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王の友  作者: ARIKA
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第4節

「将軍はご存知ですか、自分に妹がいる事を。」

「あぁ。確か聞いたことがある様な、しかし。」

将軍は急な話に眉を顰め、不愉快さを隠しきれていない。

「それでは、数年前にある1冊の本が世に出て、すぐ消えました。ご存知でしたか。」

「何が関係あるというんだ。本ならどこにでも溢れている、貴族の道楽や暇つぶしに、書いてる者もたくさんいる。」

将軍は意味の分からない問答と、先ほど言葉を遮られ事に怒りをあらわにし、彼を睨み付ける。

「その本は独特な経済学と、現体制の批判が書き込まれていました。見る者が見れば、その経済理論に舌を巻き。己が領地に組み込み、富を増やすことが出来る内容だったのです。しかし、著者がわからず。今の文官を完全に批判する過激な内容に、闇に葬られました。まぁ、今の文官を任命したのは宰相であり。その宰相を登用したのも、今の国王である。つまり、王への批判であり、現体制の批判にもあたるということです。」

淡々と話す姿に、将軍の頭からは段々と熱がさまり。それに従い、冷静さを戻してきた。

(いったい何が言いたいんだ。この男がまるで意味のない話をするはずがない。自分の妹の存在の有無を語り、闇に葬られた本の話をした。この2つが繋がる可能性は1つしかない。)

「その妹が書いた本なのか。」

「えぇ。あの子が書き上げた本です。あの子は優秀な子です。」

そう言うと、目を細め柔和な笑みを浮かべ、妹の顔を思い出す様に目を閉じる。

「もしあの子が、男として生まれていたら。確実に家督はあの子が継いでました。しかし、女として生まれ、小さいころから理解が図ったために。表舞台には立たずに、情報収集などの裏役に徹底していました。自分はこれほどの才能を、野に眠らせておくことは、この国にとっての大損失だと思っています。」

「だからお前はここで死に、妹に家督を継がせることで、表舞台に出そうとしているのか。」

「あの子を表出すためには、それしか方法がありません。」

「浅はかだとは思わないか。貴公の言を借りると、例え妹が家督を継いだとしても、誰も彼女を旗印として立ち上がらない。妹なのだから。」

「確かに将軍の言う通りです。そのために自分が旗印になり、諸侯をまとめ上げるのが計画でした。」

将軍は自然な手つきでゆっくりと髭を撫でた、撫でた手は先ほど飛び散った酒でぬれていたが、将軍は気にすることなく撫で続ける。

自慢の髭は酒を吸い込み、先ほどより纏まり形が整っていく。

「しかし、自分が生きていてはいけないのです。」

一瞬のうちに空気が固まり、凍りついたように将軍の手が止まり。

どこからか入ってきた隙間風で、ろうそくの火が静かに揺れ、そのたびに将軍の顔に影を作り出す。

「どういう事だ。」

将軍の静かで重い一言、普通の人ならその言葉を聞いただけで、呼吸をするのを忘れ、体を硬直させる。

彼はわざと口元を手で覆うと、震える唇を隠しながら、声を絞り出す。

「自分はベイドン丘の戦いを聞いた瞬間、この人物しかいないと思いました。アーサー卿の話は聞くたび心が躍り、自分でもわからない熱い思いがこみ上げてきます。何より、その話をしている町民、兵士、子供、貴族。皆笑顔で、熱く熱く話してくれました。貴族の中には、大げさに噂を流していると言う者もいます。それでも、これほど愛されている者はアーサー卿しかいません。今回の旗印は彼にしか任せられません。」

先ほどまで震えていた唇は、恐怖ではなく、興奮のあまり震え。冷静だった口調にも熱がこもり、今にも立ち上がりそうに腰を浮かせた。

「確かに、アーサーは不思議な人物だった。数回しか会ったことはないが、その姿を忘れることはできない。こうして目を閉じるだけで、思い出すことが出来る。だからこそ、貴公がアーサーの後ろ盾になり諸侯を糾合すべきだ。」

将軍は正面に座る彼の目を見ることで、相手を落ち着かせようとした。

「やはり無理です。今回の計画を知っている者が、生きていてはいけない。どこからか情報が漏れた時に、何も知らないアーサー卿や他の者達にも迷惑がかかり。あまつさえ、計画自体アーサー卿が企てた疑いさえも生まれます。何より、自分が処刑されることでアーサー卿や妹に大義名分が生まれ。諸侯をまとめ上げる事に役立ちます。同情・憐み・恨み。どんな事でもいいのです。周りが納得をし、疑いをもたれなければ。」

「確かに正論だと思う。だが、納得はできない。」

「将軍。自分は無駄に命を散らすわけではないのです。この命は国を救い、新たに作り上げる土台になります。」

彼はゆっくりと胸に手を当て、うつむきながらゆっくりと息を吐く。

その姿はすべてを神に捧げ、命までも燃やし尽くしてもなお祈っているようだ。

将軍の目には彼がすでに燃え尽きており、すべてを受け入れているように見えた。

「もう何も言うことはない。」

それが将軍の言える最大の言葉であり、彼を救う言葉である。

「感謝を。」

彼は自分に言い聞かせる様に呟き、自然な動きでテーブルに置かれていた杯を握りしめ、口元に近づけると中身を一気に飲み干す。

「いい酒だ。」

まるで子供の様な、くったくな笑みを浮かべた。

これが彼にとっての、最後の笑みになる事を知っていた。将軍は素手で心臓を鷲掴みにされ、握りつぶされているような感覚に襲われた。

その思いを紛らわし振り払うために、彼の杯をひったくり、代わりに酒の入った瓶を置いた。

将軍は無言のまま、杯の口を見える様に彼に突き出す。

一瞬驚いたように目を見開いていた顔は、再び先ほどの笑みを浮かべ、ゆっくりと瓶の蓋を開け、酒を並々に注いだ。

将軍は杯を口元に近づけると、一気に飲み干した。

並々に注がれた酒は、将軍の口元から溢れ、髭をつたっていくように流れ落ちる。

まるで小さい子供が、初めてジュースを飲んでいるように。

「確かにいい酒だ。」

テーブルにたたきつける様に杯を置くと、将軍もくったくなのない笑みを浮かべた。

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