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リミットオリジン ―凡人と言われた俺が最強にたどり着くまで―  作者: みみたん
第2章:カナンの回廊と覚悟の再会

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第31話:再来の銀光

 新調した「重炭素鋼の黒剣」の重みは、不思議とアッシュの掌に馴染んでいた。

 だが、それを振るうべき肉体には、まだあの激戦の余韻が重く居座っている。


「……少し、体が重いな」


 集落「風の枝」の入り口で、アッシュは自身の右腕を軽く回した。

 あの巨大兵器を押し留めた際の反動か、芯の部分に僅かな強張りが残っている。以前のように軽快とはいかないが、それでも拳を握れば、新しい剣の重みを支えるだけの確かな力が指先に宿るのを感じた。


「無理しないの。……三日も寝てたんだから、いきなり全力で動いたらまた倒れるわよ」


 隣で呆れたように、けれどどこか心配そうに釘を刺したのはニーナだった。

 男装を解いた彼女は、以前よりも物腰が柔らかくなった気がするとアッシュは思った。その腰には、翠に輝く双短剣「風切り鳥のダガー」が静かに差されている。


「おう、アッシュ。目を覚ましたんだな!」


 広場の方から、背中に大剣を背負ったバルトが、生き残ったレジスタンスの面々を連れて歩み寄ってきた。男たちは皆、傷つきながらも武器を点検し、鋭い戦意を維持している。


「バルトさん、体は大丈夫なのか?」

「ああ。死んだリュカの分まで、俺たちは止まるわけにゃいかねえからな」


 バルトが力強くアッシュの肩を叩こうとした、その時。

 森の奥から一人のレジスタンスが、息を乱しながら必死の形相で駆け込んできた。


「バ、バルトさん! 敵襲だ……また、あの銀色の奴が……アイゼンの兵士たちを連れて戻ってきやがった!!」


 その叫びと同時に、カナン族の森を揺るがすような重低音が響き渡った。

 見上げれば、上空を不気味な光の格子が覆い尽くしていく。アイゼン連邦の広域制圧型魔導結界『ケージ・オブ・アイアン』。

 集落を中心に半径2kmほどを完全に遮断する、逃げ場なき檻だ。


「……逃げ場はないみたいだ。バルトさん、ここで決着をつけよう」


 アッシュの言葉に、バルトが怒りに燃える瞳で大剣を引き抜いた。


「ああ、逃げる気もねえ! 野郎ども、構えろ! リュカの弔い合戦だ! ここでアイゼンの連中を一人残らず叩き潰して、ケジメをつけんぞッ!!」


 バルトの咆哮に応じ、レジスタンスの盾兵たちが一斉に地を鳴らして防壁を作り、怒涛の殺気を放つ。

 結界の隙間を裂いて現れたのは、銀装束を血のように赤い外套で包んだ男――アイゼン連邦軍指揮官、レオン・V・シュタインバッハ。

 かつてアッシュの【透過撃】によって粉砕された右肩には、痛々しい魔導補強の術式が刻まれている。


「まだ生きていたか死に損ない。貴様は私自ら切り刻み、サンプルとして、その四肢を断って回収してやる」


 血走った目でそう言い放つレオンの背後には、魔導演算機を直結させた『精鋭魔導兵部隊』が、機械的な足取りで隊列を組んでいる。

 レオンが銀剣を抜くと同時に、周囲の兵士たちが一斉に魔導銃を構えた。

 アッシュの脳裏に、じーちゃんの説教がフラッシュバックする。

(敵がプライドを捨てた時が一番危ない。……『前提』を壊せ。相手の計算を狂わせるんだ)


「……ニーナ。俺の右側、頼めるか。ここを切り抜けて、絶対にあいつを叩く」


 アッシュは重炭素鋼の黒剣を構え、地を踏みしめた。


「……言われなくても。あたしはあんたの相棒パートナーだって言ったでしょ」


 ニーナが腰の双短剣を抜き放ち、鋭い踏み込みでアッシュの側面に並ぶ。


 レオンの合図とともに、銀の閃光が森を蹂躙し始めた。

 アッシュの体はまだ重く、全速の移動は満足にこなせない。だが、目前まで迫る銃弾の軌跡を、アッシュの瞳が【点視ポイント・アイ】によって鋭く捉える。


「右! 盾の隙間を抜けてくるわよ!」


 ニーナの指示に合わせ、アッシュはぎりぎりで体を捻り、黒い刀身で銃弾の弾頭を弾き飛ばした。

 同時に、アッシュが捉えきれなかった死角からの弾丸を、ニーナが翠の閃光を引く短剣で鮮やかに斬り落とす。


「そこよ……! 風を、裂けッ!」


 ニーナがダガーを鋭く振るう。

 刃が空気を噛んだ瞬間、凝縮された風の刃が飛び出し、正面から迫るアイゼン兵の魔導銃を両断した。霊樹の端材で作られたこの短剣は、振るうだけで真空の刃を飛ばす遠距離攻撃を可能にしていた。


「痛っ……。けど、これくらいはじーちゃんの拳骨に比べりゃ……!」


 アッシュが衝撃を耐え、前進する。

 そこへ、レオンの魔導演算によって予測された精密な一斉射撃が放たれた。回避不能な面制圧。だが、その頭上から、魔導の光を散らす一筋の矢が降下した。


「バルト、アッシュ! 頭を下げなさい!」


 後方の高台から、シエルの凛とした声が響く。

 彼女が放った魔矢『スターダスト・レイン』が、空中で幾千の光の粒へと分裂し、アイゼン兵が放った弾丸のすべてを網膜を焼く閃光と共に叩き落とした。


「……シエル! 助かった!」


「いいから集中して! あの指揮官、また大規模な術式を組んでるわよ!」


 シエルが冷静に次弾を番え、レオンの魔導障壁の一点へと正確無比な狙撃を繰り返す。

 リュカの死を背負った盾兵たちが血を吐くような気迫で前線を維持し、バルトが大剣で敵陣を睨みつける。その合間を縫ってニーナが風の刃を飛ばし、アッシュの道を切り拓いていく。


「次は左、死角から来る!」


 森の地形、仲間の盾、シエルの援護、転がる石、およびニーナの風の刃。

 すべてが重なり合い、逃げ場のない檻の中で、反撃のための糸口をじりじりと手繰り寄せていた。


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