過去を追う◇過去を追う2
二十五歳の冬、父が死んだ。
墓石に刻まれた『第七代総裁』の文字を見つめ、ユギハは大きく息を吐く。
――他界する数日前。病床の父は、自分にこう告げた。
「ユギハ、お前が俺の跡を継げ」
――…あのとき隣にいた兄ユタバの表情を、ユギハは見ることができなかった。…見ずともわかったのだ。その目にあるものが。
それは、養父との別れへの悲しみではなく――…憎悪にも似た貪欲なまでの嫉妬…。
「ユギハ、時間だ」
後ろに控えるクルテンが声を掛ける。もうじき総裁就任の儀が始まるのだ。
それに短く応えたユギハは父の墓を短く見やり――…ふと、決めた。
成人の儀で父から授かったあの剣には、決して人の生き血を吸わせない、と。
総裁になってからの時間の流れはとても速く感じた。
年若く未熟な総裁である自分を、父の側近でもあった4人が懸命に支えた。一番の友であるクルテンは良く身辺を守ってくれた。この5人はいつしか腹心五人衆と呼ばれるようになった。
昔から馴染みがあり、心を許せる者達ばかり。
――…だが…、ときどきとてつもない不安に飲み込まれそうなる。
父のあの言葉が、鮮明に耳に蘇るのだ。
『よく覚えておくんだな。近くにいる存在ほど、裏切りに遭う確率が高い。しっかりと見極めてから自分の信用を置け』
信用した後も、疑う気持ちは決して忘れるな――。
「…なぁユレン、どこか遠くで一緒に暮らせたらいいのにな」
ある晩。隣にいる愛する人の温かさを素肌に感じつつ、ユギハはぼんやりとそう呟いた。
ユレンは首を傾げる。
「遠く?」
「とにかく遠くさ。蒼を出て、お前とふたりでどこか遠くへ行きたい」
「…また無茶苦茶を言い始めたね」
ユレンの苦笑に、ユギハもまた苦く笑う。
「まぁな。
でも…、オヤジが遺言を遺さなければ、俺は絶対に総裁にならなかった。
遊びたいとか、面倒だとか、大変で嫌だとか…、そういうんじゃない。俺には向いていないんだ。
――…人を殺すのを仕事とする〔組織〕の総裁なんて」
「ユギハ…」
「お前がいて本当に良かった。俺はお前がいればそれでいい」
「…ユギハ…」
幼子を慰めるように頭を撫でた恋人の温もりを…、ユギハは心から愛しいと思った。
「結婚しとくか?」
そう告げたのはユギハだった。ユレンもあっさりと「そうだね」と応えた。
ふたりは祝言を挙げ、夫婦となった。
それからまもなくユレンが口にしたのは――。
身籠った子供の堕胎を乞う言葉だった。




