第4節
「そうか。だからガイド卿は此方らの顔色を窺うように、挙動がおかしかったのか。しかし、アーサーの名を告げた時のあの眼差しは、復讐と嫉妬がこもっていた。」
将軍は懐かしむように口を開く。なぜあの時の姿が印象深く残っているか、その意味を初めて知ったような気がした。
「そう。あの子はすべてに裏切られ、自ら処刑台の階段を上っていかなければいけない状況に、心が付いていかず。アーサーに対しての恨みで心をつなぎとめていた。誰もあの子の事を理解しようともせずに、あの子に罪を押しつけた。」
「それゆえ、あなたがこの時期にこちらの陣営に加わった理由ですか。」
「儂が加わった理由か。将軍あなたと変わらんよ。」
一瞬の静寂、誰の目からも明らかなほどに、将軍の目つきは鋭くなり空気が重く変わった。
老兵はその気配に当てられながらも、わざとらしくバイザーの口元を抑え、笑いをこらえている真似をした。
「そう殺気立つな。儂も儂なりに考えがあるだけだ。将軍の邪魔をしようとは思わん。むしろ手助けをしようと思っている、アーサーを見極めるために。」
「かなわんな。自分も随分年を取ったが、あなたには勝てる気はしません。」
「当たり前だ。年季が違う、しかし。」
老兵は前を向いたまま1歩下がり、戦場を見渡す様に首を動かす。
バイザー越しで目線はわからないが、その眼には刻一刻と変わりゆく戦場と、今まで起きたことの痕跡が映っていた。
「これがついこの間、初陣を迎えた者の戦い方か。よほど良い参謀が付いていると、疑いたくなる。それか歴戦の勇者が助言しているのか。しかし、軍部のほとんどは此方の陣営にいるのであろう。」
「その通りだ。軍部のほとんどは此方の陣営に引き込んだ、一部国境警部の者達には声をかけなかったが。そう考えるとアーサーの方には初陣の者や、戦場に立ったことのないものしかいなかった。しかし、ふたを開けてみればこの結果。」
「まるで我らの心を見透かす様に、次々と先手を取って勝ち続けている。よほど優秀なものに用兵学を教えられたか、自ら知識を集めそれを実行しているか。」
「書物に頼っているとすれば、膨大な数の書籍または史記から知識を得ている。史記自体もかなり詳細に数多の戦場の事を書いているはずだろう。」
そこで2人は同じ疑問にたどり着いた、それほどの経験を持つ者の史記だとすれば、いったい誰の史記であるかと。
この国は建国してから数十年がたっている、今まで数々の兵が死んでは生まれてきた。
その中でこれほどの戦歴を持つ者は、数得るほどしかいない。
一番有名な所で建国の父であるアーサー王。しかし、アーサー王の書籍があるとすれば、国が管理をしていて流失することはない。
次に有名な人物はいるにはいるが、その人物はこの国の歴史からは抹消され。当時の本でも名前を塗りつぶされるほどである。
何よりもこの2人は天才だった、他人が模範しても実行することは不可能な机上の空論や、憶測に推測を加えたような、矛盾をはらんでいた。
彼らの記録が克明に記されていたとしても、信じがたい事実ばかりで、真似をしたとしても、失敗は目に見えている。
将軍は自然な動きで髭を撫でる、まるで呼吸をするような自然な動きだった。
「どちらにしてもアーサーは、我らの想像以上の実力を持っていた。これがどう転がるか。」
「将軍きましたぞ。」
老兵は将軍の言葉を遮り、ゆっくりと動き出す。
すると将軍の影は長く伸びたように広がり、広がった部分から染み出る様に老兵が出てきた。
「アーサーが来たのか。」
老兵は前方の一点を指さす、ピンと伸びた腕と指は年齢を感じさせないほど、しっかり一点のみをさしていた。
将軍は額にしわを寄せ目を細めて、目を凝らして指でさされた場所を見た。
「あれがか。」
初めてまじかで見たアーサーは、全身を白銀の鎧で覆い素顔すら見ることはできない。
しかし、その鎧は至る所に傷で装飾され、返り血でまだら模様に赤黒く塗装されている。
まさに戦場を生き残ってきたあかしである、後方に隠れていたものではなく、常に最前線で戦い続けた事を物語っていた。
(格好を見ればその人物の為人がわかるというが、まさにあの姿がすべてを表している。例えあれがアーサーではなくとも、やつの背中を追いかけていく者にしたら、あれほど逞しく頼もしいものはない。)
将軍の白銀の兵士を見る目が、今までは値踏みをするような目つきから、羨望する眼差しに代わりつつある。
ここにきて将軍は、やっと自分の考えに確信を持つ。
「将軍。」
老兵は腰に差していた剣の柄を握りしめ、左手で鞘添えながら腰を少し落し、前屈みになりいつでも攻撃態勢に移れる姿勢を取った。
将軍は老兵の前を遮る様に左手を伸ばし、前に出るなと無言で伝え。
右手に握っていた槍を両手でしっかりと握り直し、右脇で挟めるように構え槍先を左斜めに向ける。
長年使い続けた型で、構えに一寸の迷いもよどみさえも見えない。
長物を使った時の攻撃方法として。突く・払うが多く、その2つの動作が攻撃の起点になる。
剣のように振り下ろすことも可能だが、槍のような長いものを振り上げると、胴が無防備になり隙が多く。
懐に接近されやすく、槍の長さを生かすことが出来ない。
まれに木の長槍を作り、密集して相手の頭の上に振り下ろすこともできるが、あくまでも集団の利点を生かして、相手が懐に入る隙を与えなければ可能である。
そのため、個々の戦いでは振り下ろすことはまずない。
そして、相手は全身を鉄で覆い隠しているために、槍の払いはその鎧を切り裂くことできない。
そう考えると全身の力を込め、槍の一点に集中すれば、鉄の鎧すら貫くこともできる。
そのため将軍は状況を瞬時に判断し、突きの構えを取った。




