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賢者サマのおふね◇ジークのこと  作者: 神代きい


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28/51

理解すること◇闇の中で

「――…マジで暗いな…」

 怖くはないが、ランプの用意と目的地までの距離を聞き忘れたジークである。ジークの不安など無関係に、闇の通路はどんどん奥へと伸びていく。

 周囲は完全な無音と漆黒の世界。ジークの足音すら響いていない。…かなり不気味である。

 何か明かりになる物を持っていなかったか…、ジークは暗闇の中で懐やポケットを探った。マッチがあったと思ったのだが――…、そういえば船の自室に置いてきたんだっけ…。

「…おい、キオウー。明かりを寄越せよっ、明かりをよーっ」

 無音の状況が耐えられず、思わずそんな言葉を口走ってしまった。いつもなら呼び掛けに多少は応じる賢者サマだが、今回はシカトを決め込んだようだ。

 むかつく…、と青筋を立てるジーク。その足に何かがぶつかった。

 なんだこれは…、と身をかがめ、手探りでソレを見つけ出す。

 もふっ

 もふもふっ

「………ま…、まーくん、…か?」

 この感触、大きさ、持ち上げたときの重み。

 間違いなく、まーくんである。

「…。お前が来ても意味ねぇじゃねーか」

 心ない言葉にまーくんは怒った。

 そして、噛みついた。

 かぷ…っ!

「いでででででで…ッ! わわわッ、わかったわかったッ。前言撤回! お前が来て俺は物凄く感激している…ッ!!」

 まーくんは満足したらしい。

 その証拠に噛みついていた手を放し、ジークの胸元にすりすりしてきたのである。

「………」

 まーくんの口が動く決定的瞬間を見逃した。

 ――…な…なんだか、一気に、こう…、疲労感が……。

 ため息だけでなんとか気を取り直し、ジークはまーくんを抱えたまま、右手を壁につけて先へと進む。まーくんはおとなしくジークの腕になじんでいる。


 それにしても…、(あのひと)が自分に渡したい物とは、一体…?



『――ユウ。今お前が欲しいものはなんだ?』

『?』

『なにかひとつだけ叶えてやろう』

『………』

『遠慮はするな。なにか欲しいものがあるんだろう?』

『…。じゃあ――…』



 ――…こんなことまで思い出してしまった…。


 自分の誕生日。

 その日は剣術の稽古は休みで、(あのひと)は必ず朝早くに自分の元に来て望みを訊くのだ。

 なにもない、と答えても(あのひと)は引き下がらない。息子の口から欲しい物を聞き出すまで、(あのひと)はずっと待ち続ける。

 そして、(あのひと)は必ず願いを叶えてくれた。


 その目は、とても優しかった…。


「………あ」

 前方に何かが見えた。





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