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王の友  作者: ARIKA
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第4節

(あれが奴の妹、ベディヴィアだったか。)

混濁としている意識の中、将軍はなぜか不格好な騎馬兵が、ベディヴィアだと感じた。

直感に近いものだった、戦場であれほど不格好に鎧を着る者は、訓練された兵のわけがない。

鎧とは体を守る防具であり、どれほどの強度を維持することが出来るかを追求するものである。

しかし、その反面いかに動きやすくできるかを、求められている。

それなのに、あの騎馬兵の鎧は全身を隠すことはできているが、外から見ても膝や肘の関節部分があってなく。

容易に体を動かせる状態ではない、ならばあの鎧は防御より姿を隠すことを目的に着込んでいる。

戦場で素性を隠すのは、戦場にいる事が不自然な者や、王族などの暗殺の対象になりやすい者が、素性を隠そうとするのは珍しくない。

もしも、将軍の部下が暴走しアーサーを暗殺しようとしていて、それで素性を隠している可能性はある。

しかし、あのベイドン丘での戦いで、白銀の鎧を着こみ先頭を駆け抜けた者が、あのような格好をし素性を隠そうとすれば、兵達の不信を抱かれて、士気が落ちるのは目に見えている。

何よりも、白銀の兵士がその手に握った槍で、将軍の胸を貫いている。

目の前にいる者がアーサーの格好をした別人の可能性はあるが、その可能性を考えさせる時点で影武者の意味は全くない。

主の代わりに戦場に立ち剣を振るい、武勲を立てそれを主に差出し、自分は影に徹し続ける。それが影武者であり、そのことが露見した時点で、主も地位を奪われ非難される。

そのような可能性が高いのに、わざわざ主が不格好な格好をして注目を浴びる必要性はない。

それではなぜ顔だけではなく、体全体を隠そうとしているかといえば、目的は1つしかない。それは性別をや年齢を偽るためだ。

この最前線に出向き、奇襲部隊の指揮を任せられるほどの側近は、アーサーにも多くは存在していない。

なにより国土の至る所で、アーサーと将軍の勢力がにらみ合い争っている。

優勢になってきているとはいえ、すべの戦場でアーサー達が優勢であるわけわない。

局地的な優劣が、大局大きな影響を与える可能性は、低いとわかっていても。アーサーは各地で戦う反将軍勢力の、援軍要請があれば、それにこたえる義務がある。

将軍からの国土の解放、国を救い民を助ける事を、大義名分に掲げているからこそ。

各地に援軍を送り続けなければいけない、そのためアーサーは、常に兵力分散を行い続けている。それがどれだけ愚作であり、自分を追い詰める事になるとしても。

しかも、兵力を送ればいいだけではなく、ある程度指揮能力がある者がいかなければ、現地での統制がとれなくなり。

各地での連携が取れず、最悪内部情報がもれアーサー自身が挟撃され殲滅される可能性が高い。

将軍は開戦前に、アーサー陣営の指揮官クラスが各地に援軍として向かっているのを把握していた。

諜報部によると残っているのは、ベディヴィアと他2~3名ほどしかいない。そして、将軍はその配置も把握していた。

そうなると、彼の下にいるのは彼女しかいないと容易に想像がつく。

(そうかベディヴィアは、アーサーの信を得る事ができたのか。これで奴も報われる、自分はここで死に絶えるが、この国を救う礎になる事が来たはずだ。長い長い時間を生きた、友と酒を飲みかわし。幾多の戦友を見送った。この魂はアヴァロンに行く事はできないかもしれない、地獄の業火に焼かれ、永遠の苦しみを受け続けるかもしれない。後悔はしていない。私は最高の友を得ることができた。なにより最高の王の誕生を見る事が出来るのだから。)

