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過去を追う◇表に立つ

 革命軍の検問所。しっかりとした丸太を組んで頑丈に作られた門前に数多くの革命軍兵士、さらにその後ろには(あお)の人間が10人ほど控えている。

 その中に、腹心五人衆の1人であるクレンはいた。黒蛇討伐に参加するシュウと替わるため、彼はここガヌアスへと派遣されたのだ。シュウは明日未明にガヌアスを発つ。

 それにしても…、シュウは何故自分をこの検問所に寄越したのだろう。訪れる者には必ず蒼の人間が同伴している。その身分証明の腕輪を確認して門を開く、という仕組みだ。

 この検問所の先には革命軍最大の砦がある。そこには革命軍の指導者が、そしてシュウがいる。

 また1台の馬車がやってきた。

 馬車へと駆け寄る大柄な革命軍兵士。ほどなく兵士は馬車に一礼し、背後の者達に開門を叫ぶ。

 確認が完了したのだ。強固な大縄を体全体で引く革命軍兵士達。軋む音を立てながら重々しく門が開いていく。動き出す馬車。

 ――馬車が門まであと少しの距離まで近づいた瞬間。

 ドオオォォォォォンッ!!!

 地響きと共にとてつもない速さで閉じる門。馬が竿立ちとなっていななき、周囲はすさまじい土埃が巻き起こる。

 誰もが突然の出来事にどよめく。「縄が斬られた!」という誰かの怒声が聞こえた。

 突風が吹き、瞬時に払われた土埃。

 そして――。

「――…ったく。なんのためにあんたらはここにいるんだよ。こんな甘ちゃんじゃあ、砦はあっさり陥落するぜ?」

 大縄を一太刀で切断した剣を背の鞘に戻した人物は、馬車の前に立ち塞がって、やれやれとため息をついていた。



「お前――…“真空のジーク”ッ!?」

「ユウガだとッ!? 何故ここに…!?」

 ほぼ同時に叫ぶ、馬車の御者とクレン。革命軍と馬車内は“真空のジーク”の名にどよめき、そして蒼の者達は出奔した総裁の息子の名にハッと視線を集める。

 対してジークは、余裕と自信に溢れた様子。剣の柄に手を掛けたまま、笑みすら湛えている。

「おい、クレンのおっさん。このままその馬車を通していたら、どうなっていたと思う?」

「なに…?」

「そん中にいる蒼の人間は、アーリー。その他乗ってる連中は、黒蛇(へびども)だ」

「…!?」

 ジークの言葉に馬車の雰囲気が変わった。

 その隙に馬車から飛び出したアリカムが、思いきり叫ぶ。

「クレン殿っ、ユウの言うとおりだッ!」

「!」

 確かに、アリカムだ。つい先日までシュウの周辺をうろつく姿を見ていた。

 そういえば、ここ数日は見掛けていなくて――。

「ユウガとシュウの計画なんだ。黒蛇(へび)がこの検問突破のために(ウチ)の人間を取っ捕まえるつもりだ、っていう情報をユウガが持ってきて」

「てっとり早く捕虜になりそうなのはコイツだって、アニキも賛成したしな」

 黒蛇は蒼の人間を生け捕りにしたかったために、アリカムは幾度もの襲撃にも生きていたのだ。

 蒼の身分証明の腕輪は、持ち主以外にははめられない。殺してしまうと意味がないのだ。

「だからユウがおいらを手頃な黒蛇(へび)の陣営前に放りこんでくれちゃって…。ったく、酷い目に遭ったぁ!」

 度重なる襲撃で満身創痍のアリカムは「総裁にチクって慰謝料ふんだくってやるーッ」とジークに吠えた。それを軽く交わし、むしろ不敵に笑んで馬車を見据えるジーク。

 クレンもまた油断なく馬車を見据える。対峙するように殺気が満ちる馬車。

 馬車を警戒しつつ、クレンはジークに視線を移した。

「…礼は言おう」

「あ、そう。そりゃどーも」

「だがなユウガ――…、お前が蒼の重罪人であることには変わりない。このままお前を見過ごすわけにもいかない」

「ちょ…ッ、クレン殿!? そんなの総裁は望んでなんていな――」

 アリカムの掠れた声など無視し「いいな」と鋭い眼光を飛ばすクレン。

 あーあ、とジークはため息をついた。

「さっすが五人衆の中で一番の堅物。相変わらずのがっちがちな石頭だぜ。クルテンのおっさんの方が断然話が通るよな、まったく」

「ユウガ」

「シュウがアンタをこの検問に付けたのは、アンタがこの黒蛇(へびども)に気づいて片付けるのを期待したからだ。そうなっていりゃあ、俺もこうしてしゃしゃり出なくて済んだのに」

「シュウがどう言おうとも、お前も捕らえねばならん」

「ったく…。洞察力もねーのかよ?」

「なに…?」

 ジークはますます不敵に笑い、そして己の右手を前に突き出してみせた。

 そこにあるのは――ティスカル家の家紋が入った銀色の腕輪。

 ジークは吠えた。

「俺は今、あの人に言われてここにいるんだぜ!? なのに、なーんでアンタに取っ捕まえられなきゃならねーんだよ…!」

「………!?」

 はったりである。

 真っ赤な嘘である。

 だが――…、父自身から「腕輪の効力はいつでも好きなときに使って良い」と許されているのだ。ジークの中では嘘でもはったりでもなく、事実と同等である。

 ゴリ押しすればなんとかなる。

 それが妙に吹っ切れたジークの心に今ある座右の銘であった。

 勢いに乗ったジークは父から託された剣を抜き放ち、さらに叫んだ。

「その黒蛇(ヤブヘビ)をふん縛るぞ、クレン! 俺は今な、無ッ性にひと暴れしてぇ気分なんだからよぉ…ッ!!」


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