第4節
飛び散る鮮血、兵士は大量の血を飛ばしながらゆっくりと膝から崩れる様に倒れていった。
その血は彼の鎧を汚し、剣にはべったりと赤い液体がこびりついて剣先から滴っていた。
彼はそのまますれ違うと、兵士には目もくれずにスピードを落とさずに赤いしずくをまき散らしながら走り続けていた。
その場には兵士の亡きがらと鮮血のみが残っていた、一瞬の出来事で敵味方共に現状が把握できなかった。
目の前で歩兵と騎馬兵がお互いに槍を突き出したと思ったら、瞬きをする間に歩兵の胸に槍が刺さり、騎馬兵は左手に剣を握っていた。
そして歩兵が倒れる前に、騎馬兵はその横を通り過ぎていた。
まさに神技だった、残された遺体と血の跡が先ほどの出来事の証明をしていた。
彼は剣を左手から右手に持ち変えると、そのまま振り降ろした、剣にこびりついていた赤い液体が、刃の部分を這うように剣先に集まると、そのまま辺りに飛び散った。
赤い液体は勢いよく1人の兵士の顔目掛けて飛んで行っていた、赤い点が見えたと思ったら、顔に何かがぶつかった気がした。
その正体を探る様に顔に手を当てると、そのままなぞる様に指先で拭いた。
指先を見ると赤い液体がこびりついていた、人差し指と親指で擦り合わせると水と比べて粘りが強い気がした。
小首を傾げるながら擦っていると、段々と意識がはきっりとしてきて、それが血であると理解すると、息遣いが荒くなっていった。
「はっはっは。」
まるで過呼吸の様に息苦しくなり、両手で胸を鷲掴みにすると両膝を付きながら、声にもならない叫び声を上げた。
それを合図に止まっていた時が動き出した、将軍の軍は恐怖の声を上げアーサーの軍は歓喜の声を上げていた。
セントは雄たけびを上げると、彼が開いた道に吸い込まれるように駆け込むと、他の兵士も遅れいないように次々と後を追っていった。
「迎え撃て。下がるな。」
何処からかそんな声が聞こえてきた、しかし将軍の軍は1歩2歩と下がってしまっていた。
相手の先鋒に勢いを取られて、萎縮して体が思うように動かなかった。
自分たちだけが重りを背負わされる様に、体が重く足を前に出すことが出来ずに、引きずる様に後退していた。
「踏みとどまれ、アーサーを討ち取れば英雄になれる。恩賞は思いのままだ。」
モーカム卿は馬の手綱を握りながら、剣を振り上げていた。
「全軍進め。後退する者は切り捨てる。」
モーカム卿の声は段々と掠れていった、それでも力の限り叫んでいた。
(不味い、不味い、不味い。大変だ、大変だ、大変だ。早く士気を回復しなければ、前線が崩壊しかねない。まさか、先鋒の一太刀でここまで乱れるとは。なんだあの動きは、人の技ではない。こうなったら、たとえ喉がつぶれても兵達を落ち着かせねば。)
「モーカム卿。」
不意に自分の名を呼ばれた、視線を下げるように、声が聞こえた方向に顔を向けると兵士が跪いていた。
「何事だ。」
「クレータム卿からの伝言をお伝えに来ました。」
「クレータム卿か。しかし、今はそれどころではない。」
モーカム卿は視線を戻すと、再び声を出すために息を深く吸った。空気は上気道を通って肺にたまり、腹部を膨らませた。
「急を要すことです。将軍の命令も含まれていると聞いております。」
将軍の名が出た事に驚き、空気をうまく吐くことが出来ずに口元に手を当てると咽てしまった。
「話せ、このままの状態で聴く。」
「了解。」
咳払いをすると。
「一度後退をして陣形と指揮系統の立て直しを行え、そして先頭の騎馬兵は、アーサーではなく罠の可能性が高いと。」
「本当か。」
「はい、これは前の戦いでガイド卿が討たれた時に似ていると。」
「ガイド卿か、確か数倍の兵力を要して負けたはず。」
(確かにガイド卿と同じ轍は踏みたくない、一度引くなら今しかないか。)
モーカム卿が思考を巡らしながら、視線を再び兵士の方に向けようとしたら。
急に視線が一転した、モーカム卿の視界には青空が広がり太陽の光が目に刺さっていた。
(なぜ自分は空を見上げている、視線が回転する。なんで体が動かないんだ。)
モーカム卿は薄れいく意識の中、目の端で馬から崩れ落ちていく人影を見た気がした。




