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再会

9月1日。ほとんどの学校が始業式を行う日である。

澄が通う日谷ひたに学園でも、始業式が行われた。

このような式典では、学園長や先生の話がやたら長くて途中で寝だす人が続出するのはお約束。

日谷学園はでは、よっぽどのことない限りあまり注意しない。

教師たち自身、学生時代には同じようなことを経験していて、説得力がないからだ。

始業式がおわるとしばらく教室で待機していた。

夏休みは彼氏または彼女を手に入れただの、塾の夏期講習がしんどかっただの、話は尽きない。

「澄、おまえ、彼女ゲットしたらしいな」

話しかけてきたのは、澄の幼馴染で阿部礼治あべれいじである。

クラスで必ずいる調子ものである。

「なんで知ってるのさ?」

家族以外には教えていないはずだ。

「俺の母さんから聞いたんだ」

礼治曰く、澄の母美音子が礼治の母照子に話したということである。

『礼ちゃん、澄くん彼女ができたんですって。あんたも早く見つけなさいよ』と言われたのである。

礼治にとって澄が彼女ができるのがショックだった。

幼馴染でライバルであった。

礼治は勉強と積極性は上だったが、ピアノと家事能力に関しては頭が上がらない。

澄は草食男子って言われているけど、なんだかんだ言って人柄はいい。そこは太鼓判を押す。

彼女さんも澄の人柄の良さに惹かれたのだろう。

「うわぁ、母さんもおしゃべりな奴だー、もーっ!」

澄はため息をついた。

母さんがおしゃべりだから、姉ちゃんもそれが遺伝してるんだ。

「なっ、写メかプリクラないの?」

「えっ?」

「彼女さんの写真」

「えーっ、嫌だ」

澄はばつの悪い顔をした。

教室にドアを開ける音が聞こえた。

「じゃぁ、ホームルーム始めるよー」

入ってきたのは担任の乗川学のりかわまなぶだった。

生徒から「のりまな」の愛称で親しまれ、今年で37歳になる独身の教師である。数学の担当。

茶目っ気が入って生徒の間では評判がいい。

「委員長、号令」

委員長の号令でホームルームが始まった。

「高校生初めての夏休みはどうだった?」

反応なし。

「もー、みんな黙っちゃってさー、海外旅行にいったとか、恋人できたって話はないのかー」

澄は一瞬意表を突かれたような気がした。

ちなみに乗川は海外旅行をした。もちろん一人で。クラス分のお土産を買ったので、今はお金が苦しい。

「そうだ、重大発表があるんだった」

「先生に彼女ができたんですか?」

礼治が訪ねた。

「そうだよ…って言いたいけど、そんなのいないよ。今日からこのクラスに新しい仲間が増えるんだ」

なんでこんな時期に転校生が。何かあったのだろう。

「今から呼んでくるから待っててね」

乗川は教室を後にした。

転校生は隣の空き教室で待っているようだ。

「なぁ、転校生どんなのかな」

「知らないよ。見てみないとわからないし」

イケメンか可愛い子かの話題が飛び交う。

そして、教室のドアが開けられた。

乗川と一緒に来たのは少女だった。

白く透き通った肌。黒い長髪にカール。ぱっちりとした二重まぶた。人形みたいである。

しかもスタイルもいい。

「寿美菜穂です。みなさんよろしくお願いします」

おひさまのような笑顔だった。

ことぶきみなほ…。

澄は心の中でつぶやいた。

ちょっと、えっ、何で美菜穂が!?

澄は目を丸くした。

「み、みなほ!」

思わず席から立った。

「き、澄!このクラスだったのね!」

二人の会話を聞いていた乗川は何が何だかわからないというような顔をしていた。

「お、乙原くん。寿さんとは知り合いなのかい?」

「え、まぁ…」

祖父母の家に行った時に出会って知り合いになりました。

なーんって言えるわけがない。

男子の怒りを買ってしまう。

「きよしくーん、これはどういうことかい?」

礼治が澄のカバンから携帯を取り出して、待ち受けを見せた。

「寿さんにそっくりじゃないか。もしかしてさっき俺に言った彼女とは寿さんのことかい?」

礼治がにんまりとした顔で問うてきた。

これ以上隠し事できない。

澄は静かにうなづいた。

「まぁ、まぁ。そこまでにして。寿さん、乙原くんの隣が空いてるからそこに座ってね」

美菜穂は指定された席に座った。

うわぁ、どうしよう!

美菜穂と同じクラスでしかも席がとなり!

