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王の友  作者: ARIKA
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第4節

「あくまでも憶測だが、前者は恐怖や躊躇があったのではないか。」

「恐怖ですか。」

セントは予想もしていなかった言葉に首を傾げながら、間の抜けた返事を返した。

思わず出てしまった言葉に顔を引きつらせ、慌てて口を閉じる様に口元を手で覆い隠した。気まずい空気がセントの鼓動を早め、今にも心臓が破裂しそうだった。

「恐怖だ。」

白銀の兵士は、まるで自分に言い聞かせているかのようだ。

「先ほどまで一緒に戦っていたものを、殺すことに躊躇しない者はいない。」

「それは。」

白銀の兵士の言葉には、何かを思わせるに十分な重さと、悲しみが込められていた。セントは自分の軽率な発言に悔いながらも、この人の強さと悲しみを少しだけ垣間見た気がした

「例え勝つことが出来ても、味方からは仲間殺しだとののしられ。相手からは、仲間を殺した恥知らず、と罵声を浴びせられる。普通の人間が背負い続けるには重すぎる。話はずれてしまったが、前者はセントの考えで正しいと思う。次に後者の矢の少なさだが、単純に弓兵の数が少なく。満足いく攻撃が出来ないだけで、それを察しさせないために追撃がなく。時間を稼いでいる可能性が高い。あくまでも憶測で信憑性はない。もしかしたら、両方もしくは片方だけがあっているかもしれない。いや、自分たちは見当はずれの事を言って。両方ともはずれかもしれない。それでもお互いの意見が、一致している所がある。」

セントと白銀の兵士の心は決まっていた、止まっていた歯車がかみ合って動き出す。

「相手の目的は足止めで、このままだと状況が悪くなる一方だと。」

2人は背中に背負っていた兵士を、服でも脱ぎ捨てるように投げ捨てると駆け出す。

その背中を追うように、他の兵士たちも背負っていたものを投げ捨て駆け出した。

中には足元がおぼつかず、こけそうになりながらも必死に追いかけている。

誰一人鎧についた土を、払い落とそうとする者はいない。唯々武器を大事そうに抱え込み、取付かれた様に足を動かし続ける。

迫りくる足音と土煙に、クレータム卿は焦りの色を隠せずにいる。

近づいてくる足音と黒い影は、約300~400だと推測することが出来た。普通の状態では脅威にもならなかったが、今の状態はそれを許すことができない。

今クレータム卿の指揮下にいる兵士は、弓兵300・歩兵100・騎馬10、合計で400ほどしかいなかった。

1500ほどいた兵士が約3分の1まで減り、部隊として秩序を守っているのが、精いっぱいになっている。

それは先の攻撃で功を焦った兵士達が、モーカム卿に続いて前に出てしまったせいだ。

後方にいた弓兵の多くはその場に残っていたが。一部の兵士達が弓を捨て、腰に括り付けていた護身用の短剣を握りしめて駆け出した。その短剣は全長が10cmほどで、諸刃のダガーと言われるもので。敵兵に止めを刺したり、致命傷を負った瀕死の負傷兵にとどめを刺して楽にしてやるために使われる。あくまでも護身用で、乱戦などに耐えれれるはずもない。

それでも自分の手で戦いを終わらせるために、もしかしたら手柄がほしかっただけかもしれない。目の前にダイヤが落ちていれば、他の仲間を殺してもほしいものだ。彼らにしたら、白銀の兵士はアーサーで一番の手柄なのだから。

クレータム卿は遠ざかっていく兵士の背中を、眺め続けることしかできなかった。

「弓兵構え。」

クレータム卿は残り少ない弓兵に攻撃の準備をさせた。

「弓兵の一斉射撃の後、正面から歩兵が攻撃を仕掛け。敵の勢いを殺した後、騎馬隊が側面から突撃し。アーサーの首を取れ。」

クレータム卿はわざと、白銀の兵士をアーサーと呼び。兵達に白銀の兵士はアーサーだと思い込ませた、先ほどまではアーサーではないと叫んでいた。ここで大きな矛盾が生まれたが、それでも今は目の前に倒すべき敵を作り上げることで。

