表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王の友  作者: ARIKA
46/58

第4節

響き渡る怒号、飛び交う言葉、兵士達は不意の敵に統制を失いかけている。

将軍は側面から現れた敵の一団に困惑し、一瞬目の前の敵を忘れてしまった。

しかし、今までの経験のおかげか、すぐさま頭を切り替え思考を巡らす。

フラッシュバッグの様に、断片的ではあるが頭の中で今回の戦いを思い出し。

今まで戦歴と照らし合わせ、類似点を探し相手の思考を読もうとした。

アーサーは戦歴こそ未熟だが、普通の本などには記入されていないような作戦を使う。

それは子供じみているが、戦歴が多いものほど陥る。今まで経験したことがない作戦や、机上の空論である作戦を使う。

奇策でくると思えば、正攻法で仕掛けてくる。まるでこちらの心理を読みきったような、心を見透かせれている気になる。

これはど読めない相手は初めてだ、押せば退き、退けば攻めてくる。

嫌なタイミングで攻撃を仕掛けてきて、狙ってか偶然かこちらのいやな部分を攻めてくる。

「伝令はいるか。」

将軍は視線を前方に向けたまま、声を荒げる様に叫ぶ。

1人の若い兵士が転びそうな勢いのまま将軍の足元に跪いた、上半身を覆うように、皮をつなぎ合わせた鎧で身を包み込んでいる。

「ここに。」

その若い声は戦場には似つかない清々しく、耳触りの良い声だ。

「今すぐ後方の部隊に赴き、後方に斥候を放つように伝えろ。300の兵すべてを使っても構わない、広い範囲に分散させるようにしろ。アーサーの兵は我々の想像よりかなり多いのかもしれない、それを確かめるためにも広い範囲を知らなければならない。このままだと、何時何処から敵が来るかわからず、兵達の士気が落ちる一方だ。すぐにいけ。もしもの可能性もある、何人か連れて行け。」

せかされる声に背中を押され、伝令の兵士は勢いよく立ち上がると、こけそうになりながらも走り出した。

「将軍は優しいですね。」

「何のことだ。」

将軍は振り返るそぶりも見せずに、目の前の戦場を見つめたままだった。

「若者を死にいかせないことですよ。」

将軍のすぐ後ろに一人の兵士が立っていた、全身を鉄を繋ぎ合せたような鎧で身を包み込み。フルフェイスの兜で顔を見ることはできないが、そのお茶を濁したような渋い声は、その人物の年齢を表している。

その兵士はまるで将軍の影から出てきたように、ゆっくりとそして静かに表れていた。

「儂にしてみれば貴公の変わりように驚いている、こちらが有利な戦況で我らにつくのはわかる。しかし、貴公はクレイガボン砦の陥落の報を聞いてから、我らの陣営に加わった。前の一戦で完全に流れはアーサーの方に傾いた、それを証拠に前の戦いを境に中立を保っていた貴族どもが、アーサー支援を表明した。我らの内情を知るためや、裏切るためであってもこのタイミングで我らにつけば、敵味方に怪しまれ立場を悪くするだけだ。貴公の行動は支離滅裂だ。」

