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王の友  作者: ARIKA
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第4節

クレータム卿は自分の下に集まる兵士達を見て、失ってしまった部下たちを悲しむより。今目の前にいる部下たちの事を考えるべきだと思い、亡くなった者たちの事を頭の隅に追いやった。

そうして頭を切り替えることで、気持ちを無理やり整理し。自分を納得させ、顔つきを変化させた。

「すぐに倒れている兵士を立たせろ。敵は目の前に迫っている、今から陣形を整える時間もない。目の前の敵の足を止めさせろ、奴らは勢いで行動している。その勢いさえ殺すことが出来れば、奴らも四散する。」

クレータム卿は抜いた剣を握ったまま、精いっぱいの声を上げ、部下たちに言を飛ばし続けた。

クレータム卿はその場で振り向き、将軍のいる方角に剣先を向け。

「この先に将軍が居られる。我々がここで敵を食い止めれば、我々の勝利だ。」

再びクレータム卿の声が木霊し、先ほどまでの沈んでいた顔が嘘のように。

クレータム卿と兵士達の顔は赤みを帯びて、士気は高揚しきっている。

しかし、運命とは残酷なものだ。一度狂った歯車は直ったと思っても、小さな歪みを残している。

その小さな歪みが、時間をかけて大きくなり、再び歯車を狂わす。

運命という名の槍が、空を飛び弧を描きながら迫っていた。

それは突然やってきた、クレータム卿は突然背中に鈍器で殴られた様な衝撃が走ると。バランスを崩して、膝から落ちそうになった。だがクレータム卿は倒れることなく、その場に踏み止まった。

それはクレータム卿が意図して踏み止まったのではなく、何かが支えになって倒れることを、許してくれなかったためである。

背中から聞こえる部下の悲鳴と共に、ゆっくりと視線を下げ、自分の支えになっているものを確認した。

それは棒だった、クレータム卿の胸から斜め下に突き出した木の棒が。地面に突き刺さり、倒れることを許さなかった。

何故自分の胸から、棒が出ているのかを理解することが出来ない。

棒からは血が滴り流れ、ゆっくりと地面に吸い込まれていた。血は止まることもなく、確実にクレータム卿の命を奪っている。

クレータム卿自身理解することが出来ない、頭がついていかないこともあるが。

何故か目の前が2重3重にぼやけて見えて、次々に考えを巡らそうとするが。

考えれば考えるほど、前に考えていたことを思い出せい。まるで黒い紙に、黒いインクで文字を書いているように。考えている事がわからず、思考は完全に混乱し。状況が整理できず、段々と考えるのが面倒になり、意識が薄まっていった。

「クレータム様。クレータム様。」

遠くで誰かが名前を呼んでいる、誰の名前なのか。クレータム卿は自分の名前すら認識する事が出来なくなり、完全に意識を失った。

兵達にとっては悪夢そのものだ、先ほどまで自分たちを鼓舞していた指揮官は死んだ。

その背中には槍が突き刺さり、槍が杖の役割をはたして。その命を奪ってなを、倒れることを許さなかった。

「クレータム様。クレータム様。」

兵士達は壊れた機械のように、クレータム卿の名前を叫びながら、その場に泣き崩れた。

クレータム卿のそばにいた兵士は武器を落し、泣き続けることしかできなかった。兵士達の頭の中では敵討ちよりも、クレータム卿を失ったという事実が上回り。誰一人立ち上がることが出来ず、白銀の兵士達が横を走り抜けても、誰もその背を追おうとはしなかった。

クレータム卿・モーカム卿死す。

3・4陣の状況を言い表すと、それしかいうことが出来ない。

陣形を失っていた、3陣はモーカム卿を失った時点で烏合の衆となり。兵達が勝手に行動し、中には逃げ出すものさえもいた。

かろうじて陣形を保っていた4陣も、クレータム卿という指揮官を失って。統率がとれなくなり、崩壊した4陣に突撃を仕掛け。同士討ちを繰り返し、仲間同士で殺しあっていた。

