳。」「救国の英雄。」「救国の王、アーサー王。」

民に歓迎されながら進むと、城へのつり橋は降りていた。

城にいた、兵士のすべてが跪き、アーサーの到着をまっている。

アーサーは拍子抜けするほど、簡単に城に入る事が来た。

最悪市街戦も想定してた、アーサーにしたら、うれしい誤算だったのかもしれない。

アーサーは城に入るとすぐに、ベディヴィアに城の状況を確認させた。

それからは、引切り無しに報告や、訪問者が後を絶たず。

気が付くと一月の時間が流れた。

「王よ。」

ある部屋に静かな声が響き渡る、この部屋はかつて先王が寝室にしていた部屋だった。

部屋自体は贅を凝らした、シャンデリアや絨毯が敷き詰められている。

しかし、部屋の中央には木製で漆も塗っていない、1畳ほどのテーブルと木の椅子が3つ並んでいた。

その家具は、露店などが客用に使っている物だと言えば、うなずいてしまうような、簡素な物であり。

部屋の中では唯一浮いており、誰が見ても異質だった。

その椅子に、何食わぬ顔をしながら、アーサーとベディヴィアが座っていた。

「王か。ベディヴィア、その呼び方にはまだ慣れないな。」

「慣れてもらわないといけません。あなたはもう、この国の王なのですから。」

アーサーが王都に入場した、次の日には教会の総代司教がやってくると、アーサーを国王に任命した。

今回の戦争での1番功労者であり、軍の旗印になった時から、皆アーサーが王に着くものだと信じており。

反対らしい、反対もなく、スムーズに式典を終える事が出来た。

そして今になって、状況の整理が出来、テーブルの上には、書類が山のように積み重なっている。

アーサーは何気なく、1枚の書類を手に取り内容を確認するように、読み始めた。

その内容は、今回の戦いでの両軍の死者数が克明に描かれていた。

この書類の1枚1枚は、事前にベディヴィアが内容を確認して、要点などをまとめてあった。

それでも、これほどの量になってしまっている。

「王よ。落ち着いたら、領地に一度顔を出されますか。」

ベディヴィアはアーサーに気を使って、故郷の空気を少しでも吸わせたいと思い提案した。

「うぅん。」

アーサーは何故か、苦笑をしながら返事を濁す。

「王よ。」

「ベディヴィア卿。今はそのような時間はない。」

護衛の彼は、まるで誤魔化す様に強引に話を変えようとしていた。

「いや大丈夫だ。」

アーサーは、書類に目を通しながら、反対の手で制すように手を突き出した。

「正直な話。領内には顔を出しにくく。」

アーサーには珍しく歯切れが悪く、時折言葉に詰まった。

「今回の戦いで、ベイドン丘を生き抜いた者達が、皆死んでしまった。全員の名前と顔も覚えている。今回の戦いでは、私と彼ぐらいしか生き残った者はいない。領民は皆喜び歓迎してくれるだろう、しかしな、その反面夫や父親を失った者達に合わす顔がないんだ。確かに犠牲が出るのは覚悟していた、顔見知りとも殺しあうことになる事も。領民達が死ぬことも。でもな、いまさらどんな顔をして合えばいいかわからないのだ。」

それは、アーサーの心からの悲痛な叫びでもあり、本音でもある。

ベディヴィアは自分の軽率な発言に、胸が痛み、心臓を握りつぶされるような痛みが走った。

「軽率な発言を」

「いや、いい。それよりもベディヴィア、この報告書にある。国庫の金額は間違ってないか。」

アーサーは謝罪の声を遮ると、読んでいた報告書をベディヴィアに見える様に突き出した。

「はい。間違いありません。複数の者に立ち会わせて、開かせて確認しました。何か不明瞭な点がありましたか。」

「不明瞭というか、この金額は多すぎないか。これではクーデターが起きる前より、増えている」

「はい。確かに別の資料と照らし合わせても、確実に増えています。何よりこの金額でしたら、兵達に十分な恩賞を与えても、2~3年は税収が無くても、困らない金額です。あくまでも憶測ですが、将軍は処刑した貴族の全財産を没収し、国庫に納めたと推測されます。」