将軍の胸を貫いていた槍は、ゆっくりと離れる様に引き抜かれていく。

槍が動くたびに傷口は血で赤く染まり、その穴から赤黒い血が周りに広がり服や鎧にしみこむ。

槍が抜かれた老兵は、膝をつく様にうつぶせに倒れると、地面に熱を奪われるように、冷たくなり2度と動くことはなかった。

将軍は槍と老兵によって立っていることが出来ていたが、その支えを失い老兵とは違い、大の字を描く様に仰向けに倒れた。

将軍の口元は逆流してきた血で、口元を赤く染め、まるで生き血をすすったような跡になっている。

しかし、それは相手の命を吸ったのではなく、己が命を吐き出し続けているようだった。

将軍の耳の中では、金属をこすり合わせるような、甲高い音が鳴り響く。

地面からかすかに伝わってくる、金属と砂をこすり合わせた音が、振動に変わる事で、地面を通じて将軍には聞こえる様に感じられた。

それは金属製のブーツが地面を歩く音で、弱々しいが1歩1歩確実に近づいてくる。

その音は将軍のすぐ近くで鳴りやみ、一瞬の静寂が辺りを包み込み、一瞬の間の後将軍は重たい瞼を開く。

うっすらと開いた目には、己を見下ろす黄金の瞳があった。

それは兜のバイザー部分のスリットから、覗き込むように黄金の瞳が将軍を見下ろしていた。

その瞳は純粋で曇りもなく、あまりにも綺麗で心を吸い込まれるような気がした。

将軍は傷だらけの体を地面から強引に引き離す様に、歯を食いしばりながら体を起こす。

歯を食いしばっている口元からは、とめどなく赤い液体が逆流し、口から流れ出る血は鎧をつたい流れ落ちると、胸の傷口と混ざり合う。

「もう少し近くに。」

血を吐く様に絞り出した言葉、先ほどまでの覇気はなく、かすれていてうまく聞き取れないほどだった。

普通なら、命のやり取りをしている相手に、不用意に近づくことはありない。

確かに、止めを刺すために近づくことはあるかもしれない、しかし、自分の手で殺そうとしている相手に、呼ばれて近づくなど、よほどのばかでなければありえない。

それでも白銀の兵士は、将軍に尊敬を表す様に片膝をつき、跪く様に近づく。

将軍はいきなり左手で、近づいてきた白銀の兵士の後頭部を、鷲掴みにすると自らに引き寄せた。

まじかで見るその顔には、多くの傷としわが刻まれ、先ほどまでの年齢を感じさせない動きは、嘘のようだった。

将軍は自分の額と、白銀の兵士の兜の額にあたる部分をくっつけた、それはお互いの顔を未着させているようだ。

「良い眼だ。黄金に輝く瞳。まるであの方の様だ。」

かすれ声だがしっかりとした口調で、まるで独り言のように呟く。

しかし、将軍の視線はスレットの奥にある、黄金に輝くひとみを見つめている。

「お前は。」

スレットの隙間から見える、黄金の目と髪はアーサーそのものだが、その瞳から受ける印象は全く違った。

先日見た時のアーサーの目は、今まで見たことないほど澄んでおり、歪みが全くなっか。

だが今見えている目には、力強い意志は感じるが、それよりも使命感のようなものと少しの歪みが感じ取れる。

しかし、その目を見たとこがあった。ベイドン丘の戦いで、アーサーの横に立っていた兵士の瞳が黄金に輝いていたことを。

「アーサーに伝えろ。お前は指導者になることが出来るが、支配者にはなれない。無理をすれば必ずどこかに歪が生まれる、そして国を治めるには広い眼を持たなければいけない。ぶれるな1度決めたことは、死んでも通せと。そして。お前はあの時の護衛だな。その黄金の瞳と髪の毛には見覚えがある。」

一瞬だが白銀の兵士の瞳が揺れた、動揺と困惑を隠しきれす、懸命に口を動かし、何かを絞りだそうとしている。

まるで子供の悪戯がばれ、誤魔化しているかのように見え、少し暖かい気持ちがこみ上げつつも、白銀の兵士の答えを待たずに畳み掛ける。

「この槍をお前に託す。この槍は我が友の槍で、多くの人の思いが込められている。これはお前にこそふさわしい槍だ、我らの想いを託す。」

将軍は掴んでいた頭から手を離すと、拳を白銀の兵士の胸に当てると自らの想いを込める様に胸を軽く押しこむ。

白銀の兵士は急なことに対応する事が出来ず、不覚にも2歩3歩後ずさった。

「アーサー卿よ見事。貴公こそ真の救国の英雄。そして、この私を討ち取ったのはアーサー卿だ。この声が聞こえる者達よ、武器を下せ戦いは終わった。我らの負けだ、これ以上争いを続けるのは私が許さん。全兵士に伝える、皆アーサー卿の下に集い国力の回復に努めろ。」

空に向けて発せられる言葉は、まるで咆哮の様に木霊し戦場に鳴り響く。

死にかけている者が、叫んでいるとは信じられないほどの声に、白銀の兵士は唖然として立ち尽くす。

それは消えかけのろうそくが、最後に激しく燃え上がるように見えた。

「アークトゥルス王よ永遠に。」

将軍はかすれた声で呟き、力なく前のめりに倒れ、土煙を舞い上げた。もう2度と、自分の意志では動くことはないだろう。

将軍の最後の呟きは近くにいた白銀の兵士ですら、何とか聞き取れる大きさで、他に聞き取れた者はいないだろう。

「アークトゥルス王。」

白銀の兵士は自分に言い聞かせる様に、将軍の最後の言葉を呟く。

彼は将軍の最後の言葉に想いを巡らす、なぜ将軍はその名を呟いたのか。

もしかしたら、将軍は知っていたのだろうか、この国の裏にある隠された歴史を。

その歴史を知る者は、ごく少数で表舞台に出ることはないはず。

もしかしたら、将軍も関係者の1人だったのかもしれない。

白銀の兵士は、次々と溢れ出す疑問に思考が追いつかず、次第に深みにはまっていく。

しかし、地面から伝わってくる僅かな振動と、金属音が混ざり合ったような足音で現実に引き戻された。

ゆっくりと辺りを見渡すと、黄金の瞳には信じられない光景が映り込む。

それは先ほどまで争っていたはずの、両軍の兵士が将軍を中心にして跪いている。

中には頭から血を流している者もいるが、傷口をふさごうともせず、地面に血を垂らしながらもただ跪いている。

騎馬兵さえも馬を下り、鎧が汚れる事も気にせずに跪きながら頭を下げ続ける。

それは将軍を中心に円を描く様に、次々と集まると、その場に跪き、微動だにしない。

何十にも重なった円は、将軍の人柄を表すのには十分だった。

将軍はやり遂げたような、無垢な笑みを浮かべながらその意識は途絶えていく。

(私は死ぬんだな。もう十分生きた。もう休んでもいいだろう、なぁ我が生涯の友よ。)

