第22話:鉄馬の咆哮
動力炉の核が砕け、地下水道は断続的な爆発音と赤黒い放電に包まれていた。
天井から降り注ぐコンクリートの破片を回避しながら、出口へと急ぐ。
アッシュは通路の武器ラックを駆け抜けざま、手近な長剣をひったくった。酷使した鉄剣は、既にボロボロになりかけていた。アイゼン軍が誇る特殊炭素鋼の黒い刀身が、手の中で重みを伝えてくる。横ではニールも、ラックから複雑な歯車が露出した魔導式の部品を数点選び、予備の弾丸と共にポーチへねじ込んでいた。
「サナ、後ろに乗れ! アッシュ、サイドカーへ滑り込め!」
ニールの叫びの先には、アイゼン軍の重魔導バイク「アイアン・ホース」が数台並んでいた。ニールが跨り、魔導エンジンを爆ぜさせる。サナが反射的にその後ろに飛び乗り、ニールの腰に腕を回した。
(置いていかれるのは御免だ……!)
ニールの目つきが変わった。アッシュの背中を追い、サナの誘惑に弄ばれていたこれまでの迷いが消え、純粋な闘志が宿る。
「振り落とされるなよ! 舌を噛んでも知らないからな!」
アクセルを限界まで引き絞った瞬間、バイクが咆哮を上げ、崩落する地下道を弾丸のように突き抜けた。
「ちょっと、速すぎるわよ! 止まりなさい、死ぬ気なの!?」
サナが悲鳴に近い声を上げ、ニールの背中にしがみつく。瓦礫の雨を、ニールは車体を極限まで寝かせ、物理法則をねじ伏せるような軌道で切り抜けていく。
地上へ繋がる搬入口。巨大な鋼鉄のシャッターが、警報音と共に無慈悲に閉まり始める。
「ニール、そのまま突っ込め! あの壁は俺が壊す!」
サイドカーからアッシュが叫ぶ。ニールが前方を睨んだまま、叫び返した。
「無茶を言うな、あれは軍用装甲板だぞ!」
「俺が道を拓くから、俺のことを信じてくれ!」
アッシュが黒鋼の長剣を抜き放ち、サイドカーの上で身を乗り出す。その瞳に、戦闘スキル【点視】が発動し、逃げ場のないシャッターの「急所」が一点の光として浮かび上がった。
ニールがわずかに笑った。
「……ああ、信じてやるよ、相棒!」
ニールはブレーキを捨て、さらにアクセルを回した。衝突までコンマ数秒。サナが絶望に目を閉じた瞬間、アッシュの長剣が螺旋の閃光を放った。
【穿孔撃】
――ガァン!!
重厚な装甲板が、中心からひまわりが開くようにねじ切れ、巨大な風穴が開いた。
バイクはその穴を、火花を散らしながら一点の迷いもなく駆け抜けた。
ステラの夜気に飛び出した彼らの背後で、補給基地が巨大な火柱と共に崩壊した。
サナは震える腕でニールにしがみついたまま、荒い呼吸を繰り返している。
「は、はは……! 見たかよ、アッシュ! 俺たちの勝ちだ!」
爆風を背に受け、ニールは歓喜の声を上げながら街道を突き進む。
アッシュは激しい風に髪をなびかせながら、新しい長剣の感触を確かめ、静かに頷いた。
「ああ。行こう、カナンの回廊へ」
夜の帳が降りる街道を、三人を乗せた鉄の馬が、駆け抜けていった。
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数時間後。
軍の追跡を振り切り、街道から外れた林の中に野営のテントを張った。
疲れ果てて眠りについたアッシュとサナの寝息が聞こえる中、ニールは一人、焚き火の爆ぜる音を聴きながら膝を抱えていた。
勝利の昂揚感は、夜の静寂に溶けて消えていた。代わりに胸を占めるのは、重い過去だ。
「……カナンに今更帰っても、逃げ出した自分を許しちゃくれないだろうな」
ポツリとこぼした独り言は、誰に届くこともなく闇に吸い込まれた。
かつて全てを捨てて逃げ出した故郷。守るべきものを放り出した自分が、英雄の影を追う少年と共に戻っていい場所なのか。
ニールは震える手で焚き火を突き、消え入りそうな炎をじっと見つめ続けていた。




