第4節
「援軍が来た。持ちこたえろ。」
近付いてくる騎兵を見ながら、ウェリングバラは激を飛ばした。
開戦時自分達が敵に包囲された、しかし、その時はまだ味方の士気は高く、その場に踏みとどまる者が多かったが。
味方が1人2人と死に、隣にいた者が亡くなると兵士たちの顔は段々と青くなっていった、自らを鼓舞する声も段々と聞こえなくなっていた。
中には武器を捨てて、逃げ出す者もいたが、陣形を離れた瞬間に矢で射られて、槍で突かれて命を落としていった。
その光景を見ていると動くことが出来ずに、死にたくないという思いだけで、その場にとどまっていたが、その顔は半ば諦めたていた。
その時戦場に響く騎馬の足音、その音には金属が擦れる独得の音が混ざっていた。
その音を探すために、視線を左右に向けると、左後方から聞こえてくるのがわかった。
目を細めて音の方を見ると、風が土を舞い上げてウェリングバラの視界を遮った、風に乗った砂が目に入り目を逸らした後、再び視線を戻すと。
土煙の中から、黒い影が飛び出してきた。その影を追いかけながら、別の影が次々と砂の壁を突き抜けてきた、そのすべての影が土煙を上げていた。
その影が味方の騎馬兵だと分かるのには、それほどの時間はかからなかった。
その中でも先頭の騎馬兵は、馬も兵士も他の者より一回り大きく、その全身を黒い鎧で覆い漆黒のランスを携えていた。
その騎馬兵は一切の迷いを見せずに敵左翼に突撃をかけた、騎馬兵達が駆け抜けた後には敵兵の屍しか残らなかった、力の差は一目瞭然で敵は逃げるので精一杯だった。
敵左翼は蜘蛛の子をすように逃げ去った、ウェリングバラは破裂しそうな心臓の鼓動を抑えながら。
「敵包囲網が崩れた、全部隊敵左翼に攻撃を仕掛けて、敵部隊を強行突破する。味方がいるうちに行くぞ。」
周りを見渡すと、部下たちの顔つきは変わり、その顔は生き生きとしていた。
諦めて尻餅を着きながら、座っていた者も立ち上がり、叫び声を上げていた。
「援軍が来た。持ちこたえろ。」
ウェリングバラの激が飛び、ついに反撃の狼煙が上がった。
しかし、その中で1人の兵士が指を、指しながら口を半開きにしていた、その姿を見た瞬間嫌な胸騒ぎがした。空気が重くなり呼吸が苦しくなった、まるで心臓を鷲掴みにされているみたいだった。
ゆっくりとその視線の先を追うと、その先でステインズの馬が嘶き、騎乗から彼は投げ落とされ、背中から地面に叩き付けられると、そのまま自らの馬に踏まれた。
「ステインズ。ステインズ。」
嘆きに近い叫び声が戦場に木霊した、急に体の力が抜けると足が震えだし、立っていることも出来なかった。
ウェリングバラは膝から崩れ落ちていくと、手で体を支えようとしたが、地面に触れた瞬間手も震えだし、そのまま鎧を地面に擦り付けながら倒れた。
その両目には涙が溢れだしていた、うわ言のように何度も何度も友の名を呟いていた。
殺しても死ななそうな奴だと思っていた、今までどんな戦いでも生き残り、その武勇は近隣まで広がっていた。
最初のころは、親の威光のだと陰口を言う者が多かった、その度に戦場に出て戦い生き残り。武功を積み重ねた、次第に周りの目が変わってきて陰口を言っていた者が減っていった。
ある戦いで、ステインズを馬鹿にしていた者が窮地に立たされていた、部下たちはいつかの報いだと言って、そのまま見捨てる様にステインズに進言をした。
彼はその部下を睨みつけると、その者を助けるために走り出していた、乱戦の中命辛々その者を助け出した。
その姿を見た部下は、自分の軽率な発言に恥じ入た、助けられた方も今までの事を後悔しながら、感謝の意味を込めて彼の手を握ると、泣きながら感謝を述べていた。
そうして積み上げた実績で、今の地位を手に入れてきた。そんな男がこんなにもあっけなく死ぬとは到底信じられなかった。
周りでは部下たちの声がするが、その言葉の意味を理解できず耳に入ってこなかった。
激しい喧噪の中、鋭い痛みが胸を貫いた、次に足、腕と順番に激しい痛みが体を駆け巡った。状況を理解する間もなく、痛みが走った部分が焼けるように熱くなり。
そして次第に感覚が無くなり冷たくなっていった、口の中には鉄の味が広がり、そこで初めて痛みの正体を知った。
ウェリングバラは指1つ動かずことが出来ず、瞼がおもくなっていった。眠気に近い感覚だった、意識はもうろうとして何も考える事が出来なくなっていた。
薄く開いた眼の端で、棒状のものが倒れていくのが見えた、だがウェリングバラにとってはどうでも良かった。
ウェリングバラは眠る様に目を閉じると、そのまま動かなくなった。
頭を下げていた彼の手足には矢が刺さり、その背中には投げ槍が深々と刺さっていた、まるで何かに許しを求めている姿にも見えた。
その周りを囲むようにして、彼の部下たちも矢を受けて倒れていた。先ほどの声は部下が主を守るために、出した声だった。
部下の一人が旗を持ったまま倒れていた、風が吹くと旗は揺れて、部下の手を離れ、そのままウェリングバラの方に倒れていった。
旗はウェリングバラの背中に覆いかぶさった、まるでその体を覆い隠すように。




