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王の友  作者: ARIKA
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第4節

疾風の勢いでセントと白銀の兵士は、足の止まった兵士との距離を一気につめた。白銀の兵士は左足で踏み込むとその足を軸に体を90度回転させて、相手に自分の側面を見せ。下向きに構えていた剣を兵士の肘目掛けて振り上げる、金属のぶつかる音が鳴り響き。白銀の兵士の手には強い衝撃の後に、刀身が骨を砕きながら進む感覚が伝わってきた。兵士の肘の下から剣を抜くと、腕は支えを失ったように空中を彷徨っている。

兵士の肘から下はかろうじてくっ付いているだけで、風が吹けば今にも飛ばされそうだ。

「あっっ。」

悲鳴を上げるために顎が上がり、鎧に包まれていない無防備な喉がさらされる。

白銀の兵士は腰を回す様にして、兵士の喉目掛けて剣の柄を叩き付け。悲鳴を上げさせる暇を与えなかった、兵士は少しでも空気を吸い込もうとして。短い呼吸を繰り返した、しかし潰れた喉ではうまく呼吸をすることが出来ず。

吸い込んだ空気が、口の中で出たり入ったりを繰り返すのみで、肺にまで到達することは出来なかった。兵士の痛みと酸素不足が限界を超えると、ブレーカーが落ちたように動きを止め項垂れるように膝から崩れ落ちた。

白銀の兵士は相手が倒れる事を確認する間もなく、後ろを振り向いた。そこにはセントが敵と鍔迫り合いをしていた、セントは相手の剣を鍔もとで受け止めていたが。疲労の色は隠せず、片膝を付くことでどうにか堪えることが出来ている。

しかし、誰が見ていてもこの場での両者の優劣は完全にきまっていた。兵士は口元を緩めると、セントに覆いかぶさる様にして剣に体重をかけ始めた。

今のセントには全身を鉄の鎧で包んだ兵士を支えるだけの力はなく、鉄の塊に押しつぶされようとしていた。

セントは鎧の肩口に自分の剣が当たると、少しずつだが確実に自分の握っている剣が鎧に食い込んできているのを実感していた。

(自分の剣で死ぬのか。まさか最後には自分で自分を斬る事になるなんて、想像できなかった。)

まるで劇でも見ているかのように実感がなかったが、ある感情が沸々と湧いてきた。その感情は段々と大きくなってきて、セント自身でも抑える事が出来ない。

(死にたくない、死にたくない、死にたくない。自分はまだ何もしていない、やっとまともな指揮官の下にたどりついたに。死ぬのか・・)

それは恐怖・恐れ・絶望、忘れていたつもりはなかった。セントは忘れていただけだった、自分が何所に居るのかを。セントは戦場に立っていたのだ、ここに至るまでにも何人の兵士を殺してきた。その一人一人には戦場に立つ理由がある、家族・恋人・兄弟・友・富・名声、もしかしたら食べるために来ている者もいる。セントが今まで殺めてきた人には確実に[人生があった]その人が歩んできた道のりがあった。

セントは自分の死をまじかに感じる事で、初めて自分の行ってきたことの重さを感じ、自分自身を恥じた。

(死ぬ前に気が付いてよかったのかな、今の自分はどんな顔をしているのだろうか。)

セントは目を瞑ると徐に指先から力を抜き、剣は手の中から滑り落ちると鎧の表面を撫でる様に地面に落ちた。

セントは襲ってくるはずの痛みがない事に、眉をひそめると恐る恐る目を開け状況を確認しようとした。

先ほどまで口元を緩めていた兵士は後ろから額を押さえつけられ、上半身を大きく仰け反らせている。兵士自身何が起きたかわからず、焦りの色を隠せずにいる。鉄の擦れる音と共に兵士は言葉にもならない叫び声を上げた、戦場に響く悲鳴は戦場の音に混ざり込み消えていく。

兵士の右のわき腹の辺りから剣の鍔と、白銀のガントレットが見え隠れている。

剣は鎧の弱点である関節部分の隙間から刺し込まれている、右脇から突き刺さった剣は肉を切り裂き、血管を壊し、肺を突き破り、心臓にまで達していた。

子供が駄々を捏ねる様に全身を激しく揺らし、刺さっている剣に手を伸ばす。

白銀のガントレットはとどめを刺すかのように、剣の柄を何度も回転させて傷口を抉り続けた。

剣の柄が動くたびに傷口から血が流れ落ち、白銀のガントレットを赤黒い色に染め上げる。

最後まで抵抗をしていた兵士の手が緩み、ガントレットを掴んでいた手から力が抜ける。白銀の兵士は絶命をしたのを確認し、ゆくりと感触を確かめる様に抜いていく。

刀身があらわにつれて流れ落ちる血の量は増え、完全に抜けると蛇口を一杯に捻った様に大量の血が噴き出した。脇腹から飛び散った血は、重力に従って地面に降り注いだ。最後には壊れた蛇口の様に水滴が落ち続けるのみだった。

