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王の友  作者: ARIKA
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第4節

弓兵が持っていた矢は4~5本しかなく、2分もたたないうちにすべてを使い切る。

弓兵は背中に手を回すと、最後の矢をその手に取り、弦に当てながら力いっぱい引くと手を放した。

最初こそ勢いよく飛んでいくが、すぐに他の矢と同じく力尽き,風に流されて落ちる。最後の最後まで、矢は敵に届かず足止めにもならなかった。

無残に落ち積み重なり、白銀の兵士たちが歩くたびに踏まれ、無残にも折れていく。

弓兵は背中に手を伸ばし、矢を掴もうとしたが、その手は悲しくも空を切るばかり。

歩兵は矢が止まったのを確認すると、弓兵の間をかき分けるように前進を始めた。歩兵の強引すぎる行動は、弓兵の転倒を招き陣形の崩壊を早める一方だ。

再び1本の矢が空高く打ちあがり、兵士たちは矢を目で追った。

矢は急に失速すると、重力に逆らわずに矢じりを下にして急降下し、地面に突き刺さった。

それを合図に右翼に展開していた騎馬兵が突撃を開始した。しかし、その矢はクレータム卿の合図ではなく。偶然にも残っていた最後の1本が射られただけだ。

しかし、それをクレータム卿の合図だと勘違いした騎馬兵は、勢いよく走りだす。

騎馬兵は己を鼓舞するために、個々に奇声をあげると馬の腹を蹴り、手に持っている武器に力を込める。

兵士の気迫が馬にも伝わったのか、馬は息を荒げると打ち出されるように駆け出した。

その姿はまるで矢のようだった、その洗練された動き、無駄のない筋肉から生み出される力は、走るために生まれてきたようなものだ。

しかし、それがこの悲劇を加速させる原因になっていく。

右翼から勢いよく駆け出した騎馬兵は、状態を低くして空気抵抗を減らしながら加速していく。

馬は飛ぶように駈けていくと、そのまま敵部隊の側面に攻撃を仕掛けようとした。

そう、仕掛けようとした。

騎馬兵の目の前には敵兵は一人もおらず、戦場には似つかわしくない空白の空間があった。

騎馬兵は敵兵と味方兵の間に、滑り込むように入り込んだ。

突然目の前に現れた味方の騎馬兵に、歩兵は驚き咄嗟に足を止めたが。

走っていた勢いを殺す事が出来ずに足を縺れさせて、石にでも躓いたようにバランスを崩す。

それでも馬の脚に抱き付くように、その場に踏み止まった。

前衛の兵士が安堵の息を吐くと、誰かに背中を強く押された。いや、押されたのではなく押し倒されたのだ。それは将棋倒しのように、前の兵士に後ろの兵士がぶつかり、転倒する。その後ろの兵士も、勢い余って前の兵士にぶつかっては転倒する。その繰り返しで、歩兵部隊は騎馬兵を巻き込みながら転倒していった。

まるで地獄のような光景だった、先ほど倒された弓兵が立ち上がり前方を見ると。味方の兵士が重なりながら倒れ、痛みで悶えていた。

最初は小さな歪だった、しかし、小さな歪は波紋を生み。それがだんだんと広がり取り返しのつかない状態に変化していく。

クレータム卿は目の前で起こっている現実から目をそらし、現実逃避をしたかった。

なぜなら目の前で大切な部下たちが、仲間によってその命をちらし、その生涯を終えている。

戦場に立っているのだから、敵の手によって命を散らすことは覚悟していた。

だが、それが味方の手で、勝利のためでもなく。仲間に押しつぶされ、無駄に命を浪費し続ける。

クレータム卿の声にもならない叫び声は、部下の悲鳴にかき消され。

天を仰ぎ両手で顔を包み隠し、膝を折ると絶望の念に駆られ苦悩の表情を浮かべている。

「クレータム様。クレータム様。」

クレータム卿は何度も自分の名を呼ばれた、どこかで聞いたことがある声に反応したが。その眼は生気が感じられず、どこか虚ろっていた。

「お前は。」

クレータム卿の視線の先には、先ほど後退を進言した兵士が、跪きながら此方を見上げていた。

「今更後退か。貴様の言に従っていれば、ここまでの状態にはなっていなかった。私は。」

「クレータム様。」

兵士はクレータム卿の言葉を遮るように言葉を重ねると、力強い眼差しを向けた。

「ここは私たちが食い止めます。時間稼ぎ程度にしかならないと思いますが、その隙に将軍の下にお急ぎを。」

「ならん。」

「何故ですか。クレータム様。一時の汚名も、生きてこそ取り返すことが出来ます。ここは屈辱に耐えても後退すべきです、英断をお願い申し上げます。」

クレータム卿の顔は先ほどの絶望した表情はなく、真剣な顔つきに代わっていた。クレータム卿は何かを諭すようにゆっくり首を左右に振り、静かに口を開く。

「決心はついた。ここでアーサーを討つ。」

「お待ちを。今の状況ではアーサーを討つどころか、兵達をまとめ上げる事もできません。」

「無駄死にするつもりはない。ただ、責任を果たすのみだ。今指揮官がいなくなれば、兵は散り散りに四散し。無駄に命を散らし続ける。」

クレータム卿は腰に差している剣の柄を握ると、ゆっくりと引き抜いた。

剣と鞘が擦れ、甲高い金属音が鳴り響く。それは剣が悲鳴を上げるように、甲高い音で、クレータム卿の心情を表している。

「我はクレータム。今は亡き主のためにこの命を捧げる。皆の者我に命を預けてくれ。」

老人とは思えないほどの声で叫ぶと、剣先をアーサー達の方向に向ける。

その眼差しは先ほどの絶望ではなく、何か別の感情がこもっていた。

兵士はクレータム卿の目を見つめると、口元を緩め。

「了解。すべては亡き主のために。」

兵士も力強い声を上げた。

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