将軍は髭を撫でる様に触り、目を細め鋭い視線を後ろにいる兵士に送った。

殺意だけで人を殺せそうな視線を浴びながらも、兵士の声には動揺の色は全くなく、先ほどより楽しそうにも聞こえた。

「どう思われますか。」

人をおちょくる様な問いに、将軍はかすかに眉を動かすがそれ以外は微動だにしない。

「孫の敵討ちか。」

一瞬空気が凍りつく、この場だけ温度が下がったような異様な空気が漂う。

その空気はこの場が戦場である事を忘れさせるような、そんな気さえも起こす。

「子供は出来が悪いほどかわいいものです、あの子はね。」

「出来が悪い。」

将軍は予想外の言葉に驚きを隠せず、声にも困惑の念があった。

「貴公の孫のガイド卿は優秀で将来を嘱望されている。そう聞いていたが。」

将軍の後ろに立っていた兵士は、ガイド卿の祖父にあたる人物。当の昔に隠居し家督を息子に譲り、最近まで領地に引きこもっていた男。

「信じられないという顔ですね、確かにあの子は物覚えがよく、聞き分けもよかった。あくまでも表面上は親の期待を一身に受け、自分なりに努力もしていた。あの子は軍人ではなく、一領主で生涯を終えるなら。優秀であったかもしれない、可もなく不可もなく領民が望む姿を演じて。」

兵士は懐かしむようにし空を見上げる、兜に隠れて顔は見えなかったが、スリットの奥で光るものが流れ落ちた。

「しかし、あの子は戦場に赴いた。成人の儀のようなものだった、身近に死を感じる事で命について考え。自分たちは他人の命にいかされている。もしもそこで命を落とすことがあれば、それは誰かを救うことにつながると。代々伝わってきた家訓のようなもの、当主になるためには避けては通れない道。しかし、今回はそれが裏目に出る結果につながった。」

その声には先ほどのいたずらをする子供の声はなく、只々悲しみを帯びて聞いているものの心を締め付ける。

「あの子は命辛々戦場から逃げ帰ってきた、地獄から必死に逃げてきたはずだった。」

「逃げてきたはず。」

将軍は思わず出てしまった言葉を誤魔化すために、口元を手で隠した後に髭を撫で始めた。

「もしかしたら、戦場で死んだ方が楽だったのかもしれなかった。帰って来てからも地獄だった。彼を向かいいれる領民は、彼の事を汚いものでも見る目で睨み付け、あの子を罵倒した。小さな子供さえあの子を卑怯者とののしり、石を投げつけてきた。今まで領民の為に尽くしてきたことを否定され、苦しんだ。いや、領民だけならよかったのかもしれない。逃げる様に家に駆けこんだあの子には、更なる悪夢が待っていたのだから。」

ガイド卿は走っていた、悪夢から逃げ続ける様に走り続けている。

出立前にはあれほど綺麗で汚れ一つなかった鎧が、泥や血が付着しまだら模様になっている。細部に施されていた細工も壊れ、小さな凹みを残すばかりで、あるはずのものがなくなっていた。

出立するときの供は誰もいない、皆彼を逃がすためにその命を散らしていった。

彼はその者たちの思いを胸に、地獄から生還してきた。

しかし、ここは彼の天国ではない、地獄の続きなのだから。

ベイドン丘の戦いから数日が経っていた、ガイド卿は足元もおぼつか無い状態で、自分の家のある街に帰ってきた。

彼はやや頬がこけ、強かった眼差しは力を失い、戦いの前の覇気は完全に消え失せていた。

(やっと帰ってきた。俺の町だ、早く家に帰って無事を知らせなければ。俺を逃がすために犠牲になった者の、供養もしなければ。やる事がいっぱいある、一番に父上に無事を知らせなければ。)