セントは落とした剣を杖代わりにして立ち上がり、白銀の兵士の全身を眺める様に見上げた。

「助かりました。感謝を。」

疲労のためか先ほどとは違って、息も絶え絶えにかすれた声で。

「やっと敵の前衛部隊を突破できました、しかし敵後衛。」

セントの言葉を遮る様に、突然辺りに雲がかかった様に暗くなり耳に付く風切音が響いてきた。

セントは重い瞼を無理やり開かせ、遠くを見るために目を細めると空を見上げた。

前方から黒い無数の粒が、山なりに放たれセントたちの頭上に降り注い来る。

「死体の下に隠れろ。なるべく大きい死体を担げ。」

白銀の兵士の怒号が響き渡り、セントは状況が理解できずに立ち尽くしていた。

セントは頭を後ろから鷲掴みされ、地面に押し付けられた。勢いが付きすぎていたため、地面に額をぶつけ、目に砂が入り込み目を開けようとするが反射的に閉じてしまう。

頭を掴んでいた手が離れると、背中に体が沈むほど重い何かが覆いかぶさってきた。

複数の風切音と共に、背中に石の雨が降っているかの様な、小さいが重い衝撃が絶えず襲いかかった。

時間にして30秒ほどだったろうか、背中に襲いかかった衝撃は止まった。

なぜか背中が前より重く感じられ、頬を流れる汗と一緒に生暖かい水滴が掠めた。水滴の流れた後を親指で撫でながら拭き取り、人差し指と親指で擦り合わせる。

指と指を離す時にこびり付く感覚で、若干の粘力を持っているのが判断できた。

セントは指先を鼻先に近付けて臭いを嗅いだ、その鼻にくる独特の臭いは日常では縁遠いが、戦場ではよく漂っている。

人の体の中を流れ、生きとし活きる者ならば必ず体の中にあり、生の証明といっても過言ではない。しかし、それが体内から流れ出ると、人は死を連想させる。生と死をつかさどる血の臭い。

セントは筋に寒気を感じ体を震わせ、疑問を解決するために体を揺らし始めた。

セントは倒れたまま、上半身を強引にひねり背中の何かを必死で触ろうと、腕を伸ばした。

指先に感覚を集中させ神経を研ぎ澄まし、指を動かし始める。

表面は固い板のようなもので包まれていて、指先で叩くと金属の反響音が聞こえてくる。垂直の板ではなく所々湾曲して、落とし穴の様な継ぎ目もあった。

突然耳元で爆発に近い音が響き渡ち、セントは驚きのあまり肩を竦め全身を硬直させる。体は金縛りにあったように動かすことができず、ぎこちない動きで首を動かす。だが、セントは再び金縛りにあったように体を膠着させることになる。それは顔だった、吐いた息が届く距離に、先ほど喉を突き殺した兵士の顔がありこちらを見ている。

セントの瞳孔が徐々に開き、兵士と目が合うと金縛りが解け驚きのあまり口元を抑える。口の中は乾燥していて声を上げることができない。だがこみ上げる吐き気けが胃液が逆流させ、口の中に甘酸っぱさが広がり胃液が渇きをいやした。

今思い返してみると、確かにあの時白銀の兵士は[死体を担げ]と叫んだ。

理には適っている、戦場の真っ只中で矢よけの盾を持っているはずはない。ならば現地で調達しなければいけない、戦場で一番多く落ちていて頑丈なものは。

[死体]だ、頭で理解できても思考が付いていかない。

「セント。セント。セント・オールバンズ。」

セントは自分の名前が呼ばれているのに気が付かず、体を揺らされて我に返った。

「申し訳ありません。」

セントは顔を上げると声を失い、再びこみ上げてくる吐き気に嗚咽を漏らした。

視線の先には、仰向けに兵士が倒れ。下敷きになる様に、白銀の兵士がうつ伏せになっている。仰向けになっている兵士は、全身を鎧で覆い隠し、その重さで白銀の兵士を地面に押し付けている。しかし、その姿には兵士の意思を感じさせない。

