別れと願い②
「ただいまー」
澄は玄関にある靴がいつもより多いことに気付いた。
「おーっ、澄、やっと帰ってきたか」
リビングから姉の結菜が出てきた。
「もしかしてお義兄さんもきてるの?」
「そうよ。澄が帰ってきて来るの待ってたのよ」
澄は丁寧に靴を並べてリビングに向かった。
「おにいちゃーん!」
リビングのドアを開けると妹の小春が飛びついてきた。
澄は小春の頭を撫でた。
「小春、ちゃんとお父さんとお母さんの言うこと聞いてたか?」
「うん!」
小春は大きくうなづいた。
「澄、久しぶり!」
結菜の夫、浅名修平が声をかけてきた。
「お久しぶりです」
澄は軽くお辞儀した。
「そんな堅苦しくなるなって。俺に敬語を使わなくてもいいから」
「はぁ…」
いやぁ、修平さんって見た目がイケメンだからついつい敬意を表してしまうというか。
「なっ、年近いんだから気楽にいこうや」
澄と修平は五つ年が離れている。
ちなみに結菜とは高校時代の同級生で、澄が中学校3年の時に結婚した。
「澄、そこに立ってないで椅子に座りなよ」
修平に促されて、向かいの席に座った。
「あれ、父さんと母さんは?」
「今出かけてる」
「あっ、そう」
「そういえば、澄。ばあちゃんから話聞いたんだけど…好きな子ができたんでしょ」
結菜の言葉に澄は色を失った。
ばあちゃん、余計なことをするなよ。なんで家族にばらすんだよ。
よりによっておしゃべりな姉貴にいうんだよ!
「おぉ、澄にもついに春がきたか!?」
修平が茶化してきた。
「それにめっちゃかわいい子だよ」
「なっ、写メないの?」
浅名夫妻にこれ以上何か言っても無駄だと思った澄は、しぶしぶ携帯を取り出した。
「これだよ」
携帯の待ち受けを見るなり夫妻は。
「わぁ、かわいいじゃん!将来美人さんになると思うわ」
「しかも澄の奴、待ち受けにしてるし」
「ほら見て、小春。この子が澄の将来のお嫁さんだよ」
結菜は小春に携帯を見せた。
「ねえちゃん、何勝手に話をねつ造してるんだ!」
澄は乱暴に携帯を取り返した。
「わぁ、こいつ顔が赤くなってるし」
「帰ったよー」
玄関から声が聞こえてきた。
澄の両親、清貴と美音子である。
「あら、澄帰ってたのね」
「澄、お前かわいい子と仲良くなったんだてな。いやー、青春だねぇー」
父さんの開口一番が恋の話って、どうよ。
「父さんならたぶん聞いたことあるかな。なんか見野山町では有名な旧家の娘さんらしいけど」
清貴は考えるそぶりを始めた。
「あっ、思い出したぞ。寿家だ。でも澄と同い年ぐらいの子っていたっけなぁ…」
そういえば、いつだったかおやじとの電話で。
『近所で住んでる人でなぁ、澄と同い年ぐらいの女の子が引っ越してきたんじゃ』
「あぁ、そういえばいたな。私は見たことないんだけど」
『わしも最近娘さんがいたのを知ったんだけど、その娘さんはたいそうきれいなんだけどな…』
それからあとは教えてくれなかった。
「確か名前は美菜穂ちゃんだったかな」
「そうだよ。中学校の時に見野山にきたんだって。でもね…」
澄は美菜穂のことを話した。
「うーん、それはまずいよね」
修平が顔をしかめた。
「澄も大変なことに巻き込まれたね」
「そうかもしれない」
澄は苦笑した。
それから夏休みが終わるまで、澄と美菜穂はメールで連絡を取り続けた。一日の出来事を書き連ねて。




