月明かりの夜に◇月明かりの夜に
――…また…あの夢か…。
夜明けも遠い時間。ユギハはぼんやりと天井を見上げていた。ゆっくりと上体を起こし、己の両手をじっと見つめた後、重い重いため息をつく。
夜中に目が覚めてしまったときは、いつもあの夜のことを思い出す。…無意識に捜している自分がいるのだ。あの夜のようにあの子がこの部屋に来ていないか、と。
あるはずのないことだと、わかりきっているのに――…。
――室内に自分以外の人間の気配を感じ、枕元の剣に手を掛けつつ「誰だ」と鋭く視線を走らせた。
月光が淡い輝きで静かに室内を照らしている。
その青白い光が微かに届くドアに人影を見つけ、そしてその人物が誰なのか気づき――…。
…ユギハは、夢の余韻が幻を見せているのでは、と思った。
「……ユウガ…、なのか?」
自信のない問いかけに…、ぎこちなく微かに頷く人影。
月明かりの世界に目が慣れ、ユギハは確かにその顔を見た。
幼い頃の面影、そしてどこか自分に似ていて――。
「お前――…あぁ、とりあえず座るといい」
手を剣から離してベッドを降り、そのままの動きで上着を羽織りながら口の中で明かり呼びの呪文を詠唱した。すっかり醒めた頭では、すらすらと呪文が出てくる。
一斉にともる室内の燭台。息子は眩しそうに目を細めている。
少し警戒した様子が見えたが、もう一度促すとユウガは歩を進めてソファに座った。その姿を視界の隅に保ちながら、ユギハは戸棚から酒とグラスを取り出す。
「どうやってここまで入った? 正面からではないだろう?」
向かいに座り、酒をグラスに注ぎながら純粋な質問をする。
「…シュウの真似をしたら、見つけたから」
「真似? …ああ、隠し通路を使ったのか」
シュウのことだ、わざと朱で隠し通路を使ったのだろう。
ユウガがいつでも帰って来られるように――。
ウイスキーを注いだグラスをユウガの前に押しやる。はたして呑んでくれるだろうか、と不安を感じたが…、少し迷った後に息子はそれに手を伸ばして口をつけた。…ほっとした。
グラスを持つ手の腕に、見覚えのある腕輪が見えた。
「ガヌアスにいたんだろう?」
「…あそこの宰相とかに、ちょっと悪戯してきただけ」
「ちょっと、な。やれやれ…」
「その前に、黒蛇の巣で花火も上げた」
「花火だけじゃないだろうが」
つい苦笑していると、ユウガは機嫌を損ねた子供のような顔をして、琥珀色のグラスをグイッとあおった。そんな様子にかつての面影を見て、ユギハの表情は無意識にやわらかくなる。
――…懐かしいな…。
「さて、それで? 一体何用でわざわざ私に会いにきたんだ?」
「…用がなきゃ来ちゃいけねーのかよ」
「そんなことはないさ」
――…まさか本当に、またお前に会えるとは思っていなかったから……。
しばらくグラスを揺らして沈黙していたユウガ。
やがて大きなため息をついて、グラスをテーブルに置く。
「…コレとコレの礼くらい、言っておこうと思っただけ」
腕輪と剣を示したユウガが視線を外し、小さくぶっきらぼうに「…ありがとな」と呟いた。
自然と穏やかな笑みが浮かんでくる。
「礼など言わずとも良かったものを…。
私がお前を捕らえる可能性を考えなかったのか?」
「別に」
速攻で返ってきた返事。その頼もしさにまた苦笑してしまった。
ユウガの表情が、まるで小さな子供のようで…、親としていつまでも見ていたい心境になる。
隙間風が燭台の火を微かに揺らした。
「――…なぁ…」
「ん?」
「…その……さ…、アンタさ……」
「なんだ?」
「………もうすぐ、死ぬんだろ?」




