表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/13

別れと願い

澄は朝から帰る準備で忙しかった。

「きよしー、用意はできとるかー」

「うん」

「じゃぁ、しゅっぱつするぞ」

澄は慌てて、車の後部座席に乗った。隣には美奈穂が乗っていた。

ハンドルは銀次郎が握り、助手席はトキが座っていた。

車に乗ってから、澄と美菜穂は無言だった。

澄は車から流れてくる景色を見ていた。

だんだん乙原家が遠ざかっていく。

美菜穂は下を向いていた。


もう、美菜穂に会えなくなるのか。

美菜穂とあったことが、つい昨日のように感じる。

容姿、顔、そして笑ったときの顔がおひさまのようで。

くるくる表情が変わって。

そんな彼女に一目ぼれした。

我ながら、自分は単純な奴だと思う。

これが、たちの悪い女だったらすぐに騙されていたかもしれない。

下手すると女性恐怖症になるかもしれない。


そういえば、結局同級生に自慢する写真が撮れなかったなぁ。

連絡先は交換した。


考えているうちに、見野山駅に着いた。

全員車から降りて、ホームに向かった。

見野山駅は無人ホームである。

列車が車で三十分ある。

「なぁ、美菜穂。いきなりだけど、一緒に写真撮ってくれる?携帯で撮りたいんだけど」

沈黙の殻を破ったのは澄だった。

「え、えぇ」

美菜穂は若干戸惑いつつも、了承した。

澄は銀次郎にシャッターを押すように頼んだ。そして澄は美菜穂の隣に並んだ。

「いくよー!」

二人は笑顔全開になった。

銀次郎はシャッターを切った。

「こんな風になったよ」

銀次郎は二人に画像を見せた。デジカメみたいには鮮やかではないが、二人がはっきり写っている。

まるで二人のささやかな幸せが鏡に映っているみたいだ。

「わぁ、ちゃんと写ってるわ」

「携帯の写真機能はあんまり使わないから気づかなかったけど、実はこんなにきれいに映るんだね」

澄は携帯の待ち受けを二人が写ってるのに設定を変えた。

うれしくて仕方がないからだ。

「見て、待ち受けにしてみたんだけどどうかな。あっ、勝手にしてしまってごめん」

「いいのよ。澄、あとでその写真、メールで送ってよ。私も待ち受けにするから」

「わかった」

勝手に待ち受けにしてトラブルになる話をよく聞くから、一瞬不安になったがよかった。

「二人ともいいところを水を差すようだけど、そろそろ電車来るよ」

トキに言われて気が付いた。

列車が駅に近づいてきた。軽快な音楽が流れてくる。

「美菜穂、もういくね…」

「うん。気を付けて帰るのよ…。――また会おうね!」

美菜穂は涙を見せないように必死だった。

澄は列車の中にはいり、窓側の席に座った。

列車は出発した。

夏休みなのか、ひとが多い。


もっと長く居たかった。でも自分の思いは伝えることができた。

今度会う日を決めていなかった。これから忙しくなるだろうし、いきなりデートしませんかというのはしつれいだとおもうなぁ。


ふと、窓を覗くと列車を追いかける人が見えた。

「きよしー!」

美菜穂が追いかけてきたのだ。

「み、美菜穂!?」

澄は窓を開けて何度も手を大きく振った。

しかしだんだん列車と美菜穂の距離は遠くなっていく。

とうとう美菜穂はホームの端についたので、追いかけることができなくなった。


美菜穂、さようなら。君と出会えてよかった。


ホームを過ぎると、ひまわり畑が見えた。心地よい風に揺られている。

「わぁ、ひまわりだー!」

中学校の国語で習った短歌を思い出した。

国語の教科書ではそこそこの定番の作者が書いたものである。


一緒に宿題をしたこと、夏祭りで美菜穂の浴衣姿に見惚れてしまったこと。

あぁ、たまに痴話喧嘩したなぁ。

夜、二人で寝たとき美菜穂が暗いところを怖がって、泣きついてきたなぁ。

あとそれから…思い出すだけできりがない。

澄は携帯を開き待ち受けを見て安堵した。

車内アナウンスが流れた。

『もうすぐ篠目駅ー、ささめえきです』

澄は下車の準備をした。

列車が止まると、次々と人が駅のホームに降りていく。

篠目駅は比較的混雑のしやすい駅である。

澄はバスに乗り、夕方に家路についた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