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王の友  作者: ARIKA
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第4節

ステインズは馬上で揺れる体を、左手で握った手綱で調節しながら、足でしっかりと馬の背中を挟みながらも、右手で槍を構えた。

次第に近付く距離、高ぶる心を押さえつけて再び脇を締め付けて、槍を固定した。

ステインズは槍を構えたまま、的側面に突撃した。

部隊の端に居た兵士は、一度ステインズの方を見たが、すぐに視線をウェリングバラの方に戻した。

何かに気が付いたのか、再びこちら側を振り向いた、その顔はあまりの驚きで目が見開かれていて口も半開きだった。

ステインズは目標を見つけたのか、兜の下で笑みを浮かべると叫び声を上げて、その兵士目掛けて駆け出した。

馬は全くスピードを落とさずに、その兵士に体当たりをした。

それは、まるでボーリングのピンのようにして、兵士は周りの味方を巻き込みながら飛んで行った。

その衝撃はすざましく、さらに2~3人にぶつかってやっと止まることが出来た。

人が目の前を飛んでいく姿を見た兵士は、首をゆっくりとその方向に向けた。

そこで見たのは馬上で、普通のランスより一回り大きいのを持った、巨漢だった。

その威圧感は尋常ではなく、時間が止まった様にして、足がすくみ立ち尽くしていた。

ステインズ達にしたら、立ち止り動かない兵士は的でしかなかった。

手に持った武器を突き出せば、その数の人間が命を失い、走れば人を踏み殺していった。

騎馬兵が通った後は無残な屍しか残らなかった、進めば進むほど返り血を浴びて、黒い鎧が赤黒くなっていた。

その血が渇く間もなく、新しい血を浴びていた、まるで鎧が血を吸っていると錯覚するほどだった。

戦場に木霊する叫び声、悲鳴と雄叫びが混ざり合った声だった。

槍を突き出すたびに重くなる腕、次第に握力が失われてきて何度も落としそうになったが、その度に脇で抱え込んで握りなおした。

「ウェリングバラ。ウェリングバラ。」

自らの位置を教えるかの様に、何度も何度も友の名を叫んだ。

「ステインズ様。」

1人の騎馬兵が並ぶようにして、前に出てきた。

「バリーか、どうした。」

周りの音に負けないほどの大きな声の会話だった、お互い前だけを見ていて相手の方を見ずに会話をしていた。

「もうすぐ敵軍を突破します。前衛部隊の側面を突きますか。アーサーの首を狙いますか。」

「俺は友を見捨てない。我に続け。」

ステインズは手綱を左側に引いて、馬の方向を右側に90度変えて、1陣の側面を突こうとした。

急な方向転換に馬は前足を軸にして、後ろ足で円を描く様にしながら地面に擦り付けてスピードを落としながら、強引に方向を変えて止まった。

後方の部下たちも続いたが、中には勢いに負けて、そのまま横転するものいた。

それでも振り返ることもせずに、槍の柄を鞭代わりに馬の尻を数度叩くと、スピードを上げて突撃を試みた。

しかし、不意に視界が高くなった、馬上で視線が上下して視野が広がる事はあったが、感覚的にそれとは違うと思った。

自分が投げ出されたと気が付くのには、そう時間はかからなかった、それは刹那の出来事だったが、ステインズにとっては流れていく景色すべてが、スローモーションに見えていた。

体は前方に半回転しながら、背中から地面に叩き付けられた、その衝撃で肺にあったすべての酸素を吐き出してしまった。

数度バウンドすると、全身に衝撃が走りその後すぐに痛みが駆け巡った、体は痛みを紛らわすために口を大きく開けて酸素を求めた。

ありったけの空気を吸い込んで、腹部を膨らませながら空っぽだった肺を空気で満たそうとした。

次の瞬間にステインズは、自分の顔目掛けて振り降ろされて、近付いてくる馬の蹄を見た。

段々と近付いてくる、頭ではそう理解していたが、体が動かなかった。

頭と体のずれは酷く、神経が動けと命令しても体は周りの景色と同じでゆっくとしか動かなかった。

自分の愛馬に踏まれて死ぬか、なんて無様な最後なんだ。

ウェリングバラは無事なのか、俺は親の仇も討てずに将軍に恩も返さずに死ぬのか。

ステインズの思考はそこで途切れた、将軍の槍と呼ばれた男の人生に幕が下ろされた。

「ステインズ様。」

目の前で投げ出される主を見て、バリーは手に持った武器を投げ捨てて叫び声を上げた。

手綱を力の限り引くと、馬は乗り手の指示に従って足を止めて、その場に踏み止まろうとした、しかし勢いを殺しきれずに前足を上げながら、そのまま後ろにひっくり返りそうになった。

その時後方を走っていた騎馬が、後ろからぶつかってきた。

馬は後ろに倒れる事はなかったが、バリーはその衝撃で投げ出されて胸から地面に叩き付けられた。

叩き付けられた時に、兜の中で頭が前後に揺れて鉄状の内部に頭を数度打ち付けた。

額からは大量の血が流れ、その血が顔半分を覆い左目には、赤い景色しか見えなかった。

バリーは這いつくばりながら、ステインズの下に進んで行った、右手は折れて全く動かず、両の足も膝から下の感覚がまるでなかった。

一刻も早くステインズを掴むために右手を伸ばしながら、太ももを前後に動かして前に進んだ。

「ステインズ様。ステインズ様。坊っちゃん。」

動かなくなった主に対して、その名を何度も何度も叫びながら、返ってくるはずのない返事をを求めて。

主の下にたどり着いた時目にしたのは、変わり果てた主の亡きがらだった。

あの屈強だった体も踏まれ続けてボロボロになり、顔すら判別することも出来なかった。

いつも自慢していた鎧も意味をなしていなかった、バリーはステインズに覆い重なると、そのまま空に向かって最後の咆哮をした。

「坊っちゃん。」

声は段々と掠れていき声を出し切ると意識を失い、全身の力が一気に抜けてそのまま倒れた。

すると、覆い重なった体から血が染みだし、周囲に血の池を広げていった、その背中には槍が刺さっており、胸まで達っしていた。

2人の死で部隊は統率を失い戦列が乱れた、そして状況に追い打ちをかける事態が起きていた。

ステインズの部下たちも次々と落馬をしていった、正式な訓練を受け歴戦の兵士であるステインズの部下たちが、次々と落馬をなどするとはありえない事だった。


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