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王の友  作者: ARIKA
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第4節

将軍の下に1人の伝令が駆け込んできた、伝令はいきなり額を地面に擦り付けると。

「申し上げます。私はステインズ様の部隊の一人です。」

その言葉を聞いて、周囲の兵士たちは顔をしかめると、顔を見合わせた。

将軍は一向に顔を上げない兵士を見下ろすと、その姿を見た。

足元は泥と血がこびりついて、赤黒くなり。正面は見る事は出来なかったが、鎧の背中には草と土、それと何かにぶつけたのか、所々凹んでいた。

まるで背中から地面に打ち付けられたみたいだった、ステインズの部隊というと騎馬か、そうなると落馬をしたのか。将軍が伝令の出立から、ステインズの事を考えていると。

「貴様まさか、逃げてきたのではないのか。」

1人の兵士がそう叫ぶと、他の兵士達の表情が一気に強張ってきた。

皆その兵士を睨むと、それぞれ罵声を浴びせかけた。

「本当に逃げてきたのか。」「この場で、その首叩き斬ってやる。」

「いやいや、矢除けには使えるのでは。」「この恥さらしが。」

浴びせられる罵倒、皆自分達の不安を、この兵士を罵倒することで、紛らわせようとしていた。

どれだけの言葉を浴びせられても、顔を上げる様子はなく、ただじっと何かに耐えているようだった。

しかし、その手は小刻みに震えていた。将軍はそれを見逃していなかった、その震えは浴びせかけられる言葉に耐えるためではなく、何か別の恐怖に耐えているように見えた。

「将軍の前だ。静かにしろ、何をみっともなく叫んでいる!」

突然発せられた言葉に、兵士達は言葉の主を睨みつけるた、兵士達の視線は一か所に集まった。

視線の先にはクレータム卿が腕を組んで、兵士達を睨みつけていた。

兵士達は声の主がクレータムだと知ると、慌てて手で口を覆って言葉を飲み込んだ。

クレータム卿から発せられる、無言の重圧に兵士達は萎縮していた。

(空気が変わった、一喝した後の無言の重圧で場を制した。年の功か、いや場数の差が出たか。どちらでもいいがクレータムが場を制してくれた、お蔭で話を進められる。)

わざととらしい咳払いをすると、場を見守っていた将軍の口が開いた。

「貴様はステインズ卿の部下だと言ったが。ステインズ卿は、今最前線に立っているはずだ。貴様はなぜここにいる、奴の言葉でも伝えに来たのか。」

伝令はゆっくりと顔を上げた、歯をカタカタと音を出しながら、全身を強張らせて震えていた。

その異様な姿に、兵士達は何も言うことが出来ずに息をのんだ。

「私はステインズ様の部隊で、中隊長を任せられていました。」

息を飲みながら、自らの体を抱いて震えを押さえつけていた。それでも体は震えて、今にも倒れそうな生気のない声だった。

「私は、隊の後方で部隊を率いていました。最初ステインズ様は、その異名に恥じない戦いで、次々と敵を討っていきました。自ら先頭を走ることで、味方を鼓舞しながら、士気を高めていきました。我々が通った後は、敵の死体しか残りませんでした。」

「ならば、なぜ震えている。何があったのだ。」

一歩踏み出したクレータム卿を、将軍が手で制した。

「我々は敵部隊の突破に成功しました。ステインズ様も負傷している様には見えませんでした。ステインズ様は急に止まられると、ウェリングバラ様の救援の為に攻撃目標を変えられました。ステインズ様は突撃の際も、ウェリングバラ様のお名前を叫んでられました。私を含めた皆、その想いに応えようとしていました。誰一人反対をする者もいず、ステインズ様はそのまま敵部隊に突撃されました。

ここにいる兵士達は、ステインズの性格を知っていた。城でも作戦会議でも、彼は仲間の為に声を荒げていた。

熱くなりやすい性格だったが、だからこそ皆に好かれていた。兵士達は頷く様に相槌を打っていた、その顔には何かを思い出したのか、笑みを浮かべるものや、苦笑いをする者もいた。

「しかし。」

伝令が発したその一言で、兵士たちの顔つきは変わり。

真剣な眼差しで、次の言葉を待った。しかし、その顔は段々と青ざめていった。

「突撃は失敗に終わりました。ステインズ様は突然落馬されて、愛馬に踏み殺されました。」

「馬鹿な。」「ステインズ卿が落馬。」「ありえない、奴はこの国随一の名手だ。」「馬上槍で勝てるものはいない、そういわれている。」「こいつは、偽物だ。」「いや、密偵か。」

