表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リミットオリジン ―凡人と言われた俺が最強にたどり着くまで―  作者: みみたん
第3章:自由の港・潜蝕編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/65

第58話:狂乱の方舟

 夜の帳を切り裂く轟音が、港湾都市リヴォルノの静寂を木っ端微塵に粉砕した。


 レジスタンスの実働部隊が配置した魔導爆薬が次々と火を噴き、オレンジ色の火柱が夜空をどす黒く焦がしていく。その爆炎を背負い、石畳を猛然と蹴り進む一団があった。


「野郎ども、道は開いた! 存分に暴れろ! だが犬死には許さん!」


 ラグナの野太い咆哮が、混乱の極致にある港に響き渡る。


――豪華客船『万貨の方舟』の入り口を固めていたリヴォルノの警備兵たちは、突如現れたレジスタンスの猛攻に為す術もなかった。ラグナが振り下ろす身の丈を超える大剣は、防壁を紙細工のように引き裂き、ロザリアの鋭い刺突が魔法陣を構築する暇さえ与えず警備兵を沈めていく。


 だが、彼らの真の目的は敵の殲滅ではない。この船の中に鎮座しているアイゼン連邦の「化物」を、外へと引きずり出すことだ。


「来やがったな、アイゼンの番犬ども! それとも、奥に引っ込んでいる将軍様は、腰抜けの臆病者か!?」


 ラグナがわざとらしく声を張り上げ、船の外壁の一部を強引に破壊する。

 その挑発に応えるように、船内から凍り付くような殺気が漏れ出した。


 ――……ズ……ン。


 心臓を冷たい手で直接鷲掴みにされたかのような、圧倒的な「圧」が大気そのものを押し潰した。

 先ほどまで猛威を振るっていた爆炎が、まるで畏怖を覚えたかのように一瞬で萎縮し、周囲の酸素が凍り付くような錯覚に陥る。


 客船のデッキから、一人の男が静かに、だが確実な歩を進めていた。

 不気味な仮面で素顔を隠し、重厚な鎧を纏ったその男――魔導将軍。

 彼の背後には、連邦軍から選りすぐられた精鋭の護衛が十名。その一人一人がアッシュ以上の実力を持ち、訓練された連携を予感させる静謐な殺気を放っている。


 将軍が一歩踏み出すたびに、厚い石畳がミシリと不吉な悲鳴を上げ、ひび割れていく。それは単なる歩行ではない。彼の放つ質量を伴う魔力が、周囲の物理法則を強引に書き換えているのだ。


 将軍は言葉もなく、ただ煩わしげに軽く右腕を振った。

 それだけの動作で、真空を帯びた不可視の断層が港を薙ぎ払う。逃げ遅れたレジスタンス数名が、反応すらできずに切断される。肉体も、盾も、鎧も、まとめて夜の中へ崩れ落ちた。


 だが、その絶望的な一撃の直線上、ラグナは大剣を盾に正面からその衝撃を耐え凌ぎ、ロザリアは最小限の動きで断層を物理的に受け流し、無傷でその場に立ち続けていた。


 仮面の奥、将軍の瞳が微かに細められる。一掃されるべき羽虫の中に、一撃で壊れぬ「玩具」が混じっていたことへの関心が、冷酷な愉悦となって滲み出た。


「総員、散れッ!!」


 ラグナの悲鳴に近い号令が飛ぶ。

 将軍がラグナたちへ本格的に指先を向けた瞬間、再び不可視の衝撃が港を蹂躙する。将軍が顎で示せば、将軍の精鋭護衛たちが、獲物を追い詰める猟犬の如く、執拗な殺意を滲ませて後を追う。


 その直後だった。


「俺一人で十分だ」


 精鋭護衛の一人が、屋根伝いに逃走するラグナへと単独で飛び込む。

 白銀の魔導鎧を纏ったその兵は、将軍直属の中でも特に速度に特化した強者だった。



 一瞬でラグナの死角へ潜り込み、首筋へ向けて魔導刃を走らせる。


 ――だが。

「悪いな。釣られるのは、お前の方だ」


 次の瞬間、側面の影からロザリアの細剣が閃いた。

 精鋭兵が反応するより早く、ラグナの大剣が正面から叩き込まれる。

 挟撃。骨と鎧が同時に砕け散る鈍い音と共に、精鋭兵の身体が石畳へ叩きつけられた。


 一瞬の静寂。将軍直属兵が、一撃で沈められた。

 仮面の奥。魔導将軍の口元が、微かに歪む。


「……ほう」


 その瞬間。『狩る側』だった怪物の興味が、初めて明確にラグナたちへ向けられた。


 精鋭と呼ばれた直属兵が、一言も発することなく沈む。

 格下の寄せ集めに過ぎぬはずのレジスタンスが、自らの駒を討ち取った事実。

 それが、魔導将軍の戦闘本能に火をつけた。


「……面白い。その命、存分に使い潰してやろう」


 将軍が本格的に食いついたことを確信し、ラグナとロザリアは、死を覚悟しながらも「生き残って陽動を成功させる」という執念で、港の闇へと紛れ、地の利を活かした死のリレーを開始した。


