ささやかな平穏②
「美菜穂、他に何かほしいのがある?」
「うーん・・・」
美菜穂の視線の先には装飾品店だった。
「美菜穂、ちょっとそこで待ってて」
「え、ええ・・・」
美菜穂は若干不安そうな目をした。
澄は急いで装飾品店に向かった。
装飾品と言っても、手ごろな価格で売られている。一番高くて三千円、安くて五百円。
澄は装飾品を選んでいた。見る目は真剣だ。
「すいません、これください」
澄が選んだのは九百五十円の四葉のクローバーがついたネックレス。
「はい、九百五十円ね。もしかして恋人にプレゼントするのかい?」
最後に店のおばちゃんがからかってきた。
澄は美菜穂のもとに駆け寄ると、ネックレスを差し出した。
「はい、これ僕からのプレゼント」
「え・・・っ、これって澄が買ったんでしょ。そんなのもったいないわ」
「このネックレスは美菜穂につけてもらいたいと思ったから、買ったんだよ」
澄は美菜穂にネックレスをつけてあげた。
「ほら、やっぱり似合ってるよ。買って正解だった」
澄は満足げな顔になった。
「ほんと!?ありがとね、澄」
美菜穂が喜んでくれてよかった。何せ女性に贈り物なんてしたことがなかったから。
喜んでいる姿を見ていると微笑ましくなってくる。
「澄、今何時?」
澄は携帯を取り出し時間を確認した。
「八時半ジャスト」
「そろそろ花火が打ち上げられるころだね」
「この祭りって花火があがるんだ、知らなかった。僕の地元では花火って打ち上げられないんだなぁ」
澄が毎年参加している夏祭りでは、何年か前に夏祭りのときに花火が打ち上げられたが近隣住民の苦情が出て以来まったくしていない。
「そうなの?だいたいこの時間帯に打ち上げられるのよ」
「へぇー」
――せっかくのふたりで行くんだから、いっそのこと告白しちゃいなよ。
澄の頭の中で祖父の言葉が一瞬駆け巡った。
花火が打ちあがる、つまり告白のチャンス!
乙原澄、花火が打ちあがったとき、人生初の告白をします!
うまく伝わるか分からない。でも、何もやらないよりはまし。
「澄、そろそろ花火が打ちあがるわよ」
けたたましい音を立てて、空に鮮やかな赤色の花を咲かせた。
「たまやぁー」
次々に空には花が咲いては散っていく。
「かぎやぁー」
沸きあがる歓声と次々に打ち上げられる花火の音の二重奏は、見る人をひきつける。
余談だが、花火の掛け声『たまや』『かぎや』は江戸時代名高かった花火やの屋号である。ちなみに『たまや』は火事を起こして一台限りで廃業した。
「本当にきれいだなぁ」
そして最後の花火が打ちあがった。他の客の歓声に圧倒されて、美菜穂に告白できなかった。
「花火、終わったね・・・」
「なんかさぁ、花火が終わった後ってむなしいよね」
「うん・・・」
美菜穂に告白できなかったわ、花火でむなしくなるわ、いったいどうすればいいんだろう。
待て、まだチャンスがある!
「あのさ、川に行かない?」
「川って見野山川のこと?」
「うん。行こう」
二人は見野山川に向かった。
澄と美菜穂は夜の見野山川に行くのは初めてだった。
聞こえるのは川の音だけ。
「美菜穂、疲れてないか?無理するんじゃないよ」
「大丈夫、後少しで川べりにつくからそこで休憩すればいいから」
澄は手を差し伸べた。
「ありがと」
しばらくすると見野山川上流が見えた。そこに川べりがある。
「ねぇ、川べりが見えたよ。早く行こう!」
ふたりは少し歩調を早くし川べりにたどり着いた。
「ずっと下駄であるいてたから疲れたわ」
美菜穂は川べりに腰を下ろした。澄は美菜穂の隣に座った。
「・・・あのさ、美菜穂。話があるんだ。真剣な話だから、よく聞いてね」
澄は美菜穂に向き直った。真剣な目つきになった。
「単刀直入に言うね――僕は美菜穂のことが好きです」
風が美菜穂の紙をなびかせた。
「できれば、僕の彼女になってください!」
澄は頭を下げた。
美菜穂はきょとんとした。
「これだけ言っておく。僕は冗談で言っているんじゃないからね。本気だから」
初めて見たときに、一目ぼれをした。心から好きだといえる自信がある。
美菜穂は静かにうなづいた。
「そうなの・・・」
でも澄はもうすぐしたら故郷に帰ってしまう。離れ離れになってしまう。
美菜穂の瞳から大粒の涙が流れた。
「美菜穂、なかないでよ」
「き、きよし、私ね最初澄に逢ったときなんて馴れ馴れしいひとなんだろうって思ってたの、一緒に過ごしていくうちに・・・」
澄とずっといたいと思うようになった。もし恋人になったらどんな風になるんだろうと思った。
「美菜穂、僕の思い受け入れてくれるよね?」
「うん」
美菜穂は澄の肩に寄り添った。




