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リミットオリジン ―凡人と言われた俺が最強にたどり着くまで―  作者: みみたん
第3章:自由の港・潜蝕編

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第44話:血戦の連鎖

 「第二試合、始め!」


 審判の怒声と共に、二戦目の相手――「結界術師のエルマン」が杖を掲げた。

 一戦目のような肉体的な圧はない。だが、展開された幾重にも重なる不可視の壁が、アッシュの踏み込みを完全に殺している。


 アッシュは黒剣を中段に構えたまま踏み込む。最短距離で踏み込み、放たれる魔弾を黒剣で弾く。

 だが、弾いた先で軌道を変えた余波が肩を掠め、不規則な衝撃が骨に響いた。


 (……硬い。いや、厚い)


 結界そのものよりも、重ね方が厄介だ。

 一枚破れば終わりではない。次が来る。その次も来る。

 アッシュは黒剣を突き立て、結界の継ぎ目を強引にこじ開けようとする。だが、刃が食い込んだ瞬間、別の術式が滑り込むように重なり、強烈な魔力の反発が腕を押し返した。


 呼吸が一つ、乱れる。

 エルマンは動かない。ただ静かに、アッシュの進路に壁を置き続ける。『当てさせない』戦い方。着実にアッシュのスタミナと時間を削るための戦術だ。


 (……長引くほど、こっちが削られる)


 アッシュは一度、踏み込みを止めた。

 そして――黒剣を鞘に納める。

 わずかな静寂。

 アッシュは無防備な姿のまま、爆発的に地を蹴った。


 「死に急いだか!」


 エルマンが即座に反応し、全方位から網状の魔弾を叩き込む。

 アッシュは完全には避けない。半身で捌き、黒剣の鞘で弾き、抜けきれなかった衝撃を肉体で受け流す。連続する火線が皮膚を焼き、衝撃が足を鈍らせ、肺の空気を削っていく。一発ごとの威力は致命傷には至らないが、蓄積するダメージが確実に身体の余力を奪っていく。


 (……ここで止まれば終わる)


 アッシュは踏み込みを止めない。

 眼前の結界の表面へ、強引に手を伸ばす。熱を帯びた術式が掌の皮膚を焼き、焦げた臭いが鼻を突く。

 だが、押し込む。

 力任せの干渉に、術式の重なりが一瞬だけ――ほんの一瞬、術式同士の干渉に遅れを生んだ。

 その隙間に、血に濡れた身体をねじ込む。


 「なっ――」


 物理的な距離が消えた。

 抜き打ちざま、黒剣の柄頭がエルマンの鳩尾を深々と打ち抜く。


 「ガ、ッ……」


 結界が霧散する。

 エルマンが肺の空気を全て吐き出し、膝から崩れ落ちた。

 アッシュは倒れ込む男の首筋に冷徹に刃を添え――動きを止める。


 「二戦目、勝者、アッシュ!」


 勝敗は決した。

 だが、アッシュはすぐには剣を引かなかった。浅く、速い呼吸が続き、指先に残る激しい痺れが抜けない。


 (……一手、遅れていたら)


 そのまま、術式の圧力に押し潰されていただろう。


 (運が良かった……相手の防具がガチガチに硬いやつなら、スキルを使わないと勝てなかった……)


 アッシュはゆっくりと剣を引き、立ち上がる。抉られた傷口から滲む血が石畳に落ちる。傷は浅い。だが、身体の奥に澱のように溜まった疲労が、次の一戦を途方もなく重くしていた。


---


 「金貨四百九十五枚……」


 ニーナは払い戻された金貨の袋を手に、受付の前で立ち尽くしていた。

 次の最終戦にこれを賭ければ、目標とする一万枚への大きな足掛かりになる。だが、ニーナの視線は舞台上で肩を落とし、血を流すアッシュに釘付けになっていた。

 震える指が、金貨の袋を強く握りしめる。


 「ニーナ、最終戦よ。全部賭けるんでしょ?」


 サナの言葉に、ニーナは初めて首を横に振った。


 「……もういいわ。これ以上は、アッシュが死んじゃう。もう、十分よ……」


 ニーナは賭け札を破り捨てた。だが、舞台上のアッシュが、ゆっくりと顔を上げた。その瞳はまだ死んでいなかった。


 (……あと一戦、これに勝てば大金が手に入る)


 ニーナは絶望した。アッシュを見ればすぐにわかった。最後まで戦うつもりなのだ。


 そして、三戦目の相手が静かに歩み寄る。

 「剣鬼・ヴィクトル」。

 古びた長剣一本。鎧も持たず、ただ立っているだけで、空気を凍てつかせるような圧を放つ初老の剣士だった。


 「最終戦――始め!」


 宣告と同時に、ヴィクトルが消えた。

 速い。疲弊しきったアッシュの動体視力を遥かに凌駕する踏み込み。

 アッシュは反射的に黒剣を合わせたが、ヴィクトルの剣はアッシュの剣身を蛇のように這い回り、その防御を容易く無効化した。


 (――ッ、ぐ!)


