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賢者サマのおふね◇ジークのこと  作者: 神代きい


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36/51

過去を追う◇兄を訪ねて

「ユウ、どうやって入ってきたの?

 それよりも…。最近のお前は、一体何をしているのかな〜?」

 呆れ果てた様子の兄に、ジークはひょいっと肩をすくめてみせた。

 ガヌアス革命軍最大の砦にあるシュウの部屋。窓から心地よい風が吹き込んでいる。遠くから聞こえる、兵達の威勢の良い稽古の声。

「悪戯はほどほどにしないと後が怖い。お兄ちゃんは心配で心配で」

「シュウに迷惑がかかってるワケじゃねーだろ?」

「ま…、僕にはね…」

 兄の反応は今ひとつだが、ジークは生き生きとした悪ガキの笑顔である。

 そんな弟にため息をつくシュウ。

「ユウ、また悪戯をするのかい? お前がガヌアスでウロウロすると、僕の胃が痛む」

「俺は黒蛇(へび)に捕まるような馬鹿じゃねーから。実証しただろ?」

「実証?」

「連中の巣で花火を打ち上げてやった」

 5秒の間。

「うーわー…。あの爆破は、やっぱりお前の仕業だったんだ?」

 そうさ、と目を輝かせるジーク。

 対するシュウは、重いため息をついている。

「まったく、余計なことを…。おかげで向こうは、噴火の勢いでご立腹だ」

「そりゃそーだろ」

 ――自分んトコの総裁が、あーんな目に遭えば。

 そこでジークは、ハタ、と思いつく。

「なぁなぁアニキ。俺は火薬庫を吹っ飛ばしただけじゃねぇんだけどよ、ソレについては知らねーのか?」

「………。

 この愚弟ちゃんは、一体ナニをやったのかなぁ~?」

 頬をピクピクさせている兄にニヤリと笑い、ジークは「知らねーならいいや」と意地悪な返事をした。

 …連中もさすがに総裁の恥辱を外部に漏らすほど無能ではないらしい。

「それで…、それは父上のプレゼントかな?」

 シュウが「それ」と目で示したのは、ジークの右腕にある腕輪だ。

 ニヤリと笑って応えるジーク。

「いいモン貰った。革命軍の連中は、完全に俺を(あお)の人間だと思っていやがる」

「それでここまで簡単に入ってきた、と…。

 お願いだから悪用はしないでよ、ユウ」

「さぁ、どーしようか」

「こらこら、あれこれ企まないの」

 そう言いながらも、シュウはこの会話をどこか楽しんでいるようだ。

 ガチャッ

 ノックもなく開かれたドア。赤い髪が視界の隅にチラッと入った。

 それと同時に、聞き覚えのある能天気な声。

「あーーッ! ユウガだぁっ!」

「デカい声で呼ぶんじゃねぇッ!!」

「人の部屋に無断で入るなーッ!」

 幼馴染みを見つけて嬉々とダッシュしてきたアリカムであったが…、珍しくシュウにまで怒鳴られてしまい、一気にシュン…となる。

「つーかアニキ…、アーリーをガヌアスに連れて来たのかよ。俺はてっきり、アーリーは(あか)に置いてきたとばかり」

「数少ないお前の幼馴染みだ、あんな場所に置いてくるなんてしないよ」

「…。ガヌアスに連れてくる方が危険だろーが…」

 シュウの(あか)嫌いは相当らしい…。怪訝な目を向ける弟に対し、シュウは人の良い微笑みを崩さない。

「聞いてくれよぉ〜。おいら、ガヌアスへの道中でも黒蛇(へびちゃん)に襲われたんだよ〜ぅ。ほらほら、コレがそのとき受けた怪我」

 襟を開けて「ほらほら」と包帯をアピールするアリカム。

 ジークは眉間にシワを寄せる。

「は? シュウが一緒なのに?」

「僕は彼の子守りじゃないんだ、四六時中一緒じゃないさ」

「おいら、なんで何度も襲われるんだろなぁ?」

「さぁ…?」

 確かに…、人質目的でシュウを襲うならばわかるが…。

 突然「そうだ」とひとつ手を叩くシュウ。

「ユウ、ついでに頼み事をするね。無茶しない程度に黒蛇(へび)から情報をくすねて、僕に教えてくれるかな? 僕はしばらくこの砦にいるから」

「………。

 結局は手伝わせるのか?」

「嫌ならいいよ。代わりに、即刻この国から去って。

 ――なぁんてヌルいことを、僕が言うと思う?」

 含みのある声音に、ジークは思わずギクリとなった。

 見ると…、シュウは見る者を凍りつかせる恐怖の微笑で、口元を冷酷に歪ませている。

「僕が甘いからと調子に乗るのは、もう終わり。ここは戦場だ。これ以上の身勝手は許さない。

 僕の言うことが聞けないのなら――…。僕は今お前を再起不能にして、地下牢に放り込む」

「………。

 そんな怖ぇ顔すんなよ、アニキ…」

「僕は本気だ」

 ――いつの間にか剣の柄へと伸ばされていた手が、それを物語っている。

 ジークは大きなため息をついた。

「ちっ…。手伝えばいーんだろ、手伝えば」

 弟の返事にわずかに威圧を緩めるも、シュウは恐怖の微笑を湛えたままだ。

「なら、アリカムを連れていって。手負いの身とはいえ、一応は護衛にはなるから」

 ――監視者が友ならば殺すまい。

 兄の考えはよくわかる…。ジークはひきつった顔で苦く笑う。

「りょーかい。

 アーリー、5分で身支度してこい」

「ええっ? おいらが意見する権利はナシ?」

「ない。あと4分40秒」

「ちょっ…!

 ――…ユウガぁッ、おいらを置いていくなよぉ〜っ!?」

「だーかーらッ、開けっ放しのドアからデカい声で呼ぶんじゃねぇーッ!!」

 顔を真っ赤にして怒鳴りつける弟。

 その無邪気とも呼べる姿に、シュウもようやく表情を緩める。

「まぁ、そんなに急がなくてもいいだろう。ユウ、今夜は一緒に呑もうよ」

「はぁ? 俺は今、侵入者…」

「大丈夫大丈夫。バレなきゃいいんだから」

「………。お前がそんな適当でいいのかよ…」

 げんなりとする弟に、シュウはにっこり笑ってみせた。



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