「将軍。」

荒い息とともに駆け込んできた兵士を、睨みつけながら。

「落ち着け。何があった。」

大きくはないが、重量感のある声に兵士は息を飲んだ。

「先ほど、モーカム卿の旗とクレータム卿の旗が倒れました。」

兵士の血を吐くような声に、将軍は眉を顰め目を閉じると天を仰いだ。

(モーカムとクレータム。本当に死んでしまったのか、クレータムお前は我が友の副官として、数多の戦場を共にしてきた。そのお前がこんなにもあさっりと、その命を失ってしまうとは。我が友になんと言えばいいのだ。モーカムお前もこんな所で死んでいいはずがない、この先のこの国の為には欠かすことが出来ない者だ。私は間違っていたのか、沢山の若者を殺し。師と仰がれていた者さえも、死地追い込み殺した。いや、違う。我らの理想のため。我の名ベンウィックの為にも。最後まで終える事で再びアヴァロンで、酒を飲みかわすことが出来る)

「我が槍を持て。」

将軍は立ち上がると、一人の兵士が2本の槍をわきに抱えるように持ってくると。

将軍の前に跪き、宝でも献上するように、両手で持ち上げて差し出した。

その2本の槍は2メートルほどの長さで、先端に短剣を括り付けたような刃がついており。柄は木製でできていて、見た目より軽量に作られていた。その2本の槍は形状がよく似ていが。先端の刃がついている根元に、布が括り付けられていて。片方は黒く濃い赤色で、まるで血で染め上げたような色をしている。もう1本は白く清潔なイメージを思わせた。槍は2本とも同じつくりでも、少しの違いで全く反対のイメージを連想させた。

将軍は手を突き出すと、2本の槍を鷲掴みにした。

しかし、将軍は2本の槍を使って戦うわけではない。

もしかしたら、30~50センチの槍を両手に持ち戦う者もいるかもしれない。

それなら現実味があるが、2メートル以上の槍を両手に持てば。その槍の重さで満足に振るうこともできず、あまりにも実戦向きでない。

それでも将軍は、目の前にある2本の槍を躊躇せずに掴み取っていた。

将軍は赤黒い布がまかれている槍を、右手に握ると。もう1本の槍の柄を地面に突き刺し、手を放した。

突き刺さった槍は、刃先を空に向けまかれた布は風になびいていた。

将軍は刺した槍に視線を送ることもせずに、口を開いた。

「騎馬兵を2隊に分けて左右に転換させろ。歩兵500を前方に出して、300で後方を警戒させろ。」

「後方ですか。」

兵士は小首を傾げながら、腑に落ちないという顔をしていた、将軍の意図が読めずに疑問に思っている。

「あの白銀の兵士がアーサーだとすれば、付従っているのが本隊だが、数的に少なすぎる。伝令はどの程度の部隊が動いたといっている。」

「正確な数ではありませんが、後方から押し上げてきた部隊は500もいなかったと。」

小首を傾げていた兵士は、背筋をピンと伸ばし体を硬直させていたが。顔は地面の方を向いていて、将軍と目を合わせようとしていない。

「アーサーの本隊は1000はいたはずだ、残り500はどこに消えた。いや、残存兵力を吸収しているとしたら、500では済まない。確かに奴らは勝っている。だが、勝っているだけだ。まだ我々にも勝機は十分にある。」

