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王の友  作者: ARIKA
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第4節

白銀の兵士の行く手を遮るように、歩兵が待ち構えていた。

兵士は全身を鉄で覆い隠し、手には鉄でできた槍をわきに抱えるようにして、槍先を白銀の兵士達に向けている。

その重厚な布陣は、壁そのもので攻撃するのを躊躇ってしまう。

兵士の中には、相手に威圧され歩幅が狭まり失速していっていた。

「後続の中に遅れる者が出始めています。相手は重装備のため足は遅いので、迂回などした方がよいのではないですか。」

セントは息を切らせながら先頭を走る、白銀の兵士の背中に向けて言葉を発した。

「駄目だ。相手の歩兵の側面に騎馬兵がいる。進路を変えた瞬間に、側面を襲われる。」

「しかしこのまま直進しても、あの兵達に阻まれ全滅は免れません。」

「活路ならある。」

白銀の兵士は、自分たちが向かっている兵士の方を指し言い切った。

「皆限界を超えている。ここで立ち止まれば、気を張っていた糸が切れ動けなくなるのも出る。ならば死地に活路を見出す以外ない。」

白銀の兵士が言った通り、兵士達の肉体的な限界はとうに超えていた。

今彼らを突き動かしているのは、自分たちの偉大なる人物。アークトゥルス王の再来と呼ばれている、アーサーただ一人。

そのアーサーが傷つきながらも、自分たちの前を走り続けている。

その事実のみが、彼らをこの場に留まらせて背中を押し続けていた。

戦場に立つ者なら皆が知っている、今対峙している将軍の偉大さを。

だが、その偉大さよりもアーサーと言う人物の方が大きく見える。その体を戦場にさらし、兵士達と一緒に血を流し。

共に戦い続ける姿に、兵士達の希望が詰まっている。その小さな背中に国という重みを背負いながらも、走り続ける後姿に少しでも追いつきたいと。

その背中がある限り、兵士達は歩みを止めることはない。

セントは後ろを振り返ると、喉まで出かけていた言葉を飲み込んだ。

そこには必死になって走ってきている兵士達がいた、そのすべてがボロボロで。

足を引きずる者や、這い蹲りながらも付いて来ている者さえもいた。

綺麗であったろう鎧も、傷だらけで返り血と泥で汚れきっている。

それでも、皆顔には笑みが浮かんでいた。ありえない光景だ、今まさに死にに向かうのに、なぜ笑っていられるんだろう。生き残ることは絶望的だ、ここで死んだふりや意識を失った方が楽なのに。もしかしたら、捕虜になった方が生き残る可能性は高い。

それなのに、誰一人足を止めることをせずに笑みを浮かべながら、白銀の兵士の背中を追い続けている。

セントには理解できなかった、そう理解することはできなった。

セントは不意に口元に手を伸ばし確認すると、自分の頬が上がっていた。そのまま顔をなぞるように触ると、自分も笑みを浮かべている事に気が付いた。

(自分も同類かな。この死地でさえ、笑みを浮かべている。最初はアーサー様の為だったけど、今はこの人についていきたい。考えることはなかった、ただこの人に少しでも近づきたかっただけだ。)

「いくぞ。」

白銀の兵士は自分自身に言い聞かせるように呟くと、雄たけびを上げた。

戦場に木霊する雄たけび、他の兵士も続くように雄たけびを上げる。

自らを鼓舞し、相手を威嚇する声。

相対している者にすれば、体中が傷だらけでボロボロな姿でも。笑みを浮かべながら、雄たけびを上げて迫ってくるのは。あまりの異様な姿で、言い知れない恐怖を覚える。

誰もがこちらを見ているが、自分たちを見ていない。自分達の背中にいる将軍が見えているように。

言い表せない恐怖に、唇を強く噛み意識を保とうとした。

口の中に血の味と鉄の臭いが広がる、あまりにも強さに噛みきり口元を赤く染め上げた。

「歩兵構え。」

どこからか響いてくる声に、兵士達は中腰になると槍を構えた。

恐怖と裏腹に、槍先は震えておらず寸分の狂いもなく、迫りくる白銀の兵士達の方を向いていた。

迫りくる足音、荒くなる息遣い、額を流れ落ちる汗。

兵士達は来るであろう衝撃に耐えるために、全身に力を込めた。それはまるで石のように、不動で硬く重く。

段々と近づいていく距離、セントと相手の距離が20歩ほどに近づいた時。

予想もしてないことが起きた、それは急過ぎて理解することができない。

それは相手も同じだった、もしかしたら相手の方が衝撃は大きかったのかもしれない。

突然太陽に雲がかかったように、辺りがうす暗くなると。

陣形を組んでいた歩兵の左側面に、矢の雨が降り注いだ。

数は多くなかったが、突然の敵襲に混乱と驚きを隠すことが出来ない。

兵達は目前の敵より、側面からの攻撃に意識が移ってしまっていた。

白銀の兵士は乱れた陣形の、間を縫うように進んでいく。目の前の兵士が、右に動けば右に動き。突然動き出せば、わかっていたように避けた。

迷路の中を気配を消しながら、足音や存在を相手の集団の中に溶け込ませて。まるで暗闇の中に、自身を溶け込ませたように。それほど見事で、相手の兵士達に一度もぶつかる事もなく進む。

セントは人ごみをかき分けながら、どうにか進むことが出来た。しかし、何時何処から相手がこちらに気が付き、剣や槍を向けてくるのではないかと。恐怖しながら、心を強く持って進んだ。

白銀の兵士は人の迷路を抜けながらも、目の端では攻撃を仕掛けてきた方を見ていた。

白銀の兵士の目には、全身を黒い鎧で覆いながらも、華奢な体を隠すことが出来ず。まるでお下がりの大きい服を着ているようで、ぶかぶか感を漂わせた兵士が馬に騎乗していた。

(あれはベディヴィアか、なぜ彼女がここにいるんだ。まさか、主もここにきているのか。)

白銀の兵士は背筋が凍りつくような寒気を感じた、それは死の恐怖ではなく、主の身の危険を案じているためだ。

白銀の兵士は主の事を考えながらも、その足を止めることはせずに突き進んでいく。

セントはその背中を追いかけるので必死で、後ろにいた兵士達の事まで気が回らない。

何度もその背中に声をかけそうになるが、そのたびに抑え込み言葉を飲み続けた。

自分が話しかけることで相手見つかり、危険な目に合わせてしまうのではないかと、心配で気が気ではない。

セントは白銀の兵士ほどではないが、人の波をかき分けながら進んだ。

セントは目の前を遮るように飛び出してきた兵士に、体を預けるようにぶつかり。左手を相手の腰に手を回し、そこにあったダガーを引き抜く。刃が鞘と擦れて独特の金属音を奏でるが、その音は周りの音にかき消された。

セントは体を未着させた状態で左手に握ったダガーを、相手の右わき腹に当てると、鎧の隙間を縫うように差し入れた。

兵士はダガーを抜かれたことに気が付く暇もなく、ダガーを差し込まれて、肺をつぶされた激痛に顔をゆがめたまま意識を失った。

セントに体を預かられていた兵士は、全身の力が抜けてセントに寄りかかってきた。

セントは左手に握ったダガーを引き抜くこともせずに、身を半歩ずらした。

支えを失った兵士は、前のめりになりながら地面に突っ伏し、最後には地面に体を預けた。

麻痺する心、人一人を殺したのにその腕は震えることもせず。

兵士を見下ろす目もどこか冷たかった、まるで劇でも見ているように、セント自身が行ったことではなく。

あくまでも物語の一部なのではないかと、そう思うほどだ。



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