理解すること◇闇の中でも
闇の中に現れた円錐形の光と、それに照らされた木製のテーブル。
そこだけがぽっかりと白い光の支配にあり、闇の支配を完全にはね退けている。
「…」
ジークは光の中に入り、上を見上げた。
この光はなんだろう…? 太陽やランプではない。これほど鮮明に闇と決別できる光など、本来存在しないはずだ。
まーくんをテーブルに置き、周囲を見回す。
深い深い闇の世界…。この空間は漆黒そのもので出来ているのかもしれない。
「…? なにやってんだ?」
テーブルの上で一生懸命に体を擦りつけているまーくんに気づき、ジークはテーブルの表面に注意を向ける。
「………」
そこには文字があった。
そして、その字には見覚えがあった。
筆やペンで書かれたわけでも、ナイフで刻まれたわけでもない。…しかしそれは風化されることなく、訪れるべき者を待っていた。
それは記憶の隅にある――…父の字だった。
これらは 全て
今のお前には 不要かもしれない
それでも 私は
お前に 渡しておきたい
ひとつは
お前が 必要とする時に
いつでも 使って 構わない
もうひとつは
今のお前に 不要であれば
好きに処分して 構わない
これだけは 伝えておきたい
お前は お前が望むように 生きろ
本当に すまなかった
――…気がつけば、テーブルの上に忽然とそれらが現れていた。
「…」
ひとつはシンプルな銀の腕輪だが、ジークには一目でその正体がわかった。
蒼の者全員が身に付けている腕輪。持ち主以外には付けられない魔術が施されており、身分証の役割を果たす。
しかもこの腕輪の紋様は、ティスカル家の家紋。
【この者の身分をここに保証する
第八代蒼総裁 ユギハ・ティスカル】
腕輪の内側に刻まれた言葉だ。
――…他の腕輪と同じ文言だというのに、何故かもっと深い何を感じる…。
「…」
もうひとつは長剣。飾り気はないが、触れるだけでなぜかとても心地よい。
鞘からスラリと引き抜くと、曇りのない美しい刃。…この剣はまだ人の命を奪った経験がないのだ。
『この剣を、その手を、もう二度と血で濡らすな――』
そんな声が聞こえた気がして…。
「…っ」
――…何故だろう。
あんなに憎かったのに。嫌っていたのに。
どうして…、どうしてこんな心境になるんだ?
今でも憎いと思っているのに…!
「く…ぁあっ」
俺は――…、泣くことなどないと、思っていたのにな……。
――…長剣を抱えるようにその場に崩れたジークに、まーくんが静かに優しく寄り添う。
その想いはあたたかで…、記憶のどこかに確かに在る母のそれに似ている気がした…。