---


 外で繰り広げられる地獄の喧騒を余所に、船内の搬入口付近は不気味なほどの静寂に包まれていた。


「……将軍が動きました。今です。行きましょう」


 ルカの冷静な声に、アッシュとニーナは短く頷いた。

 ラグナたちが命を賭して作り出した「空白」。警備の意識がすべて外へと向けられたその隙を突き、三人は影のように船内を疾走する。ルカの完璧な状況判断により、一度も接敵することなく、一行はオークション会場の最上層――キャットウォークへと辿り着いた。


 眼下を見下ろしたアッシュの息が止まる。

 華やかな照明の下、壇上で拘束され、希望を失った瞳でどこを見ているのかもわからないルナの姿。その傍らでは、外の爆音に怯えたバルトロが醜く脂汗を流し、私設兵たちがバルトロとルナを守るように円陣を組んでいる。


 三人は無言のまま、幾千回と繰り返したシミュレーションを脳内で同期させる。

 アッシュが足場に力を込め、飛び降りようとしたその瞬間。

 戦士としての本能が、首筋を焼き切るような殺気を捉えた。


「――ッ!!」


 アッシュは反射的に横へ飛び退いた。

 直後、彼が先ほどまでいた鋼鉄の足場を、銀色の閃光が音もなく切り裂き、両断された鉄板が下へと落下していった。


「……あのときの鼠か! また相見えるとは!」


 暗闇から現れたのは、くすんだ金髪を不気味に逆立てた男――レオンだった。

 かつての気品ある佇まいは微塵もない。廃人寸前のダメージから禁忌の魔導処置で強引に復帰した彼の身体からは、制御しきれない魔力がパチパチと火花を散らし、目は血走っている。


「今度こそ、この手で八つ裂きにしてくれる!」


 ワープを強制的に使わされた屈辱、あるいは壊された自尊心。そのすべてをアッシュへの憎悪に変えたレオンが、銀の剣を掲げる。


「アッシュ、一人で突っ込むなと言ったはずです!」


 即座に割り込んだのはルカだった。彼は魔導銃を構え、レオンの歪んだ魔力供給を瞬時に計算する。


「レオンの動きは私が計算します。君はニーナが動く隙を作るための『壁』に徹しなさい!」


 ルカが放った魔導弾を、レオンは不完全な魔導障壁で強引に弾き飛ばす。アッシュはその隙に【空蝉】を起動。レオンが放った不可視の「真空刃」がアッシュの残像を切り裂き、背後の壁を深く抉った。


 アッシュとルカが正面で激しい攻防を繰り広げ、レオンの意識を完全に固定する。その背後、一筋の影が音もなくキャットウォークを滑り落ち、壇上へと吸い込まれていった。


「邪魔だ……邪魔だぁぁぁッ!!」


 ニーナの接近に気づいたのか、あるいは連携を崩せぬ苛立ちか。狂気に駆られたレオンが、剣を頭上に掲げ、呪文を絶叫する。


 レオンの周囲で、空気そのものが赤熱した。 船内で使えば、自爆すらあり得る規模の広域殲滅爆破魔法。


 レオンを中心に紅蓮の魔力が圧縮され、次の瞬間、全方位に向けて猛烈な熱波と衝撃が解放された。近くにいたアイゼン兵たちが悲鳴を上げる間もなく吹き飛ばされ、豪華な装飾品が木っ端微塵に砕け散る。


 アッシュは瞬時にルカの前へと躍り出ると、正面から受ける愚を避け、半身の構えを取った。


 ――【金剛身ダイヤモンド・ボディ】。


 衝撃が激突する直前、アッシュは肉体密度を極限まで高めると同時に、受け流しの角度で衝撃の芯を逸らす。吹き荒れる爆炎を切り裂くようにして圧力を後方へ流すが、それでもなお、肉体を叩く重圧は凄まじい。


「ぐ、……ッ!!」

(ここで俺がレオンを止める。ニーナを通すために。そして――ルナを、もう二度と誰かの囮になんてさせない)


 衝撃を逸らしきれなかった余波を歯を食いしばって耐え、血走った目でレオンを見据える。


 紅蓮の炎が、狂乱のオークション会場を呑み込んでいく。

 その中心で、アッシュとレオンは互いに殺意をぶつけ合っていた。


いつも拙作を読んでくださり、本当にありがとうございます。

誠に勝手ながら、明日の更新はお休みさせていただきます。


土曜日は予定通りアップいたしますので、どうぞよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