あまりにも信じられない言葉に、兵士達は動揺を隠せなかった。

そのため、思い思いの言葉伝令に浴びせかけていた。

視線の端で捉えたクレータム卿も、動揺を隠せないようで口を開けたまま、瞬きもせずに伝令の方を見ていた。

「続きを。」

将軍の静かな言葉が響くと、兵士達は口を閉じた。しかし、皆奥歯を噛み、爪が食い込むほど拳をにぎり何かに耐えていた。

「突然投げ出されるように、落馬されたステインズ様は起き上がる暇もなく。愛馬に踏まれました。馬の方も避けようとしたみたいでしたが、無理でした。その後、バリー様がステインズ様の下に行かれようと、急に止まられました。その時後ろを走っていた味方の騎馬が、バリー様にぶつかりました。ぶつかった衝撃で、手に持っていた槍でバリー様を貫いていました。」

言葉を切って、再び下を向くと。

「背中から胸に槍が突き刺さり、即死してもおかしくない状況でした、それでもバリー様はステインズ様の下に駆けつけて。覆いかぶさる様に動かなくなりました、悪夢はそれで終わりはしませんでした。他の部隊の仲間も次々と落馬していきました、ある者は倒れた馬に足を取られ、そしてある者は仲間の騎馬にぶつかって。私は隊の後方にいたため、被害が少なかったです。しかし、私自身も急に馬の足がもつれて、バランスを崩しそのまま背中から地面に叩き付けられました。」

時に嗚咽を漏らしながら、その光景を思い出し恐怖に震えていた。将軍達はその姿に、改めて恐怖を感じた。

数多の戦場を戦ってきた、歴戦の戦士と言っても過言ではないはず。その者が脅え震えるとは、兵士達は背筋に冷たいものを感じていた。

「地面に叩き付けられて、初めて自分たちが罠に落ちた理由がわかりました。」

「罠に落ちた理由。罠が仕掛けられてたのか。」

クレータムは思わず伝令に詰め寄った、伝令の前に立つと地面に膝を付いて目線を同じにし、そのまま兵士の肩を掴むと前後に揺らしながら。

「どんな罠だ。何がったんだ。」

クレータムの変貌ぶりに、兵士達は驚き体を膠着させていた。

「クレータム卿落ち着け。誰かクレータム卿を遠ざけろ。」

将軍が激を飛ばすと、兵士達は我に返りクレータム卿に近付くと、伝令との間に割って入った。

「クレータム卿落ち着いてください、これでは話が出来ません。将軍も見ております。」

兵士は将軍の方を少し見ると、再び視線を戻した。クレータムは兵士が見た方向を見ると、目を伏せて伝令から手を離して、そのまま後ろに下がった。

「失礼しました。」

「いや、貴殿もアーサーとは因縁があるからな。すまないな、話を続けてくれ。」

「はい。」

伝令は震えながら、言葉を絞り出していた。

「私は落馬した後立ち上がろうとしました、その時左腕が何かに引っかかていました。ふと、左腕を見ると草が引っかかていました。最初は気にも留めませんでしたが、よく見ると草が自然ではありえない形をしていました。草と草が結んであって、丁度輪のような物を作っていました。それも、1つではなく複数ありました。しかし、輪の草が辺り一面あるのではなく、ある程度の間隔をあけて。所々に作ってありました。」

「態と間隔をあける事で、普通の草に紛らわして気づきにくくさせたうえに。1度部隊と交戦させることで、疲労を蓄積させた。極め付きは、ステインズ卿の部隊を餌に呼び寄せるか。」

将軍は独り言の様に呟いていた、他の兵達は将軍の言葉に耳を傾けていた。

将軍の言葉が進むほど、兵士達の顔は再び青くなっていた。

「クレータム卿。貴殿の言った通りだったな。」

「私が言った通りですか。」

急に話を振られて、クレータムは首を傾げていた。

「貴殿は言っていただろう、アーサーは子供のイタズラじみた所があったと。」

「確かに、2流3流の手ですね。もしくは幼少時におこなっていた、イタズラだったのかもしれませんね。」

クレータムは苦笑いをすると、自分が言ったことを思い出していた。

自分たちは理解していたはずだった、アーサーは不利な状況を幾度もひっくり返してきた。それも、奇策や罠を使って。それは兵法書に書いてある内容ではなく。

素人が考えそうな事を、だからこそ自分たちは翻弄されているのではないのか。

そう思わずにいられなかった、だからこそ基本を無視しているわけではなかった。

戦場で負傷理由の一番は弓矢だった、歩兵同士の戦いもあるが。一番怖いのは、どこから飛んでくるかわからない矢だった。

アーサーはそれを使うのがうまかった、ガイド卿の時も態と狭い地形に誘い込んで、弓矢でガイド卿を討っていた。

クレイガボン砦でも、どこから集めたかわからないが大量の弓矢を揃えて、半日もの間弓矢で打ち合いをしていた。

その後絶妙なタイミングで、攻城戦で有効といわれている火矢を巧みに使って、戦況を一遍させた。

そう考えれば、初陣でもガイド卿の時も司令官を討ち取ることで、戦場全体の流れを変えていた。

(戦場で司令官を討つ事で、戦況を変えた。)

クレータムは、再び寒気と吐き気を覚えて、将軍の方を見た。

将軍は難しい顔をしたまま、立ち尽くしていた。

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