なぜかと言うと、その兵士の手足は無造作に投げ出され、腕は肘の所で関節と逆方向に曲がっていた。まるで操り人形の糸が切れ、地面に落ちている姿を連想させた。

そして、何より全身には無数の矢が刺さりハリネズミの様になっている。

「気にするな。戦場ではよくあることだ。」

セントは口元を手で覆い震える唇を隠し、気丈に振る舞っているが。

顔色は真っ青で、頬がひきっている。隠しきれない動揺に、セント自身誤魔化そうと自然と口調が早くなる。

「いったい何があったのですか。」

「弓隊の一斉攻撃があった。」

「弓隊ですか。先ほどの衝撃は、矢による攻撃ですか。」

セントは額に皺が寄りあからさまに、不満そうで腑に落ちない顔をしていた。

「何か疑問でもあるのか。」

一瞬の間があいた、セントは口を開いたり閉じたりを繰り返し、何かを言いたそうな顔をしていた。セントは深呼吸をすると、意を決したように口を開いた。

「勘違いかもしれませんが、攻撃のタイミング変なのと矢の数が少なすぎる気がします。」

セントは前置きを挟むと、先ほどよりはっきりとした口調で。

「タイミングなのですが、我々が敵部隊を突破した後に矢が飛んできました。しかし、先頭に居た我々は敵中を突破してますが、後方はまだ敵と交戦中でした。混戦の中に矢を射る事は、味方を殺すことにもつながります。初めから味方ごと攻撃するなら、我々が敵と交戦していた方が矢を防ぐことが出来ず。今以上の被害を被っていました。」

声は段々と小さくなって、自信がなさそうに白銀の兵士の顔色を窺っている。

「続けろ。」

短いが強い口調にセントは肩を震わすと、先ほどより早口で急ぐように口を開いた。

「了解です。次に矢の数が少ない事ですが。先ほどの攻撃ですが、最初の矢が刺さってから1分もしないうちに、矢が止まりました。先ほど敵部隊を突破した時、近くには弓兵は見当たりませんでした。隠れていたり見落とした可能性はありますが、ある程度離れた距離にいる可能性が高いです。しかし、ある程度の距離が離れていると仮定すると。弓兵は射程ギリギリにいると考えられます、弓で最大の射程を延ばすとしたら、弦を限界まで引かなければとどきません。弓を最大限まで引くのにはある程度の時間が必要です、我が国の弓を考えると。」

セントはうつ伏せのまま額に手を添えて、考える仕草をした。

「慣れた者でも2~3射が限界かと、今の攻撃では足止め程度の被害しか与えられなく。指揮官にでも当たればいいと、その程度の攻撃でした。」

セントは勢いに任せて言い切り、息を深く吸って呼吸を整えた。

喋り過ぎて酸欠になってしまったら、セント自身情けなさで、顔を見ることが出来なくなってしまう。

「そして何より、あれから矢は一本も飛んでこず。追い打ちの兵士の一人も来ません、正直意味のない攻撃だと思います。」

「私の考えも大体同じだ。セントは相手の動きをどう思う。」

セントは自分の考えと同じだと知って、安堵の息を漏らしたが、続けて発せられた言葉に息を飲んだ。緊張のあまり全身からは汗が吹き出し、兵士を背負っている部分は熱がこもり。背中から全身に熱が広がり、流れ落ちる汗の加速させた。

「最初に矢のタイミングですが、単純に弓隊の射程距離外に居たために。移動していて、攻撃のタイミングが遅れたのかと。陣形と言えないと思いますが、我々は全体的に矢のような、細長い陣形になっていました。そのため攻撃するとしたら、普通の攻撃より奥まで攻撃を届かせないといけません。だからこそ、我々が前衛部隊を突破した時に、移動を開始したとしたら。変に間が空くのは十分に考えられます。次に矢の数ですが、先ほどの話とかぶりますが。ただの足止めが目的で、その隙に後方からの挟撃。または、伏兵を忍ばせてることで罠にかけて一気に壊滅させる。もしかしたら、その両方で足止めをして時間を稼ぎ。罠を仕掛ける時間と、前衛部隊と連絡を取って。連携で攻撃を仕掛けるつもりかと。」

「そうか。」

白銀の兵士は静かに答えると、目を瞑り何かを考え出した。

セントは継ぎ接ぎの考えを披露して、内心心臓が飛び出しそうになっていた。

白銀の兵士は黄金の目をゆっくりと開くと、重い口を開いた。

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