かすれていく将軍の意識は段々と、深く暗闇に落ちていく、底が見えない闇の中に、一筋の光が見えた気がした。

その光に助けを求める様に、必死に腕を伸ばし、傷だらけの手で光を掴みとろうとする。

指先に触れた光はとても暖かく、指先から全身に血管を通して全身に広がる。

将軍はふわふわと落ち着かない感覚に、穴が開いている胸に手を当てる。

撫でる様に触った手には、血などは一切付着していない、傷口は初めからなかったように、綺麗に塞がっていた。

まるで今までの戦いが幻であったような、そんな気さえも起こさせた。

将軍は状況を飲み込めないまま、情報を得るために辺りを見渡す。

周りは薄い霧がもやのように視界を遮り、自分の立っている正確な場所も位置もわからないが。

将軍の周りには、膝丈ほどの草が多い茂り、その間を縫うように、木が生えている。将軍はここが森の中だと、想像することが来た。

先ほどまでは地面に倒れ込み、口の中には血と土が混ざり合い、赤黒い泥が詰まっていたのに。

なぜ自分は、森の中で立ち尽くしているのか、頭で考えても状況を理解することが出来ず。

無意識に目を凝らし遠くを見る。すると霧がかかってはいるが、水の反射が見えた気がした。

(あれは湖か。)

将軍は誘われるように、ゆっくりと歩きだす。先ほどまでの痛みが嘘のように、自然に足が動き、1歩1歩足を踏み出すことが出来た。

その湖のほとりに人影が見えたが、靄がかかっているため、顔を確認することはできないが。近づくにつれて、少しずつだがその姿が見えてくる。

その人影は平均的な男性より一回り以上大きい体つきと、口元を隠す様に乱雑に髭が生えている。手入れのされていない髭は、人によっては粗暴な印象を与えてしまう。

しかし、将軍はその独特な髭にも、自分よりも一回り大きい人物に心当たりがあり。

将軍の中では、人影が彼奴であってほしいという感情と、いるはずがないという、相反した感情に、足は段々と遅くなり、まるで沼の中を歩いているかのように、足が重くなる。

先ほどまでの軽い足取りは消え、今では足に絡みついた泥を、引きずりながら歩いているように見える。

その姿を見ていた人影は、ゆっくりと手を口元に当てると、人差し指と中指で挟み込むように口元を撫でる。

その自然な動きは、将軍が最もよく知る友が、口ひげを撫でるしぐさと瓜二つだった。その姿が目に入った瞬間、目頭が焼ける様に熱くなり。

熱はそのまま血液に乗って全身に広がっていく、それは炎の中に飛び込んで、全身を焼かれ続けているような痛みだ。

肌を焼く痛みと激痛が、絶えず全身を駆け巡り、頭の奥で危険信号を鳴らし続けるが、将軍は足を止めることはない。例え血液が油となり、体を焼き続けても、今の感情を押し殺すことはできない。

ただ友の下に行きたい、それだけが彼を突き動かす。

話すことはいくらでもある、お前がいなくなった後国はどうなったか。部下・王子・国王・貴族、そして我々が見た希望はどうなったか。

自分が見てきた事をすぐにでも語ってやりたい、私はお前との約束を最後まで守り切ったぞと。

将軍の逸る気持ちと呼応するように、息は次第に荒れてくる。それでも想いを殺し切れず、乱れる息を気にせず大きく息を吸い込み、声と共に吐き出そうとする。

しかし、それを遮るかのように、人影は口元で撫でていた手を止め。口元でこぶしを握ると、人差し指だけを伸ばす。

それは、喋るなというジェスチャーだった、将軍は急いで口元を隠すと無理やり息を飲みこんだ。

その仕草に安心したのか、背中に隠しているように見えなかった、左手をそっと出した。その手には二つの杯を持ち、将軍に差出す様に向けられた。

(あぁ、私は会うことが出来たんだな。)

胸の奥底から込み上げてくる熱い感情を抑えることが出来ず、自然と一筋の涙が流れ落ちる。

一旦流れ出した涙は止まる事がなく、その量は増える一方で、すでに拭ききれる量ではない。

将軍は溢れ出す涙を気にすることもなく、無垢な笑みを浮かべながら歩き出した、その足は自然に早まり小走り変わっていった。

「友よ。酒を飲もう。お前に話したいことが、山ほどあるんだ。」

霧が深く顔には影が差しては見えないが、その人影は万遍の笑みを浮かべているように見えた。

将軍は人影に対して、最高の笑みを向けた。

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