「そして、将軍は国庫には一切手を付けずにいたと。」

もしも、将軍がこの金を諸侯にばらまいていたら。アーサー達は負けていただろう。

だからこそ、ここまでの資金が残っていたことが、心の奥底に引っ掛かっていた。

「将軍は、我々をなめていたのか。それとも、最初から負ける時のことも考えていたのか。」

「もしかしたら、我々を試していた。」

ベディヴィアは無意識のうちに出た言葉に、目を見開き思わず口元を隠す。

「ベディヴィア、それは考えてはいけない。」

一瞬頭の中を駆け巡った考えを、消す様に呟く。

「そういえば、将軍は死に際にアークトゥルス王の名を呟いたんだったな。」

「はい。」

「アークトゥルス王ですか。あぁ建国の父アーサー王の事ですね。」

最初意味が分からず困惑な顔をしていた、ベディヴィアだったが。

少し考えるしぐさをすると、一瞬の間の後、急に笑みを浮かべると手をたたく。

彼女自身アークトゥルス王の名は知っていた。しかし、アーサー王に比べてアークトゥルス王の名は使われることはない。

自分の祖父たちの年齢の人たちは、アークトゥルス王と呼ぶ者がいたが、ほとんどの歴史書や伝承ではアーサー王と呼ばれていた。

そのため彼女が少し考え込んだのは仕方がないことだった。

「建国の父アーサー王ですか。王はご存知ですか。かの王にまつわる噂の数々を。」

「確かアーサー王は存在しておらず。空想の人物だということか。」

「はい。存在したかしないかは別にして、色々な学者がたくさんの仮説を立てておりますが、大体は3つに分かれております。」

「3つか。」

「はい。1つ目はアーサー王は人の名前ではなく、素晴らしい功績を遺した者に与えられる称号であった。2つ目はアーサー王は存在していたが、王ではなくただの指揮官であったと。3つ目は、初めからその様な人物は存在してなく、語られてきた物語の主人公だったと。」

アーサーはベディヴィアの言葉に耳を傾けたまま、口を開こうとしない。

「それぞれの説には根拠が存在しております。1つ目はかの王が、同じ日に2つの戦場で指揮を執っていたと伝わっております。そして、この2つの軍隊で移動すれば、2日はかかる距離です。行軍を早めても、半日短縮するのがやっとかと。それと小規模な戦いだったとしても、軍隊が同じ日に2度戦うのは不可能であり。どちらの戦場でも勝利したと伝わっております。そのような事例が複数存在しています。あくまでも、人々の間で語り継がれている内容なので。時系列の間違いや、今と昔の地名の違いで距離が変わってくるので、この仮説自体成立していないのかもしれません。その名事態褒美の一種だとすると、消えた王の辻褄を合わせることはできます。」

「消えた王か。」

アーサーは自分に言い聞かせる様に、静かに呟く。

「2つ目の説は、ある意味今の王と共通する点がありますね。」

ベディヴィアは前置きを挟むと、ゆっくりと深呼吸をし。

周りには聞こえないほどの声で、何かを呟く。それは自分に暗示をかける様に。

「失礼しました。2つ目の説ですが、その指揮官が絶望的な状況を覆す大きな功績を遺したため。王はその者を英雄と呼び。民の中で尊敬の念を込めて、名前に王とつけて呼んでいたと。だからこそ、他国の者にもアーサー王の名が広まったと。そのため、一指揮官として退役し軍を去ったため。その名は消えてしまったと。」

この説は今のアーサーの状態に酷似していた、なぜかというとアーサーは、初陣で絶望的な戦力差を覆すことで、民からは英雄と呼ばれ。

将軍との戦いを制し、王と呼ばれていた。

「2つの説共に、伝承などの語られてきた物語を元に作られている。ベディヴィア、言葉とは人を挟むほど、真実から離れていくのは知っているな。」

「もちろんです。」

言葉とは人から人に伝わるときに、伝える人の感想や、その人の願望が混ざり合うことがある。そのため書面等でなければ、確実な内容を残し伝えることはできない。

その程度の事は彼女は理解しており、礼をするようにうなずく。

「そのための3つ目です。この説は、初めからかの王は存在してなく。吟遊詩人などが作り出した、物語である。だからこそ、かの王には死の記録はなく。唯々英雄譚のみが広がっていった。」

「過激な説だな。」

「王よ。確かに過激でありますが。これは辻褄を合わせる必要はありません。何故なら、無から作り出されたもの。名もなき著者の物語なので」

「ベディヴィア卿。君はどう考えている。」

不意に聞こえてきた声に、ベディヴィアは目を丸くし驚きを隠せない。

忘れていたわけではない、そこにいると知っていたはずなのに。彼女は彼の存在を完全に忘れていた、まるでアーサーの影から出てきたように、その後ろに立っていた。

「私は。」

ベディヴィアはわざと言葉を詰まらすことで、息を飲む時間を作り。その間に無理やり、心を落ち着かせ動揺を隠す。

「私は。かの王の所業はすべて行われてきたが。それは1人を指すものではない。数えきれないすべての偉業を一つの名に集める事で、1人の人物を創り上げる。建国の王も存在しており、かの英雄的な戦いも存在している。しかし、それは別の人物が行った偉業であり。数多の伝説を組み合わせて作りだした、偶像的な英雄。だからこそ帝国にも、その名をわざと響かせているかと」

「作り出された英雄。」

「ベディヴィア卿の考えは、1つ目の説に似ているか。」

「しかし、1つ目は称号であるが。個人を指すものではないか。」

護衛の彼は、自分自身に言い聞かせる様につぶやくと、重い口を閉じる。

「ベディヴィアの考えはわかった。しかし、将軍の意図がわからないままか。」

この時アーサーの中では、何かが引っ掛かっていた。漠然としていて、言葉では表すことはできなかったが。

自分の知らないところで、何かが動き忍び寄ってくるような。

ただの感ではあったが、最近の出来事を考えれば、悪い予感しかしない。

アーサーはふと、先ほどの会話に出てきた、帝国の事が頭をよぎる。

自分が王に即位することで、何か行動を起こす可能性がある。

それがなるべく遅く来てほしい、アーサーは唯々願う。

しかし、願いとは無情にも裏切れるもの。

「失礼します。」

扉越しに、聞こえてくる声は、恐れと焦りを含んでいた。

この声が再びアーサー達を争いの中に誘い込む。

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