澄の心臓は早鐘を打っていた。

「澄、今後もよろしくね」

「う、うん」

「あぁー、二人ともラブラブだよ。なんか二人だけの世界という感じかな。うらやましいよ!」

先生、なにちゃっかり最後に本音入ってるの。

「余計なお世話です!」

澄は怒り交じりに言ったが、顔が少し赤い。




今日は散々だけどうれしかった。

美菜穂が同じクラスにきたからである。

担任や幼馴染にはおちょくられたが。

「澄、一緒に帰ってもいいかな」

下校の準備をしている澄に、美菜穂が声をかけてきた。

「うーん、ほかの人に何言われるかわからないから、ちょっと遠慮したいかな」

本当は一緒に帰りたい。

「澄は私と帰るのが嫌なの?」

美菜穂は若干悲しそうな顔になった。

「そういうことを言ってるんじゃなくて、ほかのクラスメイトに見つかったら、次の日何言われるかわからないんだよね」

「…確かにそうよね」

「じゃぁさ、少し人が少なくなったら出ようよ」

「その方がいいよね」

二人は少し時間をつぶして学校を出た。



「そういえば、美菜穂はどうしてこの学校に来たの?」

「寿家の本家をでて、姉さんの家に住むことになったの。姉さんとは仲が良かったから」

美菜穂の姉、司の家から日谷学園が近いのである。

「というかなんで、日谷学園に来るって話しなかったの?」

「澄を驚かせかったの。まさか同じクラスになるとは私も思っていなかったの」

美菜穂は肩をすくめた。

「そういえば姉さんの家ってどの辺にあるの?」

「篠目町」

「篠目って僕がすんでるところじゃん。篠目のどのあたり?」

「ぬばたまというところだったかな」

「僕の家からだいぶ遠いなぁ。でも電車に乗る駅は一緒だ、篠目駅だから」

「もしかしたら乗り合わせることあるかもね」

「もし一人で行くのが不安だったら、一緒に行こうよ」

「そうね。ありがとう!」

「いつも七時四十五分発に乗ってるから、七時半に来るといいよ」

「ずいぶん早い時間にいくのね」

「だって早く乗っておかないと通勤ラッシュに巻き添え食らうから」

澄は苦笑をした。

「私、電車にあんまり乗ったことなくて。それに一緒に行く人がいないか探していたの」

その辺は温室育ちの御嬢さんと一緒だなぁ。

気づいたら篠目駅についていた。

「澄、今日澄の家行ってもいい?」

夏休み明けラッキーな展開。

澄は同い年の女子を家に入れたことがなかったので、いい経験にはなる。

しかし、不安がよぎる。

「いいけどさ、小さい妹がいるけどそれでも構わないならいいよ」

「ええ。昼に来てもいい?」

「うん」

今日は母の美音子が仕事が休みである。

乙原家では、親がいる場合は基本的に人を入れてもいいことになっている。

澄は美音子に美菜穂が来ることをメールで送った。すぐに返信が来て承諾してくれた。

結構楽しみにしているそうだ。

電車到着の音が聞こえた。

電車に乗るとまだ制服姿の学生がたくさん乗っていた。

始業式で早く終わる学校が多いからである。

座るところはない。

立っている学生が多い。

美菜穂と澄は向かい合う形でたった。

もし、同級生、特に中学時代の同級生に見られたらどうしよう。

「澄、どうしたの?」

「あっ、何もなー……」

突然電車が急ブレーキを踏んだ。

澄はつり革を持っていなかったため、美菜穂の胸に当たった。


『ただ今信号待ちをしています。お急ぎのところお詫び申し上げます』


信号に引っ掛かり急ブレーキを踏んだのだ。

「き、きよし…?」

美菜穂は怪訝そうな顔をした。

「ご、ごめん。なんか悪いことしてしまった」

美菜穂、怒ってるだろうなぁ。

「ほんとごめん!」

「気にしないで。急ブレーキ踏んだから、澄が私の方に当たってくるのは仕方のないことよ。それより大丈夫?」

澄は美菜穂の思いがけない言葉に呆気を取られた。

よかった…。

澄はほっと胸をなでおろした。

「篠目駅、ささめえきーです」

電車を降りると乗客がかなり降りて行った。

「澄、またあとでね」

「わかった。篠目駅に二時に待ち合わせってどう?」

「そうね。澄が迎えに来てくれるのは嬉しいわ。ちゃんと約束の時間守るのよ?」

美菜穂の目は真剣だった。

「わかってる。またあとで」

二人は篠目駅を後にした。



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