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王の友  作者: ARIKA
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第4節

1歩1歩近づく足音、将軍は大きく息を吸い込み肺を空気で満たし、蓄えた空気をゆっくりと吐き出す。

槍は呼吸をするように、左右に揺れ動く。それでも槍先は白銀の兵士をとらえている。

将軍が呼吸を整えると、白銀の兵士との距離は5歩半まで縮まっていた。

そしてもう1歩踏み込むと同時に、将軍は足の裏に力を込め、足の裏を地面にこすり付ける様にして、自ら1歩距離を縮めた。

将軍は前に進む力を利用して、脇に挟めていた槍を突き出す。

まるでボウガンで打ち出される矢のように、真直ぐと放物線を描かず、白銀の胸に吸い込まれていく。

(とった。)

将軍にとってはいつも通りで、数えきれないほど繰り返してきた事であり、勝利を確信し心の中で呟いてしまったが。

心の奥では期待通りには進まず、白銀の兵士に対して落胆していた。

期待と失望、相反する気持ちが将軍の心の中を渦巻いていた。

(この程度か、期待をしすぎるとろくな結果は出ない。期待するからこそ落胆が大きい、期待しなければよかったのか。)

将軍は自らに問題を投げかけると、左腕を伸ばし切り槍を完全に突き出した。

この後はいつものように、硬い鎧に槍先が食い込み、肉を裂き骨を砕き、肺を潰し命を刈り取る。

何度も感じてきた感触で、一生なれる事がない最悪な手ごたえが。

しかし、槍の刺さる金属音も聞こえてこず。

何かに絡め取られた様に、槍は動きを止める。槍先は、沈むように少しだけ刺さっていった。

引いても押しても、前後に僅かに動くだけだった。

将軍は焦りを隠すことが出来ず、状況を理解しようと目を細め槍の先を見る。

そこには白銀の兵士が槍を右脇に挟み込み、親指と人差し指を相手に見せる様にして柄を握りしめている。

「はっ。」

間抜けな声だ、将軍は思わず出た言葉に絶句し、続く言葉を下唇を噛むことで、無理やり喉の奥に押し込んだ。

将軍は自分の槍が相手に絡め取られるように、掴まれている事に衝撃を覚えつつも、反射的に槍を手放し。

年齢に似柄はない動きで、バックスッテプをしながら。

左手を後ろに伸ばし、突き刺さっている1本の槍を掴もうとした。

助けを求める様に伸ばした指先に、槍の柄が触れた瞬間。

目の前の白銀の兵士は、左手に握りしめていた剣を、将軍めがけて突き出していた。

将軍の目には、自分の動きも、相手の動きもスローモーションに見えていた。

人は死に直面した時、今まで出来事が走馬灯のようによみがえる事がある。

そして、自分の命が終わるとき、すべての感覚が研ぎ澄まされ、1秒を何十倍に引き伸ばされる。

将軍は直感的にわかっていた、自分が槍を掴んだとしても、そのころには相手の剣が胸を貫いてることに。

将軍は精いっぱい優しい笑みを浮かべると、目をつぶった。

今まで自分が繰り返してきたことを、自分が受ける番だと。

悔いは残る、だがそれ以上の達成感もある。

次の瞬間時間はいつもの時を刻み、現実に戻される。

将軍の耳には聞きなれた、鎧と剣先が奏でる金属をが響き。痛みと衝撃が、その身を焼くはずだった。

しかし、胸を軽く小突かれた様な感覚と、寂しい金属音が将軍の耳い届いた。

バランスを崩さないほどの、小さな衝撃を受けた将軍は、閉じていた眼をゆっくりと開く。

衝撃があった胸を右手で触るが、鎧には穴などなく剣も刺さっていない。

手から伝わってくる感覚は、触りなれた自分の鎧の表面であり。

そのすべてが自ら知っている傷ばかりだった。

(まだ生きているのか。何が起きている。)

将軍はいまだに自分の置かれている状況が割らず、眉をひそめた顔は困惑の色を隠せていない。

ふと将軍の耳に、静かに雫が落ちる音が聞こえた。

(雨。違う雨雲は出ていなかった。しかし、今自分の体に影がかぶさっている。)

ここにきて初めて、自分が何かの影に隠れている事に気が付いた。

ゆっくりと顔を上ると将軍の前を遮る様に、先ほどまで後ろにいた老兵が立っている。

しかし、先ほどまでとは決定的に違うところがあった。

それは老兵の背中から飛び出す様にして、剣先が顔をのぞかせ怪しい光を放っている。

突き出された切っ先からは血が滴り落ちて、水たまりを作らず地面に吸い込まれるように消えていく。

「なっ。」

将軍は思はず出た言葉に、掴んでいた槍を離しそうになりながらも、手の中で握りなおした。

「儂ごと貫け。」

それはいつもの茶を濁したような渋い声だが、声の端はかすれ、先ほどまでの陽気さは一遍もなかった。

しかし、その声は力強さは失わずに、逆に鬼気迫る決意が伝わってくる。

老兵は人差し指と中指で挟むように、突き刺さっている剣のつばを掴み、白銀の兵士の左手を握りしめ。

残った右腕で相手の左手首を掴み、自分の体重を乗せる様に前屈みになり、刃の部分を完全に刺し込んだ。

後ろから見ていた将軍は、老兵の背中から伸びていく剣先を眺める事しかできなかった。

背中の傷からは染み出る様に血が流れ出し、剣先から流れている血と地面で混ざり合い。

血を含んだ土は、血を吸収しきれずに小さな水たまりを作り出した。

それは確実に老兵の命を吸い込み、死への階段を駆け上がっている。

「はやくしろぉ。」

老兵は肺から逆流した血で口元とを赤く染め、バイザーの隙間から赤い液体が流れ落ちている。

(すまん。)

