理解すること◇闇の中で
「――…マジで暗いな…」
怖くはないが、ランプの用意と目的地までの距離を聞き忘れたジークである。ジークの不安など無関係に、闇の通路はどんどん奥へと伸びていく。
周囲は完全な無音と漆黒の世界。ジークの足音すら響いていない。…かなり不気味である。
何か明かりになる物を持っていなかったか…、ジークは暗闇の中で懐やポケットを探った。マッチがあったと思ったのだが――…、そういえば船の自室に置いてきたんだっけ…。
「…おい、キオウー。明かりを寄越せよっ、明かりをよーっ」
無音の状況が耐えられず、思わずそんな言葉を口走ってしまった。いつもなら呼び掛けに多少は応じる賢者サマだが、今回はシカトを決め込んだようだ。
むかつく…、と青筋を立てるジーク。その足に何かがぶつかった。
なんだこれは…、と身をかがめ、手探りでソレを見つけ出す。
もふっ
もふもふっ
「………ま…、まーくん、…か?」
この感触、大きさ、持ち上げたときの重み。
間違いなく、まーくんである。
「…。お前が来ても意味ねぇじゃねーか」
心ない言葉にまーくんは怒った。
そして、噛みついた。
かぷ…っ!
「いでででででで…ッ! わわわッ、わかったわかったッ。前言撤回! お前が来て俺は物凄く感激している…ッ!!」
まーくんは満足したらしい。
その証拠に噛みついていた手を放し、ジークの胸元にすりすりしてきたのである。
「………」
まーくんの口が動く決定的瞬間を見逃した。
――…な…なんだか、一気に、こう…、疲労感が……。
ため息だけでなんとか気を取り直し、ジークはまーくんを抱えたまま、右手を壁につけて先へと進む。まーくんはおとなしくジークの腕になじんでいる。
それにしても…、父が自分に渡したい物とは、一体…?
『――ユウ。今お前が欲しいものはなんだ?』
『?』
『なにかひとつだけ叶えてやろう』
『………』
『遠慮はするな。なにか欲しいものがあるんだろう?』
『…。じゃあ――…』
――…こんなことまで思い出してしまった…。
自分の誕生日。
その日は剣術の稽古は休みで、父は必ず朝早くに自分の元に来て望みを訊くのだ。
なにもない、と答えても父は引き下がらない。息子の口から欲しい物を聞き出すまで、父はずっと待ち続ける。
そして、父は必ず願いを叶えてくれた。
その目は、とても優しかった…。
「………あ」
前方に何かが見えた。