「将軍失礼だと思いますが、意見を述べてもよろしいでしょうか。」

目を伏せている兵士の中、1人の兵士が自信がないように手を挙げた。

その手は小刻みに震え、恐怖を押し殺しているのが伝わってきた。

兵士は全身を鉄の鎧で覆っていた、その表面は傷1つ無く光を反射し輝いている。その鎧を見るだけで、兵士の戦歴の浅さを物語っているようだ。

将軍は鋭い眼差しを送り、無言でうなずく。

兵士は発言を許されたと思い、唇を震わせながら口を開いた。

「先頭を走っている白銀の兵士はアーサーではなく、アーサーは本隊と共に退却したのではないでしょうか。」

「その根拠は。」

「アーサーは今撤退すれば、将軍に勝ったという事実が残ります。」

兵士の一言に、その場が水を打ったように静かになった。

この場にいるすべての視線が兵士に集まった、殺意のこもった視線は、それだけで人を殺せるようだ。

その視線を受けた兵士は口ごもり、唇だけではなく全身を震わせた。

「続けろ。」

将軍の一喝で、兵士達は我に返ったように背筋を伸ばし視線を戻した。

解放された兵士は、歯を鳴らしながら自分の体を抱いた。

「アーサーにすればここで無駄に命を散らすより、将軍に勝ったという事実と、無敗という結果が残ります。その事実だけでアーサー側に寝返るものや、アーサーに味方する民が増え。王都では民の反乱や、造反する者も出てくると考えられます。あえて目立った鎧を着たものが、兵達の注意を引いて。時間を稼いで、退却し。もしも、その者が打たれても別人と言い切ることが出来ます。」

「可能性としては、高いのかもしれない。」

「それなら。」

「しかしな、アーサーは我々と短期決戦を挑んでいる気がする。我々と同じ考えで、この戦いが長引けば他国の進行を招くと思っているはずだ。その意図を読み取れる所が何度もあった。だからこそアーサーは退却はしない。」

「それはアーサーの考えで、部下たちが許すとは思えません。」

「突然の発言に失礼だとわかっていますが、私も同じ意見です。」

「私も同じ意見です。」

「説得力はあると思います。」

兵士の意見に追従するように、他の兵士達も口を開いた。

先ほどまで兵士に鋭い視線を送っていたとは、思えないほどだ。

将軍は無言のまま片手を挙げて、兵士達を制すと。

「アーサーは退かない。奴が退けば、今まで積み重ねてきたものが崩れかねない。いや、あのベイドン丘での行動を考えると、必ず退かず。仕掛けてくる。」

ベイドン丘、その言葉に兵士達は口を紡ぎ目を伏せた。

ベイドン丘とは、この戦いの始まりといっても過言ではなかった。

沢山の兵士が死に、その責任を問われ将軍は地位を奪われ。最愛の友を失った。

将軍が国王に反旗を翻す原因であり、アーサーが英雄と言われ始めた戦いだ。

すべてはベイドン丘から始まり、国全体を巻き込んだ戦いにまで発展した。

そのことを一番知っている兵士達は、唇をかみしめ目を伏せる事しかできない。

「皆に今一度問う、アーサーは退却したと思うか。」

一瞬の静寂、皆が息を飲み口を閉ざす。

兵士達は呼吸をするのさえ忘れているかのように、静かで風も止んでいる。

「将軍の言う通りで、アーサーは来ます。」

静寂を打ち破ったのは、先ほどアーサーが退却したといった兵士だ。

いとも簡単に意見を翻したが、それを批判する者は一人もいない。

「私も同意見です。」

「将軍のお話を聞いて、意見が変わりました。」

堰を切ったように、次々と意見が飛び交う。

先ほどまでの静寂が嘘のように、熱の入った言葉が飛び交い。

いつの間にか止んでいた風が吹き始めた、先ほどまでは嵐の前の静けさだったのか。

強く、激しい風が吹き。兵士達の士気が上がっていく。

「再び命じる、歩兵500を押し出し。後方を300の兵で警戒させろ。そして、騎馬を左右に展開させて、敵の側面を削りつつ逃げようとする敵を討て。」

「了解。」

将軍の命令に力強い返事を返すと、兵士は自分の持ち場に走り出した。

将軍はその背中を見送りながら、握った槍に力を込め。

迫りくる白銀の兵士達に視線を送った。


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