第4節
アーサーと同じ鎧を着た彼は、味方の軍真ん中を横断するように進んでいた。
前を向いていた兵士達は何事かと振り返ると、馬が目の前まで迫っていた。
身の危険を感じて驚く間もなく、横に飛ぶようにして逃げ出した。
急なことで受け身を取ることも出来ずに、背中から地面に叩き付けられた。
死の恐怖で全身からは嫌な汗が流れていた、空気を吸うのを忘れるほどの刹那の時だったが。
少しでも立ち止っていたら、今頃あの馬に踏み殺されていただろう。
兵士は立ち上がるために地面に手を突くと、地面から微かな振動が伝わってきた、体を揺らすほどの大きさではないが。
疑問を持つのには十分な振動だった、兵士は再び地面に寝そべると耳を地面に付け音の正体を探ろうとした。
その振動は段々と大きくなり、それに比例して何か地面を叩くような音も聞こえてきた。
兵士は立ち上がると顔に付いた土を払う事もせずに、ゆっくりと後ろを振り返ったそれはまるで油が切れた、ブリキ人形の様にゆっくりと。
振り返ると口を半開きにした放心状態の顔から、額に皺が寄った絶望的な顔つきにかわった。
兵士のすぐ後ろまで味方の大軍が押し寄せてきていて、その中に騎馬兵は一人もいなかった
全員歩兵で自らの足で走っていった、その兵士達の中には知った顔の者もいたが、小隊長・雑兵・一兵卒と階級も所属も違う兵が入り混じっていた。
統一性のない者達だが一つだけ共通しているものがあった、それは先頭を駆け抜けている白銀の兵士の背中を追いかけていた。
誰一人絶望はしていなかった、ただ目の前にある希望にすがりついているようだった。
兵士は味方に踏み殺されないように慌てて走り出した、最初は味方から逃げるために走り出したのに、兵士も先頭の騎馬兵の背中を見ていると何か吸い込まれる気がした。
一瞬だがその背中から光が出たように見えた、ただの目の錯覚だったのかもしれないが、それでもその光にすがりたい気持ちになっていた。
その背中に惹かれる様に、他の兵達も一人また一人と追いかけ始めた。
先頭を駆け抜ける騎兵を中心に矢のような陣形になると、そのまま敵兵の中に進んで行った。
先頭を駆けている彼の右手には太い枝を削った様な槍をもっていた、握り部分には擦り切れた布が巻かれていた、槍は所々赤黒い染みで汚れ先端は重さに耐えきれずに少し沈んでいた、それは何処にでもある安物の槍だった。
その槍は彼の鎧とは不釣り合いで、それは彼の者ではなく戦場に落ちていた物を拾い上げただけだった。
その槍を右脇に抱える様に持ち直すと少し前のめりになり、重心を低くして強く握にぎりしめた。
敵兵は彼に気が付くと、他の者には目もくれずに彼のみを凝視して一目散に襲いかかってきた。
両者の距離は一歩一歩確実に縮まっていった、彼の耳には戦場に響く怒号・足音・金属音・悲鳴あらゆる音が響いていた。
しかし、距離が縮まるにつれて音は聞こえなくなり、己の心臓の鼓動のみが聞こえていた。
鼓動が早くなるにつれて集中力が高まっていった、彼と相手の距離が約5メートルになった瞬間、彼は馬の反動を使いながら脇に抱えていた槍を突き出した。
その瞬間相手も左手に持っていった槍を突き出していた、全く同時に繰り出された槍は、お互いの槍先を擦る様に交差させた。
馬上から繰り出された槍は、相手の槍の内側に入り込むと、まるで鰹節を削る様に、槍の柄を削りながら胸を貫いた。
彼はすぐさま槍の柄から手を離すと、剣の柄を逆手のまま握ると勢いよく剣を引き抜いた。
彼はその勢いのまま剣を一閃すると、先ほどの兵士の首をはねていた。




