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王の友  作者: ARIKA
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第4節

彼は何気なく折れた槍先を眺めていた。

一瞬だが彼の意識は戦場から遠のき、些細な隙が生まれた。どうしようもない、くだらない事だったが。彼は自分が何所にいるのかを、忘れているようにも見えた。

敵中で止まることは、狙ってくださいと言っているもので。死を意味してる。

戦場には数多の死神が潜んでいた、次に誰にしようと獲物をさがして彷徨い続けている。その死神が次に目を付けたのは、白銀の鎧を着た彼だった。

全身を鉄の鎧で覆った騎馬兵が、荒々しい足取りで彼の下に迫っている。

彼の意識が戦場に戻ってきた時には、逃げることが出来ないほどの距離まで近づかれていた。

視線を戻した彼の目の前には、頭上高く掲げた剣が今まさに振り降ろされる所だった。

その騎馬兵の全身は鉄で覆われて、振り上げた手には剣が握られて。その剣は長さ1メートルほどで、鍔は刃に向かって傾斜した形で左右に大きく張り出していた。

彼は持っていた槍の両端を掴むと、柄の中央部分を相手に見せる様に突き出すと、目を伏せる様にして顎を少し引いた。騎馬兵は俯いた相手に振り上げた剣を、容赦なく振り降ろした。次の瞬間槍を持った腕に衝撃が走った、騎馬兵の剣を槍の柄で受け止めることは出来たが。あまりの衝撃に槍は真ん中から沈むようにしなっていた。歪んだ槍の中では木の繊維が1本1本無理に引き裂かれていた、その軋む音がまるで悲鳴を上げてる様に彼の耳に聞こえてきた。

限界はすぐに訪れた、剣がわずかに槍に食い込むと。それを皮切りに瞬く間に槍を切り裂いた、切られた槍の切り口はささくれていて、棘の様に鋭く尖っていた。切れたのではなく、折れたようにも見えた。

剣はそのまま白銀の兵士の頭を目掛けて振り降ろされた、しかし剣先が兜に当たると。兜の丸い形をなぞる様に、曲線を描きながら表面を削っていった。

彼の耳には金属を引っ掻く音だけが、兜の中で反射しながら響いていた。

騎馬兵はあまりの好機に焦り、自分の間合いの外から剣を振り降ろしてしまった。そのせいで1歩の距離が足りずに、彼の槍と兜を傷つけるだけで。白銀の兵士に傷一つ付けることが出来なかった。しかし、剣は馬の背に沈むよう食い込んでいた。彼が乗っていた鞍は、馬の血で赤く染まり。綺麗だった白い毛並みは、剣の食い込んだ部分から、赤黒い染みが広がり。飛び散った血痕で、白と赤のまだら模様になっていた。まるで地面が下がっと錯覚するほど、いきなり目線の位置が下がり。彼の乗っていた馬が前足を畳む様に体制を崩すと、彼は馬から投げ出された。空中で回転するように落ちていく中、下から覗き込むように見えた兵士の口元は、驚きとうれしさを含んだ不敵な笑を浮かべていた。

鈍い音共に彼は背中から地面に叩き付けられた、落馬の衝撃と鎧の重さで背骨が軋むほどの衝撃が。背中を中心に痛みとともに、広がり全身を駆け巡った。

朦朧とする意識の中、大の字のまま首だけを動かして先ほどの騎馬兵を探したが。その姿はどこにもなく、彼が乗っていた馬と。敵兵が乗っていた馬が、重なり合うように倒れていた。

あたりを探すように両手を地面に付けたまま動かすと、指先に何か固いものがぶつかった。

反射的に右手を引くと、寝たままの状態でゆっくりと右に振り返った。

彼の目の鼻の先に、さっきまで馬に乗って不敵な笑みを浮かべていた兵士が倒れていた。

彼は目を見開き目の前の状況を理解できずに、考えを巡らしたが。考えはまとまらず、何度も何度も同じ答えしか導き出せない。理解できない、ただそれだけだった。

彼は考えることをやめて、ゆっくりと目を閉じると。頭の中であるイメージを作り上げた。

頭の先から神経を1本1本伸ばすと、神経は体を通り腕を通って指先までたどり着く。指先から血液を送りだす、血液は腕を通って体を経由して頭にたどりつく。頭の先から指の先までの感覚を取り戻すと、体は電気ショックを受けたように大きく震わす。手を開いたり閉じたりの動作を繰り返し行って、体が機能するのを確認すると。彼は這いつくばるように立ち上がり、倒れている兵士に忍び寄った。彼は無造作に投げ出された兵士の腕に視線を向ける。何のためらいもなく、兵士の腕を踏みつけると。骨が砕ける鈍い音と、兵士の悲鳴がこだました。兵士はハンマーで殴られたと勘違いするほどの痛みと、自分の叫び声を目覚まし代わりに。兵士の意識を一瞬で取り戻させた、痛の原因を探すために。兵士は体を起こそうとしたが、腕が地面に吸い付いているかの様に。動かすことが出来なかった、まるで腕が無くなってしまったようだった。歯を食いしばり、痛みに耐えながら恐る恐る目を開けると。兵士の目に鉄の足があった、自分が動けない訳をすぐに理解した。しかし、兵士の視線は鉄の足より。その下にある自分の腕を見ていた。肘の骨は砕け、血管も圧力に耐え切れずに破裂し。肩に近い方の上腕、と前腕の境目が青紫に変色して。通常の倍ほどの大きさに膨れ上がっている、ガントレットを内側から圧迫して、今にも破裂しそうだった。

それとは対照的に、肘の部分は薄く皮ほどの薄さしかなく。寝そべっていなければ、肘から先が腕の重さに負けて千切れていた。

白銀の兵士は、そのまま馬乗りになると。左手を兵士の顔に伸ばした、その手には折れた槍を握ったままで。兵士は段々と近付いてくる、手に恐怖して足をばたつかせて抵抗した。まるで子供が駄々を捏ねる様に、それでも手はゆっくりと近付いてくる。槍の折れた部分は無数の棘があり、それで目を抉られるのではないのかと。

(やばい。やばい。やばい。死ぬ。死ぬ。痛い。痛い。)

恐怖が全身を支配すると、鼻水と涙を垂れ流しながら。固く目を閉じて、現実から逃げ出そうとした。恐怖が最大まで高まると、頭の中で糸が切れた音がすると同時に。ブレーカーが落ちた様に意識を失った。

白銀の兵士は、意識を失った兵士の顎を持ち上げると。無防備な喉に、勢いよく右手を振り降ろした。その右手にも折れた槍が握られていた、槍は吸い込まる様に喉に刺さっていった。コツンと槍先が何かに当たると、彼は槍を離し。右手に何かを、握りこむ仕草をしながら。立ち上がると、倒れている兵士を見下ろしながら。再び足を上げる、ハンマーでも振り降ろす様に槍を踏みつけた。

槍は骨を砕き喉を貫いて、地面に突き刺さった。兵士は槍で杭を打ち込まれ、完全に身動きが取れなくなり。痙攣という、最後の抵抗を見せた後動かなくなった。

彼のブーツは、血しぶきで更に赤く染まった。初めから赤いブーツだと錯覚するほどだった。しかし、その赤は人の手では作り出すことが出来ない。絶妙なバランスで黒さを含んでいる、人が見れば畏怖を感じる色を。


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