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賢者サマのおふね◇ジークのこと  作者: 神代きい


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過去を追う◇代わり

※若干残酷な描写が含まれています。

 先日、報告のために(あお)へ戻ったとき、父ユギハは革命軍の人間と(あか)の人間を交えた会議を開いていた。

 会議を終え書斎に戻った父は、イライラと爪を噛んで待ち構えていたシュウに驚愕の顔を浮かべた。

「シュウ――…、お前が何故いるんだ?」

 父の問いに眉がピクリと動く。

 シュウは憮然と腕を組むと、ソファに座った父を見下ろした。

「何故とはなんですか。朱と合同で黒蛇(へびども)を潰す計画がどうやら実行されるようですね。僕が不在にした途端にコソコソと会議を開いて」

「シュウ」

「僕は腹心五人衆の1人です。その僕に黙って黒蛇(へび)討伐の計画を遂行するとは、父上を見損ないました」

「見損な――…」

 容赦ない息子に絶句し、特大のため息をつくユギハ。

「お前はあれを捜すことに集中してくれ。あれは元々、お前以外の蒼の人間が傍に寄ることを嫌がるからな。それからガヌアスに――」

「ユウの捜索をこじつけつつ僕をガヌアスに追い払う、というのが父の意図ですか。あぁそうですか。そんなに僕が信用できないと?」

「そうカリカリするな」

 シュウをたしなめたユギハだったが、逆に無感情な冷たい目を向けられてしまい、深いため息をつく。

「今のお前を討伐要員には入れられない。つま弾きにされて殺気立つような心理状態のお前を、どこの誰が起用するか。

 お前はガヌアスの大仕事に参加しろ。自分の役割を果たせ」

「嫌です」

「お前なぁ…」

 続けて何かを言おうとした父を、シュウは問答無用で遮る。それも、わざとらしく嫌味たっぷりな口調で。

「僕にとって、ユウの捜索と黒蛇(へび)討伐には価値がありますが、革命軍への参加に価値はない。黒蛇(へび)討伐への参加は絶対に譲れない」

「シュウ」

「現地の指揮は誰でも結構。ああ、朱の総裁でも構いませんよ。僕は黒蛇(へびども)の駆逐に参加できればそれでいい。僕1人で千の兵の働きをします」

 それだから駄目なんだ…、とユギハが頭を抱えた。

「いいか? 黒蛇(へび)を沈める刻が早まったことに、私個人の私怨がないとは言わん。叶うならば、私自身の手であのヒゲ頭をねじ斬りたいさ。

 でもな、それだけで決起を早めたわけじゃない。ガヌアス王都攻略の日時に合わせての決定だ。どのみちガヌアスの動きに合わせて討つつもりだったし、これ以上蒼(ウチ)の前でうろつかれるのも我慢の限界だからな」

「わかっています。だからこそ、朱の協力が必要なのでしょうから」

 シュウ、とやや強くたしなめる父に鼻を鳴らすシュウ。ユギハの眉間のシワが深い。

「目障りな黒蛇(へび)をこの作戦で完全に潰す。そのためにはネズミ1匹と生かさぬつもりだ」

「ええ。砦内はそれこそ地獄絵図になるでしょうね。でも、僕は構いません。幼子や妊婦が泣きすがろうが、それを斬り捨てる心づもりは出来ています」

「そういう問題で俺はお前を外したわけじゃない。だいたいお前は――」

「僕には『外された』という記憶はありません。

 まぁ…、たとえ父上が僕を外したとしても、僕は勝手に行きますがね。それを承知で僕を外す愚かな判断を、父上ともあろう方がするはずがないでしょうが」



 …あのときの父の顔を思い出し、シュウはクスクスと笑ってしまう。

 父は今頃どうしているだろう? ユウガが余計な真似をしたおかげで大幅な予定変更を余儀なくされ、また眉間にシワを寄せているに違いない。

 衣擦れの音に目を向けると、酔い潰れ眠りこけた弟が、絨毯の上で寝返りを打っている。気分が悪いのか寒いのか、その眉間には絶妙に刻まれたシワ。

 父そっくりな表情に思わず笑い、シュウは弟を引きずってベッドに入れてやった。

「お前はホントに父上にそっくりだね、ユウ…」

 寝顔に掛かった黒髪を退けてやり、シュウは穏やかに寝顔を眺める。

「さすが、父上の息子だね…」

 自分はこの弟が可愛くて仕方がない。ユウガは大切な弟だ。唯一無二の存在だ。

 自分と同じ血をひく弟。

 父と同じ血をひく弟。


 だから自分は――父の息子だ。


 馬鹿なことを…、と心の中で呟く。

「僕も酔ったのかな…。参ったなぁ、明日は大事な会議があるのに」

 シュウはベッドの脇に腰を下ろし、前髪にふぅ…と息を吹きつける。

 ユウガは大切な存在だ。それは自分の可愛い弟だからだ。父の息子だからではない。

 そう――…。父との絆を確かめるために、弟を可愛がっているわけではない。

「………」

 かつて父はユウガを冷たい牢に入れ、自分には暖かな部屋を与えた。ユウガにはわざと冷酷な待遇をし、自分には優しい愛情を注いだ。

 だから――…なんだ?

「父上は…、そんな馬鹿な考えは持ってない…」

 父はユウガと同じように自分を愛してくれている。

 そんなこと、わかっている――。

 うん…、と。

 シュウはひとりで頷き、自嘲する。

「やっぱり、酔ってるんだな…。ユウ、隣に入れてね」

 熟睡している弟の返事は期待せず、シュウはモゾモゾと弟の隣に潜り込んだ。先に目を覚ましたら文句を言われるかな…、と思いつつ目を閉じる。

「おやすみ、ユウ…」

 朱と合同で黒蛇(くろへび)を叩く――。その参加権を少々強引にもぎ取ったシュウは、革命軍の王都攻略を前にガヌアスを出立する予定だ。

 弟に害を加えようとした黒蛇(へびども)を、自分は断じて許さない。総裁を殺す許可は得ている。だからと簡単に首を刎ねはしない。命乞いをされようが、現場の指揮を執るユタバや周囲が止めようが構うものか。まずは生け捕るとして…、さてどうしてやろう。生体で解剖でもしてやろうか。足を折り、爪を剥ぎ、神経を引きずり出し、それから……。


 ――自分は異常だろうか?


 相手は弟を狙い、父を苦悩させた人間だ。故に憤怒する。…普通の情動だと思うのだが。

 ふと、父の言葉を思い出した。


『お前はユレンに似て、一度キレると恐ろしいからな』


「えぇ父上…、僕はキレると怖いですよ」

 母に似ている、という言葉は自分にとって救いの言葉だ。これもまた父との繋がりが確認できる言葉だから。

 …いや、そんなことはどうでもいい。

 自分は母に代わって父を支え、母に代わって弟を守っているだけなのだから。

「ねぇユウ…、僕はちょっとは母上の代わりになっているかな…?」

 平和な寝息を立てている弟に優しく笑み、シュウもまた静かに目を閉じた。



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