 火花と共に、アッシュの左肩が深く切り裂かれる。

 受け流せない――。ヴィクトルの剣は、アッシュが力を込める瞬間の「揺らぎ」を的確に突き、衝撃を逃がす隙すら与えない。

 三戦目の疲労。削られた右腕の感覚。

 ヴィクトルの連撃が、アッシュの全身を容赦なく刻んでいく。


 (……なんだ、この男は。技のキレ、踏み込みの深さ、その全てが完成されている。たとえ今、俺の身体が万全だったとしても……この男には勝てないだろう)


 絶望的な実力差。その事実にアッシュの背筋が凍る。


 「……良い剣だ。だが、今の貴様では剣に振り回されている」


 ヴィクトルの無機質な言葉と共に、鋭い刺突がアッシュの視界を埋め尽くす。

 アッシュは死力を尽くし、【透過撃スルー・ストライク】を発動しようとした。自らの左腕を犠牲にして剣を受け、肉を貫かせ、剣筋が固定された刹那に剣を叩き込む。命を賭けた博打。


 (今だ……!)


 剣がヴィクトルの胸元を貫こうとした。

 だが。

 アッシュの肉体が、限界を越えていた。

 踏み込んだ右足の膝が、溜まった疲労とダメージに耐えきれず、わずかに折れた。

 一寸の狂い。

 ヴィクトルの剣先はアッシュの肩を貫通し、アッシュの【透過撃スルー・ストライク】はヴィクトルの胸板を掠めるに留まった。


 「……そこまでだ」


 ヴィクトルの冷徹な声。

 アッシュの視界が、急速に暗転していく。

 腹部をヴィクトルの蹴りが捉え、アッシュの身体は紙切れのように舞台の外へと弾き飛ばされた。


 「……勝者、ヴィクトル!」


 静まり返る場内。

 舞台の外、石畳に叩きつけられたアッシュは、動かなかった。


「アッシュゥゥゥッ!!!」


 ニーナの絶叫が響き渡る。

 彼女は観客席を飛び越えるような勢いで駆け寄り、アッシュのもとへ辿り着いた。

 アッシュの意識の端で、涙を流しながら自分を呼ぶニーナの姿がぼやけて映る。

 その必死な叫びを最後に、アッシュの意識は完全に途絶えた。



---



 深夜、セーフハウス。

 アッシュが意識を取り戻すと、全身が鉛のように重く、左肩から先は感覚がなかった。


 「……目覚めましたか。全治六ヶ月、いえ、八ヶ月。最悪、左腕の後遺症も覚悟してください」


 ルカの声は大きくないはずなのに、妙によく響いた。机の上には、金貨四百九十五枚が入った袋だけが置かれていた。勝利報酬はない。


 「ニーナは……」


 掠れた声でアッシュが尋ねる。

 アッシュの隣で、ニーナはアッシュの右手を握りしめたまま、うずくまって寝ていた。

 その顔は、負けた悔しさではなく、ただアッシュが生きて戻ってきたことへの安堵で、ひどく疲れ切っていた。

 手元に残った金貨は、一万枚には程遠い。


 「紹介状を書いた私が言うのも筋違いかもしれませんが……本来、参加資格を問うだけの場でヴィクトルのような規格外が立ちはだかることはまずありません。私の見通しが甘かった。本当に、申し訳ないことをしました」


 ルカはいつになく表情を曇らせ、深々と頭を下げた。


 アッシュは天井を見つめ、動かない左手を見つめた。

 リヴォルノの闇は、あまりにも深く、冷たかった。

またまた没になった話が残ってたので載せます。


-----

「無駄よ。この子が一度捕まえたら、逃げ道なんてないんだから」

 ニーナがアッシュの前に進み出た。彼女はサナが「最新の魔導鍵も揃っているのに中身が消える」と言っていたことを思い出し、目の前の青年こそがその『正体』だと確信して、冷ややかな視線を向ける。


「さて。誰に頼まれて、倉庫の中身を消してたの? サナ……レジスタンスの女があんたを追ってるわよ。このままあたしたちが突き出すか、ここで全部吐くか……選ばせてあげるわ」


「……リヴォルノの『清掃ギルド』だ」

 青年は吐き捨てるように言った。ニーナはその名を聞いた瞬間、わずかに目を細める。


「妹を人質にされてんだよ。俺はあいつらのために、この『穴』で物資を消し続けてきた。……ただの、使い捨ての歯車さ」


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このあとサナが狂人になっていって、リヴォルノの街を壊す展開になります。作者の私が収集つかなくなって、キャラ達がそれぞれ暴走をしているように見えて没になりました。

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