将軍は心の中で呟き、上半身を捻り腰を回転させるように老兵の背中に槍を突き出した。

いつものような洗礼された型ではなく、咄嗟に繰りだされた格好の悪い一撃。

しかし、将軍の槍が老兵の背中を突く前に、耳をつく金属音と共に胸に激しい衝撃が襲った。

胸を焼くような痛みが全身に伝わり、頭の中では危険信号が鳴り響く。

思わず握りしめていた槍を落しそうになるが、歯を食いしばり力の限り握りしめ。

すべての力を振り絞り槍を突き出した、しかし、その突きには先ほどまでの鋭さも早さもなく。

震える手で打ち出された一撃は、鎧の表面を撫でるだけで傷をつける事さえもできない。

老兵に覆いかぶさる事で、その場にとどまることが出来た。

しかし、老兵の足には力がこもっておらず、白銀の兵士に寄りかかる事で、初めてそこにいることが出来ていた。

その力の抜けた体は、とうにその命を燃やし尽くした抜け殻だった。

老兵は死しても、その手を離さず最後まで己の行動を貫いている。

(息をしていない。もう息絶えているのか。なぜこのような行動をしたかは、わからないが。命を賭して最後の機会を与えられてというのに、自分は何をしている。一人で立つこともできないのか。)

少しずつだが確実に手足の感覚が鈍り、まるで氷ついたように動かなくなってきている。

体は少しでも体温を上げるために、震えか痙攣かわからないが体を小刻みに動かす。

それでも体は脳から発せられる命令を、拒絶し続けた。

将軍の食いしばった歯の間から、漏れ出す様に粘力が強い赤い液体が流れ出し。

糸を引く様に老兵の鎧をつたい、地面に流れ着き赤い水たまりに混ざり込む。

将軍は朦朧としていく意識の中、上半身の重心少し後ろにずらし、老兵の肩に顎を乗せることで顔を上げた。

その虚ろな瞳は、以前の力強さはかけらもなく、いつ閉じられてもおかしくはない。

その瞳の端には鎧をうまく着ることが出来ず、不格好な騎馬兵が映り込んでいた。

全身を覆い尽くすフルプレートアーマーは、あからさまに大きく体のサイズに合っていない。

将軍は自分が死に直面しているはずなのに、その騎馬兵から目を離すことが出来ず。

なぜか、クーデター前夜の記憶がよみがえってきた。

それは式典を明日に迎えた日の夜だった、将軍はつい先日部下にクーデターの結構日を告げた部屋だ。

真っ暗な部屋には中央に長方形のテーブルが置かれ、その中央に1本のローソクが置いてある。

隙間風が入る度にろうそくの火は小さく揺れ、辺りを照らす。

先日のと違いは、そこに置かれている椅子の数と、2人の人影がある事だ。

1人は顎髭を貯えた将軍で、右手には杯を握りしめ、注がれている酒が波打つたびにろうそくの光で反射していた。

もう1人は椅子に腰かけ腕を組んでいる姿が、ろうそくの光でうっすら浮かび上がる。

断片的に見えてくる人影は、男性で成人はしているが、まだ青年と言っても過言ではない面影を残し。

褐色の髪を後ろで束ねる様に結び、目元がやや鋭く強張った印象を与えるが、唇の端が少し上がっていて、目元の印象を和らている。

その整った顔つきは、誰が見ても好青年に見え。

好意的な印象を受ける、そして、その口元はベディヴィアと似ていた。

「貴公は前々の計画道理今夜のうちに王都を出発し、街道沿いの商人と合流し。その後領地に戻られろ。」

「いや、自分はこの場に残ります。」

青年と似つかわしい彼が静かに口を開いた、その声は成人男性よりやや高く、声変りをする前の様だ。

そのためか、普通の男性より優しい声が響き渡る。

「貴公は何を言っている。」

将軍は手に握りしめていた杯の底をテーブルにたたきつける様に置き、怒りで震える手を左手で抑え込んだ。

しかし、半分以上入っていた酒は、杯の中から逃げ出す様に飛び散っていた。

「今回の計画では貴公が最も大事な役目をおうはずだ。いまさら変更はない。」

「いや。計画は変更する。自分は明日式典に参加し、他の者と同じく処刑される。」

「なぜだ。なぜ貴公が死なないといけない。今回の計画は、貴公が王都の近くで起きた商人同士のいざこざを、仲裁するために王都を出発し。仲裁後遅れて式典参加しようとする。しかし、王都に引き返す前に商人伝で、王都での反乱を知り。領地に引き返し、反将軍の連合を組み貴公がこの国を救う。その計画のはずだ。いまさら変更はできない。」

将軍は珍しく感情的に言葉を発し、身を乗り出している。

その姿に驚きながらも彼は、そっと口を開く。

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