彼の家は大通りをまっすぐ道なりに進み、町の一番奥にある。

ふらついた足取りで進む彼に、ある疑問が浮かんでいた。

なぜ大道り人がいないのか、もう日は高くいつもなら道の脇には小さな露店が開いて、冗談交じりに値段交渉や世間話が聞こえてくるはず。

それなに騒がしいはずの町がやけに静かで、自分一人しかいないのではないかと錯覚した。

彼は道の真ん中で足を止め、誰かを探す様に町を見渡す。

不意に木が擦れる鈍い音が聞こえてきた、建付けの悪い木の扉を開け音だ。

彼は内心安心した、誰もいないと不安になっていたが人の気配がし始めた。

その音に続く様に地面をこする様な足音が、聞こえてきた。その音は一つでなく、一つまた一つと増え重なる音は合唱のようだ。

家や物陰から現れた人たちは、うつむくように現れその顔を見ることはできなかった。

町の人々は彼を中心に円を描く様に囲んだ、ガイドはまるで見世物や生け贄になった気分だ。

彼は頬を引き攣らせながらも、無理やり笑みを浮かべ。

「皆元気だったか。」

震える唇で声を絞り出した、彼の言葉に返事はなく、彼の言葉だけが虚しく響く。

「ガイド卿。」

背筋に寒気が走った、まるで背中に氷を入れられたように全身に鳥肌が立った。

「ガイド卿で間違いありませんか。」

弱々しくぼそぼそと聞き取りにくい声だが、なぜか名前の部分ははっきりと聞こえてきた。

「そうだ、今帰った。私は健在だ、皆には心配をかけたが安心してくれ。」

両手を広げ演説をするように虚勢を張り、震える体を誤魔化した。

「ガイド卿。」

「ガイド卿。」

周りにいる町民が呟く様にガイド卿の名前を呟く、子供も大人も老若男女関係なく。

すべての言葉が、音がこの言葉に置き換えられたと錯覚するほど。

「止めろ。止めろ。止めろ。」

頭に鳴り響く自分の名前、ガイド卿はあまりの事に顔を大きくゆがめ、両手で頭を抱えその場にうずくまる。

その姿は以前の彼からは想像が出来ず、悪夢に悩まされた子供が布団の中で丸くなっている姿に似ている。

彼は四つん這いになり、地面を這いながら人ごみをかき分けようとした。

「人殺し。」

吐き捨てる様聞こえてきた言葉に、ガイド卿は自分に向けられた言葉とはわからず。その横を四つん這いになりながらも、通りぬけようとしていた。

「人殺し。」

ガイド卿の目の前に木の枝と見間違えるほどの、細い2本の足が行く手を遮る様に現れた、ガイド卿は動きを止めゆっくりと視線を上げていく。

そこには麻色のスカートを穿いた5歳ほどの女の子が立っていた、その子もうつむきながらガイド卿を見ている。

女の子は左手でぬいぐるみを大事そうに抱え、右手には灰色の塊を握りしめていた。

「父の敵。」

「えっ。」

女の子は無造作に右手を振り上げると、ガイド卿が言葉を発する前に勢いよく振り下ろす。

突然額に激しい痛みと衝撃がはしった、灰色の塊が鈍い音と共に地面にめり込むように転がった。

ズキズキと刺すような痛み、何か温かい液体が額をゆっくりと流れ落ち。

左の視界が赤く染めあがり、反射的に目を閉じ液体を拭う。

手のひらには血がべったりとこびり付き、指をすり合わせると土と混ざりざらざらとした。

初めは自分の血だとは理解することが出来なかった、しかし、地面に落ちた塊を見たときに表情が一変した。

それはこぶし大の石だった、女の子は左手にぬいぐるみを持ち、右手には石を握りしめていたのだ。

ガイド卿はあまりのアンバランスに、思考が付いていかず。頭の中はさらに混乱したが、追い打ちをかける様に罵声を浴びせられた。

「人でなし。」

「なんでお前が生き残っている。」

「父を返せ。」

「夫を返して。」

次々に発せられる言葉に、ガイド卿は声にもならない叫びを上げながら走り出した。

何もかも拭い去る様に、走り続けた。

息が切れても、何度も足を縺れさせながらも進みなれた道を走り続ける。

彼は自分に向けられる眼差しと罵声から逃げる様に家にたどり着いた。

その家は全体に白を基調とした色が使われており、家の周りを石の塀で囲み。塀の上には鉄出てきた、槍の先のような柵がつけられている。

彼は鉄の棒をいくつも並べた、柵状の門の前で自らの帰還を告げている。

「父上ただ今帰りました。ガイドです。」

ガイド卿は両手で門の柵を掴み、前後に揺らしながら時折後ろを振り返っていた。

誰かが背中に迫っているのではないかと、早く安全な家に帰りたいと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