兵士達の士気を上げ、部隊としての統率を得ようとしていた。

一種の賭けだった、もし白銀の兵士を討ち取ったとしても、それがアーサーではなかったとき。

兵士達の落胆は大きく、もしかしたら兵士達の殺意がクレータム卿自身に向く可能性もあった。それでもクレータム卿は、白銀の兵士はアーサーだと叫んだ

「クレータム様。この少ない騎馬兵では、アーサーを討ち取るのは難しいかと。何より護衛を前に出してしまったら、クレータム様の周囲が手薄になってしまいます。攻撃は歩兵に任せて、クレータム様は騎馬兵と共に交代をして。指揮系統の再編をおねがいします。」

「再編だと。3陣が崩壊し、我々4陣も数えるほどしかいない。」

「しかし、ここでクレータム様の万が一があれば。将軍をお守りできる者はおりません。どうぞ。」

クレータム卿は兵士がすべてをしゃべり終える前に、強い口調で言葉を遮った。

「貴様も今言ったはずだ、将軍をお守りする者がいないと。ここを突破されれば、本隊はすぐそこだ。ならば、ここで迎え撃つ以外方法はない。弓兵構え。騎馬隊は右翼に回れ、合図とともに先頭のアーサーを討ち取れ。歩兵も弓兵のすぐ後ろにつき、いつでも前に出れるようにしろ。もう2度は言わん、騎馬隊右翼に回って合図を待て。」

クレータム卿の鬼気迫る表情に、兵士は喉まで出かけた言葉を再び飲み込むと、天を仰ぎ。

「了解。」

兵士は自分を無理やり納得させると、クレータム卿の命令を叫びながら、列に加わっていった。

クレータム卿はその背中を見送ると、近づいてくる足音に耳を傾け。

大きく深呼吸をし、息を整え右腕を頭上高く上げ、後は号令を下すだけだ。

偶然だった、今まで背中を押していた風が止み。風が前方から吹いてきた、風は鎧の隙間から入り込み。汗でぬれた体の体温を一気に奪い去り、寒さで体を震わせた。いや、寒さだけではなく別の意味で寒気を感じ、背筋が凍りつかせた。

それは、小さな出来事だ。ある兵士が迫りくる兵士の圧力に恐怖し、腕を小刻みに震わせ。指先から逃げるように、1本の矢が滑り放たれた。

矢は空に放物線を描くように進むと、すぐに力を失って、風に押し返されながら落ちていく。矢はクレータム卿と白銀の兵士の中間あたりの地面に吸い込まれるように落ち、ななめ向きに突き刺さった。

その矢を皮切りに、弓兵たちは空高く矢を放ち始める。無秩序に放たれる矢は、風に押し返させられ、目標をとらえることが出来ず。白銀の兵士達に届く前に力尽き、虚しくも地面に突き刺さるのみだった。

「止めろ。弓兵攻撃を止めろ。」

クレータム卿の血を吐くような声にも誰一人耳を貸さず、減っていく矢を眺め続けることしかできなかった。クレータム卿は何かを掴むように手を伸ばすが、何も掴むことが出来ずに、力なく下ろされる。

指揮官の手を離れた作戦は酷いものだ、収集をつけるれ状態ではない。

いや、兵士達は自分たちが受けた命令を実行していた。それが司令官の望んだ形ではないが、それでも兵士達にはそれ以外にすることがなく。命令に従って行動をした、これが訓練をした正式兵でなければ、命令を無視して後退や、支持を待ったかもしれない。だが、司令官の命令が絶対な兵たちにとっては、新しい命令が無い限り。前の命令を実行するのみだ、どんな悲惨なことが起きようとも。



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