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賢者サマのおふね◇ジークのこと  作者: 神代きい


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過去を追う◇転職しました

 ガヌアス王国と黒蛇(くろへび)の本拠地はさほど離れてはいない。深い樹海の中にその砦はあった。

 ――月の明かりが届かぬ暗い夜だった。

 正門の見張り達に砦内からの騒ぎが聞こえてきた。「火事だ」という叫び声、「侵入者だ」という怒声――。

 ありがちなパターンだ。この場合、慌てて増援に向かった門番達の隙を狙い侵入者の数が増えたり、逆に侵入者の逃亡を許してしまったりするのである。

 ゆえに、見張り達は持ち場から離れなかった。

 …しかし。次の派手な衝撃には、さすがに怯んだ。

 ドオオオオオォンッ!!

「!?」

 地面を突き上げる衝撃と凄まじい爆音。一瞬で夜を昼間に変えるほどの閃光。

 ――火薬庫が爆破されたのである。

 その破壊力は凄まじく、火薬庫周囲の建物がほぼ吹っ飛んだ。

 平和な見張りにうたた寝をしていた警備は一気に睡魔から解放され、熟睡していた者達はどんなに目覚めが悪い者でも飛び起きた。

「ええいっ! 何事だっ!?」

 威厳あるヒゲ面で有名な黒蛇の総裁は、寝間着姿のまま自室から飛び出した。大きな声で側近を呼びつける。

 そして――。

 総裁の姿を見た配下達に、更なる衝撃が走った。

 三時のおやつに出たツチノコのパイよりも強烈な衝撃であった。

「そッ、総裁っ!? そのお顔はどうされたのですかッ!?」

「むっ?」

 ――強面な総裁の顔から、あのヒゲがなくなっていた。

 さらに、眉毛もなくなっていた。

 ついでに、パックまでされていた。


 ――あれほどの大きな爆発であったというのに「火薬庫が爆破された!」というニュースよりも「就寝中の総裁が侵入者にヒゲと眉毛を落とされてパックされた!」というニュースが黒蛇中に早く広まっていった。

 大パニックを起こす砦内。

 阿鼻叫喚で右往左往する彼らは、侵入者が去ったことに気づかなかった。

 ――…翌朝。明るくなった総裁の自室から、この紙切れが発見されるまで。


【そのカオの方がいいんじゃねーの?

  義賊に転職した“真空のジーク”より】




「カイ、また新聞読んでるの?」

 日当たり良好なデッキのテーブルで新聞を広げているカイは、目線を手元に落としたまま「ああ」とだけ返す。

 その隣からひょいっと新聞を覗くレイヴ。

「えーと…【“真空のジーク”再び出現!?】…え?

 ジーク、何かしでかしたの?」

 カイは「自分で読め」と言わんばかりに無言でレイヴに新聞を押しつけると、肩を震わせつつその場から立ち去った。

 あのカイが笑いを堪えるなど滅多にない。レイヴは頭に無数の疑問符を浮かべ、記事の続きを目で追いかける。


【革命軍の総攻撃が予想されるガヌアス周辺にて、ここ連日“真空のジーク”を名乗る者による事件が多発している】


「ジークってばガヌアスに行ったのか? これまた遠くに行ったなぁ。感心しちゃうね。

 ええと~…【王国側の貴族を中心に行われているその悪質な犯行の手口は】――…えっ?」

 レイヴは一瞬「俺もついに視力が落ちたか?」と本気で思った。

「…【その悪質な犯行の手口は、就寝中の被害者の眉やヒゲを剃り落とすというもので】…ジ、ジーク……?

【犯行現場には犯人が残したと思われるメモがあり、その全てが『義賊に転職した“真空のジーク”より』と結ばれており――】」


 ………。


「ジ、ジーク…? よ、よくわかんねーけど…。なんか…、ヤケになっちゃったのかなぁ……?」

 はたして彼の心境は、どのように変化しているのか。

 それを唯一知ると思われる賢者サマは、ちびっこの姿で気持ち良さそうに昼寝をしていた。


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