第4節
慌ただしく兵士が走る周り本陣で、ただ1人反対側を見ていた兵士がいた。
思い出にふける様な、穏やかな顔つきだったが、その視線だけは鋭く、何かしらの覚悟が感じられた。
その背中に向かってアーサーは話しかけた、返事は分っていた、それでも言わないわけにはいかなかった。
初めから、決まっていた台詞だった。
「お前は残るのか。」
「主よ。」
そう言いながら振り返った彼は、アーサーと瓜二つの白金の鎧を着ていた。
ただ、決定的に違うのはアーサーの傷のない滑らかな鎧に対して。
幾つもの小さな傷があり、凹みを修復するために、裏から叩いたためできた異様な膨らみ、そして腹部にある大きな傷跡。
「その鎧は。」
「はい。前の戦いでいただいた鎧です。」
アーサーは彼の全身を眺めると、再び口を開いた。
「その鎧を着てるということは、戦いにでるのか。」
声は沈み、その顔は少し俯いていた。
「私がここに残らなければ、兵は不安になります。先ほどの話と逆になってしまいますが、誰かが踏みとどまらないといけません。」
彼は着ている鎧の傷1つ1つを撫でていた、その手が左腹部の辺りで止まった。
そこには大きな傷の跡があった、鎧は修復しても完全に直る物ではなかった、その傷跡を再び撫でると、ゆっくりと話し出した。
「私がこの鎧を着て兵を鼓舞すれば、敵も味方も私が主だと勘違いします。味方の指揮はあがり、敵は私の方を注目します。主はその間に後退をしてください。」
アーサーは踏み出しそうになった足を、両手で強引に押さえつけると、そのまま後ろを振り向いて、彼に背中を見せた。
「死ぬなよ。」
アーサーは声を絞り出すと、そのまま馬に飛び乗って駆け出した。
アーサーの背中を追うように、部下たちも慌てて駆け出した。
その中にいた、ベディヴィアだけが長い髪をなびかせながら、後ろを振り向くと何かをしゃべる様に口を動かした。
しかし、風の音と飛び交う声に紛れて、彼の耳に届くことはなかった。しかし、彼には、彼女が何を言ったのかわかった気がした。
なんとなくだったが、自分が逆の立場らな「生きろ」といっただろうと。
彼はその背中が見えなくなるまで見つめていた、背中が段々と小さくなり点となり、完全に見えなくなった。
彼は勢いよく振り向いた、そこには若い兵士が1頭の馬を引いて近付いてきていた。
兵士は彼の前に来ると、その場に跪いた。馬も頭を下げながら足を折る様にして、その場に座り込んだ。
まるで自らの主に対して,頭を垂れて自分に乗る様に促しているようだった。
「確かお前は開戦前に来ていた、伝令か。」
「はい、あの時ベディヴィア様の天幕に来て下さるように、伝えに行ったものです。」
彼にとっては気まぐれだったのかもしれなかった、ただ死地に向かう緊張をほぐすために、出た言葉だったかもしれない。
その兵士にとっては、自分を覚えていてくれた。それだけが嬉しかった、思いが顔に出たのか、頬が少しだけ緩んでいた。
「名は、なんと言う。」
兵士は驚きのあまり、目を見開いたが、一度目を瞑り落ち着きを取り戻した、すると顔を上げて彼の目を見つめながら。
「セント・オールバンズ。皆はセントと呼んでいます。」
「セントか。」
彼はその名をもう一度呟くと、膝を折るとセントに手を差し伸べた。
「お前も一緒に逝くか。」
静寂が辺りを包み込んだ、セントは勢いよく頷くとその手を握った。
「どこまでも、お供します。」
彼は馬に近付くと、その毛並みを確かめる様に首を優しく、ゆっくりと撫でた。
馬は気持ちがいいのか、目を細めながら首を擦り付けてきた。
彼は笑みを浮かべると、馬をまたぐとそのまま腰を下ろして、両股で馬を何度か挟むと、感触を確かめていた。
彼は馬の首を数度叩くと、馬は立ち上がるとそのまま駆け出した。
セントは慌てて、遠ざかっていく背中を追いかけた。




